第6話 物質精製魔法

 青の城の城門前広場にて、サーファことサファイア・ジュエラル・レスフィーナの双子の姉、サファイア・ジュエラル・アスカーナが、ユウトに斬りかかる。



 ガキイン!

 ふたりの間に、鈍い金属音が響く。

 ユウトは刀を取り出し、アスカの一撃を受けとめる。

「く」

 アスカは後方へと飛び退く。

「どこに隠し持ってたんだ、その刀!」

 必殺の一撃を防がれ、アスカは叫ぶ。

「いいえ、隠してたんじゃ、ありませんわ。」

 ユウトが何か言う前に、サーファが答える。

「なに?」

 アスカはサーファに視線を向ける。

「隠してたんじゃない。ならば、どこから取り出したのか。」

 サーファは面食らうアスカを見て、少し勝ち誇った気分になる。

 自分が連れて来たユウトを、バカにしたアスカ。

 そんなアスカがユウトに面食らうのは、少し気分がよかった。


「分かりますよね、アスカお姉さま。」

「な、」

 普段お姉さま呼ばわりしない妹のフィーナが、ここぞとばかりに、お姉さまと呼んでくる。

 これはフィーナが姉の自分に対して、何か悪だくみをしている時。

 ならば、フィーナは今、何を考えているのか。

 そこまで考えて、アスカはハッとする。

「まさか、そんな事が。」

「そう、物質精製魔法よ。」

「ば、ばかな!」

 妹のフィーナが言う言葉は、真実だとアスカは思う。

 だけど、それを受け入れられないのも、また事実。


 アスカは剣先をユウトに向けて、フィーナに向かって叫ぶ。

「こいつが、物質精製魔法を使えるのか。レベルの低いこいつが!」

 横で聞いていて、ユウトは少しムッとする。

 レベルが低くて悪かったな。

「ええ、そうよ。事実を受け入れなさい、アスカ。」

 サーファは諭す様に言い聞かせる。

「バカな、こいつが、こいつが。」

 アスカは怒りの表情をユウトに向ける。

 ユウトは思わずたじろぐ。


 アスカは一度目を閉じて、気持ちを落ち着かせる。

 そして二度ほど深呼吸すると、静かに目を開ける。

「でも、こいつがレベル低いのは、事実よね!」

 アスカは剣を左手に持ち、ユウトに向けて右手をかざす。

 アスカの右手からは、氷のつぶてが現れ、ユウトを襲う。


 これは青の氷系の初歩魔法、アイスロック。

 直線的に飛んでくる氷のつぶてを、ユウトは右前方に素早く移動してかわす。

 そして刀を左側に水平に傾け、アスカの横を駆け抜ける。

 すれ違いざま、刀を横一閃!

 しかし、アスカのお腹は斬れていない。

 ユウトは、刀を握る力を緩めていた。

 そして刀の刃は潰してあった。


「な」

 アスカはユウトの素早い動きに驚く。

 しかし、すれ違いざまにユウトがした行為に、アスカは気づいていない。

「安心しろ、サーファの姉さんを、傷つけはしないさ。」

 とユウトはかっこつけるが、アスカには意味が分からなかった。

「な、何言ってんだ、こいつ。」

 と言うアスカだが、なぜかお腹が熱かった。

 すれ違いざまの、ユウトの攻撃。

 刃は潰れているとはいえ、瞬時に刀を滑らせたのだ。

 それなりの摩擦熱は生じている。

 このお腹を走る熱い線。

 これが何を意味するのか、分からないアスカではなかった。

 だけど、それを認めたくない気持ちの方が勝る。

「お、のれぇ!」

 アスカは剣を握りしめ、ユウトに歩み寄る。


「サーファ、俺が使ってるのは、物質精製魔法なんだよな。」

 迫り来るアスカを前に、ユウトは冷静にサーファに問う。

「ええ、そうよ。ユウトが使ってるのは、物質精製魔法。」

「ならば、こんな事も出来るはず!」

 ユウトは刀を左手に持ち、右手の手刀を左から右へと横一閃。

 右手の軌跡の上に、五本の刀が現れる。

 その刀を見て、アスカの動きが止まる。

 同時に、刀は地面に落ち、その姿が消える。

「あれー、そのまま飛ばそうと思ったのにな?」

 ユウトは今起きた現象に面食らう。


「はあ、ユウトが使ってるのは、物質精製魔法。

 それを飛ばすのは、緑の風系魔法の領分。

 ユウトには無理よ。」

「そう、なの、か、、」

 サーファの説明を聞いてる最中、ユウトの気が遠くなる。

 ユウトは目がかすみ、身体がふらつく。

「ユウト!」

 サーファはユウトに駆け寄り、倒れかけるユウトを支える。

「危険、だ。離れて、いろ。」

 ユウトはかすれる声を、ふり絞る。

 左手に持った刀をアスカに向け、右手でサーファを押し退ける。

 だが右手に力が入らず、いい塩梅でサーファの胸をもむ形になった。

「きゃ、

 …どさくさに紛れて、何やってんのよ!」ゴチン。

 サーファは思わずユウトの頭を殴る。

 これがユウトへの止めとなった。



 ユウトが目を覚ました時、そこは青の城の医務室だった。

「あ、気がついたようね。」

 ユウトのベットの傍らにいたサーファが、声をかける。

「サーファ?」

 ユウトはまだ朧げな意識の状態でつぶやく。

「ふん、レベルが低いくせに、無理するからだ。」

 サーファの後ろの方に居たアスカが、声をかける。

 ユウトは思わずはね起きる。

 だけど身体は思うように動かない。

「く」

 ユウトは身体を右に傾け、右肘をついて上体を起こす。


「だから、無理するなって。」

 そんなユウトを見て、アスカはニヤける。

「サーファは、俺が守る。」

 ユウトはまだ体調が本調子ではない中、アスカをにらむ。

 そして左手に刀を握ろうとするのだが、刀は薄っすらとそのシルエットを現すだけで、具現化しなかった。

「くはー。」

 ユウトの意識が、急速に遠のく。

 魔力不足の中、物質精製魔法を使ったからだ。

 ユウトにそんな意識は無かったが。


「安心して、アスカは敵じゃないから。」

 そんなユウトに、サーファは優しく言い聞かせる。

 ユウトは朧げな視線をアスカに向ける。

「ふっ。」

 アスカはユウトと目が合うと、ニヤけて目を閉じてうつむく。

 ユウトがサーファに視線を戻すと、サーファはにっこり微笑んで、うなずく。


 ユウトはそのまま寝落ちする。

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