第23話 カリは美容に最適・・・のはずはない

十一月も後半になると吐く息が白くなる。このでもこのピンと張り詰めたような空気も結構好きだ。家から走って十五分の公園は結構大きい。早朝にもかかわらずジョギングをする人、犬と一緒に散歩をする人、そこそこ人の姿が見える。

鈍った身体を戻すために始めたジョギングは、最初は辛くてゆっくりだったけど、最近はわりと軽快に走れるようになった。もっとスピードをってうるさい悟の声はとりあえず無視してるけど。

公園の端っこ、植木であまり道から見られないところが公園でのトレーニング場所だ。


荒井さんからカリの棒、オリシを送ってもらったけど、持ち運びに不便だし、本格的にやるわけでもないので、私用の短棒を作ってもらった。

亜鉛とマグネシウムを使ったアルミ合金の棒。車やスポーツ用品にも使われている軽くて固い素材らしい。とはいっても植物のオリシよりは重いけど。

25㎝の棒を接合して50㎝になるようにしてもらった特注品。

50㎝×2本で1㎏少し。


荒井さんからはジムへの入会を勧められたけど断った。

おまけに防犯用に、って言ったらスタンガンを勧められたし。

渋ってた荒井さんを天使の笑顔で押し切った。


出来上がったって連絡をもらって、受け取る際に

「そういえばこの前の動き、まんま悟の癖のある動きだったな」

って耳元で言われて、思わず顔を見たら気持ち悪く笑ってた。

アナタハナニヲオッシャリタイノデショウカ?


ということで、特製短棒で型の練習をしている。

腕が太くならないよね、って散々念を押したけど、若干太くなったような気もする。

とはいえ、朝の空気は美味しいし、ご飯もおいしくてたくさん食べちゃうけど、太ってはいない。むしろ腰回りは細くなったように思う。

なにより朝が気持ちいい!

日曜日の朝は時間に余裕があるので、公園のベンチでゆっくり日差しとスポーツ飲料を楽しんでいる。


「そういえば悟って、やっぱりこういう格闘関係が将来の夢だったの?」


悟に将来があるかどうか、残酷な質問かもしれないけど、どうしても聞いてみたかった。


『いや、うちって親父がいなかったから、高校出たら働くつもりだった。茂を大学に行かせたかったし。』

「・・聞いてもいいかな?悟のお父さんって、悟が小さいころに亡くなったの?」

『俺が小5、茂が小2のころだな。交通事故にあってさ、いきなりいなくなっちまった。』

「・・・そうなんだ。変なこと聞いてゴメン。」

『いやいいよ。信号無視で突っ込んできたバカにやられてさ。なんか金持ちのボンボンで、弁護士連れてきて、親父が青になる前に渡ろうとしたから避けられなかったみたいなこと言って、それでも気持ちだって金を置いていきやがった。弁護士の後ろでニヤニヤしてるボンボンの顔見たら、金を投げ返そうって思ったけど、これからのおふくろと茂のことを考えたら動けなくなっちまった。それからずいぶんと荒れたよ。自分に一番腹が立ってたんだよな。それでもドロドロした気持ちを回りにぶつけてた。荒井さんに出会って少しはまともになったんだよ。』

「そっか。良かったね。」

『ああ。』


これからちょこちょこお母さんと茂君の様子を見に行こう。

それきり私と悟は黙ったまま葉っぱ越しの日差しを浴びていた。


「そういえば悟は結局、何の仕事をしようとしてたの?」

『保育園の先生とか。』

「・・・・・・・。」

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