1-3
無事に学食で昼食をとることに成功した二人は、午後一発目の授業である実習に取り組んでいた。
「空中移動制御と遠距離狙撃命中率‥‥か」
今日の課題はざっくりいうと空中的あてだった。
「魔族連合との戦闘を想定した魔法使いを育成する学校とはいえ、もう少しかわいげのある実習がしたいかな~ってなるよね」
「‥‥例えば?」
「水枕作って風のハンモックでお昼寝とか楽しそうじゃない?」
魔族連合。
古くから魔族と争っていた魔族。亜人や異業の姿を持つ魔族たちが物量と、純粋な力の強さによって人類を追い詰めていたらしい、しかし人類が魔法を得たことで一時期はほぼ勝利といっていいところまで魔族を追い詰め返した。と歴史の教科書には載っている。
しかし、魔族側に「魔王」と呼ばれる存在が現れたことによって戦況は大きく入れ替わった。純粋な力で攻めてくる事しか知らなかった魔族たちに魔王は魔法を伝えた。また、それだけではなく、これまで種族ごとに戦っていた魔族を一つに纏め魔族連合という一大勢力を生み出すことに成功し、人類と魔族は今のようににらめっこを続けるようになった。
「といっても今は人類の新しい切り札‥‥転生者ってのがいるのにここまで熱心にサポートする必要があるのかね。実際今押してるんだろ?」
「アル君見たく人類の力になりたいっていう若者が多いんでしょ。それか魔法を使いたいっていう単純な子供心が爆発してるのもあるんじゃない?僕がそうだし」
目の前では魔法で作られた100個の的があらゆる方向へ設置された、特設コートで同級生が実習に取り組んでいる。
「次が僕の番かぁ。んじゃアル君、行ってくるね~」
のんびりとした口調でラドゥがコートへ入る。
「よし、行きまーす!」
そう叫ぶと足元に小型の竜巻を発生させ、空へ舞い上がる。
一瞬で高く舞い上がったラドゥは、片手を前に構える
そして
ドドドドドドドドドド!!!!!!!
的を狙った火球が雨のように降り注ぐ。
無限とも思える量の炎の雨が容赦なく的を撃ち砕いていく
「やっぱすげぇなあいつ‥‥」
共に実習を受けている同級生もみな一様に驚いているのが分かる。
「これが世界のズレっていうんだから恐ろしいよな‥‥」
「終了。連射速度は悪くないが、一発一発をもっとよく見てしっかり狙え。次!」
「は~い!」
そういうと、笑顔でVサインをこちらに送ってくるラドゥ。
その姿がとてもまぶしく見えた。
そして、他生徒も順調に課題をこなしていく中、アルスの出番となった。
「アル君ファイト~!好スコアならご・ほ・う・びをあげちゃう~!」
「今日のお前のご褒美はおしおきと変わんねぇだろ‥‥」
さっきからテンションが上がっていっていることも考えると、とんでもない事をされかねない。
だが心配する必要はない。
好スコアなんて出るわけが無いのだから。
「ふぅ‥‥」
コートに入り、一呼吸おいてイメージをする。自分の足元に魔力を集中させる。
すると、ブォン!とあらあらしい音と共に体が浮かんでいく。
しかし、その上昇速度は他と比べ明らかに遅く、常にがくがくと震え安定していない。
(無事浮かべただけマシ‥‥あとはっ!)
目標高度へたどり着くと同時に両手を前に構える。
そして創り出した火球の数は‥‥約15個
「‥‥っ」
少ない。少なすぎる。
けど
(的の配置は見える間に全部覚えた。ならここで狙うべきは‥‥)
両手を一部の方向に固定する。
「ここが一番多くの的を貫ける角度っ!!」
20個の球が一気に発射される。発射された火球は一つあたり約3つの的を貫き、確認出来る限りは半分ほどの的を壊すことが出来た。
しかし
「終了」
教師の声が無慈悲に響く。
地面に戻ってきたアルスに対してのコメントは
「その命中率、発射角度は申し分ない。むしろ、その二つに関してはこのクラスの中でも抜きんでている。しかし、肝心の火力、量が足りていない。」
「‥‥」
「まだ2年。限界までまだ伸びしろはあると考える。これからも努力を忘れるな」
「‥‥わかりました。ありがとうございます」
ゆっくりとラドゥのもとへ戻っていく。
ラドゥは一瞬悩むような顔をした後、笑顔でこう迎えてくれた
「お疲れ様~!前回よりもスコア伸びてるじゃん」
確かにスコアは伸びている。しかし、その差はわずかである。
ラドゥは勿論、他の同級生とも大きな差が開いてしまっている。
そう。
アルスは円環魔法と相性が悪いのだ。それも絶望的に。
教科書は隅から隅までまで読んだ、理想的な体系管理も、自分が出せる最大効率の魔力の回し方も全て学んだ。
けれど
届かない。求めてる力が手に入らないのだ。
だから口ずさむ
「まぁ、才能がないわけだしこんなもんだよ。仕方ないよな」
作った笑顔で、いつも通りの言葉を。
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