第50話 予選開始!

 ・・

大会予選の対戦相手は最初こそ決まっているけど

そのあとは各自で試合の勝敗にばらつきがあるので

随時会場の広間や待合室で電光掲示板に決定した対戦相手が追加されていく


その様子を確認のためチェックしていく

「ふむふむ・・」


(私の初戦の予選の相手は 奈々ナナ・フレデリカさんね・・

1個下の後輩でテイマーだって・・

テイマー枠同士でぶつかっちゃったけど しょうがないか)


・・・

「はいこれ 見える?」

「うん」

アスラが気になっていたようなので対戦表を見やすいところに

アスラの両脇を持ち上げて見せてあげる


アスラは登録確認のときに今の少し大きい姿になっている

(リサ先輩はちょっぴり大きくなったアスラの姿に驚いて飛びついて喜んでいた

なんでも試合前にエネルギー(?)を補給しておきたいとか言っていた)


着替えなどもあったので

女子学生用の待合室で1回対戦表などをもらって

リサ先輩に教えてもらって登録確認なども済ませておいて


それでもまだ出番までに時間があるので

リサ先輩には先の方に試合があるから応援ついでに見ておいてねといわれて

リズは選手関係者用の観覧室に向かっていたのだった


ネロたちやアーノルド先輩が会場に入ってから早々に移っていた観覧場所だ

観客席も兼ねているのだ



・・・・

選手関係者用の観覧席にて


「ここ!ここだよ!リズ!」

ネロの陽気な声がやってくる

そこはすでに宴会場のようになっていて お菓子の袋が散乱していた


(げええ・・)

ネロに呼ばれているけど すでに知り合いとして近づきたくない雰囲気だ

辛うじてマギハちゃんだけ行儀がいい だけど侵食されそうだ

(これはひどい・・)


「ははは・・」

付き添いのアーノルド先輩も苦笑いだ


「こら 行儀はよくしないとだめよ」

「はあい」

ミスラたちは素直に言うことを聞いて片づけを始めるけど

 ・・逆にこぼして散らかしたりしてるけど


「それは・・アスラちゃんかい?」

大きくなったアスラに気が付く先輩


「?そうだよ」

アスラが答える

「すごいなあ こんなこともできるんだね」

感心する先輩に少しアスラの変化の説明をしてから先輩と観覧席に座る


「リズちゃんはもう少し後なんだね」

「はい それまでリサ先輩の試合をみていろいろ参考にしてみてっていわれて」


「それがいいだろうね ほら もうすぐ予選が始まるよ」


会場は2つに分けて2試合並行して進められているけど

試合スペースはかなり広く設けられていて

そこに魔法でラインが仕切って隣の試合に影響がないようにしっかり分けてあって

さらに魔法の防護壁も完備されている


勝敗は一対一の対人戦で 先に相手が降参か

選手に事前にかけてもらえる魔法の支援防護壁や自前の防護壁を失って

戦闘不能かステージ外周ラインを超える場外や

外部からの他人による手助けなどの反則負けなどがあり


学生の専攻や職業によって補助道具や杖、剣などの武器、

テイマーなら使い魔などの使用が認可されており

他に細かい試合の規定などもあるけど


おおむね審判の判断にゆだねられて個人の力量の差などはそのまま尊重されるものの

条件は公平になるように試合が行われる


ここは予選なので

特に今は本選の開会の式典のあれこれとかはなく試合は進行していく


・・・・

・・・

観覧席から下の試合場内を観戦する


「ガアアン!ダァ!」


試合の持ち場にはリサ先輩の大きなゴーレム ガンサクが威勢のいい声を上げている


(ひえー これだけでもうけっこう威圧感あるよなあ

ていうかこんな大きいのとか反則気味じゃないのかしら)


リサ先輩は観客席のこちらのほうに向けて手を振っていたので返しておく

試合前に軽く審判からルール確認の手順をお互いがふんでいく

そのあと会場脇の魔法補助員の人に安全のための支援保護魔法をかけてもらっていた


「これよりⅮ予選 リサ・フロノア 対 ミノ・カシオミ の

試合を行います」


リサ先輩の対戦相手は 中等部2年生の魔法弓術士でミノ君というらしい

同学年だけど私は知らなかった

(おお・・人の試合なのにちょっと緊張するなあ・・)


