第10話 みんなでお風呂掃除

 今日はどうやら、部活が全面的に休みになる日らしい。なんでも、部活一辺倒にならないよう、趣味や勉学に集中できるように、という名目のようだ。

 つまり、今日はシャワー室を占有していても文句は出ない。

 俺達は、シャワー室の入り口に

「掃除中」


の札を立ててから、中に入った。ミカとイオの二人は、体操着に着替えている。


「よし! ピッカピカにしてやるぞ!」

「するぞ~~……」


 イオはやる気ゼロ。俺の隣で今にもゲームに戻りたそうな声を上げる。

 対してミカは、なんと三人分のブラシを用意してくれた。


「三人で分かれて掃除しましょう、洗剤は好きに使っていただいて構いません」


 俺達はミカの言う通り、分かれて掃除をすることにした。

 途中でちょくちょく、イオが邪魔しに来たが。

 ――一時間後。俺達は見事、シャワー室をピッカピカにすることに成功した。

 イオの体力を引き換えに。


「づ、づがれだ~……」


 こいつ、ゲームのこととなると無尽蔵の体力を誇るくせに、それ以外だとこんなもんなのか。これもまた、俺の知らない一面だな。


「さて、後片付けは俺がやってくから、ミカとイオはもういいぞ。ありがとうな」

「うん、そうする……」


 イオはそう言うと、のそのそとシャワー室の出口へと向かう。


「いえ、後片付けは私が!」


 案の定、ミカは食い下がってきた。


「いいって言ったらいいんだよ。ついでにシャワーも浴びてきたいしな」


 そう思って、実はシャンプー一式持ってきてたんだ。今回の掃除で汗もかいたし、掃除後一番シャワーを浴びても罰は当たらないだろう。


「え……? 先生、ここは女子シャワー室ですよ⁉」


 ああそうか、ミカは俺が住み込みのこと知らなかったな。


「ああ、俺住み込みだからさ。普段は八時以降に、ここを使ってるんだ」

「ま、毎日ですか⁉」


 そりゃ驚くよなぁ。男が女子シャワー室を使うだなんて。これが普通の反応だ。むしろ理事長とイオがおかしいんだよ。


「毎日だけど……。あ、生徒は使用禁止の時間だから、中でバッティングするなんてことないぞ?」


 約一名を除いては。


「そんなの……許せません!」


 だよなぁ。男が女子シャワー室を使うだなんて、許せないよなぁ。

 これを交渉材料に、理事長に直談判――。


「先生ほどの方が、毎日肩身狭い思いをしながら、シャワーを浴びているなんて! 許せません!」


 ああ、そっちかぁ。そういう子だもんなぁ。


「先生! 今日は私の家に泊って行ってください!」

「なんでそうなるの⁉」

「女子寮なら入浴もできますし」


 え? ここ女子寮なんてものがあんの⁉ 初耳なんだけど⁉


「お泊り会⁉ 楽しそう!」


 先ほどまでヘロヘロだったイオは、途端に元気になった。なるほど、ゲームじゃなくても楽しそうならいいんだな。

 せっかくミカが誘ってくれたが、このお誘いは受けられない。まず、女子寮に俺が上がるなんてのは、風紀的にNGだ。それに、もしミカの家に行って、俺が人間であることがバレてしまったら……。考えたくもない。


「せっかくのところ悪いけど、お泊り会は二人で楽しんで来いよ。俺はシャワー室で十分だからさ」

「そんな⁉ 先生ともあろうお方が、こんなシャワー室で十分なんて⁉ こうなったら理事長に直談判してでも――」


 それなら丁度いい。理事長がダメだと言ってくれれば、ミカも諦めてくれるだろう。

 なのに――。

 一時間後。俺は、ミカの部屋の湯船に浸かっていた。

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