第30話 決心

『今日の美由紀のつぶやき、お前も聞いてたろ。』

「聞いた。美由紀はあんたのことが好きよ。あんたはどうなの?」

『好きだ。俺の身体があったら抱きしめたいよ。』

「そうか、それは嬉しいけど、きついよね。やっぱり美由紀からは出られないの?」


確証はない。でもおそらく無理だろう。いわば俺の命は美由紀から補給してもらっているようなものだ。それが将来美由紀の身体にどんな影響があるかもわからない。


『たぶんね。そう長くない間に消滅すると思う。』

「じゃあ誰かの身体に乗り移るとか?」

『出来る出来ないの前に、急に違う意識が入ってきたら嫌だろうよ。そいつの意識が消えるわけでもないし』


「そっか、そうだよね。じゃあ美由紀の身体から赤ちゃんになって生まれてくるとか。」

『お前、発想が怖いわ。そうだな、それは・・・いや、精子が必要だし、他の誰かに抱かれるのは心身ともに嫌だ。』


「じゃあどうするの?ずっと美由紀と一緒でもいいと思うけど?」

『いや、美由紀の気持ちは嬉しいけど、この状態だと美由紀の心は壊れるかもしれない。それに将来の身体への影響も心配だしね。近いうちに美由紀の身体から出て、消えようと思ってる。』

「そう、そうか。せっかくいい友達ができたと思ったんだけど、残念ね。でもありがとう。」


そういって加奈子はひと筋だけ涙を流した。


『そんときは美由紀を支えてやってくれよ。頼む。』

「ん。わかった。」


これで少しは安心して旅立てるかな。


「悟、あんたやっぱりいい男だよ。」


ありがとう。


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