第62話 異次元の強襲


「 強 制キョウセイ 直 接ダイナミック 対 戦 要 求エントリー 」


顔のない悪魔デーモンから提示された 血のように赤い文字が点滅している


直接対戦要求ダイナミックエントリー・・?

やっぱりあの時のオリジンの事と関係あるんだわ・・


だけど・・これはただの直接対戦要求ダイナミックエントリーじゃない・・、


強制・・そんなのオリジンでも初めて見たわ ありえない・・わ)


・・

その光の文字が真っすぐにリズに向かって提示される

が、 

そこからすぐに何かが起こるわけでもなく

その場でつっ立ったままで顔のない闇食いデーモンは停止しているように見える


「 ゴゴゴ・・ 」

こちらを向いたまま

不穏なオーラを出しながら全く動かないのが逆に不気味だった


今までも身の回りの変化が起こる時は嫌な感じがしていたけど

白い光の直接対戦要求ダイナミックエントリーと違って

この赤い文字の強制直接対戦要求キョウセイダイナミックエントリー

リズの精神をえぐり取ってくるような

文字を見ただけで今までの感じとは違う嫌な感じがする


(やだ・・ )

「・・嫌・・いやよ 来ないで・・!」



「おい・・! リズ 大丈夫か」


会場とリズの様子がおかしいことにすぐに気が付いたゲンゴは

空中で飛んでいる状態だったけど 

拘束していた投げ技の回転動作はもう止めていた


「ピシ・・パリ・・パリン・・!」

(ああ・・っ)

リズは対空強ナユラ砲昇破・滅の発動に失敗したリスクの代償で

全身の力が抜けていきつつあった


それでリズの強力な魔力オーラが維持できなくなって

魔力の守りが剥がれていっていた

「ギシ・・」



いたっ、いたい・・・」


ゲンゴはもう投げ飛ばすの時のような強い腕の締めは解除していたが


何重もの強い強化状態と魔力オーラで

リズを背後から抱きとめていたので

ゲンゴが普通にリズを腕で包んでいるだけで

魔力の守りが割れて失いつつあるリズの華奢な体にダメージが入っていっていた


「リズ・・!!今ここで魔力オーラを解くな 加減ができないだろ!!」


「ち、違うの・・私の技ってリスク付きなの・・

失敗したから・・私、力が入らなくなってきたの・・」


「おい ふざけるな あんなふざけた技使っといて今さらリスクだと・・!

すぐに張りなおせるか・・?」


「ちょっと今は、難しいわ・・」


「難しくてもできる分は張りなおしておけ 様子がおかしい

俺の強化術は今は解かないほうがいい」


風魔ノ羽衣ふうまのはごろも・・!」

ゲンゴの腕から直接リズに風魔ノ羽衣がかかる


「ぐ・・っ・・」

ゲンゴはリズの滅拳爆撃メギラバーストを直接くらった上に

招拳しょうけん絶回雷塵ぜっかいらいじんの力も使って維持できずに解除した後に

さらにアスラにも維持したままの高度な術を使っていることで

体に相当な無理な負荷がかかっていて

守りの魔法が発動したときにゲンゴのうめき声と腕が震えていた


「だいじょうぶ・・?ゲンゴ」


「・・大丈夫だ それよりこの赤い空間と出てきたあいつはなんだ

会場の守りが機能してない

学園の大会の警備は一体何をやってるんだ」


「わからないわ・・でもアレはたぶん世界を止めて移動させる力を持ってるの

嫌な感じがするの・・」


「どういうことだ 世界、だと・・? 

だが・・それならあれは只の魔物じゃないな」



「  」(・・・)

赤い空間の中で

未だに動きを見せない謎の闇食いデーモン


「(フワ・・)」シュン

ゲンゴはリズの全身に風魔ノ羽衣がかかったことをすぐ確認すると

ゆっくりと抱きとめていた腕を離して私を開放する


「ゲンゴ・・」

(うわあ・・飛んでる・・)

風魔ノ羽衣の術がかかると 空中のその場で飛行状態を維持できるらしい


「その状態でも 動こうと思えば動ける

一旦地上に降りてアスラを回収してここからすぐ離れろ

俺も様子を見て離れる」


ゲンゴはその赤くなった空間と異様なデーモンの存在を認識できていた


というか いつもならこの現象が起こるときは

時が止まったようにスローになっていたし

実際に赤い世界に巻き込まれた会場の観客たちは

逃げ回っている動きが抑圧されてスローになっているみたいだったけれど


ゲンゴは今も普通に動いていて私と会話もできている

ここが最後に結界が破られた場所だからラグがあるのかもしれない


「いけ・・!」


「わかったわ」


リズはあの異様なデーモンの赤い催促の文字の前から早く離れたかった


(あそこへ・・)

アスラはこのステージの外のふちの辺りで風の衣に丸く包まれて

まだふわふわと浮いていた


そこを目指して移動しようとリズがスっとその場を動いた瞬間、



「「   」」ピピン・・


強制直接対戦要求キョウセイダイナミックエントリー 照射ショウシャ!!」


その顔のない闇食いデーモンは動き出したリズの方に合わせて

いきなり気配を察知したように動作を再開していた

(え・・・?)


「「ジイン・・・!」」

顔のない悪魔から生み出された真っ赤な光が

離れた場所からレーザー光線のようにリズの元に一瞬で到達する


(( ジジュウウウ・・! ))

リズの胸の中心のところに照射された赤い光が浮き出してくる

赤い光が胸の前に集まって大きくなっていき いびつに揺れ始める


「え・・・!い、いや・・!」


「リズ!!!」

ゲンゴは振り返って叫ぶ


その時

「パキャアアアアン!!」


デーモンのあの赤いレーザー光線を代わりに引き受けたのか、

リズにかかっていた風魔ノ羽衣の術がその一度のレーザービームではじけ飛んだ

「俺の風魔ノ羽衣が・・!」


「ああっ・・!」

リズはまだ空中にいたので風魔ノ羽衣が解けて

飛ぶ力を失って地上に落ちていく



「  」

直後に

その顔のないデーモンが阻止されてリズの前で弾け飛んだ力の波動を察知した時


(( カッ ))


闇のデーモンの周りに浮かんでいた「強制直接対戦要求」の

赤黒い光の文字たちが一斉に歪んだように崩れて

「ギュオオオオオオ・・!!」

それは形を変えて

デーモンの顔の前に急激に集まっていき


(( () ))


「・・!」


( キィン・・! )

デーモンの顔の中心に

赤黒い光でできた巨大で異様なひとつのが浮かび上がっていた



「(な・・!)」

(このデーモン・・目が、ある・・)


その目はリズの事を見ているようで

まるでどこも見ていない、空虚で意思の見えない人外の異質な目


( ジッ・・ )

そして 

その怪物は身の毛もよだつような不気味な声を発した



「   ツ ケ タ ・・ 」


「!」(ゾっ・・)


(ジ・・ジジジジジジ・・!)

赤い目の浮かんだ闇食いデーモンは急激に体を震わせて動き出して

即座にその赤い光を再構築していた


空から落ちていくリズの体に向かって正確に狙いを定めるように

デーモンは開眼した目の位置の赤い光を歪んだように増大させる



その直後、


強制キョウセイ直接ダイナミック対戦要求エントリー  再照射サイショウシャ!!」


「「ジイン・・!!」」

リズの姿を赤い大きな目で捕捉した闇食いデーモンから

間髪を入れずに2発目のレーザーが照射される



「( いや・・・!)」


今度は何も守るもののないリズに 血のように赤い光の光線が迫っていた




・・・・・


その状況になる少し以前の

星誕祭 セントラルド武闘大会試合会場


リズとゲンゴの戦いの様子が途中で阻害結界によって

完全に隠されてしまってからしばらくたったとき


「なんだ全然見えないぞー」(ザワザワ・・)

