第9話 ああ、世界は素晴らしい!
最悪だ。ついにしちゃった。寺島君としちゃった。
夢の中だけど、初体験しちゃった。
私、どうしたんだろう。やっぱり寺島君のことが好きだったのかな。でももう死んじゃってるし。
これから毎日寺島君のこと夢に見るのかな。もう会えないのに。
そう思ったら涙が止まらなくなった。
急に視界が悪くなった。雨の日みたいに。
・・泣いてる?何で?
俺はどうしていいかわからなくなって、ただオロオロするだけだった。
それでも佐野は制服に着替え(できるだけ見ないようにしたよ、できるだけ。)学校に向かった。
久しぶりの陽の光の温かさ。街路樹の葉っぱが美しい。
生きているときは当たり前だった風景がこんなに綺麗なものだったなんて、俺はあらためて実感をした。
一度死んでみるものいいもんだ。
いや、良くないか。
こうなると欲が出てくる。風を感じたい。手触りを感じたい。すべてを感じてみたい。
そうなると次はどうすればいいか。ここは慌てずじっくりと作戦を練ってみよう。
その日一日は佐野が見るものを楽しく見ることができた。
国語の授業は真剣に黒板を見てノートに書き込んでいるが、数学や物理は黒板よりもあっちこっちに視線が飛ぶし、ノートに落書きをして時間を潰している。
基本的に理系は苦手みたいだ。
トイレのときは、聞こえてくるものはしょうがないので、紳士として心を閉じた。
いや、閉じるように頑張った。
風呂の時に鏡に映る佐野の姿に関しては、言及を避けたい。
許してください。
その夜。佐野が深く眠ったことを確認した俺は行動を開始した。
視覚を共有できるのならば他の感覚も共有できるかもしれない。
とはいえ余程慎重にやらないと佐野自身の身体に影響が出る可能性もある。
俺はゆっくりと細心の注意を払いながら佐野の脳に同化していく。
同時にできるだけ自分の身体をできるだけ薄ーくなるようにイメージして、佐野の身体全体に俺の身体が重なるように広げていく。
イメージとしては一週間くらいかけてじわじわ攻めるつもりだ。
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