第16話 共存協定を結びましょう

翌日の放課後。またまたカラオケボックス。

しかし今回は俺と美由紀の二人。というか傍から見ると美由紀だけの一人カラオケではあるが。


「さてバカる。まずは謝罪をしていただきましょうか。」


本日の美由紀は朝からご機嫌斜めである。理由は明白。


『すいません。弁解のしようもない』

「何をどうして謝っているのでしょうか?」


敬語怖い。


『何って、美由紀の、いや佐野さんが身体を洗っているときに触覚のセンサーを切り忘れておりました。』

「切り忘れた、ですか?その前に、切ることができたんですか?」

『あっ、いや、その・・・・たぶん。』

「たぶん?」


本当に怖いのは大声じゃなくて怒りを抑えた平坦な声だ。


『視覚は切れるので、触覚もできるのでは、と。』

「それを黙っていたと?」

『いやその、あっ、いかんと思って試そうと思っていたのですが、つい誘惑に勝てず・・・』

「で、乙女の身体を堪能したと?」

『いえ、堪能というかその・・少々楽しんでしまったというか・・・』

「同じことです!!」


「はぁぁぁぁぁ」

美由紀は深いため息をついた。そしてそのまま動かないこと約3分間。

声をかけようかと思った瞬間、思い切るように頭をあげた。


「今日はちゃんとルールを決めましょう。とはいっても、あなたがどうしているかは私にはわからないけどさ。信用するしかない」

俺は慌てて言った。


『信用してください。絶対守ります!』

「お願いよ?」


俺と美由紀は共存のためのルールを設定した。

・俺は人前では喋らない(当たり前だが)

・昨日の礼子とのいざこざのように俺が出たいと思ったときは右目をウインクさせる。

 美由紀が少しうなずいて許可した場合のみ出る。

・着替えおよび入浴の際は、聴覚以外の感覚をカットする。

・美由紀が睡眠中は俺も眠る、もしくは一切動かない。


基本的にこれだけ決めて、後はだんだん増やしていく。


「それにしてもなんでこんなことになっちゃったんだろう?」

そう言いながら順応している美由紀も大したものである。


『うーん、普通は俺、そのまま死んでるはずだしなぁ。映画とかでよくある入れ替わり?にしても美由紀はそのまま美由紀だしなぁ。』

「そうよね。自分のことながらいまだに信じられない。でも悟はこのままずっと私の中にいるの?」

『わからん。でもやり残したことが解決したら成仏するみたいな?何か進展があればとは思う。』

「そうだよね。少し寂しい気もするけど」

『ん?』

「いやいや、何でもない」


『大体さ、このまま俺がお前の中にいたとするだろ?お前もいつか恋愛して誰かとその、するとするだろ?そうしたら俺、男とするなんて考えたくないし、子供を産むときなんて、男は耐えられない痛みだって聞いたことがあるし、それを考えたら夜も眠れない。』

「この、バカる!あんたは少しデリカシーってもんを覚えなさい!はああ、高校生にしては落ち着いてて理知的だと思ってた私がバカだったわ。」

『いや、バカ騒ぎのノリについていけないだけで、俺も普通の高校生だぜ?』

「もう普通じゃないけどね。」


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