第9話 サーファのお母様

 サーファ改めフィーナとアスカに装備を新調してもらったユウトは、王様の執務室を後にする。

 これから三人で青い龍討伐に向かう。



「ねえユウト、ちょっといいかな。」

 新しい装備に上機嫌なユウトに、フィーナが声をかける。

「なーに、フィーナ?」

「うげ」

 新しい装備に上機嫌なユウトは、気持ち悪いほど盛り上がってた。

「ちょっとお母様に会って行きたいんだけど、いいよね?」

 そんなユウトに、恐る恐る問いかける。

「良いに決まってんじゃん、行こ行こ。」

 ユウトは上機嫌に答える。


 三人は王妃の眠る寝室に向かう。

 王妃の眠る寝室の扉の横に、ひとりづつ門番らしき兵士が、槍を持って立っていた。

「あの、私達お母様に会いたいんだけど。」

 フィーナが声をかけると、門番は無言のまま、扉を開ける。

「ありがとう。」

 フィーナは礼を言って中に入る。

 その後にアスカが続く。

 そしてユウトも続くのだが、ふたりの門番は槍を交差させて、ユウトの侵入を防ぐ。

「ちょっと、何してんのよ!」

 フィーナが文句を言う。

「フィーナ様、こちらに入れるのは、あなた様とアスカ様、それに国王様だけです。」

 門番のひとりが、フィーナに告げる。

「そんな、ユウトは私が異世界から連れてきた、大切な客人なのですよ。」

 フィーナは目に涙を溜めて、門番達に訴える。

「う、」

 そのフィーナの可憐さが、ふたりの門番の心を打つ。

 ユウトも心を奪われそうになるが、これは嘘泣きだと、フィーナの性格を見抜く。


「あんた達、よくもフィーナを泣かしてくれたわね。」

「アスカお姉さま。」

 門番達を睨むアスカに、アスカに泣きつくフィーナ。

「ですがアスカ様、これも規則でして。」

「何、フィーナの客人が規則外だって言うの?」

「そ、それは、」

 門番達は、顔を見合わせる。

 そしてユウトの前にクロスさせた槍を解く。

「し、失礼しました。アスカ様、フィーナ様。」

「まったく、最初からそうすればいいのよ。

 ほら、早く来なさい、ユウト。」

 アスカに手招きされ、ユウトも扉の中に入る。

「行くよ、フィーナ。」

「はい、アスカお姉さま。」

 泣きつくフィーナをなだめるアスカ。

 このふたりの仕草が、門番達の心をえぐる。

 ユウトは門番達に少し同情する。


 扉が閉められると、フィーナはアスカから離れる。

「まったく、この国はバカばかりね。」

 フィーナは泣き演技をやめ、普段の表情に戻る。

「ほんと、自分の頭で考える事も出来ないのかしら。」

 アスカもフィーナと同意見らしい。

 ユウトは同情する。

 ただ規則に忠実だっただけの門番達に。


「ほほほ、相変わらずですね、アスカ様、フィーナ様。」

 部屋の奥から声がする。

 この部屋の奥には、天幕を張ったベットがあり、その横の椅子にひとりの女性が座っていた。

「だってあいつら酷いんですもの。」

「婆や、どうなの、お母様のご様態は。」

 アスカが婆やと呼ぶその女性。

 メイド服らしき服装のその女性は、40代か50代といった感じで、ユウトには婆さんには見えなかった。


「王妃様のご様態は、かんばしくありません。」

 婆やさんは首をふる。

「お母様。」

 フィーナは駆け寄り、王妃の手を握る。


 ベットに眠る王妃は、フィーナとアスカと同じ青い髪で、娘のふたりが後数年成長したら、こうなるのだろうと思わせるような、綺麗な顔立ちだった。

 その綺麗な顔が、悪夢にうなされている。

「なあ、これが青い龍の呪いってヤツなのか?」

 ユウトは王妃を見つめ、誰に問うとでもなく、つぶやく。

「ええ、そう言われているわ。」

 ユウトの問いに、アスカが答える。

「言われている?」

 ユウトは聞き返す。

「そ、言われてるだけ。詳しくは、倒してみないと分からないわ。」

「王妃様のご様態は、確かに青い龍と連結されています。」

 ユウトとアスカの会話に、婆やさんが口を挟む。

 ふたりは婆やさんに視線を向ける。

 フィーナは王妃の手を握り、静かに色々語りかけている。


「アスカ様、このジュエガルドの真実の歴史は、王妃様のみに受け継がれている事を、ご存知ですか。」

「なんだそれは、私は知らんぞ。」

 突然真実の歴史などと言われ、アスカは面食らう。

