第52話 みんなでお風呂

 「あっついなあ・・今日は汗かいちゃったなあ」

「ただいまー」

ん あれ今日はリビングに人がいないような静けさだ


とある真夏のように暑かった日

ネロは今日は昼で学園の初等部の授業を切り上げていたので

日が高いうちに風車の家に帰ってきたのだった


「リィン・・」

風に吹かれて軒先の風鈴の音だけが鳴っている


(ミスラたちがいないなら体を拭いて今日は

リビングの日陰でゆっくり本が読めそうだなあ)


「いつもは邪魔されちゃうからね」

リビングに適当に荷物をおいて 

汗をぬぐうためにタオルを1枚取ってこようと思ったとき


(キャハハ アハハ・・)

(あれ ミスラたちやっぱりいるみたい

でもこれは庭の方かな)


ネロは庭の方に歩き出して縁側に出て


「おーい 今、僕 帰ったから・・」

とミスラたちに一声かけてから また部屋に戻ろうとして

(あっ・・!)

「ぴしゃあ・・!」

(う・・・)

そこには最近買ってもらったビニールプールを庭で広げて遊んでいる

スライム3姉妹 アスラ ミスラ キスラが 濡れてもいい服を着て

水遊びをしていたのだが


その水かけがエスカレートしていたようで 

流れ弾がネロにちょうど当たってしまった

(びちょびちょになっちゃった・・)


「あ、ネロ!おかえり ネロも水遊びしたいの?」

「いや、したくないよ・・」

「え、でももうそんなに濡れてるのに」

「これは今ミスラたちが濡らしたんだよ」


そうネロが言うと ちょっと状況的に形勢が悪いと思ったのか

「し、しらないわー」

しらんぷりを決め込むミスラ


ミスラは水の扱いがうまいので

けっこう広範囲に水をまき散らす迷惑な能力がある

キスラは比較的いい子でおとなしいし アスラは水の扱いは苦手なので

消去法で たぶんネロに水をぶっかけた犯人である


と・・、ここでネロが気がついたことがある



「え・・! ミスラとキスラも大きくなってる!!」


そう あまりにも自然に遊んでいたため 意識の方が遅れてやってきたけど

たしかにミスラとキスラの体は大きくなっていた

とはいっても 先にネロ並みに先に大きくなっていたアスラとは

変わらないくらいだったけど


「今頃気がついたの~ネロ~ うっふーん」


なぜかセクシーな(とミスラが思っている)ポーズをとって

ミスラがサービス(??)をしてくる

水をぶっかけたお詫びらしい 

ちなみにちょっとかわいいくらいでセクシーでは全然ない


少し追求して聞いてみると 

アスラに身長のことで結構前にえいえんと自慢をされたので

すごく悔しかったので念じ続けていたら 

つい最近になってできるようになったのだという


「へえ~ そうなんだ」

「そうなの」


「だからネロも一緒に水遊びしよう?」

(だから・・?)


話がちょっと跳躍したような気がする

水遊びに誘われたら自分が今びちょびちょになっていたことに

ミスラとキスラが大きくなった驚きから意識が戻ってきた


(僕一人で静かに お風呂で流してこよう・・)

「ミスラたちとはお水遊びはしないよ じゃあ僕はお風呂に入ってるからね」

「えー」


そういって水遊び中のミスラたちの元を去るネロ

(まあタオルでぬぐうだけより 全部流しちゃう方が気持ちいいか)


・・・・


(チャポーン・・)

「ふう・・」

たまにはこういうのもいいかな

体だけ流すつもりだったけど 湯船というか全然あったかくはない

けどぬるま湯をはっていて ネロはそこに静かに浸かっていた


と、そこへ・・

(ガヤガヤ・・)

(ん? なんか外が騒がしいよ)


