第51話 VS賢者
・・
私とアスラの初試合が終わってリサ先輩と観覧席に戻ると
おめでとうよくやってたねってアーノルド先輩に声をかけてもらえたのだった
でも宴会をしていたミスラに感想を聞いてみると
「アスラの顔が面白かった」
という鬼畜度の高い感想がでてきて
アスラがちょっといじけてしまった
すぐ慰めてたけど
「たまたまだよ あそこまで相性がいいのはなかなか ないんじゃないかなあ
アスラちゃんはすごくいい動きだよ
次からも頑張っていこうね アスラちゃん」
「うん・・!」
(あああ~!)
私が言うべきところをアーノルド先輩にいわれてしまい
アスラがアーノルド先輩に懐柔されてしまった うーん やはりこの先輩・・
・・・
そのあと
また電光掲示板に私の次の対戦相手が表示されて
今度はリサ先輩とは違う場所になるので そこで移動して戦った
相手は剣を使う人だったんだけど
初戦のあのファイヤーゴーストのとの相性がやはり極端に悪かったみたいで
順当にアスラが剣を素早く1回かわすと
あっという間に炎を出しながら組み付いたら
局所的に防護魔法がはがれて それで相手の選手の人が悲鳴をあげて
「・・・・」
「勝者! リズ・クリスフォード」
「やったあ」
私はなんにも動かないまま2回目の試合も勝利したのだった
(あれ・・ ゲンゴやアーノルド先輩にお墨付きをもらったけど
やっぱりアスラってけっこうできる子なのかしら)
比較対象がなかなか得られていないため そんなことを思う私
3回目になるともうアスラが慣れてきて
対戦相手は魔法使いだったんだけど相手を観察しながら
飛んできた術を相殺して
私の方に確認する余裕まで出しながら戦えていた
(私が暇そうだったから アスラなりに気を使ってくれたのだろうか?)
締めに近づいて魔法使いの学生に どきついプロレス技を決めていて
ちょっとお気の毒だったけど
これも難なく勝利したのであった
・・・・
・・
お昼も挟むので観覧席でみんなでご飯を食べている
「アスラちゃんかっこよかったね!」
「ふふん」
マギハちゃんに言われてちょっと機嫌のいいアスラ
・・
アスラは不思議と観客の人たちの注目を浴びる子で
見た目の愛くるしさもあってか
観客の人にも観覧席まで通るとき よく声をかけてもらったりしていた
予選大会のちょっとしたヒーローであった
「リズはアスラに任せとけば予選突破はできそうだね
リズが戦ってるとこもちょっとみたい気もするけどね」
ネロはそうのんびりいいながら私のほうをあんまり見ていない
完全に観戦をして
お菓子をつまみながら楽しむスタイルを確立させている
あのかわいかったネロが一体どういうことなの
・・
だけど そこで少し問題がでてきた
次の対戦相手がパッと電光掲示板に表示される
その対戦カードは
「リズ・クリスフォード 対 リード・オスマル」
(これは・・)
そう 勇者ミトラの側近の男 賢者リード
予選会場に入る前に少し悶着があった相手であった
(勇者ミトラパーティか・・もしかしたら当たるかもとは思ってたけど
ていうか本名初めて知ったわ
オスマルって確か家格のある魔法貴族だったわよね)
アーノルド先輩とその電光掲示を眺める
「これは・・さっきの勇者パーティの子だね」
「そうですね・・」
「彼は魔法貴族でも侯爵位のオスマル家の子息で才能にも恵まれているからね
勇者パーティにも実力で問題なく抜擢されたし 僕も知っているよ
気をつけてねリズちゃん」
「はい 気を付けます」
(そうね・・気を付けないとね
ただ 私もそろそろ歯ごたえのある相手と当たりたいと思っていたところよ)
(魔法使いはさっき一応相手をした・・
だけどあまり参考にはならないと思った方がいいわね)
スライムたちは集まって
(次の相手強いかもなんだって)
(へー ほーん あたしあいつ嫌い)(あたしも~)
みたいな話をしている
「アスラ いきましょ」
「うん」
・・・・
・・・
「予選D リズ・クリスフォード 対 リード・オスマル の試合を行います」
試合前に審判の前でルールの確認をしている
その時であった
つかつかとやってきて向かい合った賢者リード
「・・驚きましたよ
まさかあのリズさんが応援ではなく選手として出場をしているなんて
僕はてっきり・・
いやまあ せっかく予選出られたのに
こうして才ある貴族である僕と当たってしまったんですから
非常に運がないことですよね
僕の試合以外は価値がないのでろくに見ませんでしたが
当たるのはやはり不勉強なテイマーばかりで助かりましたよ
もちろん僕は今までの試合全部勝っていますが リズさんは勝てましたか?
