第53話 星誕祭の始まり 本選着火

 「いよいよね・・」

予選の結果が他会場も出そろってから数日が経ち 

いよいよセントラルド武闘大会の本選が行われるときがやってきた


「いい天気だわ・・」

今日は快晴だ 


なんだかんだ予選は余裕で勝ち抜いてしまったリズ

予選の成績とかは別に選定のためなので考慮はされないらしい 


だけど しっかりセントラルド武闘大会本選に

予選を勝ち抜いて出場する選手として告知されていたので

リズがあまり成績がよくない生徒だと知っている人間は大変驚いていた


でも噂では

クリスフォード家で選抜した使い魔に頼りきりだったという情報で

リズ・クリスフォード本人はろくに魔法も使わずに

実力はそうでもなかったという噂も流れていた


(まあ実際 私は動いてないからね・・)


・・・

いよいよね・・とは言ったけど私はまだ試合会場にいるわけじゃない

まだ風車の家の中にいた


一応会場に行く準備はばっちりなのだが


前回の予選時の観覧席でスライムたちが

お菓子を食べまくってゴミを散らかした反省を踏まえて

今回は先に連れていくミスラたちに

事前に家で ご飯をたくさん与えておくことにして


「ガツガツ・・」

(相変わらずたくさん食べるね 君たちは)


スライムたちが囲む大きめのダイニングテーブルに

白地のレースに緑のラインの入ったそこそこおしゃれなテーブルクロス

その上には山のように料理が並んでいる


ちなみにこの家の食費は全部私の財布から出ている

私の実家がお金持ちで本当によかったわ

(今度お父様に手紙を書くときにでも援助の追加をお願いしよう)


・・

実家に手紙を送る時は私の学園生活の日々のことは書いているけど

メインの内容はいつもお金の催促であることに加えて

「食費が必要」とばかり送ってくる私に対して

知らない間に私が肥満体になってないか 

ちょっとお父様は心配しているようだけど ちゃんとお金は送ってくれる


・・・

私はまあ そんなにはご飯は要らないので早めに切り上げて

テーブルでがっつくスライムたちをよそに縁側の方で座って庭を見ながら

大会でもしっかり使う予定のテイマー仕様のかっこいい装甲ぽい腕輪を

整備したり布で磨いたりしていた


姿が大きくなったミスラたちは体で吸収じゃなくて

私たちやアスラの真似をして口に運んでご飯を食べるようになって

スプーンなどを使い始めている 不慣れだけど


ちなみに先に頑張っていたアスラはもうスプーンを上手に使えるよ


でもそろそろ会場にも向かいたいなと思っていると


(ん? あれは・・)


「きたわよー」

玄関のほうからクロージュさんの声がする


そう なんでも先日に

「お祭りだもの、当日はあなたたち送っていってあげるわよ」

っていわれたんだ


「え、いいんですか」

「もちろんよ」

笑顔のクロージュさん 

(なんか珍しいなあ 変なことがないといいんだけど)


・・

ということで 支度をしながらクロージュさんが家にくるまで待っていたのだ


(ああいけない ちょっと早いけど そんな時間だわ)


まだスプーンに不慣れで

口の周りが汚れているミスラの口をタオルで拭ったり

朝方のうちにゆで卵を細かくつぶして

薄く切ったハムときゅうりをパンで挟んで作った、

試合の合間に食べる用の特製サンドイッチや水筒の飲み物などを

荷物と一緒にまとめて


急いでネロたちにはテーブルの後片付けをしてもらって

荷物はこれでできたので

やってきたクロージュさんについていき大会会場を目指すことにした



そう、そうなんだけど・・

・・・・


「な、なにこれリズ・・」

「私に聞かないでよ・・」


「なにってそんな 馬車に決まってるでしょ

なにで移動すると思ってたの」


(ドオオオオオン!)