(バアン!)お風呂のドアの音がしてスライムたちが侵入してくる

「ネロとお水遊びする~」「する~」


「うわ ちょっと何してるの 入ってきちゃだめだよ」

「だってネロがお風呂でするっていった」


「いや僕はお風呂に入るっていっただけだよ

ミスラたちは遊んでていいよ」


「わーい ありがとう ネロ!」

「ちょっと!なんでそうなるの!」

「遊んでいいっていった~」


(もうミスラたちは何言っても ここにくるなあ・・)

「ジャボーン!」「ドボーン!」「ジャパーン!」


そんなことを思っている間に もう水際は突破されてしまったようだ

「もう・・ちょっとだけだよ」


「わーい ネロ大好き」



・・・・

・・・


「あの・・ごめんくださーい」


・・

一瞬だけ昨日のこと

お外で二人で楽しくおしゃべりをしていた

アスラとマギハちゃんはお友達


そんなひと時

(キャッキャ・・)

「 ふふふ、ねえアスラちゃん

その頭にずっとついてるのはなあに?」


アスラの頭の上はいつもクルクルでフワフワだがそこには

マギハちゃんとお話している間中も

なぜかそこからずっ~と離れない

謎の緑色のでっかい御トノサマバッタが付いていて

明らかに視界にちらついていたのだった


でもそのことはお互いがずっと今の今まで

なんにも触れなかったのだった


「これはねトッポちゃんだよ」

「え、とっぽちゃん?」


「トッポちゃんはねえ さっきくしゃむらで捕まりました」

「ふふ!」


(じっ・・)

「マギハちゃん、じつはトッポちゃんはねえ・・・

虫なんだよ」

「まあ!」


アスラとマギハちゃんの話はとってもマイペースなのだった


「トッポちゃんはねえ、トッポポでトッココでトコトコ・・」(フンカフンカ


フンフンしながらトッポちゃんの説明を始めるアスラ


すると

「あっ!とっぽちゃんが・・!」

(パタココココ・・!)

アスラの頭の上は適位置ではなかったのか

トッポちゃんはアスラに特に未練もなく軽快な硬めの羽音を立てて自由に去っていく

「あ~~!」


トッポちゃんが去って行ったので

しかたがないので今日のお話はもうお開きだ


それは他の人にはわかりません

でも二人にとってはそういうことだったのです

・・


「あ、そうだ・・!明日マギハちゃんもお留守番なんでしょ おいでよ」って

昨日のその時のアスラからいわれたので


今日はかわいい日傘を差して風車の家にやってきたマギハちゃん 


暑い今日も黒い髪がばっちりつややかにきまっているが

その下の白い肌には暑さでツツーと汗が伝う


(あれ・・誰もいないのかしら・・)


「ドアは・・空いてる」

(外は暑いしちょっと中に入らせてもらおうかしら)


いそいそとマギハちゃんは中に入る

玄関で日傘をパタンと行儀よく折りたたむ


(ふう・・涼しい・・)

「(リィン・・)」 

(あ・・・)

(これは風鈴の音、かしら・・)


「いい音・・」

マギハちゃんはツツーと首に汗を一滴垂らして 

小さく目をつむって少し耳をすます


(・・あれ?)

(バチャチャ!ジャバー!)

でもだんだん他の音が大きく混ざるようになってきた


(水の音・・みんなもしかして お風呂場にいるのかしら)


「じゃあ・・ちょっと待っていようかなあ」


リビングまでマギハちゃんは入ってきて

ソファーに腰を下ろす


(あら・・)

庭からびちょびちょの足跡がリビングを通って

たぶんお風呂場まで続いている


「(ちょ、ちょっと やめてってば 水飲んじゃうでしょ

ジャブジャブ・・ネロ~ ・・ザザーン・・)」

少し音が聞こえてくる


楽しそうな声の音


(あっ・・)

(私も・・・)

(・・・)

(いいなあ・・)

マギハちゃんは一人で静かにソファーで丸くなる




・・・・

「はあ~今日はあつかったなあ~ 汗かいちゃったわ」


最初にだれかが言ってたようなことを言いながら

授業が早めに終わったリズが風車の家にやってくる


(あれ・・?)


