第27話 危機一髪②
「工事中」の車止めを飛び越え、エントランスに着くと、深く呼吸をして息を整えた。
次いでドレッド、そして坊主頭が来る。二人とも息が苦しそうだ。
タバコで肺がやられてんのかね。吸うもんじゃないな、やっぱり。
「て、てめえ、こ・・んなに走・・らせやがって・・」
荒い呼吸の合間にドレッドが毒づく。
そうこうしている間に佐藤礼子と小林次郎も荒い息を吐きながら追いついてきた。
少し呼吸が落ち着いたのか、ドレッドがいかにも“不良です”というように顔を斜めに上げて、見下げるように言う。
「しかしてめえもバカな女だよな。わざわざこんな人のいない場所に逃げやがって。そんな棒で俺らとやりあおうってか?ちょうどいいや、まだベッドとかあんだろ?病院プレイでヒーヒーってか?」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、そんなにひどいことしないって言っただろ!」
小林が叫ぶ。
「おめーはうるせーよ。この女、俺をコケにしやがって。」
おっ、坊主頭、こんな声してたのね。酒焼けなのかガラガラだけどなかなか渋いじゃん。
「まあしょうがないわね。あたしたちを怒らせたんだから。その罰は受けてもらわなきゃね。」
礼子の歪んだ笑顔は醜いとしか言いようがない。
ドレッドと坊主頭は腰に差してあった特殊警棒を持つと、一振りして長くし、構えた。
構えは隙だらけだけど、二人の連携には気を付けなくちゃいけない。
ドレッドが前に、坊主頭はドレッドの右側、少し後ろにいる。
俺は全身の力を抜いて、短棒をだらりと下げたまま坊主頭に向かって歩きだした。
予想外の動きにドレッドが戸惑っている隙に、自分の右前方の位置になったドレッドの右手に棒を打ち込んだ。ドレッドの特殊警棒が落ち、右手首を左手で抱えてうずくまろうとする。同時に右足を飛ばしてドレッドの右ひざに横から蹴りを入れた。
坊主頭が隙とみて警棒を振り下ろしてくる。
蹴りを入れた後すぐにバックステップで棒をかわす。
坊主頭の警棒は倒れこんだドレッドの左肩を打った。
『仲間割れ?』
俺の軽口に坊主頭は目を吊り上げた。
奇襲でとりあえず一人は何とかなった。
さてこれからは真正面で勝負しなくちゃな。どう攻めるか考えていると、坊主頭は
警棒を捨て、ポケットに手を突っ込んだ。
出したのはナイフ。しかも定番のバタフライだ。
そのとき、俺の身体が硬直した。
いや、俺のじゃない。美由紀だ。とりあえず俺に自由に使わせていたが、さすがにナイフを見て身体が硬直したらしい。
まずい、相手は本気だ。これじゃまともに戦えない。
俺は心で叫んだ。「早く来てくれ!」
ナイフを見て硬直したのがわかったのか、坊主頭がにやりとする。
焦りが消えて、獲物をいたぶる目に変わった。
「ほー、そいつは美しくないなあ」
待望の声が聞こえた!
坊主頭が横を見ると、大きなミッフィーの絵が胸元にプリントされたアロハと、7色カラーの短パンをはいた坊主頭の巨人が立っていた。
荒井さんだ。
さすが荒井さん、俺の声の感じと場所で緊急事態と察してきてくれた。
「女子高校生相手にナイフ振り回すって、お前それは格好悪いだろう?そんなんじゃモテねーぞ。」
そういいながら素手のまま普通に坊主頭に向かって歩いていく。
「く、くるなよ!」
突然の巨人に驚き、ナイフを荒井さんに向かって構えなおす。
ナイフを向けられても全く動じない荒井さんは倒れてうめいているドレッドの近くに転がっていた特殊警棒を掴んだ。
「こういうヤバいのが普通に手に入るからいけないんだよなあ。まあ拳銃が買える国よりは平和とも言えるが。」
自分を見ない荒井さんを、虚仮にしたと思ったのか、それとも隙ありとみたのか、坊主頭が奇声をあげて荒井さんに突っ込んでいく。
荒井さんはちらっと坊主頭を見たと思ったら、警棒を坊主頭の右手首に打ち付けた。
鈍い音とともに手首が変な方向に曲がり、しばらくしたら坊主頭が叫び声を上げた。
「ひぃ・・ひぐっ・・・がああ!」
「近所迷惑」
そう言いながら荒井さんは軽く坊主頭を蹴り上げて気を失わせる。
「狸寝入り」
ついでに動かずじっとしていたドレッドも蹴り上げる。
飛ばされたドレッドは壁にぶつかり動かなくなった。
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