玄関を出たすぐ先のそこには血の気が引くような 

ばっちり全体が髑髏のデザインの

なんとも趣味の悪い薄気味悪い大きな馬車があったのだった


(ひえええ・・)

しかも馬車を引いてるのが普通の馬じゃない

なんか

「カタカタッ!」

って動いて

(ビクっ)ってなったけど


そう、人型なんだけど 

どれもこれも人骨で構成されたような見た目の魔導人形なんだ

これが馬車の前に4体いて 後ろにも4体ついてきている

おどろおかしい挙動で

この人形達がこのおぞましい馬車を引いてきた姿を考えると


それはまるで冥界からやってきた魔女が骸骨の奴隷を引き連れて

悪趣味な馬車を強制的に引かせているような そんな絵面が浮かんできた

というかいざ動き出したら絶対そうなるだろう


(うわあ・・)

絶句している私とネロ


「わあい わあい」

スライムたちは無邪気に立派?な馬車に喜んでいる

まあ立派なことは立派だよ


でもちょっとね 

アスラやミスラたちはまともに馬車乗るのは初めてなのよ

これが普通の馬車だと思い込んだら こんな教育によろしくない・・

勘弁してよクロージュさん


とはいえあのクロージュさんが笑顔で引いてくる馬車といえば

まず普通の馬車ではないよなあって ちょっと思って

先日の軽はずみな私を反省する


クロージュさんは笑顔で手招きをしている


「私だけなら すぐ飛んでいけばいいんだけどね

あなたたちは えっちら歩いていくしかないじゃない?


あそこは中等部からは だいぶ距離があって離れてるから

私も会場で仕事があるからちょうどよかったわね

さあ遠慮はいらないわ のりこみなさい 早くいくわよ」


まあなんて善意なんでしょう 善意100%

ありがたや・・これはもう乗っていくしかないか


「(しょうがないわ ネロ乗り込むわよ 覚悟を決めなさい)」


「(こ、こわいよ・・リズ でも・・わかったよ!)」


今日出場する選手でもないのに覚悟を完了したような顔つきになるネロ


そのネロがおぞましい髑髏の馬車の入り口に足を掛けると


「ピシィ!」

「カッ・・・カカカカカッ!!!」

「ひ・・ひいいい・・!」


奴隷のような髑髏人形が音を出して不規則に動き出して

人形が白目をむく

覚悟を決めたネロが速攻で委縮する


「うふふ・・今日は お人形の調子もいいわあ」


ギギギ・・と しなる調教鞭のようなものを鳴らして

満足げに人形の調子を確認するクロージュさん



「そしてあなたはこっちね」

クロージュさんはちょいちょいっと指をたぐり寄せると


「ああっ・・!」

素敵な馬車に気をとられていたキスラが

クロージュさんの謎の念動力によって

捕らえられてクロージュさんのいる御者の席に一緒に座らされる


「もうちょっとあなたが大きくなったら助手として育てようと思ってたのよ~」

まるでキスラの都合など一切考えていないような口ぶりで


大きく育った?キスラのほっぺたを挟むように

両手で撫でまわすクロージュさん

「うわああ」

キスラはスンスン抵抗しているがまるで無駄であった


残りのスライムたちはキスラは特等席で遊んでもらえてよかったね みたいで

あんまり気に留めていなかった

無邪気とは時に非情である


「ネロはやく はやく」ぐいぐい

「うわああ」

その後 ネロは乗り込む前に委縮していたものの

後続で早くこの馬車に乗り込んでみたいと興味深々の

悪魔の使いの様なスライムたちによって

まるで飲み込まれるようにネロは髑髏の馬車の中に押し込まれていった


(リ、リズ・・!)

一瞬だけネロが振り返ってそんな声が聞こえたような気がする


「(無駄にはしないわ ネロ・・ 私も覚悟を決めなさい)」


一瞬目を瞑ってからリズはパッと開いて

最後に残っていたリズも勢いよく髑髏の馬車に乗り込む


・・

「これで全員ね 出発するわよ」


そう声をかけると

髑髏を率いた冥界の魔女は何でもないように何かの呪文を唱えて


(ええ・・!)

