第10話 初めての共同作業です

もう何日目だろう。

毎晩寺島君の夢をみる。それも全部いやらしいやつ。

しかも今回はなぜか上半身から下に向かってじわじわ攻めてきて、途中で終わる。

今日はお腹まで来た。私、変態なんだろうか。


眠った気がしない。調子が悪いって部活さぼろう。

明日は週末。加奈子に遊びに誘われてるけど、明日と明後日はダラダラ過ごすことにしよう。


「あんた、最近ちょっと変だねぇ」


夕食のとき、お母さんが私の顔を覗き込んで言った。


「部活休んで帰ってきたから、事故の後遺症か何かって心配したけど、そんな感じでもないし。でも普通じゃないし。もしかして好きな人でも出来た?」

「何っ?男か?!!お父さんは認めんぞ!」


目の前に座ってビールを飲んでいたお父さんがビール入りの唾を飛ばしながら立ち上がって叫んだ。


「お父さん、汚い!!それに好きな人なんていない!」


そう言いながら私は夢の中の出来事を思い出した。

思わず顔が火照る。


「美由紀が真っ赤になってる!怪しい!怪しいぞ!お母さん!!お母さん!!」

「あなたは少し落ち着きなさい。美由紀だってもうそういうお年頃なのよ。」

「許さん!許さんぞ!お父さんは認めん!!」

「あなた」


お父さんがビクッとした。

慌てて振り返ると、お母さんが笑っている。いや、口元だけだ。

お母さんのこの笑顔は怖い。


「私が16の頃だったわよね。大学生のあなたと映画に行って、帰りの公園であなた、いきなり・・・・」

「わっ、わかった!もう言わない!だからその辺で・・・」

「わかったならいいわよ。」


お母さんは怖い笑顔からいつもの優しい笑顔に戻ると、私に優しく言葉を繋げた。


「美由紀、好きな人ができるのは当たり前。その気持ちは大事にしてね。それから自分を大切にすること。それだけはお母さんと約束してちょうだい。」

「・・・わかった。」


そうは言っても恋愛感情があるのかは自分自身よくわからない。なにより相手はもうこの世にいないのだ。


良い睡眠を取れていないせいか、うまく飛べない。

部活動の禁止が解け、鈍った身体もやっとキレが出てきたけれど、ベスト記録の155㎝には遠く及ばす、150㎝の高さのバーをまた落としてしまう。


踏切にも迷いが出て、何が正しいのかわからなくなってしまった。

こんなときは繰り返しても袋小路に入るだけだ。

さっさと練習を切り上げよう。でも最後にもう一回。


スタート位置に戻り、宙に横たわるバーを見つめる。


その時、身体に一瞬ごく微弱な電流が流れたような気がしたと思ったら、自分でも意識していないのに身体が動きだした。


さっきよりは少しだけゆっくりと、そして大き目のカーブを描いてバーに向かう。

自分では意識していなかった入り方に戸惑いながら、それでも良い予感しかなくてそのまま身体の動きに身を任せる。


足が大地を蹴る。パワーが地球にそのまま伝わったような感覚のまま、背面飛びで飛んだ。


気が付くと、マットからバーを見上げていた。バーはピクリとも動いていない。


「おお、佐野!今すごく良かったじゃないか!多分お前の自己ベストかそれ以上行けた感じだぞ!」


コーチが嬉しそうに声をかけてくれた。

今日はもう止めようと思っていたけど、もう少し飛ぶことにした。

あの無意識に身体が動く感じはもうなくて、最初はうまく飛べなかったけど、あの感じを再現するつもりで回数を重ねることで、結果的にベスト記録を2cm伸ばすことができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る