「(リィン・・)」

涼しい風鈴の音に

リビングにちょこんと座っているツヤツヤ黒髪の小さな後ろ姿


(あれは・・マギハちゃん?)


「マギハちゃん・・?」


「あ・・リズさん お邪魔してます」

「いらっしゃい、でも一人・・?」

「いえ そこに・・」

マギハちゃんの視線の先をたどると

「あ~~!」

濡れた床が庭から続いて これはお風呂場・・?まで水でびちょんびちょんだ


先に庭のほうを見にいったけど 

そこにはケンケンパをして遊ぶ適当な丸の列がかかれた濡れた地面の先に

クルクルになった水道ホースと

もぬけの殻になった無残なびちょびちょプールがあるだけで

特に誰もいなかった

(最近あの子たちに買ってあげたお花柄のビニールプールが・・!)


(ということは あっちなのか)


「バチャーン!(ちょっとおおお)キャハハ」

ちょうどお風呂場から音が漏れてくる


(あっ!ネロもいるじゃないこれ どうなってるのかしら)


私が床で滑らないように お風呂場に向かうと

後を追ってマギハちゃんも遠慮しがちについてきていた


騒がしいお風呂のドアを遠慮なく開ける

(バアン!)

「ちょっとネロどうなってるの リビングびっちゃびちゃよ」


「え!?リズ ちょ、ちょっと 帰ってたの?

リ、リビングは知らないよ ミスラたちがやったんだよ」


「ええ~?ネロ~ ああーん うおーん・・」

ミスラたちがウソ泣きを始める


これだけ見てだいたいはおおよそは察せたけど

まあここでも暴れたみたいね


「・・・!」

ていうかミスラとキスラがでっかい

でっかいっていってもまあ おチビちゃんなんだけど

アスラが大きくなったから

いつかミスラとキスラも大きくなれるんじゃないかなとは思っていた


その辺りをさっき知ったという裸のネロから説明される

(ん・・? なんでネロだけ裸よね これ まあいいけど)


少し私のうしろの方から小さい音がする

(あら・・マギハちゃん 近くまでついてきていたのね)

ひらけたドアからマギハちゃんが じいっ・・とお風呂場を覗いている



アスラが大きくなった姿を前に知っていたからか

元からミスラたちが

小さい状態にも変化できることをマギハちゃんも知っていたためか

特にミスラたちが大きくなっていても驚いた反応はない様子だ


ミスラたちもその気になれば

アスラみたいに大きくなれると思っていたのかもしれない


それよりもマギハちゃんは

そわそわして別のことを気にしているように見えた


(ふーん・・)

リズは一回ドアをパタリと閉めて お風呂場をでてリビングに戻る


ハッとして おずおずとマギハちゃんは後をついてくる

そんなマギハちゃんにリズは声をかける

・・


「ねえ マギハちゃん ネロたちと一緒にお風呂入ってみない?」


「え・・ あの それは・・」


「別に恥ずかしくないわよ アスラたちもシャツきてたでしょ 私も入るわ」



(まあネロはあれはすっ裸だったんですが なんでだろうね)


「じゃあ・・あの・・私も・・入ってみたいです

でも服が・・ 」


「マギハちゃん 楽しむならね、後先は考えちゃダメなのよ

大丈夫、服ならアスラたちのシャツがあるから気にしないで

すぐ準備するわよ」


「は、はい・・!」



・・・・

ガララ~


「ちょ!ちょっと!なんでリズ達まで入ってくるの?!