「ニュイーン!」

すると髑髏の馬車の前後から長い骨のような柱が飛び出して

それを

「コッココココココ・・・!」

ってリズミカルに骨の音を鳴らしながら

奴隷の髑髏人形たちが一斉にそれを担ぎ出して

ぐぐっと馬車の足場が持ち上がる感覚がする


「これは・・」

(・・・)

完全に馬車を引くというよりは 人力神輿ってかんじだ

お、お祭り仕様・・?


「引かせてもいいんだけど こっちのほうが速いのよね」

(あ、そうなんですかあ)


・・・

馬車?は動き出す


「カカカカカ!」


(・・・)

たしかにかなり速い・・

馬車の中にいるのに外の景色を見ると

なんとなく風を切っているように感じる


(・・・・これは)

ただ いっしょに周りの髑髏の馬車を見ている人たちの

おぞましいものをみるような視線も時折感じる


でもそのあたりを見なかったことにすると・・


ネロと一緒に座った悪趣味だけどフワフワの座席

「ふーん・・けっこう座り心地もいいわね 全然揺れないし」

「そうだね もっとごつごつしてるかと思ったよ」


「やはり気に入ったようね この馬車はこの国でも最高級クラスよ」

(そうなんだ・・この見た目で?)

口にはださない


馬車の中の空間は全体的に悪趣味で骨骨しいけど

実はやわらか

部屋の隅には丸い水晶などの魔女御用達のインテリアが置いてあって

不気味に発光していた


(ポイーン バイーン)

アスラとミスラは窓の横の席で交互に跳ねて遊んでいる


そのようにして私たちはセントラルド武闘大会会場入りを果たしたのであった



・・・・

星誕祭 セントラルド武闘大会会場前にて


(パンッ~~パン!)

お祭りの会場の空にカラッとした空砲の音が聞こえてくる

ここは学園都市の比較的端の方に位置している

普段は多目的の大演習場で 大きな行事などで使われる


この学園都市でも かなりの大掛かりな設備投資をしたというスタジアムだ


・・

こうしてやってきたのはいいけど・・



(うわあ・・降りたくなあい・・)

ちょっと馬車の出口の手前で抵抗してつっかえているリズ


すでに到着した会場の周りには

お祭りにやってきた多くの観戦客の人たちで溢れていて

猛スピードで人を押しのけて(人の方が避けて)やってきた、

この明らかに目立つおぞましい髑髏の馬車を

聴衆たちがまるで珍しいものを見るように見ているのだった


(うっ・・!)

「?何してるの?」

「はやく はやくリズ」ギュウギュウ


あんまり出たくない感じだったけど

しかし今度は大きい会場にやってきて ちょうど馬車の中が飽きたのか

関心が窓の外の大きなスタジアムに移ったスライムたちによって

馬車にのった時は最後だったリズが

今度は注目を浴びながら最初に押し出されることになる


「トホホ・・」

(ざわざわ・・)(おいあれ・・髑髏から人がでてきたぞ)

(まあ あんな馬車で)(おぞましい・・)(パシャ・・)

珍しいものをみるような会場前のお祭りギャラリーたち

記念写真を撮ってる人もいる


・・

そんな風にして形はともあれ

リズは会場への一歩を踏み出したのであった


外に出た時には馬車の御者も兼ねていたクロージュさんは

すでにもう馬車の手前の席からは降りていて

会場にやってきていたシュバルツ先生と立ち話をしていた


「リズ~」(テチテチ)

