第20話 緑魔法と弓矢

 物質精製魔法で作り出した武器を飛ばしたいユウト。

 しかし、緑魔法で飛ばせるのは、飛び道具の軌道修正くらいだった。

 これに応用を効かせて、刀を飛ばす事も、可能と言えば可能。

 だけどそんな上位魔法の前に、基礎魔法から習得する必要があった。



「ちょっと付いてきてください。」

 ミクルーカは場所を移す。

 着いた場所は、弓道場だった。

 日本ではよく見かける弓道場。

 それが異世界ジュエガルドにあるのを、ユウトは不思議に思う。


「弓は、緑魔法と相性がいいんですよ。」

 とミクルーカは説明する。

「そうなんですか。」

 と返事をするユウトだが、なぜ日本の弓道場がここに有るのか、その理由は分からない。


「見ててください。」

 とミクルーカは弓道場にあった弓を持ち、矢筒に三本ほど矢を入れて背負う。

 矢筒から一本矢を取り出すと、弓につがえる。

 矢の向きを、前方のマトから上空へと移して、矢を射る。

 すぐさま矢筒から矢を取り出し、今度は左上空へと放つ。

 そして矢筒の最後の矢は、右上空へと放たれる。


 ミクルーカが放った三本の矢は、上空から弧を描いて、マトの中心を射抜く。

「おお。」

 ユウトは思わず拍手する。

「これが緑魔法のそよ風です。

 飛び道具の軌道修正が出来ます。」

 ミクルーカは右手を広げてマトの方に伸ばす。

 そして手を閉じながら、肘を曲げる。

 この行為に引き寄せられたのか、マトに当たった三本の矢が、ミクルーカの手元に戻る。


「ミクさん、これは?」

「はい?」

 ユウトはミクルーカが今行なった行為について、聞いてみた。

 だけどミクルーカには、ユウトが何を聞いてるのか分からなかった。


「一定距離内なら、飛び道具の回収が可能。

 確か緑魔法の基本スキルよね。」

 ミクルーカに代わって、フィーナが説明する。

 普段何気なくやってる事を、新ためて説明するのは難しい。

「へー、これって、そう言う事だったのですか。」

 ミクルーカは、自分の何気ない行動の意味を、初めて知った。

「あなたねえ。」

 フィーナは拍子抜けだ。


「と、とりあえずユウト様。

 まずは弓矢を使って、緑魔法そよ風をマスターしてください。

 そよ風が、武器を飛ばす緑魔法の基礎になります。」

「はい。」

 ミクルーカの言葉に、ユウトの表情は真剣になる。


 ミクルーカは弓道場にある沢山の弓から、ひとつをユウトに渡す。

「ユウト様、そよ風の練習には、これを使ってください。」

 その弓は、ユウトが両手を広げたくらいの大きさだった。

 だいたい1メートル50センチといったところか。

「ミクさん、これは?」

 弓を手にして、ユウトは尋ねる。

「それはウインドボウ。

 射るのに緑魔法の魔力を必要とするのですが、まずはやってみてください。」

 とミクルーカは、矢を一本手渡す。


「う、うん。じゃあ、とりあえず。」

 ユウトは受け取った矢を弓につがえる。

 そしてマト目がけて矢を放つ。

 しかし矢は、マトの半分の距離も飛ばなかった。


「ぷ、なあに、ユウトったら。」

 それを見てフィーナは、思わずふきだしてしまう。

「えー、おっかしいなー。」

 ユウトは照れ隠しに頭をかく。

「いえ、何も恥じる事はありません。

 ちょっと貸してください。」

 ミクルーカはユウトからウインドボウを受け取る。


 ミクルーカはウインドボウに矢をつがえ、弓を引き絞る。

「よーく見ててくださいよ、ユウト様。」

 ウインドボウにつがえた矢の先端が、ほのかに輝く。

 ユウトがその光りに魅入った瞬間、ミクルーカは矢を放つ。


 スパん!


 ユウトが音のした方を振り向くと、矢はマトの中心を射抜いていた。

 ユウトは、この矢を放つ瞬間は見ていた。

 マトを射抜く音は、その直後に聞こえた。


 つまり、音速を超えてねーか?

 とユウトは思う。

「緑魔法の魔力を込めれば、こんなものです。」

 とミクルーカは淡々と答える。


「魔力を込める。っつてもなぁ。」

 ユウトはミクルーカから返してもらったウインドボウに、矢をつがえながらぼやく。


 ユウトの射る矢は、マトへの半分の距離も飛ばない。

 ユウトは新しい矢を、物質精製魔法で作り出しながら、何度も放つ。

 その結果は、どれも同じだった。


「ユウト様、もっと緑魔法の魔力を意識してください。」

 とミクルーカのアドバイス。

「と言われてもなあ。」

 ユウトには、緑魔法の魔力言うのが、よく分からない。


「まあ、魔力の意識なんて、普通は無意識だからね。」

 フィーナはそう言いながら、ユウトに近づく。

 そしてユウトに向き合うくらいに近づくと、右手をユウトが狙ってるマトに向ける。

 そして右手の先から氷のツブテをひとつ出すと、そのツブテをマトにぶち当てる。


「青の氷魔法、アイスロック。

 何かを飛ばせるのは、緑魔法の専売特許ではないわ。」

 と言ってフィーナは、左手をユウトが矢を持つ右手にそえる。


 いきなりフィーナに触れられて、ドキッとするユウト。

「ちょっと、何動いてんのよ。

 私がコツ教えてあげるんだから、じっとしてなさい。」

「う、うん。」

 ユウトは照れながらうなずく。

「ほら、弓矢を構えて。」

「うん。」

 フィーナに言われ、ユウトは弓に矢をつがえて引き絞る。

 ユウトの右手には、ずっとフィーナの左手がそえられている。


「どう?私の魔力を感じる?」

 フィーナの言葉に、ユウトは目を閉じる。

 ユウトの右手には、何やら爽やかな何かを感じる。

 ユウトはそこに意識を集中する。


 青い何か。


 ユウト右手に、青い何かが流れ込む。

 それはとても澄んでいて、まるでフィーナの様な、

 え?

