第46話 ゲンゴVS?

 「まあ通るだろうが リズも書類選考通るといいなあ

人がめちゃくちゃいたし

実力はあるのに書類の誤字で落とされたら泣くに泣けないからな」


そういって前回アスラと訓練した生徒用の訓練施設で

腕をブンブンまわしている天狗のゲンゴ


(誤字脱字はないと思うけど そうね・・確かに人が多かった)


「私もアスラには大会にでるって言ったけど

正直自信ないわね・・」


「え・・勝てねえってことか?」

「違うわ・・その前の書類選考よ 私はクリスフォード家の人間だけど

魔法はだめだめなの だから学園ではずっと落ちこぼれてるの


だから書類では難しいと思うわ

人がいなければ とは思ってたけど」


「おい、本当かよ・・なんか悪いな

だからアスラを使い魔にして戦おうと思ったのか?」


「いえ それは偶然というか・・成り行きね

あなたがちょっとあの子に影響したんだと思うけど」


「そうか・・じゃあどうする 今日はなんだ・・

適性のある魔法でもあれば基礎でもいいぜ」


(・・・)

そこでリズの様子が


「・・それが実はね 最近私もちょっと魔法使えるかも、って

試してみたいの・・」


その目の中に少しの光が帯びて

挑戦をするように妖しげに変わる



「 試させて、くれる・・?」


「!」

(・・どういう、ことだ?)


その瞬間

リズの体全体から一瞬瘴気かと見間違うような濃密な魔力が湧き出て

(ゾ・・)

「ズズ、ズズズズ・・!!」

体中にまとわりついていき 回りはじめる


それが徐々に収縮していって 

花びらのように奇麗に薄くなって張りついていく


「フフフ・・前にゲンゴがアスラに教えてたから

私も練習しちゃった」

(アスラに魔力のオーラで先を越されたら悔しかったからね)


「・・・」

(リズから出ているこれは・・、黒いな・・闇属性の魔力、か?)



「ふーん なんだよ お前も おもしろいじゃねえか」


そういうとゲンゴも

前にみた風魔の結界を体に張り巡らせていく


「魔法がおちこぼれなんじゃなかったのか?」


「おちこぼれよ これだってたくさん練習したからできてるだけよ」


(・・・)

「・・別に俺が前にお前のことを強そうだっていったのは

お前がクリスフォードだからじゃないぜ 


俺たちはそういうところは見ないんだ

たたずまいっていうかよ・・ そういう曖昧なもんだ」


「そんなので分かるの?」

「いや 本当にはわからねえ だから試すんだ」

「じゃあお試しね」


「そうか、じゃあ・・」ザザ・・

ばちばちとした視線が

お互いがお互いに にじり寄ってその隙を伺う・・


ピリ・・

空気が緊張する

(これは・・)




「・・ん? まて なんで格闘戦みたいになってるんだ」

(あら・・)

「そうね、つい癖が出ちゃったわ」

(いけない 戦いのかんじで腕がちょっとピクっときちゃったわ)


(・・、癖だと・・?)


「魔法だって言ってたのにな なんでだろうな

こうしないといけないような気がしてたんだ」


(へーえ 私も似たような感じかも)


・・・・

・・・

気を取り直す 今度はきちんと魔法の手順だ

「何を試したいんだ?」


「まずは基礎ね あそこにある的に最初はファイヤーボールから」

「使えないんじゃなかったのか・・? ほんとに基礎だなあ」


「だから、使えるようになったのよ 退屈なら帰っていいわよ」

「いや付き合うぜ いいだしだからな」


・・・

とは言ったものの・・


「ズズ・・!」


「それはファイヤーボールではないな・・」

(・・・。)

リズの体の中に廻った相性のいい魔物由来の魔力は

ファイヤーボールを型取った魔法構築式の中に練りこんで 

それを手から外に放出すると


瞬時に何か真っ黒なものに変換されて

「ファイヤーボールのようななにか」になって発動して放出される


(でも・・! 見た目は一応魔法としては発動してるわ)


(それにしてもこの善良な竜の魔力・・やっぱりすごく相性がいい

饅頭マン経由の魔力だけど ちゃんと魔法として普通に人に見えるみたいね

黒い見た目は・・まあともかく・・)


今まで前に魔法を飛ばすこともできなかったリズにとっては

大きな前進を感じてうれしくなる


リズの放った「ファイヤーボールのようなもの」は

リズは器用だったので そのまままっすぐコントロールして

スピードは遅かったものの、術は進んでいって的に当たり


「ズモ・・・」

みたいな変な音がして散らばっていく

(な、なんだかなあ・・)


