第5話 もうひとりのサーファ

 異世界ジュエガルドに強制転移させられたユウトは、青の国の王女サーファと共に、青の国のお城を目指す。

 今の状況を知るために。



「なあ、俺も魔法って使えるのか?」

 歩きながら、ユウトはサーファに問う。


 こちらに強制転移させられる直前、ユウトはある女性と共闘した。

 その女性は魔法を使っていた。

 ならば、自分にも使えるのではないか、とユウトは思う。


「あら、ユウトも使ってるじゃない。」

 と、サーファはそっけなく答える。

 そう言われてもユウトには、そんな実感はない。

 バカ面してるユウトを見て、サーファはため息をつく。

「はあ、あんた、刀を出し入れしてるじゃない。」

「刀?」

 ただ刀と言われても、ユウトには意味不明だった。

「これが魔法、なの?」

 ユウトは刀を握る。


 ちなみにこの刀、ユウトは何も無い空間から取り出してる。

 目に見えない棚があって、そこ手を伸ばしてる感覚だった。

 サーファが言うには、これが魔法らしい。


「物質精製魔法。かなり高度な魔法なんだからね。」

 とサーファは言うが、ユウトにとって魔法とは、炎とか氷とかで攻撃する類のものだった。

 この刀が魔法と言われても、ピンとこなかった。

「じゃあ、俺にはあの人の様な魔法は使えないのか。」

 ユウトは刀を消しながら、ちょっとしょげる。

「ユウトもレベルが上がれば使えるかもだけど、こればかりは相性だからね。」

 サーファもどこかフォローになってないフォローをする。


「そのレベルってのは、どうやって上げるんだ?」

「それは経験を積めば、自然と上がるわよ?」

 ユウトの疑問にサーファは、さも当然の事のように答える。

「えと、それは魔石獣を倒し続ければって事かな?」

「それ以外に何があるのよ。」

「マジかよ。」

 ユウトはちょっと驚く。

 ここはそんな世界観なんだと、理解するしかない。


 そんな感じで、小一時間ばかし歩いた所で、ユウトが尋ねる。

「ところで、お城にはまだ着かないの?」

「はあ?着く訳ないじゃん。」

 サーファはまたもや、さも当然の事のように答える。

「えと、もう一時間は歩いてると思うんだけど。」

「何言ってるの、三日はかかるわよ。」

「三日?三日も歩くの?」

 ユウトは、お城のあまりの遠さに驚く。

「もう、だらしないわね。」

 サーファは三日くらいの距離で、音を上げるユウトに呆れる。

「いや、三日でしょ、寝ないで歩くの、それとも野宿でもするの。」

 とユウトも反論する。


「げ。」

 野宿と聞いて、サーファも驚く。

 それはユウトと一緒に一晩を過ごす事。それを三回。

 いや、途中に宿場町があるから、野宿の回数は一回減る。

 とは言え自分の様な美少女を、ユウトが襲わない確証はない。

 その気は無さそうなユウトを、誘惑する様な事をした自覚はあるサーファ。

 まさにサーファの危険が危ない。


「しょうがないわね、私の転移魔法を使いますか。」

 サーファは渋しぶといった感じで、そう告げる。

「そんなのあるなら、とっとと使おうよ。」

 ユウトは当然な反応を示す。

「仕方ないでしょ、これ、魔力を凄く使うんだからね!」

 サーファは慌てた様子で言い返す。


 サーファが何やらぶつくさ唱えると、サーファの身体は淡い青色の光に包まれる。

 地面にはサーファを中心にして、一メートルくらいの魔方陣が浮かぶ。

「ユウト、私につかまって。」

「つかまるって、どこに。」

 ユウトは戸惑うが、サーファは呪文に集中して、答えてくれない。


 仕方なくユウトは、サーファにおぶさった。

 お城までの移動魔法なら、空を飛ぶ事になる。

 ならば、これが自然だろうとユウトは思った。


「きゃ。」

 サーファは軽く悲鳴をあげると、ユウトを殴る。

「な、何すんだよいきなり。」

 尻もちをついたユウトは、殴られた右頬を押さえてる。

「それはこっちのセリフよ!」

 サーファも怒鳴り返す。

「何考えてるのよ、この変態!」

「いや、つかまれって言うから。」

 ユウトはサーファのあまりの剣幕に、ちょっとたじる。

「はあ?そんなの腕につかまればいいでしょ!」

 とサーファは、右手を腰にあてる。

「じゃあ、最初からそう言えよ。」