主審判のすぐ横に胸の高さくらいの分かりやすいゴングの鐘の様なものが

セットで吊るしてあって

それを審判を補佐する係の人が鳴らして試合はスタートだ


「「ゴァン!」」

大きさのわりにけっこう勢いよく鳴らす


「ストーンバレットよ!」

速攻でリサ先輩が使い魔に指示をだす


「ガァン!」

背丈が5メートルほどもある大きなガンサクの足元から 

太い握りこぶしくらいの岩が現れて

それをガンサクが腕でぶん回して砕けた岩が前方に向かって飛んでいく


「ひええ・・!」

対戦相手のミノ君は身のこなしは身軽らしく

怯えながらも迫りくる岩をぎりぎりで避けていた

こうして見るとけっこうえげつない攻撃


だけど岩の攻撃を全て避け切ると

今度はこちらのターンだとばかりに相手のミノ君は切り替えて

「サンダーアロウ! サンダーアロウ!」

走って切り込みながら魔法の込められた弓を連射する


「バチイ・・!」

1本はガンサクに見事命中したけど特に効いていないようだ

もう1本はしっかりテイマーの弱点とも言える使い手本人を狙っていて

リサ先輩にまっすぐ矢が迫っていたが


「アースシールドね・・!」

そういって自分の手から魔法を発動して

シールドを即座に出して

「バチイ・・!」

先輩はサンダーアロウの矢を難なく弾いていた


術自体はタイミングもよく正確だったものの両方とも防がれてしまって

対戦相手のミノ君は悔しそうな顔をしている


(へえ・・これが武闘大会なんだ・・けっこう臨場感あるなあ

だってリサ先輩平気そうにしてるけど 

魔法の矢が迫ってくるんだよ 慣れてるなあ)


「またストーンバレットよ!」

リサ先輩の威勢のいい声に応じて

すぐさまストーンバレットを撃つガンサク


(こんなもの2回目なら避けてやるぜ!)

ミノ君はまた避けてやってくるストーンバレットを身軽に捌ききった


と思ったら

「!!」

直後にまた1個正面にスピードの速い単体のストーンが来ていて

対応できずにぶち当たり


「ゴ」

「ぐええ!」

弾き飛ばされて場外にでてしまった

見た目にもわかりやすい一発判定で


「勝者 リサ・フロノア!」



・・・

「へへー 勝っちゃった~」


リサ先輩は試合が終わると私たちのいる観覧席まで上がってきた

「先輩おめでとうございます」

「おめでとうリサ」

アーノルド先輩と一緒に初戦の勝ちを祝福する


「まあ相手がラッキーだったわ 口に出さないで重ねて指示だしたら

引っかかっちゃうんだもん」

「まあ彼もテイマー相手のいい勉強になっただろう」

(へえ・・そうだったんだ 気をつけないとなあ)


「まあ試合はあんな感じよ リズちゃんも緊張しないで楽しんできて

初戦は私も一緒についていくわ」

「じゃあそろそろ リズちゃんもスタンバイだね」

「はい・・!」


「アスラちゃん頑張ってね!」

晴れ舞台のアスラの応援で興奮気味のマギハちゃん

「うん!」


「いこうアスラ」

リズはアスラを連れて リサ先輩と一緒に選手控室に移動したのだった


・・・

(・・・・)

「ああ~ん アスラちゃん・・」

「(むぎゅ・・)」(アスラのほっぺたが寄る音)


「ちょっとリサ先輩 そろそろ離してくださいよ・・」


選手控室についたとたんにアスラにしっかりすりついて離れないリサ先輩

まさかこの先輩それが目的で


「いや アスラちゃんが緊張するといけないから・・、ね・・?」


なにか謎の転換までしている

なにが「ね・・?」なんだろうか


でも本当に時間が近くなってくると なごり惜しみながらも離してくれる


(まあでも リサ先輩のせいで確かに緊張しないなこれは)


サークルで貰ったかっこいい腕輪もしっかり腕に馴染んでいる

今度のはサイズに余裕があるから前壊れたやつよりは長持ちしそう



「アスラ・・手をだして」

「うん」

(ズズ・・)

