第32話 さよなら

勝手に決めたら承知しない。そう言われたけど、その夜に美由紀から出ることを決めた。

きっとズルズル先延ばしになるだろうから。


遊園地からの帰り道、そして夕食と俺と美由紀はあまり会話をしなかった。

布団に入って、美由紀が寝るのを待つ。


俺はきっと消えて無くなってしまうだろう。

それでも悲しいとか不安とか、そういった感情はなかった。

美由紀と過ごした半年間は本当に楽しかった。


本当ならあの事故の時に死んでいた俺。

この半年は神様がくれた最高のプレゼントだった。

好きな子もできた。

あとは天国からこの子を見守るだけだ。

幸せにな、美由紀。


ああ、楽しかったな。


美由紀が寝静まったあと、俺は美由紀の口から外へ出た。

想像と違って、スライム状じゃなくてガスみたいな感じだ。


俺は残り少ない力を使って、生前の俺の形になってみた。

半透明の白い人間。

そして俺は美由紀にそっと口づけをした。


悟が私の身体から出たのがわかった。

たぶん今日の夜、悟は消えてしまう。そんな気がしてた。

だから、少しの変化でも目を覚ますことができた。


でも目は開けない。

悟の想いはわかっているから。

悟を困らせないように見送ろう。そう思った。



半年前に突然悟が私の中に入ってきて、戸惑うことも多かったけど、いつしか自然に悟を受け入れることができた。

礼子のこととかいろんなことがあったけど、本当に素敵な、あっというまの半年間だった。

いつかはこんな日が来るだろうとは思っていたけど、悟が私のことを大事に思った上での決断だから、私はそれを受け入れる。


きっと悟は消えてしまうのだろう。そして私は生き続ける。

悟のことは絶対に忘れない。忘れられるわけがない。

私の最初の、そして最高の恋だ。


ありがとう、悟。楽しかったよ。


かすかに唇に触る何か。

生身の人間じゃないけど、それが悟の唇だってなぜかわかった。


私のファーストキス。そして最初の恋。最初の失恋。

悟が消えるまで絶対に泣くもんか。絶対に。


しばらくして、部屋の中の気配が消えた。私の中に確かにあった悟の気配も消えた。


私は声を押し殺して泣いた。


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