 ユウトは小声で文句言いながら、左腕をサーファの右腕に絡ませる。

 サーファはプルプル震える。

「ちょっと違うけど、まあ、いいわ。」

 サーファ右手でユウトの左腕をつかむと、目を閉じてぶつくさ呪文を唱える。

 サーファの足元に、再び魔方陣が浮かぶ。

 そしてふたりの身体が淡い青色の光に包まれる。


「転移!」

 サーファは目を見開き、転移魔法を発動させる。


 ふたりは瞬時に、青の城の城門前広場に転移する。

 そこにはひとりの美少女が、城門に寄りかかって待っていた。

 サーファと同じ顔立ちで、青い長髪をポニーテールでまとめてる。

 服装はどこか騎士っぽく、左腰には剣を携えている。

 サーファのおてんばさを、精悍さに置き換えた様な、そんな印象の美少女だった。


「よ、フィーナ。」

「げ、アスカ。」

 サーファに声をかけた美少女を、サーファはアスカと呼んだ。

 そして、会いたくなかったヤツに会ってしまった様な様子だ。

「ふーん、こいつがフィーナが異世界から連れ帰った戦士か。」

 アスカと呼ばれた美少女は、ユウトの周りを嗅ぎ回る様にじろじろ見てくる。

「ちょ、」

 ユウトはなんか言い返したかったが、出来なかった。


 アスカと呼ばれた美少女は、サーファと同じ顔立ち。

 つまりユウトの好みどストライク。

 妖精体のサーファの醜態を知ってるからこそ、サーファに惚れる事はない。

 だけどこのアスカさんは違う。ユウトは惚れてまいそうだ。

「サーファ、なんなの、この人。」

 ユウトは照れ隠しに、サーファに問う。

「えと、私の姉。」

 サーファは答えづらそうに答える。


「サーファ、だと?」

 サーファの姉であるアスカは、ユウトのサーファ呼びに反応する。

「フィーナ、おまえ、サーファって呼ばせてるのか?」

「悪い?私の勝手でしょ!」

 サーファはなぜか怒鳴り返す。

 ユウトには、その意味が分からなかった。

「おっと、悪い、これはおまえの勝手だな。」

 アスカはサーファをなだめる。

 アスカは、ユウトに向き直る。

「なんかフィーナが世話になったようだな。

 私はサファイア・ジュエラル・アスカーナ。

 フィーナの双子の姉だ。」

 と言ってアスカは、ユウトに右手を差し出す。


 サーファの双子の姉。

 と言う事は、性格もサーファと大差ないかもしれない。

 アスカに惚れそうなユウトだったが、なんとか持ち直す。

「俺は如月悠人。サーファとは、、何でもありません。」

 ユウトはアスカの差し出した右手を握る。

「何でもない、か。」

 ユウトの後ろで、サーファはボソリとつぶやく。


「あれ、ふたりともサーファなんですね。」

 アスカと握手しながら、ユウトは思った。

 姉のサファイア・ジュエラル・アスカーナ。

 妹のサファイア・ジュエラル・レスフィーナ。

 どっちもサーファ呼びだ。

 ふたりが同時に居るこの異世界では、フィーナと呼ばれる事に、ユウトは納得する。


「おまえにサーファと呼んでほしくないな!」

 突然アスカは、ユウトの右手を弾く。

 少し痛みの走った右手を、左手で押さえるユウト。

 突然のアスカの態度に、ユウトは困惑。

「フィーナ、こいつはとんだハズレじゃねーか!」

「そんな事、ない!」

「じゃあ、なんでこいつレベル低いんだよ!」

「それは、ルビーとの混色封印のとばっちりで。」

「混色封印?あのルビーと?」

 ユウトそっちのけで言いあうサーファとアスカ。

 だが、ルビーの名がでた事で、アスカは考えこむ。

 そしてアスカは結論をだす。


「つまりこいつは、中途半端な状態で、こっちに来たって事だな。

 じゃあハズレには変わりねーじゃんか。」

 アスカはユウトをにらむ。

「いいえ、アスカ。

 ユウトにはレベルでは測れない強さがあります。」

 サーファはユウトを弁護する。

「ほう、ならば私と勝負してもらおうか。」

 アスカは剣を抜き、切っ先をユウトに向ける。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。」

 ユウトはたじたじと戸惑う。


「問答無用!」

 アスカは剣を上段に振りかぶり、ユウトに襲いかかる!

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