第21話 ミクの不満

 新たな武器、弓矢を手にしたユウトは、緑の国へ侵攻してきた赤の国のルビーを止める事に、協力する事にした。

 出陣に先立ち、緑の王妃様との別れを済ませる第四王女のミクルーカ。

 ミクルーカの姉達は、砕けた魔石回収に追われ、この場にはいない。

 ジュエガルド統一に向けて、他国に侵攻するルビーに対抗出来るのは、ミクルーカだけだった。



「それでは行きましょうか、ユウト様、レスフィーナさん。」

 緑の城の城門前で待っていたユウトとフィーナに、ミクルーカは笑顔で声をかける。

 その笑顔は、どこか無理してる様に、ふたりは感じた。

 他国の者には会わせられないという、緑の国の王妃様。

 その症状は、かんばしくないのだろう。


「ミク、無理しなくていいのよ。」

 そんなミクルーカに、フィーナは優しく声をかける。

「無理などしていません!」

 ミクルーカは、思わず怒鳴り返す。

「ミク、」

 ミクルーカの剣幕に、フィーナも思わずたじる。


「国を護るのが、王女の使命です!

 それを、国を離れてるあなたに、言われたくありません!」

 ミクルーカは不満を爆破させる。

 それは、この国の危機なのにここに居ない、姉達への不満である。

 フィーナに姉達の姿を、重ねてしまったのだ。

「ミクさん!」

 フィーナがショックを受けそうなその発言に、思わずユウトも叫ぶ。


「フィーナは緑の国が心配で、駆けつけたんです。

 そんな言い方ないでしょう。」

 ユウトはフィーナを怒らせたくないので、フィーナを弁護する。

「すみません、言い過ぎました。」

 ユウトの諭しに、ミクルーカは謝る。

 ミクルーカの身体は震え、涙を堪えている。


「ま、しょうがないわよね、姉が三人もいるのに、ミクがひとりでお城を護ってたんだもんね。」

 とフィーナはミクルーカに理解を示す。

 その言葉にミクルーカはくちびるをかみしめ、涙を堪える。


「後を任せられる人がいるから、国を離れられるんだけど、ほんと、ミクの姉達は、どこで何してんでしょうね。」

「ぐ、ぐ、ぐすん、ふえーん。」

 フィーナの言葉に、ミクルーカは涙を堪えきれない。

「み、ミクさん。」

 思わずユウトはミクルーカに近づく。

「うわーん、ユウト様ぁ。」

 ミクルーカはユウトに抱きついて、そのまま泣き出した。


 ユウトは戸惑い、フィーナに視線を向ける。

「ふ。」

 フィーナはニヤけて目を閉じると、首をふる。


 ユウトは頼りにしていたフィーナがアテにならないので、とりあえずミクルーカの頭をなでる。


「ユウト様、ユウト様。」

 ミクルーカは何とか涙を堪えようとするが、一度あふれた感情は、そう簡単には鎮まらない。


「やっぱりミクさんは、お姉さん達に会いたいの?」

 ユウトは優しげな口調で聞いてみる。

「はい。お姉さま達がいれば、私もひとりで戦わないで、済んだのに。ぐすん。」

 ミクルーカは涙を堪えて、声を絞りだす。

「ひとりじゃないよ。」

 とユウトは優しく話しかける。

 顔をあげるミクルーカ。


「ミクさんのお姉さん達に比べたら、頼りないかもだけど、俺とフィーナが一緒だよ。」

 ユウトはにっこりほほえむ。

 ここに恋がたきの名前が出たので、ミクルーカの表情も素に戻る。

「そうよ、青の国の王女、このサファイア・ジュエラル・レスフィーナが一緒なのよ。

 ルビー相手なんて、大船に乗ったつもりでいなさい。」

 とフィーナはなぜか得意げだ。


「あ、あなたの助けなんかなくても、ユウト様がいてくれれば、充分よ!」

 泣やんだミクルーカは、ユウトの手を握ってフィーナをにらむ。

「そうね。」

 そんなミクルーカを見て、フィーナは肩をすくめる。

「でも、手助けくらいはさせてよ。

 折角ここまで来たんだからさ。」

 フィーナはニヤりとミクルーカを見つめる。


「しょ、しょうがないわね。」

 ミクルーカはフィーナから視線を背ける。

「レスフィーナさんが、どうしてもって言うなら、連れてってあげなくもないわ。」

「あら、こちらがした手に出たら、随分強気ですわね。」

 ミクルーカの言葉に、フィーナもピキる。


「まあまあ。」

 ユウトはふたりの間に、説得にはいる。

「フィーナも居てくれれば心強いし、一緒の仲間は多い方がいいじゃない、ね。」

 と言ってユウトは、ふと思った。

 フィーナって、戦力になるの?


 姉のアスカは、剣を携えているが、フィーナは基本手ぶら。

 戦闘において、フィーナが何かする所は、見た事ないぞ。


「分かってますわよ、それくらい。

 レスフィーナさんの回復補助魔法は、頼りになりますから。」

 と、ミクルーカはユウトの知らないフィーナのいち面を、持ち上げる。

「そ、そうなんだ。」

 初めて知ったユウト。

 フィーナは今度は、そんなユウトにピキる。


「さあ、早く参りましょう、鳳凰谷へ。」

 ミクルーカは握ったままのユウトの手を引っ張り、歩きだす。


「はあ、まったく。」

 そんなミクルーカを見て、フィーナはため息をつく。

「私が付いてるんだから、安心なさい。」

 フィーナのこの言葉は、城門の影からこっそり見ていた、緑の国王に向けられる。


 娘のミクルーカを心配して、不安げにミクルーカを見つめていた、緑の国王。

 四女として甘えて育ったミクルーカが、今前線に立とうと無理してる事を、緑の国王は見抜いている。

 だからこそ、心配なのだ。


「ええ、うちのミクちゃんを、どうかお願いします。」

 緑の国王は、フィーナに頭を下げる。

「任せてください。ミクは私が守ってみせますから。」

 フィーナはそう緑の国王に告げると、ミクルーカとユウトに後を追う。





次回予告

 よ、私だ。緑の国の第一王女エメラルド・ジュエラル・マドカリアスだ。

 異世界パルルサ王国の戦いも、激しくなってきた。

 伝説の戦士が五人そろい、守備一辺倒の戦いから、何とか反撃に転じる事が出来るようになった。

 この伝説の戦士は、二千年前のマスタージュエル破砕時の時、時の緑の国の王女が導いた、心の清らかな乙女達だった。

 その伝説の戦士を現代に甦らせるのには、苦労したぜ、まったく。

 二千年前にも、魔石を使って異世界パルルサ王国を支配しようとした奴が、いたらしい。

 千年前のマスタージュエル破砕時には、現れなかったみたいだが。

 そんな訳で、すまない、ミク。

 私はおまえの手助けに行けそうもない。

 だけど、青の国の王女が来てくれたのは、心強い。

 アスカならきっと、おまえの力になってくれるはず。

 って、え?アスカじゃなくて、フィーナだって?大丈夫かよ。

 ま、まあ、赤の王女のルビーとは、青の王女は相性がいいはず。

 なんとかなるだろう。多分。

 それに、緑の国に残ったおまえの姉、第二王女エメラルド・ジュエラル・コマチヌアも、きっと駆けつけてくれるはず。

 だからミク、緑の国を頼んだぞ。

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、登場もうひとりの緑の王女。

 お楽しみに。


※毎度の事ながら、次回の展望は全くありません。

 この予告とは異なる可能性もありますが、ご了承ください。

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