「再開しろお~」「ブーブー」

試合が見れなくなって野次を飛ばす観客たちの群衆の中に紛れて


・・・

試合会場の建物の支柱の影で密かに変装をして

特殊な魔法を起動して

試合で選手を守るために仕込まれていた保護結界の機能に誤作動を起こし

瞬時に試合の妨害工作を行っていた天狗魔女クロージュ


「・・・」

「(やっぱり使ったわね リズ あなたももしかしたら

結構野蛮なのかもしれないわね


あれがあの子が持つ力・・、

私たちが把握していたゲンゴの持つ力以外だと

初めてはっきりと形のある力を観測したわ


あれは形こそ全く違うけれど

その互いの力が持つ性質はやっぱり似かよっている・・

そう 貴方たちが使っている力はこの世界の魔力には全く依存していない、

魔法の法則では一切の説明がつかない力


今はここであなたのはあまり出さない方がいい

特にあなたたちが相対するときは・・


幸い仕掛けが間に合って

厳重に結界で固めて外部からの人間は感知することはできないし

私の結界も今は追加で重ねた


あとはゲンゴが力を抑えてくれていればいいんだけど

あの様子じゃもしかすると・・ )」



「(でも大丈夫よ この試合だけはあなた達がもし暴れたとしても

私たちの力で外からは見えないし この学園もあなた達を守ってくれる


しかしあの結界の中・・

術者の私からでさえ内側の様子を見ることができなくなっているわ


術者の魔力を阻害するほどの大きな力が膨らんでいる・・


これは・・

早めに切り上げさせないといけないかもしれないわ)」


・・

「(・・法典周りは精鋭の魔法使いたちを揃えてきているはずだけど・・

今のところ妨害に対して特に目立った動きは見せて・・いない


一応今のうちに結界だけは

現状の維持状態を強化しておくかしら・・)」


・・

(スッ・・)

クロージュが密かに追加術式を展開して魔法を強化しようとしたその時



「「ピキ・・・!」」


会場の空にヒビがはいったように大きな亀裂が走った

「え・・あれは」


「(私の結界じゃない・・!外の守りにヒビが・・?!

だけどあれの守りは相当なはず・・!)」


「ビキ・・ビキキキ・・・!!」


空に走った亀裂はさらに広がっていく

よく周りを見渡せば会場を見守る大英雄の戦士像たちにも

「ビキビキビキ・・!!」

亀裂が入り始めていた


「なんだあ!」

「空が!」

「うわあああ」

観客たちが会場に起こった新たな異変に気づき始める


そして


「バキイイイイイイイン!!」


まるで空が崩れたと錯覚するように

上位の祝福魔法を施されて念入りに固められていたはずの

会場に覆われた守りの壁全体が割れて崩れ落ちてきた

(ズズン・・、)

会場を見下ろして見守っていた屈強な魔法の戦士たちの像にも

ひび割れが入り、次々に倒壊を引き起こし始めていた


「うそ・・」


「(自然災害の現象じゃない・・!人為的な魔法・・!

あの守りの障壁をこんなわずかな時間で突破した・・?

ありえないわ あれはすぐには軍隊でもどうこうできるものじゃない・・


精鋭の魔法使いたちが集まって術式の用意を周到にして

ようやく対抗できる規模のものなのよ

でもそんな大掛かりな魔法の準備、私が感知した時には一切なかった


結界の中にいるあの子たちの力じゃない、

動きを見せていない法典の魔法使いたちでもないはず・・、


一体何が・・? )」

・・


「!!」

「パリイイイイイン!!」

その時 会場の守りだけでなく試合ステージに張り巡らされた

防護魔法が一斉に砕け散った


(あ、ありえない・・あの試合用の強化防護魔法陣が、、一瞬でなんて)


そして

「これは・・!!」


「「    」」


「ぐっ・・・!!」

(わたしの結界に、まで・・!)

「ギシイイイイイ・・・・」


リズとゲンゴが中で戦っていてクロージュが守る結界に対して

外側の守りを破壊したと思われる何者かからの干渉の力が

上から降りかかるようにやってきていた


「(とにかく術式を連帯強化して耐えるわよ・・!)」

クロージュは待機させていた一族の人員に応援を頼んで

干渉術式の力に抵抗をする


(ピシ・・・ギシイ・・!)


「・・!!」

「(耐えるけど・・・!魔法の干渉レベルが高すぎる・・!

これは師団戦略魔法以上の規模・・!


しかもこの魔法の力・・!

未だにどこから力がやってきているのか正確に割り出せない・・!


感知もできないほどの離れの遠隔から・・?

いえそんなの説明できない

それとも私たちが知るものとは全く違う魔法だというの・・?