交信術を発動させるために

私の手のひらとアスラの手のひらでギューンと

円球のお互いの魔力を混ぜ合わせて回していく


「へえ・・すごいわね リズちゃん上級テイマー並みよ

でもちょっと闇魔法っぽいのね・・

手は戦闘でよく使うからそれをアスラちゃんの背中にゆっくり移動させてあげて」


アスラのあったかい背中にアスラの小さい手をそっと添えさせて

つつつ・・と魔力の波動を移動させる

「うん・・リズちゃんそれでいいわよ」


「(アスラ)」

「(りず!)」


準備は整ったのだった


・・・・

・・・

「Ⅾ予選 リズ・クリスフォード 対 奈々ナナ・フレデリカ の試合を行います」


(ズスス・・)

リズは魔法補助員の人にかけてもらった魔法が

自分の体全体を薄く覆うのを感じていた


(へえ・・これが魔法防御壁ね・・なんかやっぱ自分のでないとむずかゆいわね 

普通の魔力は私は馴染まないし・・)


使い魔にも一応かけてもらえるみたいで

まとわりつく守りの魔力をみてアスラは不思議そうな顔をしていた


対戦相手に意識を一旦向ける


2つに分けた茶色い長い髪が特徴的な大人しそうな女の子だった

奈々ナナ・フレデリカさん・・中等部1年生の後輩の女の子のテイマー

使い魔は・・)


「ゴゴ~~」

「いってきて ファイヤーゴースト!」


(ファイヤーゴースト? 一応アスラと似た系統なのかしら)


(頑張ってきたアスラとの初戦よ しっかり戦って見せるわ)


「いくわよ アスラ 成果を見せてやるわよ」

「・・うん!」

アスラの機嫌のいいときの感じだ


「ゴゥン!」

試合開始の鐘が鳴る



・・・・・・

・・

(しっかりやろう そう、 しっかりやろうって思ってたんだけど・・)


作戦としてはアスラに自由にまずやらせるために

自分がやられないように気を配りながら 

アスラにどんどん動いてもらう!



・・そういう作戦のはずだったんだけども


「ファイヤーボール!」

「ファイヤーボールよ!」

おお これはすごい高品質なファイヤーボール


(ボウシュウ・・・)

(バシシウウ・・)

「・・・・」

あれなんか お互い術が直撃してるんだけど

(魔法を吸収してる?)

どっちも不思議そうな顔(ゴーストは顔わかんないけどね)をしている


「・・・・」

それならばとアスラは素早く近づいて行って

(ズオオオオ!)

「ファイヤーパンチ!!」

炎を纏うアスラの腕


おおこれは結構すごい勢い 頑張って練習したんだねアスラ


「バスウウ!!」

あれ・・なんか手ごたえがないような

いやゴーストだもんね・・そんな気もしていたんだけど実際そうとなると・・


自信満々だったアスラの顔がだんだん困り顔になっていくのは正直心苦しい


アスラはめげずに接近していたので

ファイヤーゴーストに果敢に投げ技をかけようとする


が、


(つかめていない・・!!)

空をきり もう泣きそうになっているアスラ


そんなアスラは至近距離から相手のファイヤーゴーストに

「直接ファイヤーアタック!」なるものを受けていたんだけど

この攻撃にアスラは気が付いていない

泣きそうになったままだ


(あれ なんか困ったなあ この試合・・)


「そ、そこよ!」

対戦相手のナナちゃんも困ってなんとかしようと

攻撃を試行錯誤している


(テイマー同士だったからまあ極力 自慢の使い魔同士で戦いたいよねって

思っていたんだけど・・)


「(アスラ・・)」

私は泣きそうなアスラに指示を少し出す

「(あっ そうか)」


アスラは両手にボッっと炎を纏わせると

格闘戦で鍛えた俊敏で

ファイヤーアタック直後のファイヤーゴーストを引き付けた隙に

(ダッ!)


一気にコースを外れて対戦相手のナナちゃんの前に立って

今からこの腕で抱き着くぞっていうポーズをした


「え・・・」

「あ・・・こうさん、します・・」


(終わっちゃった・・)


・・・

こうして私とアスラのなんともいえないデビュー戦は

なんともいえない勝利で終わったのでした


「勝者 リズ・クリスフォード!」


・・・

試合が終わった後

「あの・・なんかごめんなさいね ナナちゃん」


「いえ・・私が対応できないのが悪いですから・・

 かわいいですね・・リズ先輩の使い魔・・」

「あ、ありがとう・・」


最後まで煮え切らないのだった



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