第25話 心機一転!とはなかなかならない
遠くから除夜の鐘が響き、年越しの挨拶がてら家族の顔を見て、再び自分の部屋に戻ったところで携帯電話が震えた。
志保さんんからのメールだ。
《あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
ところで2日はお時間ありませんか?志桜里が是非一緒に初詣に行きたいと言ってまして。
本人は眠気に負けてしまいましたが、代わりにお誘いを、と思いまして。》
早速返事を返した。
《あけましておめでとうございます。是非ご一緒させてください。ちょうど友人と行く約束をしていまして、是非その子にもお二人をご紹介したいと思います。》
もしかして、志保さんと志桜里ちゃんがいれば悟とのギクシャクした今の関係も改善されるかもしれない。他人任せだけど。
「あけましておめでとうございます。」
駅前で合流した私と加奈子は、まもなく来た志桜里ちゃん一家と年始の挨拶をした。
志桜里ちゃんのお父さんとは初めての対面だ。加奈子も一家とは初めて顔を会わせるので、互いに紹介しあう。
志桜里ちゃんのパパ、そして志保さんの旦那さんの孝一さんは、ちょっとふっくらしてるけど優しそうだし、なかなかに整ったお顔の持ち主だ。
「初めまして、うちの志桜里がお世話になっています。ご迷惑をおかけしていませんでしょうか?」
「いえいえそんな、私も楽しくお付き合いさせていただいております。」
孝一さんからはほのぼのとした温かい雰囲気が伝わってくる。
「本当はご一緒したかったんですが、今日これからまた仕事がありまして。申し訳ないのですがお参りしたら失礼させていただきます。」
孝一さんは全国展開をしているレストランチェーンで、エリアマネージャーっていうのをしているとか。数年間そのエリアの面倒をみたら、また違うエリアに行くそうだ。
そして正月の2日はレストランの書き入れ時でもある。
これからエリアのレストランを回らなくてはならない。
食べることも仕事だから、健康管理と体重管理が大変だって志保さんが言ってた。
初詣でを終わらせ、孝一さんを見送ってから、志保さんのご自宅にお呼ばれした。
初対面の加奈子と志保さん、志桜里ちゃんは大丈夫かなって思ったけど、会って数分で志桜里ちゃんとじゃれあっている。さすがだ。
「ねえねえ、今日悟お兄ちゃんは?」
志桜里ちゃんが尋ねてきた。志保さんが慌てて、紅茶を少し溢しながらカップをテーブルに置き、志桜里ちゃんを止めようとした。
そうか、志保さんは加奈子が私の秘密を知っているって知らないんだ。
「志保さん、大丈夫です。加奈子も知ってますから。」
「あっ、あっ、そうなのね。」
志保さんがホッとした顔で志桜里ちゃんを開放する。
どうやら、パパには内緒ねって志桜里ちゃんに口止めはしているものの、加奈子に対してどうすべきか悩んでいたらしい。
「悟お兄ちゃんにもおめでとうってしたい!」
志桜里ちゃんのリクエストだ。そういえば今日はまだ出番がないもんね。
「悟、いいよ。」
私は体内の悟に聞こえるようにつぶやいた。
・・・出てこない。
「悟。」
しばらくして私の唇が動いた。
『志桜里ちゃんおめでとう。志保さん、あけましておめでとうございます。』
志桜里ちゃんはおめでとうを返すものの、心配そうに顔を覗き込んだ。
「悟おにいちゃん、元気ない。病気?」
『いや、そんなことないよ。元気だよ。』
そういう悟の声はやっぱり元気がなかった。
「ごめんね志桜里ちゃん、悟、ちょっと元気がないみたい。でも大丈夫だからね。」
「そっかぁ。お大事にね。」
それから最後まで悟は出てこなかった。
私自身が志保さんに相談したい。
でも、悟に聞こえないように相談することもできない。結局、自分でなんとかするしかないのだ。解決策はまったくわからないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます