第13話 そりゃバレるわな

放課後。佐野は須山加奈子を連れてカラオケボックスに来た。


「美由紀、今日は凄かったね!美由紀にあんな顔があるなんて、私知らなかったよ!礼子たち、タジタジだったじゃん!」


佐野は須山の言葉にも反応せず、固まったままだ。

須山も佐野の顔をみたまま固まっている。


そして佐野が口を開いた。


「加奈子、私これから変なこと言うけど、おかしくなったわけじゃないからね。少し黙って聞いててくれる?」


須山もわけがわからない様子のまま、じっとしている。


「・・・寺島君、聞こえてる?いるんでしょ?出てきてくれない?」

「ちょっと美由紀、何言ってんのよ!寺島君がいるわけないじゃない!」

「寺島君、出てきて!」


やっぱりばれたか。まあそうだよな。


ここで選択肢は二つ。素直に出て一緒に今後を考えるか。隠れて勘違いだと思わせるか。

勘違いだと・・無理だろうな。俺は佐野の身体を借りて返事をすることにした。


『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン・・』

「真面目に!」

『すいません・・』


須山が「へっ?」って顔して佐野(俺)の顔を見ている。

そりゃあそうだろう。須山から見たら佐野が一人二役をしているとしか思えない。

二重人格の場合は本来の性格が違う性格に完全に変わるらしいから、この場合は自作自演にしか見えない。


「ちょっ、ちょっと美由紀、何してんの?」

「お願い加奈子、黙って見てて。寺島君、どういうことか説明して。」


俺は佐野の口を借りて今までのことを説明した。事故のあと、気が付いたら佐野の中にいたこと。佐野の視神経への接続を皮切りに、いろいろ努力したこと。佐野の身体を動かすことができたこと。山本に突っ込んだこと。


「だよね。朝、礼子や山本君とのこと、意識はあったけど自分じゃ自分の身体を自由にできなかったもん。勝手に動くし勝手に喋るし。ああ、変な夢を見たのも寺島君が動いてたせいか・・・」


いままで呆然としていた須山がようやく口を開いた。


「・・・・えっ?マジなの?美由紀ん中に寺島君がいるってこと・・?」

『「そうそう。」』


今のは俺が答えたつもりだったが、もしかしたら佐野かもしれない。


「・・信じなんない・・・でもすごい・・・」


そのうち、佐野の身体が一気に熱くなってきた。心臓もいきなり心拍数が上がっている。


『おい佐野!どうした!どこか痛いのか?』

「うっ、うるさい!」


佐野は手のひらで顔を覆うと、しばらく動くことができなかった。

そして小さな声で、


「バカ寺島・・あんたって私が考えてることってわかるの?」

『いやさすがにわからん。』

「そう・・って、私、加奈子に全部喋ってんじゃん!」


ああそうか、例の俺のまさぐり云々のやつか。


『大丈夫だ。本当にいやらしいことしたわけじゃないから。』

「うるさい!もうやだぁ!」


佐野は須山に抱き着いて泣いた。


「私って美由紀と寺島君、どっちに抱きつかれてんの?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る