(はっし)しがみつかれる音

特等席の魔女の拘束からの脱出に成功していたキスラは

救いを求めて先に降りた私にしがみついてきた

「よしよし」


・・・

話の合間に会場外にやってきた馬車の方を

今日も吸血鬼のようないつものファッションを着こなして

立って眺めているシュバルツ先生



「あいかわらずこれは素晴らしい独自の魔術施工回路ですね クロージュ先生」


「あなたもこれくらいはできるでしょう? 会場のほうはどうなってるの」


先生方はなんか仕事の話みたいだ

普段は居候でリビングのソファーを勝手に占拠して

だらけているクロージュさんの姿しか見ていないと意外なかんじだ 

エリート先生同士の会話って感じ ちょっとかっこいいかも・・


シュバルツ先生も大会会場で仕事があるらしくて

それに加えてマギハちゃんが武闘大会を見たがったようで

マギハちゃんとは先生と一緒にこの会場の現地で落ち合うようになっていた


「アスラちゃん・・!」

この場所で待っていたマギハちゃんは

馬車からピョンピョン飛び出てきたアスラたちとさっそく合流すると

あからさまな異物であるおぞましい骸骨の人形たちの前に 

そお~っと近づいて 小さくて白い指で触って

「カカカカカカ!」

って反応の骨の音を鳴らすと

「うふふっ!」

って たまらないように笑っていた


まあ無邪気でいいことなんですけど 

マギハちゃんが骸骨に噛まれないか 私はちょっと心配だよ


でもシュバルツ先生がそれをちらっと見ても 

まったく気にとめていないようなので

あの骸骨たちはきちんと制御されていて そういう心配はないのかもしれない


(とはいえ見た目がね・・)


・・・

そのとき騒がしい会場の馬車に近い上空から

ユッサユッサとはばたいて降りてくるような影が近づいてきた


「よお きてたか」

天狗のゲンゴがくるくるとした風と一緒に上の方から降りてきていた


「あ、ゲンゴだ」

アスラが手をふる


「よう ちっこいの」

「ちっこいのじゃないもん」


「リズ お前らは目立つなあ 人ごみでも場所が一発で分かったぞ」


ゲンゴはスタッと私たちの前に降りて翼をたたむ


(それは私じゃなくてクロージュさんの馬車のせいだよ・・!)

私たちのバックには遠くでもしっかり目立つお祭り髑髏馬車


「あらゲンゴ あなたも乗せてあげるっていったのに」

クロージュさんが残念そうに言う


「俺は自分で飛んできたかったんだ

それにこんな とんでもない馬車に乗るわけがないだろ」


(あっ・・それいっちゃうんだ とんでもないって

そのとんでもない馬車にのってやってきた私たちは一体・・)


「あら 失礼ね やはり野蛮なあなたたちには

この馬車の素晴らしさが分からないようね、 ねえシュバルツ先生」


「そうですね」


(おや シュバルツ先生は肯定派なのか・・

いやリップサービスなのか 

でも先生は不思議なマギハちゃんの親戚らしいしなあ・・ 

変人要素があったりして・・)


「いいわ この子たちだって私の馬車を心底気に入って

この会場まで乗ってきたのよね わかる人間にだけ分かればいいわ」


クロージュさんは私たちの方を見ながらいう


「本当かよリズ」

ゲンゴはなぜか自分がアウェイになってて 少し笑いながらいう

(・・・・)

たしかにここまで乗らせてもらって

クロージュさんが見ているので迂闊なことは言えない私


「え、ええ・・いい馬車だったわ」

(の、乗り心地はね?)


「それみなさい」

「わかったよ」

ゲンゴはあきらめたようだった



「クロージュ先生 そろそろ向かいましょう」

シュバルツ先生がクロージュさんに呼び掛ける


「そうね」


「マギハ 少しそこからは離れていなさい」

シュバルツ先生の低く響く声


マギハちゃんは先生に言われて 

言われた通りにすぐサッと馬車の人形の傍から離れる


クロージュさんはシュバルツ先生の声に応えて 人が離れたのをみると

少し口から小さくつぶやいて その瞬間


「ズズズズズ・・」

髑髏の馬車たちがまるで地獄の世界に帰っていくように

地面に沈んでいく

「うあげええ・・」

髑髏の奴隷人形たちはまるで もがき苦しむように

地面に吸い込まれていき 


後には なにごとなかったかのように そこから馬車はなくなっていた

収納?ができる魔法なんだろうか

いろいろあるよね この世界、、 でも周囲の人はドン引きしていた


(最後までおぞましいんだなあ・・)


