第21話 関係は・・まあ良好です

悟のお母さんから連絡があった。あれから茂君は憑き物が落ちたように穏やかになったそうで、お礼を言われた。また是非来てくださいとも。ただ、茂君が「まるで兄貴に怒られているようだった。あの二人は絶対に付き合っていた、だから性格が同じになったんだと言っていたと聞いて、絶対に行かない!って誓ったけど。

でも悟のためにもたまには行ったほうがいいのかな?やだな。


志桜里ちゃんやお母さんの志保さんとはたまにSNSで連絡を取り合っている。

兄弟がいないのでお姉ちゃんができたって喜んでいるらしい。こんど一緒に少し離れた大きな公園にプチピクニックに行く約束をした。


お兄ちゃんも来て欲しいっていうんですけど、誰のことでしょうかね?って志保さんは電話の向こうで不思議そうに言うけど、私は誰ですかね、って乾いた笑いを返すしかなかった。

荒井さんからは・・・連絡は来ない。来たら困るけど。ただ、怪我の治療費を貰った関係で住所を教えたせいで、手紙も何もつけずにオリシだけが送られてきた。余計怖い。

見知らぬ名前のジムから謎の棒が送られてきたからお父さんもお母さんも不審がっていたけど、ダイエットの道具で押し切った。

まあ悟も楽しそうだったから、たまには使うのを許してもいいかもしれない。

翌日の筋肉痛にならない程度に。


最近、悟とはちょくちょく話をしている。

マスクのおかげだ。顔にぴったりなタイプじゃなくて、少し大きめの。しかも針金が鼻と口の部分に2本入っていて、口の前に空間ができるやつ。これならよく見ないと口が動いていてもわからない。

今日も学校の帰り道。少し遠回りをしながら家路につく。


『佐藤礼子もだいぶ大人しくなったな。』

「そうね、でも時々睨んでくるよ。悟は寝てるからわからないだろうけど。」

『そっか、美由紀の中が気持ちいいんだよ。』

「ちょっとやめてよね、私の口でスケベな話しないで。」

『スケベって・・・・お前なにいやらしいこと考えてんだよ。』

「考えてない!」


そう言いながら私は頬が火照るのを感じていた。

大きな声を出したから周りの人が怪訝な顔で見てくる。

私は少し足早に歩いた。


「テレパシーっていうの?考えただけで伝わるやつ。あれなら周りを気にしなくていいのに。」

『さすがにそれは無理。それに俺、これ以上お前の脳みそに深入りしたくないし。』

「まあ私もそれは怖いね。でもそろそろ外に出る可能性も考えてみたら?いつまでもこうしてるわけにもいかないし。」


私がそういうと、悟は何も言わなくなった。怒ったかな?

でも、もしかしたら消えてしまうかも、って思うと胸が締め付けられる。なんだかんだで悟との共同生活(?)も慣れたというか、これはこれで楽しい。

悟が元の姿のままの寺島悟として戻ってくれたら最高なんだけど。

そうしたら、もしかしたら・・・


そうなんだよな。いつまでもこうしていられるわけじゃないんだ。

でもおそらく美由紀から出たら俺は長くは生きられない。アメーバ状のこの身体はおそらく精神生命体ってやつなんだろう。外に出たらこの身体を長くは維持できないだろう。

死ぬのは怖くない。というか、実際一度死んだ身だし。


俺が一番恐れるのは、美由紀ともう二度と会えないことだ。

ただ依存しているだけかもしれない。俺自身のために美由紀を利用しているだけかもしれない。でも、美由紀の中にいて、美由紀を通して様々な経験をする中で、俺は美由紀にただの好意以上のものを感じていた。

触れたり抱きしめたりすることはもちろんできなくても、こうして会話をするだけでもいい、俺は美由紀と離れたくない。

もちろん美由紀が誰かを愛し、俺という存在が邪魔になったら、出ていこうとは思っている。

それまでは、卑怯かもしれないけどここにいたい。

感覚を共有しても互いに思っていることまで共有できないことに、俺は初めて感謝した。

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