第22話 異世界で野宿

 緑の国を流れる魔素の流れ。

 その龍脈のパワースポットが、鳳凰谷だった。

 赤の国の王女、ルビーが鳳凰谷へ侵攻するかもしれないので、ユウトは鳳凰谷へ向かう。

 緑の国の王女ミクルーカと、青の国の王女レスフィーナを連れて。



 ピキん!

「ぴげっ」

 ユウトの放った矢が、魔石獣の魔石を砕く。

 魔石獣は短い悲鳴をあげ、絶命し、その姿を消す。


「大分上達してきましたわね。」

 ミクルーカは笑顔でユウトに近づき、ふたりはハイタッチをかわす。

 そんなふたりを複雑な表情で見ていたフィーナは、ふとユウトと目が会い、プイっと視線を背ける。


 鳳凰谷への道すがら、現れる魔石獣を、ユウトが弓矢で倒す。

 これも緑魔法の修行の一環だ。

 ユウトはミクから貰ったウインドボウを使い、矢は物質精製魔法で作り出す。

 倒した魔石獣の魔素は、ユウトの破邪の腕輪に吸い込まれる。

 浄化の腕輪を持たないミクに、魔素の処理は出来ない。

 そして、青の国の王女であるフィーナにも、緑の国の魔素には対応出来なかった。


 ミクも折り畳み式の弓を持参してるが、使わなくて済みそうだった。


「今日は、ここら辺で野宿しましょう。」

「え、野宿するの?」

 ミクの提案に、フィーナはぶったまげる。

 街道から奥まり、森の中の少し拓けた場所だった。

「はい、明日の朝に出発すれば、昼頃には着くと思いますが?」

 ミクには、フィーナが驚く意味が分からなかった。

 このままぶっ通し歩くつもりなのだろうか、と。


「いや、そもそも転移魔法とかで行けないの?」

「あ、その魔法、私使えません。」

 フィーナが転移魔法を提案するも、ミクは否定する。

 フィーナは転移魔法を使えるが、一度行った場所にしか転移出来ない。

 それも、何か道標がある場所にしか、転移出来ない。

 一度戻って、明日の朝この場所に来るような使い方は、出来なかった。

 と言うかここは緑の国なので、青の国のフィーナには、自由に転移魔法を使えない。

 行ける場所は、緑の城限定となる。


「とりあえず火をおこしますので、マキを集めましょう。」

「うん分かった。手伝うよ。」

 わなわなしてるフィーナを無視して、ミクとユウトは話しを進める。


 ユウトは森から、落ちた枯れ枝を集めてくる。

 ミクも緑魔法を駆使して、枯れ葉を集める。

 ふたりが戻ってくると、フィーナが息をきらしている。

 フィーナの足元に、一匹のイノシシが転がっていた。


 ひとり残されたフィーナを、魔石に取り憑かれたイノシシが襲った。

 それをフィーナが、青魔法で撃退したのだった。


「凄いです、レスフィーナさん。

 今晩は、おいしいイノシシ鍋が食べれますね。」

 ミクはご満悦。

「え、食べるの?」

「はい、おいしくいただきましょう!」

 ドン引きするフィーナをよそに、ミクはご満悦だ。


 集めた薪に、ミクが緑魔法で火をつける。

 緑魔法で激しく薪を揺さぶり、摩擦熱の高まった所へ、魔素を注ぐ。

 風を主とする緑魔法でも、火をつける事は出来た。

「凄い、こんな事も出来るんですね。」

「はい、緑魔法は生活魔法にも使えて、便利ですよ。」

 ユウトの問いに、ミクも満面の笑みで答える。

「へー、俺にも何か使えないかな。」

「基本は風と友達になる事ですかね。

 ここから応用を効かせます。」

 ミクは右手の手のひらの上に、小さなつむじ風をおこす。

「何これ、すげー気持ちいい。」

「まあ、ユウト様ったら。」

 ユウトはそのつむじ風に手を突っ込む。

 手のひらに心地いい風を感じ、ユウトもご満悦。


「ふん。」

 そんなユウトを見て、フィーナはそっぽを向く。

 鳳凰谷への道中、ユウトとミクの仲が良い。

 緑魔法を共通の話題にして、親睦が深まってるのを、フィーナも感じる。

 そしてそれは、フィーナも知らないユウトの一面を垣間見るようで、ユウトとの距離が出来たように感じる。

 フィーナはそれが、もどかしかった。


 イノシシはミクの緑魔法カマイタチでさばき、ユウトが物質精製魔法で作り出した鍋に入れる。

 鍋に張る水は、フィーナの青魔法で出した。


 晩めしを食い終わると、ミクは眠りにつく。

「よくこんな所で眠れるわね。」

 そんなミクを見て、フィーナがつぶやく。

「よっぽど疲れてたんじゃないかな。

 城から出る事も、そんなに無いみたいだし。」

 しゃがみこんでミクの寝顔を覗き込むユウトの顔が、ほころぶ。

 フィーナに比べ、ミクの肌は白かった。

 フィーナみたいに、城を離れる事も少ないだろうと、ユウトは予想する。

 何よりも、ひとりで緑の城を守って戦ってたのだから。


 そんなユウトの頭に、フィーナはチョップを落とす。

「あいたあ。」

「何ニヤけてんのよ、いやらしい。」

「そ、そんなんじゃないよ。」

 ユウトは弁明するが、フィーナはとりあわない。

 フィーナはミクの眠る近くの木に、背中をあずけて座り込む。

「私も眠るから、ユウトはどっか行ってて。」

 フィーナはあくびまじりで、ユウトを追い払う。


「えと、見張りとか居なくて大丈夫?」

 とユウトは聞いてみる。

 野宿と言ったら、交代で見張りとかするイメージだったユウトは、普通に眠るふたりに、少し驚く。

「ちゃんと結界魔法張ってあるから、大丈夫よ。」

 いつの間にか、フィーナもミクも、結界魔法を張っていた。


「それにここは、緑の国の龍脈の上。

 緑の王妃様の監視下にあるから、多分安全よ。」

「そ、そうなんだ。」

 そう言えば、この異世界ジュエガルドの王妃様って、龍脈を流れる魔素と、意識を一体化出来るんだっけ。


 ユウトはフィーナとミクと離れた場所で、眠りについた。




次回予告

 皆さま、ご機嫌よう。私は緑の国の第二王女、エメラルド・ジュエラル・コマチヌアですわ。

 もう、ミクさんったら、何をしてるのかしら。

 ルビーの侵攻を、私ひとりでは抑えきれません。

 マドカリアスお姉さまも、ミントニスさんも、異世界に行っている今、この緑の国を守れるのは、私とミクさんだけなのに。

 早く来て、ミクさん!

 え?フィーナちゃんも来てくれるの?

 やったわ。フィーナちゃんが来てくれれば、百人リキよ!

 って、何?どこの馬の骨とも分からない、異世界人も一緒なの?

 いけない、ミクさん、フィーナちゃん!

 異世界人は、敵なのよ!

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、ふたり目の緑の王女。

 お楽しみに。


※今回は鳳凰谷にたどり着く予定でしたが、そこまで進みませんでした。

 つまり、次回もどうなるかは分かりません。

 この予告の内容とは異なる可能性もありますが、ご了承下さい。

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