そんな魔法の力をここまでの規模で操作できる存在・・、


一体何者なの・・?)」



・・・・

ネロたちのいる試合観客席側


会場の空に張りめぐらされた守りの障壁が割れ

崩れて落ちてくる


その時の衝撃で会場の席に大勢いた、

観客の子供たちが持っていたお菓子の容器が倒れ

その中身が散らばる


「ネロ~なにこれえ こわい」

割れた空を見て怯えるミスラとネロ

「な、なんだこれ、どうなって・・リズ・・」


「変な音がする・・」

じっと耳をすませて闘技場の遠くの方を見ているマギハちゃん


「これは・・相当高レベルな魔術干渉だ・・!

今度は一体何が起こっているんだ・・!」

アーノルド先輩が徐々に崩れてくる空を見上げて呟く


「うわあ!!」

「グワアア・・ン・・!」

その時 空からネロたち一行がいる席に向かって

剥がれた魔力防御壁の一部が落ちてきた


(・・!)

その時に別の方向を向いて落ち着いて座ったままで

手の布に浮かんだ文様をうっすらと光らせている

シュバルツ・ブラスト先生の姿が目に入る


「(な、なにかの魔法を行使している・・?シュバルツ先生・・?)」


(とにかくネロ君たちやリサを守らないと・・!)

「ハイ・フィールド・バリ・・」

アーノルド先輩が手を上にかまえて即席で魔法のバリアを発動しようとしたとき


「パキイイイイン!」

アーノルド先輩が魔術を発動する前に

落ちてきた魔法防御壁はなにかに弾かれて飛散した


「こ、これは・・!」

キィイイン・・

「(防御結界魔法だ・・!)」


「これは・・シュバルツ先生ですか?」


すると先生は少し黙った後 手に浮かべていた光は止まっていて


「いや・・私は手伝いを少ししただけだよ」


「彼・・?」

「気が付いてなかったかい?」


シュバルツ先生はその場で指で軽く乾いた音をパチリと鳴らす

すると


「アオン・・」


「ええ・・!?君は・・ベダジュウ?」


ネロの席の目の前に

オジキの使い魔である犬型魔物の白い毛並みのベダジュウの姿が現れて

隠れ身の術を解かれてなんともいえない顔つきで鎮座しており


でもよく見るとベダジュウは体からぬるぬるとした質感の結界をはって

この辺りの観客席一帯を防御して守ってくれているようだった


「気が付いていなかったかもしれないが・・彼は

準々決勝が始まったときから姿を消してここに密かにやってきて

ネロ君の前で君たちを警護していたんだよ」


「え・・そうなのベダジュウ」

ネロはベダジュウに聞いてみる

「アオン・・」

そうだよ みたいな何とも言えない顔と返事


犬とは時として

半人前でか弱い同族の犬を守ってやらねばならないこともあるのだ


「(ええ ベダジュウって もしかしてずっと僕の前にいたのか・・

オジキが派遣してくれてたのかな・・

なんか複雑・・なんで気が付かなかったんだろう


そういえば姿が見えた途端にベダジュウの少し変な匂いが・・

え・・まさか僕のお菓子が消えたのは・・?)」


「アオン・・」

ベダジュウの口周りには なにかのお菓子の食べかすがついていた


・・・


「・・・」

シュバルツ先生は辺りの守りが崩壊していく中で

リズたちが戦っていた試合ステージのほうに興味を向けていた


(・・・)

「あの最後の結界は強いな・・さすがはクロージュ先生だ

干渉者の力からよく耐えている」


「クロージュ先生・・?」


「おっとこちらの話だな 微力だが少し私からも応援しておこう

だが問題は・・他のほうか」


・・

「アーノルド君 君も上位の守りの魔法は使えるね 」


「はい もちろんです」


「あのベダジュウ君・・だったかな

ここは彼が守ってくれているが いざとなれば君も手伝いたまえ


普段の杖よりこれを使った方がいいだろう 君に預けておこう」


シュバルツ先生は自身の指揮棒のような高性能な魔法杖を

スッと空間から取り出して護身用にアーノルドに手渡す


「!・・わかりました」



・・・・・


「「   」」


「ググ・・グ・・!」(バチチ・・、・・)

「くっ・・」

再び凄まじい魔法干渉を受けるクロージュの結界が抗戦する観客席


「(干渉が少し弱まって 結界がほんの少し持ち直してきたけど駄目ね・・

気を抜けばここもすぐ抜かれるわ・・!