ていうかマギハちゃんまで!いつの間に」


「いやあ だって暑いじゃない」

「お、お邪魔します・・」

「リズ~」

「あっ マギハちゃんだ」

「マギハちゃんも一緒に遊ぼう」


焦る様子のネロ

「い、いいよ僕は出るよ リズまできたら さすがに狭くなっちゃうでしょ」


「あらネロ このお風呂けっこう広いから詰めればいけるわよ」

「ネロでちゃだめ~」「ダメ~」


「ちょっとお~ ていうかなんで僕だけ裸なのさ」


「あたしたちが遊んでたらネロが裸で入ってきたんだよ!」

得意げなミスラ

「もう~~なんだよ~」



「はいはい ネロ入るわよ 寄ってね」

「お邪魔します~・・」

「うわああ~」


(ザッブウーン・・・)ジャージャー 湯船の水があふれる音


「うわ ぬるい! ぬるま湯ね ちょっとびっくりしちゃったわよ

もうちょっとお湯かと思ったわ」


「ネロがぬるま湯に浸っている・・」(じ・・)

「いや・・いいでしょ それくらいさあ」


「やっぱかなり水が溢れちゃうわね・・」



「・・なんか確かに涼しいけど 水浴びって感じは全然しないわね

ごめんねマギハちゃん」


マギハちゃんは元から肌がものすごく白い

普段黒髪と黒いドレスを着ているせいで

今はその白さが際立っている

スライムたちが暴れて さらにリズが入って狭くなった浴槽で

ぎゅうぎゅうにマギハちゃんは詰められていた


「でも・・私こうしてるだけで結構楽しいです・・」

「そ、そう?」

(ぎゅうぎゅうの今の状態でこれが言えるのは

けっこう変わった子だよ マギハちゃんも)


「ミスラ ちょっときて」

「私?」


(ジャバジャバ・・)

「ちょっと僕を蹴ってそっちに行かないでよお」

適当に進路のネロを蹴りけりしながら呼ばれたリズのところにいくミスラ

キスラもおとなしくしていて

進路上にいたのだが上にのるくらいで

明らかにネロだけ選んで蹴りけりしていた


「通るんだからしょうがないじゃない」

「はいミスラ捕まえた~」

(ジャプウ・・)

「つかまった~」


(ピットリ ミスラ)

(涼しい~ 大きくなってると接地面が違うわね~)


「うん やっぱ涼しさだけならミスラを抱っこしてた方がいいわ・・」


・・

体が冷えて頭まで冷えたのか

「あ・・そういえば びちょびちょのリビング何とかしないといけないわ」


「先に上がるわね」

「ええ~リズ~」

(ザバァ・・)

・・

そこでリズが先にぬるま湯お風呂から上がり

着替えて床の掃除をしていたら


ネロとはもう遊んであげたし

新しくマギハちゃんも来たことだし そこで水遊びの拠点を

再び外のプールにうつすことにしたミスラたちは

本人たちは水を拭き取ったつもりだったけど 全然拭けてはいなくて


「ドタドタドチャ・・」

「(あ~っ!!)」

そこそこびちゃびちゃな状態でリズがきれいに掃除した床の上から

びちゃびちゃと横断してリズに怒られていた


・・・

一人ネロが残るお風呂場にリズの怒った声が聞こえてくる

(リズが怒った声は珍しいなあ・・)


結局最初から最後まで お風呂場に残ったネロ

お風呂の水張りはリズ達全員がでて半分くらいになっていた


「ひどいめにあったなあ・・」


(上がったら本は僕の部屋で読もう・・)

ぬるま湯とはいえ最初から最後まで長く残って体中がふやけそうだ

いそいそとネロもお風呂場からでて


「(ピチョン・・・)」


そして騒がしかったお風呂場からは誰もいなくなって ようやく静かになった



・・・・

おまけ編


(ネロもようやく上がれたみたいね・・ご苦労様

本でも読みに部屋にこもるのかしらね)


ミスラたちが水浸しにした廊下の掃除がひと段落して

休んでいたところを ようやく服を着れたネロが少し先を通っていく


(あらあら )

庭の先のプールの方からは

遊びながらその場の気分と感性で自由に歌うスライムたちが


「「トッポトッポ、トッポトッポ♪ やっぱやっぱやっぱ~~♪」」

って

歌っているその歌が何なのかは全然よくわかりはしないけど

楽しい響きがあるのだろう

上機嫌でとっても賑やかな合唱が聞こえてきた


(ふふふ でもまあこれならきっとマギハちゃんもご満悦ね)



