第12話 ついやってしまいました・・・


あんまり腹が立ってしまって、佐野の目の奥で睨みかえす。


「なに睨んでるのよ!文句でもあるの!」


佐藤がキレる。あっ、ヤバい!ついいつも通り睨んじまった。


「えっ?なっ、なに?睨んでなんかないよ。」


佐野が慌てる。


「だいたいさ、何で寺島君が死ななきゃいけないのよ!あんたが代わりに死ねばよかったじゃない!」


無茶苦茶だ。だいたい撥ねられたのは俺であって佐野じゃない。

まわりの男どもまで佐藤に乗っかって騒ぎ始めた。


「悟が飛ばされたときにお前、受け止められなかったのかよ!もしかしたら死なずにすんだかもしれねーのに!」


アホだこいつら。深く考えもせず、面白半分に礼子に乗っかって美由紀を責めようとしている。

我慢できなかった。


『山本』

「なっ、なんだよ」


いきなり呼び捨ての、いつもの佐野とは違った雰囲気に少し焦りながら山本が答える。


『ちょっと立ってみ』

「なんだよ・・」


そう答えながら山本が立ち上がる。


『あっ。』


窓に向かって視線をそらしながら、つられて山本が視線を外した瞬間、態勢を沈めて一気に山本の胸元に右肩を丸めて突っ込んだ。


「うわっ!」


そのまま山本と一緒に倒れこむ。背中を打った山本は顔を歪めてこちらを睨んだ。

山本をクッションにしたんで怪我は無いけど、右肩が少し痛い。


『お前の体重が80キロとして、この身体は50キロくらいか?それでも準備無しに受け止めるなんてできねーぞ。ましてや飛んできた男を受け止めるなんて不可能だよ。ノリでつまらねーこと言ってんじゃねーよ。』


教室全体が静寂に包まれた。山本も佐藤も唖然としている。


少し怒りも落ち着いて、俺はとんでもないことをしでかしたことに気が付いた。

やっちまった・・自分の身体の感覚で動いちまった・・・・


『・・・言ってんじゃないですわよ。』


フォロー、だめか?佐野、すまん!俺はそっと奥へ引っ込んだ。

佐野自身が呆然としたまま、クラス全体が佐野を見つめる。


ちょうとチャイムがなり、担任が入ってきてもしばらくは皆動けなかった。


その日は1日、誰も何も見なかったかのように頑張って普通になろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る