でもこんな状況で結界を解くわけにはいかないわ

あなたたちも頑張って)」


「(はい・・クロージュ様!)」

応援に連れてきていた風使いの一族の部下の魔法使い達と共に

全力で結界防御の維持を継続する


(ワアアア!)(キャアアア!)

すると人々が逃げ惑って騒ぎになっている観客席の中央側の様子がおかしくなる


「あれは・・」

クロージュの部下の魔法使いが

突如一瞬で出現した異様なモンスターの姿に気づく


「  」ググっ・・


「あれは・・闇食いデーモン・・ですか? 

なぜこんなところに・・!

まさかあの魔物の個体が

会場の魔法防御壁を壊して侵入してきた元凶・・?」


(あれが外から・・?

でも外から魔物がきたような兆候は一切・・このデーモン、顔が・・ない?)


その時

「「「   」」」

(え・・)


「「グワ・・・・ミキャア・・!!!!」」


まるで抵抗など一切なかったように

一気に破られて崩れていく最後に残ったクロージュの防御結界


(な・・!)


「パリイイイイイン!!!」

「くあ・・!!」 「なにい・・!」


「そんな・・私の防御結界が・・!」

(おかしいわ・・!突然尋常じゃない圧力が加わって

一気に持っていかれた・・!)


((  ))

最後の星誕祭の闘技場を守る結界が崩壊して すぐに動きがあった

「ゴゴゴゴ・・!」

「「  」」

突如現れた謎の闇食いデーモンの体を中心に

何かの赤い空間が瞬時に侵食して辺りに広がりだしたのだ


空間を侵食する顔のない闇のデーモンは

リズとゲンゴがいる試合の中央ステージに対して

興味を示し、異様な動きを見せているようだった


(ググ・・)

その動きはまるで捕食する獲物に対して攻撃の狙いをつけるような


「・・!」

「(あの方向・・!あの子たちが危ない・・!!)」


「いくわよ あなたたち」

「はい」

動き出そうとするクロージュたち


「ズウン・・・」

「!」

しかしその直後に加速度的に広がってきた赤い空間に

たった今いた空間が一瞬で染められると


「(これは・・!阻害魔法・・?!空間の質が急激に変化している・・!)」

((  ))

意思疎通が全く効かず

部下たちの体の動きが阻害されたようにやたらと遅くなっている


クロージュ自身は自身の強力な結界を身に宿していたが

それでも支障がでるほどに阻害の力の煽りを受けていた


(そんな・・!)



「くっ・・ゲンゴ・・リズ・・! もう少し耐えなさい・・!」



・・・・・

・・・


風の守りの衣が剥がされて空から落ちていくリズの体


「ジジジジジジジ・・・!」

最初の光が外れた後に異様な赤い目玉を開眼させた邪悪な闇食いデーモンは

即再度赤い光を集中して増大させる


強制キョウセイ直接ダイナミック対戦要求エントリー・・  再照射サイショウシャ!!」



「「ジシュン・・・!」」

血のように赤い光はまたレーザー光線のように

止まった会場の空間を一気に貫いてリズに直接向かう


「  」

風魔ノ羽衣の術は飛散してしまって もうリズの身を守るものはなかった

リズは衣を失って空中から地面に落ちていく


「いやあ・・・」





その時


「フンぬらばああ!!


  地  裂  掌  破ちれつしょうは  ァ!!!」



「ジジ・・?」

闇食いデーモンの上空の赤い空間に

ものすごい勢いで上から割って入ってくるものがあり

デーモンはそれにわずかに反応するが


「ゴオオオオ!!」


そのやってきた野蛮な鋼鉄のロケットのような力強い塊は 

闘技場で崩れかけていたがまだかろうじて原形を保っていた、

風の大英雄ガルフウィンフィの戦士像のはるか上空の方向から 

すさまじい嵐の勢いと共に切り込んできていて


辺りに覆いつくして浸食していた赤い空間内に突入しても

嵐の風が空間ごと吹き飛ばして赤の空間の阻害の力の影響を受けることなく

その剛拳を天空からやってきた勢いのまま


「ズガアアアアアアン!!!!」


「アぎゃあ・・・!」


光を放つ闇食いデーモンの脳天をそのデーモンの大きな体ごと貫くように

地上の地面に突き立てた


「ブシュウウウ・・!」


デーモンの体は一瞬で破裂しており

元々顔はなかったが頭ごと顔も弾け飛んでたたき割られていた

赤い光の文字が集まって開眼した光の目玉も光がどこかに散って消滅していた

・・


「ふむ・・」

(ザ・・)