あとは再びビチャビチャ横断されないかだけ気を付けて・・

庭の前の縁側に足マットのセットと

悪いスライムを捕獲するためのバスタオルと・・

他には・・


と、そこへ

(カランカラーン)

玄関の音

「(あれ 家にみんないるわよね 誰かくるはずが・・)」


「はー、疲れたわ」バッサー

風車の家のリビングに我が物顔で入ってきたのはクロージュさんだった



(ああ そうかあ こんな人もいたわ 居候っていうか)


「あら なにか失礼なことを考えているかしら?」

「いえ そんなことは お疲れ様です」

(あぶない あぶない 声に出さなくてよかった)


「そんなことより 暑くないんですかその恰好 今日外暑くないですか?」


リズはクロージュさんの疑いの視線をサッと躱す


クロージュさんはいつもの全身魔女ファッションであり

黒ずくめの長い魔法のローブが

ちりちりとした日差しの全ての熱を吸収するんじゃないかって感じで

すごく見た目が暑そうだった


(けどクロージュさん自体はなんとも思ってなさそうね・・)

疲れてはいるみたいだけど 涼しい顔をしているクロージュさん


「ああ 私は関係ないのよ 

魔法でちょうどいいくらいの涼しい被膜で覆ってるから

暑さは全部シャットアウトね」

なんでもないようにクロージュさんはいう


大人ってずるいなって思いました


そこへ

(ピョコっ・・)

最初はリビングのところに置いてあったけど 

中まで取りに来てまた濡らされると困るので

窓際に移しておいた水遊び用のバケツのところに

「へー↑へ~」

バケツをやっぱり取りに来たらしく 

お歌の変なテンションを維持していたキスラが窓際にやってきていて


(まあキスラ 無警戒な変な声を出して・・)



そして一瞬リビングのこっちの方も見て・・

「はっ!」

普段おっとりしているキスラがそこにいた何かの気配に気が付いて

素早く正気に戻りバケツをあきらめる判断をして

元の外のプールにサッと戻ろうとする


「おや・・おやおや・・」

「うわああ」


なぜかキスラが謎の念動力によって元の窓際の位置に

後ろ向きで足をシャカシャカ空回りしながら戻ってくる 

クロージュさんがその姿をじっと見ている

(クロージュさん・・)


「キスラたちもアスラみたいに大きくなったんです」

「あら そうなの・・ そう・・ ふむ・・」


クロージュさんは なにか考えているようだった


パッとキスラにかかっていた念動が解ける

(あら 解いてあげるんだ・・こっちに連れてくるかと思ったのに

またびちゃびちゃになっちゃうかと思った)


キスラはなぜか魔女から開放されて「?」ってかんじだったけど

ついでにさっき諦めたバケツも持って素早くプールの方に戻っていった

(したたかさんね)


「そうだわ ちょうどいい試作品があったのよ」

思いついたようにポンと手を鳴らすクロージュさん


(なにか考えていたのはそれのことだったのかな

でも試作品ってなんか怪しい予感・・)


そのポンと鳴らした手をクロージュさんが再び開くと・・


(うげえええ~)


「@」「@」くわっ「(ドオオオン・・!)」

そこにはおぞましい髑髏の頭部そのものが握られていた

なんか並んだ目がすごいレンズみたいに怪しく光ってる


「ちょっと・・何考えてるんですかクロージュさん やめてくださいよ」


「見た目で判断するのは良くないことね ではまずあなたで試しましょ」

(なああああ)

「え、ちょ やめ やめてくださ」


「それ! (パシャ!)!」

(え、 光・・?)