 フィーナの名を思い描いたユウトは、思わず目を開ける。


 ユウトの目の前には、フィーナが目を閉じて立っていた。


「わ、」

 ユウトは驚いて、矢を離してしまう。

「え?」

 ユウトの声に目を開けたフィーナの目の前を、弓のツルが通過する。

「きゃ。」


「ちょっと、危ないじゃない。」

 フィーナはユウトを叱る。

「ご、ごめん、つい。」

 ユウトは言葉にならないながらも、なんとか謝る。


「だけど、矢はちゃんと飛んだようね。」

 フィーナはマトの方へ視線を向ける。

 ユウトもつられて視線を向ける。

 矢はマトを外しているが、マトの隣りの土台に突き刺さっている。

「ほんとだ。」

 ユウトは信じられないって様子でつぶやく。


「青の魔力では、真っ直ぐしか飛ばない。

 軌道を変えるのが、緑の魔力よね。」

 と言ってフィーナはミクルーカに視線を向ける。

 ミクルーカは、黙ったままうなずく。


 ユウト様に対する、今の大胆な行動。

 そんな行動、ミクルーカには無理だった。


「さあ次は、あなたの番よ。」

 そんなミクルーカに、フィーナが声をかける。

「私?」

 ミクルーカには、フィーナの言葉の意味が分からない。


「今私がやったように、ユウトに緑の魔力を流してあげて。」

「は、はい!」


 ミクルーカは、先ほどまでフィーナが立っていた位置に立つ。

 ユウト様の目の前だ。

「それじゃあミクさん、よろしく頼むね。」

「はい。」

 ユウト様の優しい言葉に、ミクルーカは左手をユウト様の右手にそえる。

 弓矢を構えたユウトは、目を閉じて集中する。


 そんなユウト様を見て、ミクルーカは思う。

 レスフィーナさん相手の時は、あんなに動揺してたのに、今は落ち着ききっている。

 そっか、ユウト様はレスフィーナさんの事が、…。


 ミクルーカはユウトから手を離すと、一本後ろに下がる。

「ユウト様、私の魔力を感じてますか。」

「うん、感じるよ。」

 爽やかな澄んだ風を、右手に感じる。

 その風は、矢を運ぼうと矢を包み込む。

 フィーナから感じた魔力とは、質が違っていた。


「矢の軌道を思い描いてください。」

 ミクルーカの言葉に、ユウトは意識を集中する。

「その軌道に乗せて、放ってください!」

 ユウトは目を見開き、矢を放つ。


 とすっ。


 矢はマトのど真ん中に命中。

「やった。」

 フィーナの表情がほころぶ。

 ユウトもつられるが、ミクルーカの言葉がユウトをひきしめる。

「まだです、ユウト様!

 次の矢を準備して下さい!」


 ユウトは咄嗟に物質精製魔法で矢を作り、弓矢を構える。

「放て!」

 ミクルーカの号令で、ユウトは矢を放つ。


 とすっ。


 またど真ん中に命中。

「まだです、ユウト様。

 次の矢です。」

 ユウトは物質精製魔法で矢を作り、弓矢を構える。

「放て!」


 とすっ。


 またど真ん中に命中。

「ユウト様!

 もっと魔力を込めて!」

「うおお!」

 ミクルーカの叫びに、ユウトは物質精製魔法で作った矢を即座に放つ!


 スパん!


 ど真ん中に命中した矢は、今までの三本の矢を弾き飛ばす!

 物質精製魔法で作られた三本の矢は、弾き飛ばされながら姿を消した。


「お見事です、ユウト様。

 今の感触を、忘れないでください。」

 ミクルーカの表情もほころぶ。

「ありがとう、ミクさん。」

 ユウトも笑顔で返す。

「緑魔法そよ風を使いこなせれば、刀を操る事も、出来るようになりますわ。」

 ミクルーカも、とびっきりの笑顔で答える。




次回予告。

 よ、私だ。エメラルド・ジュエラル・マドカリアスだ。

 ミクもどうやら、そよ風を教えられたようだな。

 ユウトってヤツも、大したもんだぜ。

 本来青の属性なのに、緑魔法をマスターしちまうなんてよ。

 だけど、急いでくれよ。ルビーの侵攻は、終わっていないんだからな。

 私は異世界パルルサ王国から、戻れそうもない。

 どうやらジュエガルドのマスタージュエルの粉砕が、異世界パルルサ王国の陰謀に、組み込まれているらしいんだ。

 私はこちらの伝説の戦士達と、異世界パルルサ王国を救わなくちゃならない。

 だから頼むぞ、ミク。そしてユウトとやら。

 ルビーを退けたあかつきには、ミクをくれてやらぁ!

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、鳳凰谷の決戦。

 お楽しみに。



※今回の緑の国編では、第二の武器弓矢を早々に習得させるはずでしたが、ここまで手こずるとは、思いませんでした。

 つまり、今後もどうなるか分かりません。

 この予告とは別な物になる可能性もございますが、ご了承ください。

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