拳を地面から引き上げて 

そこに鋭い風の波動をまき散らしながら立っていたのは大天狗のオジキであった


他の大会警備の魔法使いたちも

その場に次々と到着して降り立っていた


顔のない闇食いデーモンの肉体が潰れて

赤い空間の力場は維持できなくなって崩壊し

「ズズ・・」

それまで辺りを染めていた赤い空間が霧のように消えて元の空間へと戻っていく



・・・・

・・

リズは風魔ノ羽衣を失って地面に落ちていくその時


「リズ・・!!」

猛スピードでやってきたゲンゴの腕に間一髪で空中でキャッチされていた


直線上に敵から放たれた赤い光は

リズに途中までやってきていたが

突如上空からやってきたオジキが闇食いデーモンの頭をつぶすと

赤いレーザー光は立ち消えてリズの胸の前で途切れ

(サアア・・)

粒子になって消えていった

・・


「オジジか・・ ふう・・ぎりぎりなんとかなったようだな」


ゲンゴは会場でデーモンを叩きつぶしたオジキのほうに振り向きながら

空中で寸前でキャッチしたリズを適当にぶら下げている



「痛い、痛いってば ゲンゴ・・」

「すまんな 今は加減が難しい」


でも・・

(なんとかなったようね・・よかった)


いろいろあったけど

ゲンゴの腕にぶら下げられながらリズはそう安心した




オジキはその破裂した闇食いデーモンの体細胞組織の泥の塊を見て首をかしげる

闇食いデーモンは普通の個体はデイモンと呼ばれて

その体の大半は泥でできている魔物だった


「ん?これは・・ただの泥モン、か・・?」



・・・

その時


(ザ・・)


「「   」」パッ

観客席でリズの方を向いて

何も入っていない中身がこぼれてしまったお菓子の真っ赤な空箱を拾って

帽子をかぶってただ座っている不思議な白い小さな子供のような影が見えていた


観客が逃げ惑った後の誰もいなくなった観客席で

そのやけに落ち着いた子供の姿は明らかに異質で浮いており


その白い小さな子供の姿は

空中にいたリズの方からもよく見えていた


「え・・・?」


(こど、も・・?)


「「  」」


白い子供の影はそれまで顔を隠していた、

帽子をゆっくりと外していく


「ジジジジジジ・・・!」

そこには

はち切れんばかりの白い光を宿して放っていた



「 直 接ダイナミック 対 戦 要 求エントリー  送転ソウテン・・!!」


「パアアア・・・!!」


まるで星の光が弾けたように弧を描くシャワービームのようになって

白い子供の顔面からそれがリズのほうに向かって解き放たれる


同時に今まで感じていた世界の風が全て逆向きになる


「!?」

「リズ・・!! 掴まれ!!!」


その異常さに気が付くとゲンゴは

適当にぶら下げていたリズをすぐに胸元に腕で強く抱えこんで


「ギュワン・・!!」

その光からリズを遠ざけるように自分の背中で覆い隠して

その場から一気に翼で飛び去ろうとする


((  ))

だけど そのときすでに抱えられたリズの胸の中は

白い光で光っていた


「あっ・・・」


「( りず・・)」


この試合でボロボロになって原形がなくなった私のテイマーの腕輪から

アスラのかすかな声が感じられる


でもこの試合でアスラの体を交信術で何回も動かしたから

もう最後の術の力が消費されてしまって アスラとの術が切れてしまう寸前だった


(・・・・)

白い光に包まれて

眠るように私の意識がなくなっていく



「(リズ・・まって・・)」


「( リ、ズ・・・)」


・・

「   」

アスラとの術の繋がりがそこでプツン・・と切れてしまったのを

リズは意識の最後に感じた




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