そろそろ移動をするらしい学園教師陣の2人、

クロージュさんとシュバルツ先生は私たちに一言添えていく


「じゃあ私たちは先に会場に行くから

大会がんばりなさいね あなたたち 」


「今日はマギハが世話をかけるね よい星を巡りに

健闘を祈っているよ リズ君」


(ポウ・・)

シュバルツ先生は手から何か魔法陣の術式だろうか?

いつもの薄手の白の手袋に淡い光の文様が浮かんでいるのが見える


よい星を巡りに、っていうのは良い星に巡り合えるといいですねっていう

幸運を祈る、というのと同じ意味で使われるこの世界の祝福の言葉だ


「はい」


リズが返事をすると

(うわ!)


「(ブワアア・・!)」

先生2人は何かの術式を起動して 空に一気に飛びあがって

あっという間に遠くにいって

空からスタジアム入りしてしまった


「ほんとに飛んで行っちゃったわ・・」


すごいなあ なんでもありか いつか私にも使えるんだろうか

空を飛べたら便利だろうし 楽しいだろうなあ


(私も一応オリジン仕様ならコマンドジャンプもできるけど

あれはあくまでジャンプだしなあ・・)



・・・・

「さて 俺たちもそろそろいこうぜ」

「おー」「お~」

途中からやってきたくせに なぜか仕切るゲンゴ


前に風車の家にやってきたときにゲンゴがスライムたちに

おいしいお団子で餌付けをしたせいか

スライムたちの反応が妙にいい

まあ別にいいんだけどね


「オジキは今日は来てないの?」

「オジジは警備担当じゃないが もうとっくに会場には入ってるぜ」


「へえ・・きてるんだ」

あの図体ずうたいは絶対警備向きだと思うんだけどそうじゃないみたい


お祭り会場の外周りには観客たちに混じって

指示をする魔物使いの人は近くには見えなかったけど

命令を聞いて待機しているっぽいキリっと目つきの

羊のような見た目のモコモコの使い魔たちが

あちこちで会場の警備をしているのが見える


(やっぱ大掛かりなんだなあ 

他にもやたら学園の魔法使いの先生が集まってると思ったけど

学園には滅多に来ないらしいオジキまで来てるなんて

やっぱり大会に出るゲンゴが気になるのかしら 自分の孫だものね)


・・・・

・・・

試合会場内


人で物々しい外回りから会場の中に入ると

中は空冷循環によっていい感じの室温に保たれていてとても過ごしやすい


試合が行われる場所も屋外まで屋根が開いて見えているけど

魔法で空調管理されていて

適温で動きやすいという話だ


スタジアムの広い通りは整備されていてとっても奇麗な内装


魔法の力が源の電光掲示板もすごく大きくて併設の大画面モニターもあって

学園の中なのに奇麗な空港の中のようなところだ


「へえ・・大きいわねえ」

(じー・・っ)

今はリズの腕の中にいたキスラが

会場の地図案内をまるで暗記?でもするように黙ってじっと集中して見ている

そこで私が左右上下に動かして振っても

その場から首ねっこの位置が動かないんだよね

たまに変な場所で変な能力を発揮するキスラ


何をこんな熱心に見ているのかと思ったら

案内先には美味しいジャンクフード店などがたくさんあって

まあ関心ごとはそういうことなんだろう


他にも遊戯場所や随所に休憩所のソファーもあって

動く謎の観葉植物もバランスよく配置されているようで

はしゃいでいる学生たちや区外からも来た観客の人々が

ここでも景気よくごった返している


お祭りとは聞いていたけど

飾りつけといい屋台といい

ほんとにここでは武闘大会っていうよりは

完全に賑やかなお祭りイベントって感じの見た目と騒ぎようだ


(・・!)

すると

「はい並んで並んで~ 一人一つずつだからねえ・・!」

「うわ~!」「わあ~」


会場の係員の人たちが会場にいた子連れの親の小さい子供たちに

ちょうどポップなコーンを食べるのにちょうどいいような手持ちの大きさで

お祭り仕様の白い子供のマークが描かれたカラフルなお菓子箱を

サービスで配っているところだった


通りがかった私たちは見た目がもう小さいお子様の大所帯なので

お子様センサーに引っかかって もはや向こう側から手招いてくれる


(しょうがないなあ)

「いいわよ もらってきても」

「わあい!」


テンションの上がったうちのお子様たちが

列に順番に並んでひとつずつお菓子の箱をもらっていた


(うーん 食わせてきたんだけどなあ~・・)

結局はいつもよりただごはんを多めに食べさせただけになりそう感

なんにも気にしていない


戻ってきた赤い子供にすーぐ自慢されたので見せてもらうと

もらった箱の中にはセントラルの巷でとても美味しいと評判の

「月のほほえみクッキー」が一袋だけ入っていて 

あれ?入れ物のわりにそれだけなのかな とリズは思っていたけど


なんとこの会場ではとても小さいお子様には出店しているお店に

このお菓子箱の入れ物の容器を見せたら

その容器の空き場所を埋めていくように

無料でちょうどいいお菓子を入れてもらえるという

大変にありがたい祭りの催し物をしていて

そのため子供たちが

これから自由に貰える分のスペースがあるようにしているんだそうな


すごい優遇されてるなあと思ったら

小さな子供っていうのはここでは縁起のいい星が宿りにくる特別な存在らしく

特別な扱いをするのがこのお祭りの伝統なんだとさ


(キャッキャ・・!)

喜びのスライムたち


お店の近くでずっとニコニコしながら箱を持って突っ立っているだけで

陽気な店主の人からお菓子を貰っていた


「あれ ネロは貰ってこないの・・?」


「僕には持ってきた自前のおやつがあるからね・・ 

僕はそこまで小さい子じゃないし」(フン) やや鼻息


(十分小さい子だと思うけども  まあ言いたいことはわかるよ)

若干羨ましがっていたようには見えたのだった



そんな感じで

私は選手として大会に参加するためにやってはきたけど

まだ始まっていない内はそうやって

てきとうにお菓子巡りをしたり

お祭りに自由に参加して楽しんでいたのだった


・・

場所はうつり変わって


「ふーん・・」

選手同士のゲンゴと一緒に

さっきとは別の案内に張り出されている、

出場選手のトーナメントの組み分けを確認している


これは会場にやってきた選手用の情報なので

途中から一緒に試合に参加するアスラだけは連れてきて

その間ネロやマギハちゃんたちは施設にあったお子様広場にいてもらっている


(ズラ~・・)

連なっている参加選手の名簿欄

戦いは予選を勝ち上がった学生32人からトーナメント形式で進行する


・・

その名簿を少し眺めて見ている

(フェーン・オルゴット・・、ケルト・キモピオ・・、

アリーシュ・桜華院おうかいん・・、カリメロ・スワロス・・)


リズにとって普段見慣れない生徒の名前が並んでいる

貴族の家格とかで有名でちょっと知ってる名前とかもあったけど


ゲンゴも貴族の家系の名前とかは知っていたようで

「おー あの家からも出てたんだな」とかのん気に呟いている


「ゲンゴは知り合いなの?」


「そういうわけじゃないが

気を付けなきゃいけねえ貴族の情報は頭に入ってる

うちは昔からな諜報が得意なんだ」


ゲンゴはトントンと頭に指をあてる仕草をする

ちょっと生意気


(トントン)

「頭に入ってるんだ」

私の肩にくっついていたアスラがゲンゴの声?と仕草の真似をする

「こらアスラ ふふ」


「こいつめ」

「ふやあ」

ゲンゴがアスラの頭の上の方を指で適当にグルグルかき混ぜる



「ふーん・・ゲンゴはこの中だと勝ち抜けるの?」


「うーん

俺も自信家ってわけじゃないが

相手が一人ずつで中等部だけなら負ける要素がないんだよなあ・・」


(それを自信家っていうんだよ

ふーん・・強いんだ ルーキーのくせに・・

やっぱり調子にのっているなあ)


「へえ・・じゃあゲンゴはあの勇者にも勝てるっていうわけ?」


「勇者なあ、

たしかに勇者ってのは大会で分かると思うが

魔法の出力が段違いでおかしいが

戦い方次第ではいくらでもやりようはあると思ってる」


「ふーん そういうものなのね」


「所詮はまだ学生だしな」



「ゲンゴも学生じゃなかったっけ・・?」



・・・

・・

「そういや今頃になるが リズは予選しっかり勝ってたんだな」


「ゲンゴも勝ってたんだね」


「まあ俺はな


お前らも出れれば予選は大丈夫だろうなとは思っていた


ブロックが遠いから なかなかお前たちとは当たらないな

でも勝ち残っていったら いずれ当たるだろう」


(そういえば私のブロックで当たる人は・・

それは分かっているけど まあ後でまた考えよう)


・・

ゲンゴはいろいろ会場内を見て回りたいらしく

会場に入場してしばらくして

私たちとは別れて自分だけで行動するという


「ゲンゴは一緒にみないの?」

ゲンゴにさっきくちゃくちゃにされた頭をクシクシ直していたアスラがいう


「一応敵だからな」


(敵かあ・・ゲンゴとも戦うことになるのかなあ)


そういうと軽くアスラの頭を撫でて去っていくゲンゴ

直したところが再びまたちょっとくちゃくちゃになる

「あ~~」


「じゃあな」


「じゃあね」


・・

ゲンゴとは別れて

一度広い会場の観覧席の場所を案内図から確認して 

そこに応援してくれるネロたちと合流して一緒にいく

後でちゃんと戻ってこれるように席の場所を覚えてから 

しっかり者のネロにその場はまかせる


「いこっか」

「うん」


「いってらっしゃいー」

予選の時とは違い

セントラルド武闘大会の本格的な開会式が行われる

またその際には伝統の星誕祭の引継ぎも行われるそうだ


開会式への出席のため

参加選手たちは一旦 試合の闘技大広間に行かなくてはならないので

リズは使い魔登録したアスラを連れて闘技場大広間に降りて行く


・・・・

・・

「   」

そこにはすでに集合していた学生たちが所定の位置にちらほらついていた

今日を戦う予選で勝ち上がってきた選抜選手たちだ


(うわあ・・これが予選を勝ち抜いてきた学生たちかあ・・

そう思うとなんかみんな強そうな気がするなあ 

貴族出の学生とかもけっこういるし・・ プレッシャー・・


予選の時も学生が会場にたくさんいたけど 

ここでもかなり多いわね 32人もいるもんなあ)


見渡すと普段見ない使い魔とかも結構いるから

人数が水増しされて膨らんで見えるのかもしれない


「あっ・・」

(あれは・・)


選手たちの集まりの中に

リサ先輩の姿を見つけたので リズはかけ寄っていく

正確にはリサ先輩についている使い魔ゴーレムのガンサクの体が大きくて

目立つのですぐ見つけられた


「あ、リズちゃん」

リサ先輩にあいさつをして少し話をする


「ごめんね 今日はリズちゃんについてあげられなくて

一応サークルもたくさん他の子もいるから見てあげないといけなくて」


(アーノルド先輩とリサ先輩はテイマーサークルを仕切ってたもんね)

「いえいえ おかまいなく」


そして案の定 リサ先輩につかまるアスラ

「きゃ~ このお肌の張り 準備万全ね~」

「(むぎゅう・・)」


本番前なのに緊張感のない感じで いちゃらいちゃらしていたところ



「(すす・・)」

ちょっと見覚えのある人影が そ~っとこちらにやってきたのが見えた

(勇者、ミトラ・・?)