あ、いやすみません やっぱりいいです 悪いことを聞きました
まさかテイマーなんてね まだ続けていたんですね
それは前のスライムではないようですが・・
まあ今後の経験になりますので そう悲観しないでくださいね
お互いに健闘しましょう」
(・・・)
「・・ええ よろしく」
審判の人が仕切る
「あまり試合前の私語は控えてください
では選手は防護準備の後 所定の位置についてください」
・・
その後の支援魔法防護をかけてもらいながら思う
(ぶつけてやりたいところだけど 彼は優秀みたいなのよね・・
まあお手並み拝見ね)
「(アスラ・・)」
(隠しているけど 気が立っているわ
無自覚煽りはまあまあできるってところかしらね)
「(大丈夫よ いつも通りでいて)」
そういってアスラの肩にそっと手を触れる
「(うん)」
・・・・
・・・
そして
審判が試合のスタートの鐘を強く鳴らす
「「ゴゥン!」」
賢者リードとの試合が始まる
だけど
(何もしてこないわね・・)
さらさら余裕といった感じで
手に持った杖の仕上がりの感じを確かめているようにも見える
(なら こちらからね)
「ファイヤーボール!」
アスラの手から魔法が瞬時に発動する
「ウォーターシールド」
(ブシュウ・・)
賢者リードが発動した術によって ぶつかったアスラの炎が掻き消える
「へえ・・驚きました まともな魔法を唱えられる使い魔だったんですね
まあクリスフォード家ならお金をだせば買えるのでしょうね」
「でも守りはどうかな
サンダー・レイズ!」
そう賢者リードが詠唱すると
(これは・・!)
「ドルルルルルル!」
まるでマシンガンのように小規模な雷魔法が
連続してアスラの方に向かっていた
「ファイヤーシルド!」
アスラはすぐ炎の守りをだして それを受ける
「ガガガガ」
「なるほどなるほど・・」
そういうと賢者リードは1発だけサッと
使い手である私のほうに向かって雷魔法を放っていた
(仕込んでくるわね)
「!」
アスラもハッとしたようで でも撃ち落とすには遅いタイミング
(シールドを使おうかしら まあでも1発だけなら見切って避けるわ)
リズはさっと体を横にそらして その雷魔法を避ける
が、
「それはちょっとだめですねえ」
雷魔法がリズを通り過ぎようとしたところで
「バリ・・!」
「!」
魔法が広範囲に放電をして
リズに襲い掛かる
(くっ!)
身をよじったけど すべての放電はよけきれない
「(リズ!)」
アスラの声が伝わってくる
「バチチ!」
術がリズの体に当たる
だけど威力が低い魔法から弾けて さらに分散していたので
リズの魔法防護を破るほどの威力はなかった
「ハハハハ すみません
ちょっと驚かせてしまったみたいで
あのリズさんが僕の高度な魔法を受けられるのか ちょっと不安になってしまって
でも大丈夫です 手加減した魔法だったでしょう?」
(ちきしょー やなやつだなあ でもこれは避けられないのが悪いわ)
少し煙の出た支援魔法防護を触ってみてチェックする
(まだまだいける いざとなれば私の自前の魔力オーラの防護でもいいしね)
(・・少し面白くなってきたわ)
「アスラ」
「うん」
「どうしたんです? もう十分やったじゃないですか 降参でもいいんですよ
僕も前に使って魔力はあまり使いたくないですし・・」
(クロージュさんにアスラはだいぶ火魔法を教えてもらっていたわ
火属性の魔法ならこちらも撃てるわよ・・!)
「お返し」
「ファイヤー・レイズ!」
(ドルルルルルル!)
