第5話 ミシェル•フランツ
『ミシェルさん、ミシェルさん!起きてください』
小汚い革色のソファーに髪の長い白髪の男が寝ている。外からは微かに陽気な音楽が聴こえてくる。
「おはよう。ヴェルくん。」
ゆっくりと起き上がり、目線を合わせた。
『今の時間はこんにちはですよ?起こしに来なければずっと寝てたんじゃないんですか?』
「早速だが紅茶を淹れてくれ、ディスディドールの紅茶屋の物で頼む。」
『無視しないでくださいよ!本当に貴方って人は…』
少しの時間沈黙が流れ。ヴェルは愛想笑いを浮かべた…
「ところで、ヴェル君。君はどうやって私の部屋に入ったのだね?ちゃんと鍵は掛けていたはずだが。」
『まぁいいじゃないですか!』
ヴェルは紅茶を淹れながら笑って誤魔化した。
_______________________________________________
ティーカップからラベンダーの高貴な香りが漂ってくる。洋菓子が食べたくなる匂いだ。
「うん…素晴らしい味だ。淹れるのが上手くなったな!ヴェルくん。」
『ありがとうございます!滅多に褒めないミシェルさんが嬉しいです!』
ヴェルは本当に嬉しそうだ、表情が物語っている。
「そうだ、私のローブが届いていなかったか?【サリバス】が私に届けてくれると言っていたのだが。」
『あぁ、あの貧相な防具屋の小僧ですか。ボクがここに来てからは届いてないですね。』
「ちょっ、ヴェル君……」
サリバスはニーゲル商店街唯一の防具屋の息子だ。特別良い物は売ってはいないが、商店としては申し分無い品揃えだ。
「よし、直接取りに行こう。朝の散歩の様なものだ」
『ぜんっぜん今、朝じゃないんですけど………まぁ良いですよ。付いて行きます。』
_______________________________________________
陽気な音楽が流れ、少し活気に満ち溢れた大通りを二人は歩いていた。家や店の所々に朱色の国旗が掲げてある。国旗にはシンボル【勿忘草】が咲き誇っている。
「そういえば…」
ドン
背中の方に軽い何かがぶつかった。後ろを向くと小さな男の子がお尻をついていた。
『……………』
「大丈夫か?少年。」
ミシェルは小さな男の子に手を差し出したが立ち上がり会釈をして走って行ってしまった。
「まぁ、走れるくらい元気なら大丈夫か……」
耳を澄ますと諸所から笑い声が聞こえてくる。
『この街もようやく活気が戻ってきましたね』
「まぁそうだな。」
『二年前くらい前まではゴーストタウンみたいなもんでしたからね…』
ミシェルは歩くテンポを変えて、ヴェルから距離を少し取った。だが、ヴェルは必死に食いついていく。
『そういえば、さっき何か言いかけましたよね?』
「いや、なんでもないよ。大丈夫」
『なんでもない事ないですよ。気になるじゃないですか!』
「ほら、喋っている間に着いたよ。」
盾と剣のマークが入っている看板がある、少し古く渋い佇まいの防具屋が雰囲気を漂わせている。
『げ………ミシェルさん……』
掃除をしながらサリバスが防具屋から出てきた。
「サリバス君。この前ローブを届けてくれると約束したと思ったんだが…」
『まぁまぁ、今日は少し寒いですし…中に入ってください』
_______________________________________________
店の中は窓が無く光が全く入ってこない。飾ってある鎧が不気味さを醸し出している。
『そこに座っててください。今、ローブを取って来ますのでヴェルさんもどうぞ御座りください。』
「なんか、すみませんね。」
サリバスはニコリと笑みを浮かべ店の奥に入って行った。
_______________________________________________
しばらくすると店の奥からサリバス君が戻ってきた。しかし、手にはローブを持っていない。
『すみません……ローブ、親父が全部持ってたみたいで……』
「持って行った?サリバス君、説明してもらおうか…」
『分かりました………………………』
デクノボウの向かう方。 Anna @Zelle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。デクノボウの向かう方。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます