第47話 ネロのプロレス 悪魔と遊び子

 「いててててて ちょっとタイムタイム!」

 「はあ!」

風車の家のリビングの

家具を端に避けてつくった少し広いスペースで


ネロがアスラに遊びのプロレス技で

「ロメロスペシャル」風の技をがっつりかけられている

(*具体的にどのような技なのかは明言しないものとする)


「ちょ、ちょっとまってよ こんなのほんとにそのゲンゴっていうひとに

教わったの?」

「いえ そこまでは教わってないけど 

アスラに投げを仕込んでやれっていわれたし

仕込んでおきたいし 私が知っているものからも少し・・」


こころよく実験台になってくれたネロを相手に

私がオリジンで知っていた投げの技とかを少しアスラに仕込んでいた

まさかのプロレスシリーズ


「ネロ~頑張って~」「がんばえ~」

「アスラちゃん家って面白いね」

「興味深い見世物ね」

即興プロレス会場にてミスラとキスラがわちゃわちゃと応援係をしている


お留守番の日中にアスラが時々外に出るようになったと聞いたら

前に知り合ってお友達になっていたマギハちゃんと

約束をしてよく遊びに会っているみたいで


この日はこの家の奇妙な臨時プロレス会場までマギハちゃんを招待していて

他の住民たちとも すぐに打ち解けていた 

家にきたあのマギハちゃんの黒い髪は今日もツヤツヤだった


今日は家にいた同居人の魔女天狗クロージュさんは

プロレス会場設立のために今は端に寄せられたソファーの方から

のんびり催し物を見物しているようだった


クロージュさんは今日は手元にお気に入りのキスラではなく

魔女の不気味な座敷童のような人形をいじってメンテナンスをしていた


・・・

再び即興プロレス会場のネロ

「リズってこんなの知ってたの?! ああアスラ!ちょっとまってってば!」

「フンフン」


「ええ 知ってたわよ 

詳しくなりたくて

古い秘密の分厚い本とかを小さい頃から読み込んでいたのよ

(まあ施設に置いてあったゲームのデータ集の本だけどね)」


(投げ技は入力したコマンドによって特殊モーションに変わって

個性がでたり キャラによっていろいろな特性や種類があるのよね・・)

もの想いにふけるリズ

(あ、ネロ後ろ・・)


「ええ そうなんだ・・って ぐえええ~」

後ろの方からやってきた

純粋な目をしたアスラに静かにスッと組み付かれるネロ


(あ、そういえば・・)

アスラの技の取り組みを見ていると

前にゲンゴと二人で特訓をしていたときの気になったことを思い出す

「  」ガッシ

あれはそう・・


投げられるときに掴まれた

あの時の硬くてゴワゴワしていた手の感触


「クロージュさん・・このあいだゲンゴが言っていたんですが

「(投げ技はこの世界で唯一共通したところからやってきた)」

ってどういう意味か分かりますか?」


「えっ、私? あれはほっといていいの?」

「ええ、今は特訓中ですので・・」


「りずう!」

むなしく響くネロの声


(・・・)

「あのお坊ちゃんね、あの人の受け売りの言葉でしょうね

あの人たちがすることは野蛮だから 私は関わらないの だけど


ふーむ・・そうねえ

これは私たちの一族の遠い先祖の話

私たちが引き継いできた体術の元になったかなり古い口伝なんだけどね・・」



「(あの人ってオジキのことだよね・・

ひょっとしてオジキのあの投げ技のルーツ・・?)」


魔女の不気味な人形の手入れをしつつ

そっとどこか感慨深げにネロとアスラの特訓(ほぼ一方的)を眺めて

クロージュさんは話してくれるのだった

・・


「・・

私たちの風魔の体術は

大昔にいた悪魔にも通用する技だったといわれているの


今となっては悪魔はもう世界からいなくなってしまったから

それは実際にはよくわからないのだけどね」


(・・!)

「え、悪魔ってあの・・」


「そう 人を困らせたり土地を巡って人と争って

この辺りの地域の古い災いの伝説にも残っているあの悪魔の事よ


でも唯一の強い魔法の力を持っていた古い悪魔たちには

魔法をまだろくに扱えていなかった頃の人の力では

どうあがいても敵うことはなかった

・・


・・はずなんだけど

それは偶然に見つかったの


大昔の時代はまだおおらかでもあった時代で

悪魔の土地の領域に人間が迷い込んでも

悪魔に魔法でイタズラをされて追い返されるくらいで

そこまで大ごとにはならなかった

それをいいことに

よく人里の子供が悪魔に会いに自分から進んで近づいていたの」



「え・・、悪魔って危険な存在なんじゃ・・」



「そうなんだけど・・悪魔は個体によって見た目も性格も違っていたし

悪魔たちはなぜかみんな人里の子供にはとても優しかったの


悪魔の土地に立ち入るのは魔法がかけられていて

難しいはずなのに

悪魔は子供にだけはいつも秘密の抜け道を開いていて


人里の子供も小さい時は何故かみんな悪魔の事が大好きなの

悪魔のところへ行く抜け道もすぐ見つけ出してしまって

大人が言っても聞く耳を持たない


でも昔の古い教えには

悪魔は子供と遊べないと

情緒が不安定になってきて周囲の土地が荒れるっていう言い伝えがあって

それに人は大人になるまでに

、と云われていた


だから大きくなったらもう悪魔には会いにいかないことを約束させて

大人たちもそれをひそかに子供たちに認めていたの


悪魔が子供に見せる魔法にはどこか遊び心を掴む不思議な力があって

人里の小さい子供はそれをとてもよく喜んだのよ

逆に自分たちの遊びも悪魔に披露して一緒に遊んでいたのよ 」


・・

(( ねえ!悪魔ってうそつきなんでしょ お父さんとお母さんがいってた

君と遊ぶのはこんなに楽しいのに! ))


(( そうだよ 悪魔はみんな嘘つきなんだ

みんなうそだから楽しいんだよ ))


・・

クロージュさんは

手入れをしていた悪魔みたいな不気味な人形を

その時だけ小さく万歳をして見せるように動かす


「・・・」

(ふーん・・なんかこの世界の悪魔の印象がちょっと変わるなあ

意外とシャイな性格・・?

魔物とかと一緒で

もうちょっと怖い人類の敵みたいな存在なのかと思ってた


でも確かに子供の絵本とか昔の伝え話とかで出てくる悪魔は

そういういたずら寄りの雰囲気があったかも)

・・


「それがどういう風に話につながるか・・、だけど

悪魔は実体のない霊魂の存在であることが大半で

人の手には触れることもできない存在だったはず、だったんだけど


ある時

土地の悪魔に勝手によく会いに行っていた子供を

苦労して探しにきた大人がそれを見かけた


それは山の奥にあった広間で悪魔と子供が

まるで相撲のような力比べの押し合いをしていて

実体のないはずの悪魔がその子供に見事に投げられてしまったの


でもそれはその子供の力が特別だったんじゃない

普段は人は気が付いてはいない でも元々持っていたの



(( ねえ 僕にうそじゃなくて 本当のこと 教えてよ ))


(( じゃあ 君も僕のこと 今だけ嘘つきじゃないって

本当に信じてくれる・・? ))



(( え・・? うん 信じる 絶対信じる ))



子供のうちにする遊びっていうのはね 

大人とは違って特別なの


それは子供の脳でたくさん動きまわって

つねに新しい何かに自分で気が付いていくことなの


その何かに気が付いたら 子供は成長して 

そのうち悪魔と一緒にいたことは自然に忘れていってしまう



そんな悪魔は本当のことはけして教えてくれない不思議な生き物


でも魔法を使ったり一緒に話はするけど

いつも触れずに見ているだけだったその悪魔は

その子供と遊ぶために

そういう技が世界にあることを内緒で教えてくれたの



異なる存在にも近づいて触れることのできる体術


それが・・悪魔が住むという隔てた世界から繋がって

あの人のいう共通の場所にある私たちの一族の体術の起こり


・・

なんだけどね これがよくなかったのよ


調子にのって野蛮に育った子供が

その悪魔を何度もしつこく投げ飛ばしていたら

とうとう悪魔はそれを嫌がって住処を変えて姿を消してしまった


そのせいで

密かに悪魔に魔法を見せてもらうことができなくなって

私たちの魔法は数百年は遅れたといわれているわ


その時魔法の研究をしていたのが

あの人たちと違って私の家系の古い血筋なんだけど

未だにその時のことを代々口伝で伝えて根に持っているわ


だから野蛮な人間たちが私は大嫌いなのよ 


ああ、それがもうねえ・・~」



(は、はえ~・・)

なんか途中からクロージュさんの愚痴が始まり出してしまったけど

けっこう重要な話だったような気がする

あの技はそういう・・


っていうかそんなに前のことなのに

未だにしつこくぐちぐち伝え続けてきたんだ

恨みって怖いなあ

クロージュさんのご先祖様って感じだなあ


「あ、あの・・」


「あの人ときたら

昔から為にもならない碌でもない妙な伝え話ばっかりは知ってて

あの子に言い聞かせたがるんだから 

あんな人の話を真に受けてしまったら碌な育ち方をしないわ

はあ~もう、ついこの間なんてねえ~、、、  」


(あ、あうあう・・)


クロージュさんもう人の話を聞いてくれない

見た目蛮族で中身も野蛮らしいオジキへの日頃の愚痴が止まらなくなってしまった


クロージュさんとオジキは師弟関係らしいけど

どうやらそんなに師弟間の仲は良くないらしい

そんなに思ってるなら本人にいえばいいのに


クロージュさん

「ああ~こんなこといってたら思い出してきたわあ」


(ぽわんぽわん・・)


・・


「 よいことゲンゴ

よりよくてかわいいお人形を作るためには

しっかりとまずはその見本の人形を観察して・・


とくにつぶらな目の特徴と飛び出した角のところを念入りに・・」


ゲンゴ(5歳)

「・・う~ん?」

魔女のそばに座らされて 不気味な人形を手に持たされて

まだ小さくかわいげが残っていたころのゲンゴ


その時


「ゲンゴよ!何をしておる

そんなものより向こうの山の麓で風縫いの木の独楽の作り方を教えてやろう」


「そんなものですって・・!」


「オジジ!」(あっ・・!)

(ポーン!)


「ああ~っ」

野蛮な天狗の子にその人形は即放り投げられて

それをクロージュが地面に滑り込んだ体勢でなんとかキャッチする


「わっはっは・・」

「キャッキャ・・」


ゲンゴは横からやってきた野蛮で大きな体の天狗にそそのかされて

大きな肩車の上でまだ小さかった羽をパタパタ広げて喜んでいて

クロージュの元を去っていったのであった


・・・・

・・


「きいい~~、悔しいいっ~~~」


小さい子供に遊んでもらえなくて情緒が不安定なクロージュさん

さっきいってた悪魔って

もしかしてクロージュさんのことなんじゃ

見た目も丁度良く黒ずくめだし


「・・・」

(はえー 結局よくわからないなあ・・


でも私もオリジンの投げ技だけは知っていたけど

この世界で見たオジキやゲンゴの技にも共通したものを感じて 

すぐ対応できた・・


悪魔にも通じる体術、かあ)

・・


(!あっ・・)


「リズう! リズってばあ!」

「ふんふん」

こちらもまだ続いていた即興ミニプロレス

ネロはアスラに覚えたてのロメロスペシャルから 

スムーズな四の字固めに移行されて悶絶している


「ぜ、絶対こんなの教わってないでしょ」


(ネロ・・大変ね がんばってね)

・・

「うわああ~~」

子供の相手をしていた昔の悪魔もこんな感じで

ろくでもない子供にあられもない技をきめられてしまったんだろうか

そりゃあどっかにいきたくなるよね


・・・

その後

愚痴のペースと情緒が少し落ち着いた様子のクロージュさん

人形いじりの手も一旦止まって

今度はクロージュさんが気まぐれに興味の湧いたらしい

私の腕の方を一瞥いちべつしていた

・・


「そういえば あなたのそれ 全然使ってないわね」

「それ・・?」


「その腕輪よ 魔力が全然通ってないわ」


「・・・」

(確かにかっこいいだけでテイマーが使うって言ってたから

いつか使うかなと思ってつけてたけど 全然使ってないなあ・・ この腕輪)


「これ・・使い方がよくわからないんです」

「杖の代わりよ」

「でもそれじゃ 普通の魔法じゃないですか」


「それは普通の魔法を通すからそうなるのよ

使い魔とテイマーで一時的に糸の様な性質の魔力をつないで

お互いの魔力の波長を合わせる、


そういう魔法の術があるんだけど それを通せば魔法の使用者から

使い魔に直接命令を下すことができるのよ」


「普通に声をかけて動いてもらうのと違うんですか?」


「全然違うわ まず 声がなくても命令を細かくやり取りできるし

波長の合い方や魔力の量や使い魔の大きさによるけど


使い魔側が許せば その体の一部を術で動かせたりもできるのよ」


(へえ・・そんな意思疎通ができるんだ すごいなあテイマー)

「テイマー術ってすごいんですね」


「別にその術自体はすごいというほどでもないわ

全然術の完成度が下手くそでも波長は少しでも合わせることができれば

その時の合図でも決めておけば ろくに疎通できなくても

一応命令みたいなものは出せるわ

普通はそれで十分だから たいていは もうそこで終わりよ


体まで動かすのは魔物の抵抗もあるし繊細な魔術のわりに

全然労力も割に合ってないから 上級位のテイマーが趣味でやるくらいね」



「り、リズ! ギブアップ ギブアップだってば」

(あらいけない)


ネロはいつの間にかアスラにスリーパーホールド(プロレス技)

を決められていた

ワンツー・・」とかミスラがいって床を叩いている


(あんなの教えたっけ・・)

実験台をやってくれているネロにもちょっと悪いので

そろそろアスラを呼ぶことにする


「アスラ少し休憩よ こっちに来て」

「うん わかった」

アスラはネロのかかっていた技をゆっくりほどいてから

リズのところへやってくる


「じゃあね ネロ」テテテ


「た、助かったあ・・」

(ネロ~)

ネロは白いタオルをキスラから適当にリングの上から投げられて

駆け寄ったミスラはギブアップしたネロのおでこを冷やしている


「うふふふ・・!」

近くでとことん騒がしい音をきいて 

音が大好きだというマギハちゃんは無邪気にはしゃいでいた


・・・


「クロージュさん その波長を合わせるのってどうやるんですか?」


「そうねえ どこでもいいけど はじめは手がいいかしらね 

実際に使う時だと背中がいいかしら

使い魔と手を合わせてみなさい」


「アスラ、手を出して」

「こう?」

近くまで寄って来たアスラ

パッと手を突き出す

抜け殻作成時の(合体!)の要領の手である


「なんか変な合わせ方ね・・まあいいわ

そこで少しお互いに魔力を手の中で円を作るように

お互いの波長を意識しながら回して混ぜるの


それがちょうど波長の共通した魔力になるわ」


・・

いわれた通りにとりあえずやってみる


「アスラ 私がアスラと手のひらの一緒のところに丸い魔力を作るから

そこにアスラの魔力も一緒にまぜて」

「うん」


普通の魔力を使おうとか思ったけど

やはり扱いやすくてしっくりくる魔物由来の魔力から出すことにする

たぶん魔物と相性もいいしね

まあでもどっちでもどのみち黒いから

見た目はそこまで変わりない気がする


合わせたアスラの手は小さくてスベスベでじんわりと暖かだ

(ズズズズズ・・・)

そこに明らかにおぞましい感じの私の魔力が流れて

私とアスラの手の中に丸い形を作る

(だ、大丈夫かしら・・)


だけどアスラは特に気にしていない様子だ

(・・よかった)


そこにアスラの真っ赤なようなオレンジ色の魔力が流れ込んでくる

(これがアスラの魔力ね・・やっぱり暖かいわ)


「これを一緒に回す・・のね」

寄生セミの抜け殻を作るときの要領で精密な神経を使って

それを回し始める

アスラも少し合わせて回そうとしてくれていると感じたけど

最初なので慣れていなくて乱れている


「違うわ・・アスラはこっちの方にまわして ゆっくりでいいわ」

「うん・・」


すると魔力の流れが合わさってきて

私とアスラの手のひらの円の魔力が一方向に渦を巻くように回り始める

それに合わせて私とアスラの魔力が互いに溶け込んでいくのを感じる


(ふふ・・ちょっとくすぐったいかも)

アスラは必死に合わせようとしているみたいで頑張っている


・・・

その様子をソファーに座ったまま眺めていたクロージュ


(この子 闇・・の魔力? 

異国?のかわった投げ技の詳しい知識といい 少し変わった子ね 

クリスフォードの家はそうだったかしら?


この子の両親はクリスフォードだから・・

バーゼス・クリスフォード卿とカルミナの子なのよね

でも彼や彼女の系統とは違うわね

もうだいぶ昔だから忘れていたわね)


「それくらいでいいわ

それをゆっくり糸を引くように離していって


そのときの混ざり具合というか波長をお互いが覚えていれば

その糸はなかなか切れることはないから大丈夫よ


それでその作った円の魔力の大元はその腕輪に付与しておくの

それで魔法の準備は完了するわ」


(ゆっくり、ここから離す・・)

合わさった手から

ゆっくりと私の手のひらとアスラの小さい手のひらが離れていって

そこに魔力がすうっと糸をひく


そして新しいところどころ細い金属で編まれた腕輪に

さっきまで私とアスラの中にあった魔力の球を移動させて

(ズズ・・)

ゆっくりと溶かしこんでいく


「テイマーの腕輪はその状態が維持しやすい設計だから

杖に代わって使われるのよ 杖でもできないことはないけどね


うまいものね それならかなり意思の疎通もできるはずよ」



「(りず!)」


うお、 なんか振動みたいにアスラの声が

頭の中っていうわけじゃないけど 腕からそれが伝わってきて脳でわかる

なんか例えにくいけど・・

(逆にわたしの声も聞こえるのかしらね・・)


「(アスラ)」

「(なに?)」

「(・・・)」うん 聞こえているみたい

アスラは初めての術にもあまり抵抗はないみたいだ


その様子を見てクロージュさん

「あんまり長くは維持できないわ 質をだいぶ落とせば長くもできるけどね

むしろ町の騎乗につかう魔物なんかはそれが主流よ 

長時間仕事で術を維持しないといけないから」


(へー 学園では普段はちょっと不遇って聞いてたけど

やっぱテイマーってすごいや)


「どちらか一方だけでかき混ぜて覚えてもいいけど 

それだと球が脆くなるし質も低いわ

お互いが波長を意識してると 今みたいに質はよくなるわ」


(ふーん・・アスラと私のね・・)

ソファーの隣でじっと手を見ているアスラを見る


「それで・・さっき言ってた使い魔の一部を動かすのってどうやるんですか?」

少し興味がわく


「それくらい質がいいなら できるかもしれないわね

それは感覚よ 魔力を多く使うけど 使い魔がそれを許せば動かすことができるわ

限度はあるけどね」


またアスラの方をみる アスラも私を見ている

(これ口でいったほうがいいんじゃないか? まあせっかくだから)


「(アスラ)」

「(なに?)」

「(ちょっといい?)」

「(やだ)」



「(・・・)」

「(いいよ)」


アスラの許しを得て 少し念じて意識を投げかける

アスラの開いていた手のひらをゆっくり握ってグーにしていく

(おお、できる・・)


とても不思議な感覚だ 

アスラも不思議そうにグーになった手をじっと見ている


「使い魔の意識も協調すれば より早くそれを動かせるわ

ただこれは繊細な魔法技術だから

ほんの少しでも使い魔から拒否反応があれば動かすことはできないわ


なかなか優秀ね

とりあえずはここまででいいんじゃないかしら」


「ありがとうございます」


(サラサラ・・)

私たちに術を教え終わった後は関心ごとはもう切り替えたのか

それを横目にクロージュさんは

例の趣味の不気味な人形の動作確認を再開して なにかの紫色の魔力を流していた


その不気味な人形の髪の一本一本に魔力が流れるようにつたっていくの見ると

不気味な中にも美しさがある


(すごい・・とんでもなく丁寧で細やかな魔法・・人形操術だっけ・・)


「あなたの髪すごくツヤツヤねー 参考になるわあ」


といいながら

今日が初対面のはずのマギハちゃんの髪をサラサラといじって見比べたりしていた 

マギハちゃんはいい子にして

目を瞑って髪を触られて気持ちよさそうにしている


(・・・)

そういえば風車の家の棚に勝手にズラズラ並べたりとか

いい歳してこのずっと大事にいじっていたクロージュさんの人形たちは

今日話してくれた大昔にいた悪魔の古い記録の絵の姿をモチーフにして

趣味でいろいろとクロージュさんが昔から作っていたものらしい


なんでも世界で人よりも前に最初から魔法を知っていた悪魔は

危険な存在ではあったらしいけどどこか憎めなくて

クロージュさんにとっては憧れの師匠みたいな存在でもあったようで


クロージュさん自身が小さかった時は

いなくなったという伝説の悪魔を探しに

遠くまで歩いて行ったこともあったらしいけど

結局見つけることはできなかったらしい


まだぶつぶつ愚痴を言っていたクロージュさんが


「・・私はもう大人になってしまったけれど

私も一度でいいから

不思議な魔法を見せてくれる心の優しい悪魔に会ってみたかったわあ」


って少し寂しそうにいっていた


「はあ・・まだどこかにかわいくて小さい悪魔が

生き残っていないものかしらねえ・・」



クロージュさんの人形の魔法に少し感心していると

・・


「リズ・・確かに僕、最初軽い気持ちで いいよっていったけど

なんていうかさ もうちょっと投げ技って僕の中で違うイメージだったんだ

教科書でみた護身術や柔道術っていうか・・」


ノックダウン後から復活したネロが

ちょっと恨めしそうにリズの方を見ている


「もちろん そういうのもあるわよ

だけど世界って広いから」


「そんなあ・・」


「ネロ、復活したところ悪いんだけど

もう少しアスラに教えたい技があるの 今度は私が技をかけるからお願いね

アスラよく見ておいて」

「うん」


復活したネロに遠慮なく近づいていくリズ


「ええ僕!? 今度はリズが? 僕死んじゃうよ!!」

「大丈夫よネロ 優しくするから」


「ちょ、ちょっと うわあああ」


・・・

こうしてネロの尊い犠牲によって

アスラは鮮度のいい生きた投げ技を特訓することができたのであった

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