「む 小癪な」
「アイスシールド」
「ガガガガガ!」
賢者リードの氷の盾にすぐに阻まれて術は防がれる
「・・フフフ、それだけですか?」
「それだけじゃないよ」
「む!」
アスラは移動しながら術を発動していて
回り込みながら賢者リードに近づいて撃ち続けている
「・・そうきましたか」
賢者リードはシールドの位置を攻撃に合わせて ずらして対応する
「!? これは・・」
はじめは単調な炎弾だったのが
少しづつ炎の中に爆発するものが混じり始めていた
(爆発が混じると範囲の狭いアイスシールドでは受けきれない・・)
「ふむ・・学習しましたか 器用なものですね だけど」
(フィールド・シールド・・いえカウンターフィールドでもいいでしょう
しかし広範囲防御は魔力が多く消費する・・
あのリズさん相手です 魔力の節制はしたい・・
ここは手っ取り早く仕留めに転じますか)
「スマッシュサンダー!」
そう賢者リードが唱えると太い雷が やってくるアスラの炎弾を一気に蹴散らす
そのあと立て続けに
「ジャンプブースト & トップ・アイスニードル!」
「!」
「バッ!」
空中に魔法の力で飛び上がり その後の炎の追撃をかわして
アスラの足元に予測して
すばやく氷の攻撃魔法を発動させる
(どうです? 避けられないでしょう
見たところ この使い魔は単純な炎バカといったところ
相性のいい僕の手早く強力なアイスニードルで一撃です
そのあとは 使い魔を失って何もできないリズさんに・・
そうですね
降参前に公開説教なんかいいかもしれませんね
こんな無学で勇者ミトラの学友面をされては
勇者ミトラのためにもリズさんのためにもなりません
僕のありがたい説教で心を清めていただかなければ)
術は炸裂する
「ジャキン!」
が
「!!」
(トップアイスニードルが外れている・・?)
そしてあの炎の使い魔はすぐ近くに移動してきていた
(速い・・すでに僕の足元にいる?! ジャンプの軌道を読まれている!)
(くっ・・これは一撃は入ってしまうか
しかしどう見ても
このひ弱な火魔法特化の使い魔の物理の一撃など
最悪魔法防護が傷つくだけ・・
すぐにあしらってから
至近距離から集中した魔法で貫いてやりますよ
今度は外しません)
賢者リードは虎視眈々と上空から獲物に狙いを定める・・!
・・・・・
ある風車の家の回想
「く、くうう・・」ゴロンゴロン
「ね、ネロ~! だいじょうぶ?」
そこには風車の家のソファーをどかして作った広間で
アスラの横でネロがお腹をおさえて丸まってうめいている
「いや・・僕もね ちょっとは防衛魔術の心得があるから
いいって言ったんだけどさあ こう何度も同じところに当たるとさあ・・」
アスラの格闘術の特訓中のことだ
そのときは私とアスラとネロと
マギハちゃんもきていたから一緒に見ていた
奔放なミスラとキスラは今は関心がないのか外で遊んでいる
「アスラはお腹にパンチするのが好きなの?」
リズは控えめにアスラに問う
「いや そういうわけじゃないけど なんとなくっていうか
ネロがそこにいたから・・」
「いい音・・」
マギハちゃんが両手をほっぺたに添えて うっとりしている
「そんなあ・・」
希望を失ったようなネロ
「うーん それでも効くからいいんだけど
やっぱり別のパンチも覚えたいところね」
「お腹にパンチが強いならいいんじゃないの?」
「や、やめてよ・・」
なにもされていないのに ネロはまたお腹を抑える
「それが・・男の子に格段に効くパンチがあるのよ
これは秘技に近いわね」
(ゲームでもこれはシステム化が一部実装されたことがあって
なにかの光の玉が浮かんで
それを集中的に連打するとかそういうかんじのものがあったわ
男性プレイヤーにものすごい不評で即廃止されちゃってたけど)
「ええ・・なにそのこわいパンチ・・僕にはやめてよ・・」
「うんそうよ だからもし覚えてもネロには絶対撃っちゃだめよ
約束できる?アスラ」
「うん できるよ」
「じゃあ教えるわ それはね男の子のね こう
それを下から真上にぶち抜くように・・」
リズは腕をゆっくり まっすぐ上に突き抜ける
「あ、あわわわ・・・」
なぜか顔色の悪いネロ
「え・・!あの・・!それがアスラちゃんから放たれて
その・・男性のそれに当たった場合一体どのような音が・・!」
やたらと食いつきがいいマギハちゃん
これはマギハちゃんにも素質があるかもしれないわね
「それは男の子によって千差万別よ
多種多様の音色の響きを奏でるらしいわ」
「ええ・・!それってなんて・・素敵な・・!」
うっとりとした表情のマギハちゃん
そんなマギハちゃんをアスラが不思議そうに見ている
アスラはおもむろに拳を握りしめて高くこぶしを上にあげてみている
それを見てマギハちゃんは無邪気にキャッキャと喜んでいた
・・・・・
・・・
「ファイヤーー・・・フン!!!!」
アスラのそれは元気な掛け声
(え・・・・?)