まあ成績のいい勇者が予選で落ちることはないだろうから

ここにいるのはまあ当然だよね 

ていうかさっき普通に出場名簿に載っててゲンゴと話もちょっとしたし


「どうしたの? ミトラ」


「!! あ・・」

ちょっと驚いたような同じクラスメイトの勇者ミトラ

(今はそっと来たから側近がいないから呼び捨てにしたけど

やっぱり気に障ったかしら)


「呼び捨てはいけなかった?」


「い、いや いいわ ミトラで・・いいわ あなたも本選に出られるのね

前にでないって言っていたから・・」

(まあでないっていってたわね ミトラたちには)


「出るからには私とも戦うかもしれないわ 

覚悟をしておいてね リ、リズ・・!」


そういって なんか少し顔を赤くしてやる気をだしているような勇者ミトラ

ええ なんか光のオーラみたいなのがでてる 大丈夫?この子


「わ、わかったわ・・」

(ええ・・困るなあ・・勇者にやる気を出されたら私やアスラの魔法で

防げるのかしら・・?


でも勇者ミトラは私とはトーナメントは反対側だったから

勝っていったとしても最後の決勝まで当たることはないのよね 

そこはちょっと助かったわ)


「それで・・なんだけどちょっと聞きたいこともあるの」


勇者ミトラはまだ話しておきたいことがある様子

(なにかしら・・)

「なんなの?」


「リズって うちのパーティのメンバーと予選で戦って、その

勝ったらしいじゃない?

それであの どういう勝ち方をしたのか気になって・・

聞いても教えてくれないのよね

なんていうか・・様子があれからおかしいのよ」


勇者ミトラはそういって視線をちらりと会場の向こう側のほうに向けた


つられてそっちを見ると

そこには


「・・・」

(あっ・・でれてたんだね 名簿で知ってたけど)


勇者ミトラの側近の大剣士ジャスパーと賢者のリードが

開会式の所定の位置についていた


が たしかになんだか様子がおかしい


「ブツブツ・・」

大剣士ジャスパーの方はちゃんと立っている分 浮いてしまっているのだろうか

賢者リードは顔を下に向けてぶつぶつなにかいっている様子だ


賢者リードはリズに敗れはしたけど その前の他の試合は問題なく勝っていて

総合的に予選を通過していたのだ


「さあ・・私が普通に勝っただけだけど 調子が悪かったんじゃないかしら

あんまり負けたことがないから

その・・いろいろ撃たれてショックだったんじゃないの・・?」


(そりゃあんな負け方したら答えられないよね)

当たり障りのないことをいう私


「そ、そういうものなのかしら・・」

あまり納得していないような勇者ミトラ

(ちょっとこれでは押しが弱いか)


「でも男の子って いろいろ打たれ弱いそういうところがあるわよね・・」

おお これはリサ先輩からの思わぬ援護 助かりますリサ先輩


ただリサ先輩はあのD地区予選で 

彼に起こった壮絶な出来事を知っていての発言だ

男の子のいろいろ打たれ弱いそういうところって 

もしかしてそういうところなんでしょうか リサ先輩


「そうですね・・」

勇者ミトラはリサ先輩の援護で一応納得してくれたみたいだ、よかったあ


「ちょっと困ったわね・・ 予選で彼には当たらなかったんだけど

本選でいきなり彼に当たっちゃうのよね私・・」


そう リサ先輩の初戦はその勇者の側近の賢者リードなのだ

少し心配だ


(スタタ・・)

話を済ませて納得した勇者ミトラは自分の持ち場に帰っていく


「そろそろ始まるわよ リズちゃん」


大事に持っていたアスラを手放して リサ先輩が教えてくれる

アスラが返却されて戻ってきたので一緒に整列する


いよいよ開会式だ


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