髑髏の目をこっちに向けて なにかを発動したクロージュさん


光が当たって音がしたくらいで特に何ともない私

(それが逆にこわいんだけど)


「でてきたわよ~」ニッコニコ


「(ジジーー・・)」

すると髑髏の平たくなっている口の部分から


(あ・・これ写真だわ 私と背景が写ってる)

私が写った写真のようなものが現像されて出てきた


(なにこれ・・私、魂とか取られてないよね)

写真なら普通に撮ってくれればいいのに 

こんなおぞましい物で撮られて若干不安になるリズ

・・


「これはね カメラなんだけど

2つのレンズで人間が見た立体視点に近いように

現像を目指している魔道具の試作品なんだけど

 ちょっとまだ被写体の認識性能がいまいちなのよね」


そういうと髑髏の口からペラりと取ってその現像写真を私に渡してくれる

(へえ・・たしかにちょっと変わってる)


奥ゆきっていうか 私の姿がちょっと立体になっていて

背景が後ろの方に感じられるけど 服とかは少し背景の一部に

処理されたみたいで距離感が不自然になっていた

(なるほど・・試作品っていうわけだ)


「まあこれは普通にね 片方のレンズの目だけで使えば普通のカメラだから

今日はそれで取りましょ あなたたちが大きくなった成長記録ね」


「(成長記録、かあ・・)」


悪くない響きだなあ・・この髑髏でさえなければ普通によかったのに


「リズ みんな集めてらっしゃい 庭で撮ってあげるわ」



・・・・

・・・

「すごいカメラだね・・」

「そこは気にしないで ネロ」

部屋にようやくこもることができたと思っていたネロも引っ張り出して

今いるみんなでビニールプールの出ている庭に出る

ちょうどいいのでプールの前で撮ることになった


髑髏のカメラの片目は閉じてあるので

髑髏君がウインクをしているみたい 無駄におちゃめなポイント


(今いるのは ネロと私とアスラとミスラとキスラとマギハちゃんね

おっと あとクロージュさんだね 

でもクロージュさんは向こうから撮ってくれるらしいから・・)


「あああ~~ミスラああ」

ポーズを決めときなさいって クロージュさんに言われて

びちょびちょのミスラがネロにくっついて

再び着替えたネロのシャツに染みた水の跡ができていた


「マギハちゃん、遠慮しなくていいから前にきて

ほら アスラの隣よ」

比較的はじっこにいたマギハちゃん 

今日のプールへの参加の流れからみても遠慮していたのだろう


「こっちだよ マギハちゃん」

「うん」


いそいそと でもアスラに呼ばれると

嬉しそうにマギハちゃんはアスラの隣へ座って

私の方はなぜかプールの横でカラフルな浮き輪を持たされて立てて立っている

(私はプール使ってないのに・・)


「そろったわね じゃあ撮るわよ~ ・・はいポーズ」


「「パシャ!」」



「ふう・・まぶしいわね」


そうつぶやくクロージュさん

(ん?ちょっと確かにカメラがまぶしかったけど

 別にクロージュさんは まぶしくないんじゃ・・)


「(ジジーー・・)」

現像された写真が出てきて 気になったみんなでそれを見る



「(ああ 確かにこれはちょっと、まぶしいかもなあ)」


・・

その後

髑髏を持つのは嫌だったけど

クロージュさんも撮ってあげようと思ったから自分で打診したけど

「私はもう成長しきってるからいいのよ」

だって


それからクロージュさんは

魔術具の実験と称してたまに私たちの写真を撮ってくれるようになった


・・・

そしてその日から風車の家のリビングに1枚写真が飾られるようになった


(いい写真ね・・)


嬉しそうなミスラに それに抱き着かれて濡れて困り顔のネロに

私はプール横で浮き輪を立てて立ってるんだけど

ちょっとカメラがまぶしくて

反射神経の咄嗟の反応で目をつむり気味の変な顔をしていた 

(なんてことなの)

キスラもおっとりして見えて反応がよく リズと似た表情をしていた


そして画面中央前には

こぼれんばかりの太陽のような笑顔で全開でポーズを決める

アスラとマギハちゃんが写っていたのだった


「しっかし・・」


(私も写りいいやつに撮りなおしてもらうんだったなあ・・)


少しだけ不満げなリズであった


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