 このジュエガルドにも、数多くの伝承や言い伝えは存在する。

 それらの元となる真実の歴史とやらが、存在するのだろうかと、アスカは思う。

 隣りで聞いているユウトは、王妃様のみに伝わるって事は、この国は女系王族ってヤツなのかと思った。


「そうですか、まだおふたりとも、王妃様からは伝えられていないのですね。」

 婆やさんは、少し困った表情を浮かべる。

「あら、忘れちゃったの、アスカ。」

 王妃様の手を握ったまま、フィーナも会話に加わる。

「お母様がよく、子守唄代わりに聞かせてくださったではありませんか。」

 フィーナは悪夢にうなされる王妃様を見つめながら、幼い頃の事を懐かしむ。

「あれは、普通に昔話だろ。」

 アスカが知るこの国の伝承や言い伝え。

 その知識はお母様からのものだけだった。

 対してフィーナは、一般に伝わる伝承と、お母様の話してくれる内容とは、少し食い違う事に気づいていた。


「なるほど、王妃様は少しずつお伝えになられてましたが、まだ正式にはお伝えしておられないって事ですね。」

 フィーナの発言を受け、婆やさんはそう理解する。

「婆やさん、その真実の歴史とやらに、青い龍の呪いについて、語られているんですね。」

 ユウトは口を挟む。

 婆やさんが何かの確認作業してるのが、もどかしく感じた。

 今目の前で苦しむ王妃様を、一刻も早く救いたいと、ユウトは思う。

「そう言う事なのですが、どこまで話していいものかと思いまして。」


 婆やさんの家系は、代々王妃様に仕えた家系。

 だから王妃様にだけ伝わる伝承についても、ある程度伝わっている。

 いずれその伝承を引き継ぐであろうアスカ様とフィーナ様ではあるが、王妃様を差し置いて自分が話していいものかと、判断しかねていた。

 だけど今は、事が事なだけに、伝えなければならない。

 そんな板挟みな心情を、ユウトのひと言が後押ししてくれた。


「あの青い龍は、この国の龍脈を流れる魔素が、具現化したものなのです。」

「龍脈?なんだそれは。」

 婆やさんの説明に、自分が知らない単語が出てきて驚くアスカ。

 そんなアスカを無視して、婆やさんは続ける。

「本来なら龍脈を通じて、マスタージュエルまで流れ込む魔素ですが、今はそのマスタージュエルが有りません。」

「なるほど。」

 ユウトは婆やさんの説明を理解する。

 行き場のない魔素が、この国の龍脈に留まり、パワースポットである龍神山にて、具現化したのであろう。


「そして王妃様は、この国の龍脈の流れを司る御方。

 龍脈の乱れに、敏感に反応してしまうのです。」

「ちょっと待て!」

 婆やさんの説明に、ユウトはハッとする。

「それって、青い龍を殺したら、王妃様も死ぬって事か?」

「どうしてそうなるのよ。」

 お母様が死ぬ。それを聞いて、アスカはショックを受ける。

「それは、大丈夫でしょう。」

 と婆やさんはユウトの意見を否定する。

「ほんとに、大丈夫なの?」

 アスカは婆やに問う。

 いつも勝ち気なアスカとは思えないほど、しおらしい声だった。

「もちろんです。」

 そんなアスカに、婆やさんは微笑みかける。

「龍は他国にも出現しています。

 ですが、他国の王妃様に現れる症状はまちまち。

 普通にぴんぴんしている王妃様も、おられます。」

 婆やさんの言葉に、アスカは安心する。


 だけどユウトは思う。

 各国の王妃様で症状が違う。

 ならば、龍を倒した時の反応も、違うのではないか。

 つまり、死ぬ可能性も捨てきれない。

 そしてそれは、実際龍を倒してみるまで分からない。

 この事をユウトは、言葉にしなかった。


「ならば、一刻も早く、青い龍を倒しましょう。

 俺も、この方が悪夢にうなされてるのを、見たくない。」

 ユウトは悪夢にうなされる王妃様を、直視出来なかった。

「お母様、行ってきます。

 もうしばらく辛抱して下さいね。」

 フィーナは王妃様の手を握っていた手を離す。

「行ってきます、お母様。

 婆や、後はお願いします。」

 アスカの言葉に、婆やさんはにっこりと微笑み、頭を下げる。


 ユウト達三人は、青い龍が住むという、龍神山の洞窟へと向かう。

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