だけど賢者リードにとって それは長く続く走馬灯のようだったという
賢者リードのジャンプの軌道を完璧にとらえた、
そのアスラのパンチは
えげつない軌道を描いて 下のほうから上空に撃ち上げられるような
一体誰から教わったのか、使い込まれた奇麗なアッパーであった
「パリン・・・」
(あえ・・?)
魔術の防護壁が圧縮したアスラの炎魔法によって砕かれた後のことは
賢者リードにはあまり鮮明な記憶が残っていなかったという
「(メギシィ・・!!)」
メリメリバキ・・
(直後振りぬかれるアスラの無常なる拳)
(は、、はうえぎぃあ・・・)
「あ、 あ、 あ あうよういhyvjふぃっじゃあああああああおおおおおおおおお・・!!!~~~!!こ、こおおおお・・・」
(・・・・)
・・・・・・
それからしばらく状況を整理していた様子の審判の人たち
「しょ、勝者 リズ・クリスフォード!」
若干引きつった顔の審判団
・・・・
・・・
(・・・)
賢者リードは静かに運ばれていった
意識が全くなかったためだ
大量の涙と鼻水といろんな体液が流れていて ぴくぴく痙攣して汚れており
あまりに人間として直視できる状態ではなかったため
私たちは勝利判定を聞くと
さっさと女子の選手控室に戻っていった
「アスラあんまり見ちゃだめよ」
アスラが興味深そうに後ろをチラチラよく振り返るので
さにげなく手で目隠しをする
「あのひとはなんで あんなに泣いて喜んでるの?」
「さあ・・いいことがあったからじゃないの?」
「ふうん へんな人だね」
・・・
試合後にリズとアスラが観覧席に帰ると
なんでもマギハちゃんが鼻血をだして幸せそうに倒れたとかで
アーノルド先輩が慌てて救護用品をだしていたりして ちょっと大変だった
ネロはなぜか股間のほうを抑えて青くなっていた
「やったね!」
っていってミスラとキスラとハイタッチを決めるアスラ
・・・・
・・
予選D地区の私とアスラの試合は無事全て終わって
結局・・、
なんと全勝で予選を突破することができたのだった
試合後に話を聞くと
一緒に戦ったリサ先輩も勝ち越せたから本選に出られるんだって
そこでも一緒にハイタッチ
「アスラちゃん、私にも抱き着くぞ!のポーズやって~」
「ちゃ~・・っ!」アスラの荒ぶるポーズ
「きゃ~!降参するう~」
(もうこの先輩は・・、)
なかなかどうしようもない先輩
「(むぎゅ・・)」
なんでもご褒美にアスラに抱き着かないといけないらしい
アスラも機嫌は悪くなかったので 甘んじて受け入れている
「あああ~~~かわいいうえに強いなんて~~アスラちゃんいい子ね~~
素敵だわ~~あったか~~い いや~ん」
幸せ全開のリサ先輩の横で抱きつかれて
さすがにちょっと嫌な顔のアスラ
それを横目に
(うーん・・結局私は・・あんまり 動けてなかったなあ)
と予選で無事勝てた喜びの中にも
少しやるせない気もしていたリズであった
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