第29話 恋のお約束は成立しない
美由紀の中に悟がいるって聞いてから半年が過ぎた。
最初はいろいろあったけど、なんとなくうまくやっているようだ。
たまに男口調になって慌ててるけど。
体育の授業の時とか。
それがどうやら「頼りがいのある女」に見えるらしく、今まであまり交流のなかった女子の相談を聞くこともあるらしい。
「ねえ美由紀、最近アタシの彼氏がやたら触ってくるんだよねぇ。まだ自分の身体は大事にしたいし、もうちょっと抑えて欲しいんだけど、どう思う?」
『付き合ってどのくらい?』
「4か月」
『そりゃカレシもそろそろ狙うよな。ってか蛇の生殺し?カレシと本気で付き合っていきたいなら、それも込みで将来を考えたら?でも避妊は完全に。』
「そっかぁ。でも美由紀すごいね、大人の意見だ」
「・・・いやいやいや、ダメダメダメ!身体は大事にしなくちゃ!」
「えっ?」
あっ、途中で美由紀が出たな。顔、真っ赤だし。
相談した方はキョトンとしてよくわからない顔をしたまま美由紀のそばを離れていった。
美由紀は顔を赤くしたまま教室を出ていく。
これは美由紀の説教タイムだ。
面白そうだからついていこう。
「ほんんんと、やめてよね!私がとんでもなく経験値の高い女に思われるじゃない!」
体育館へいく階段の横、周りに誰もいないとはいえ、小声でどなるとは、美由紀も腕を上げたな。
『いやいや、男からしたら好きな子とその、したいとか思うのはしょうがないし、スキンシップは大事だと思うぞ。』
「そんなこと言ったって!・・・」
そのまま美由紀は黙ったまま、うつむいた。
「そんなこと言ったって、私は悟に触れないじゃない・・・・」
そう呟いたあと、美由紀は私の横をすり抜けて走っていった。
・・・ふむふむ、そうなったか・・・
でもな美由紀、そのシチュエーションは、男が残されて呆然とするから成立するんだ。
走って逃げても、悟はお前にずっとついてくるんだぞ。
放課後。久しぶりに美由紀をカラオケに誘った。
少し歌ったあと、私は本来の目的を実行した。
「ところで美由紀、そろそろ進路は決めた?」
「ん~、まだなんとも。医療系に進みたい気持ちはあるんだけど、看護よりは薬剤系のほうが興味あるかな。加奈子はいいよね、目標が明確で。」
『ん?加奈子はどっち方面へ進むんだ?』
悟が口を挟んできた。
私が話す前に美由紀が説明をする。
「加奈子は凄いんだよ。歴史学者になりたいんだって!」
『へー、歴史学者!ピラミッドの発掘とか?』
「ピラミッドにも興味はあるが、どちらかというと人物に興味があってね。たとえばキリストが磔になった原因のユダは本当に裏切りものだったのか、とか、聖徳太子は本当に10人の声を聞き分けられたのか、とか。人物の光と影、真実を知りたいのだよ。」
『・・・なんだかよくわからんが、頑張れ・・』
本当は美由紀と悟のこれからを聞きたいところだが、あまり踏み込むわけにもいかない。
美由紀の気持ちはわかったが、悟はどう考えているんだろう?
『なあ、加奈子』
「ん?」
『今、美由紀の意識をカットした。俺の相談に乗ってもらってもいいか?』
「あんた、そんなことできるの?」
『ああ、美由紀は眠っている状態だ。美由紀に聞かれずに相談したい。』
「・・・いいよ。私も聞きたいことがあったんだ。」
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