「・・精度はいいな」

他にかける言葉がなかったのか ゲンゴは当たり障りのないことをいう


「つ、次よ、次!」


「エレキ!」 (バチバチ、ズモ・・・)

「ウォーター!」(プシューー、ズズモ・・)

「ウォーターシールド!」(ジャキーン、ズズズズ・・)


(・・・・)

(・・・)

(形は合ってるんけど やたら黒いうえに やっぱ後に不穏な音が・・)


「まあ、できてるんじゃねえか一応

どうも闇魔法ぽいが なんかちょっと違う気もするな」


(そうね・・今まで覚えてた基礎はそのまま形は使えるのかしらね 形だけは・・)

私が使えるのは基礎の基礎だけだ


すると

「じゃあ今度はあの的に当ててみろよ」


ゲンゴが向こう側にあった別の見た目がちょっと違う的を指さす

なんか変な的 犬みたいな形


(あそこかあ)

変な魔法ではあるけど発動自体は安定してきた

調子にのってきたリズは直近で使って手元の慣れた水魔法、

ウォーターボール(?)を発動させる


「ズモモ・・!」(・・・)


気にすることはない


今はあの的にさえ当たればそれでいいのよ


すると

「サッ」キャッフーン


「なあ・・っ」

途中で的の犬が自動的に動いて 

卑怯にも的はリズの魔法を避けてしまったのだった


「ず、ずるい・・!」


「ああいう的もある よーく狙え」


その後

傍にいたゲンゴに魔法のコツとかを教えてもらいながら

動く的当ての練習をしたのだった



・・・

・・

(ふう・・)

「まあこんなもんかしらね・・基礎は」

「満足したか?」


「まあまあ 使えただけで結構満足」

「ふーん へんなやつだなあ」


・・

的当てのコツはだいぶ掴めた

ものの

・・

結局何をアドバイスしても私の基礎魔法の闇具合は改善されなかったので

途中から座って魔法を眺めていたゲンゴが立ち上がり 

(ザ・・)

切り替えて場をならしはじめた

少し私との間に距離を詰めてくる


「じゃあ・・俺からひとついいか? あのチビが大会に出るなら役に立つから

教えておきたい 

これは魔法じゃない 体術だ」


「アスラのこと? なにそれ私が受けて教えるの?

ゲンゴが教えてくれたらいいんじゃないの?」


「リズも対策くらいはあった方がいいだろ

魔法一本のやつだとどうしても接近戦に弱くなるからな」



「ふーん・・ いいわよ」


リズは最初にかけたオーラを維持していたけど

そこからさらに追加で防御用のオーラをかけていく

(追加するのはまだちょっと難しいわね)


「そんなにかけなくても大丈夫だぞ 投げだからな」


(投げ、か・・って、私 投げられちゃうのか・・

ゲームでもちょっと投げ対策は苦手だったのよね)


「才のある魔法使いでもな

魔法ばっかりやってても不思議と魔法は強くならないんだ

心技体

身心も鍛えることが強さにつながる」


「大丈夫だ 軽く飛ばしてやる そこから解説だ 楽に受けてみろ

オジジがいうにはな



「「投げ技はこの世界で唯一共通したところからやってきた」」



(え・・なにそれ)

いうが早いがゲンゴは一気に風のように接近してきた

「!!」

「ズオオ!」

(これは吸い込み型に近い投げモーション・・!?)

(オリジンの投げモーションは その多くがガード不可能の

はまれば理不尽な技だけど この技は対策がないわけじゃない・・!)


(方向キーがろくに今学園では使えないから

だいぶ弱くなるけど アナログで動きをなぞって・・!)

「ザッ!!」

その瞬間ゲンゴが腕を絡めて がっちり組んできたが

そう簡単には投げられたくないリズの本能が咄嗟に働いて

そこから次に投げられない場所にリズは手足の位置を置いて対策を固める


「!!」

(こいつ・・知っているのか? この技を)

(というより・・)


「慣れているな・・リズ、お前・・」

「・・・・」



「なら・・こっちはどうだ」

(ブワッ!)

(あっ)

ゲンゴは瞬時に前の投げの形を崩して

ついでにリズの体勢の弱いところを最後に引き抜いて

少し上空に舞った後 リズの体の少し横側面にサッと降り立とうとする


(体勢が崩された・・!)

(なら 投げに入る前に迎撃・・!)

体勢が崩れながらも リズは即座にパンチの構え


「シュッ」

(ここだ!!)

ゲンゴに対して繰り出されるリズの拳


「(これは・・徒手だと・・! こいつ魔法一本じゃないのか?)」


(・・迷いがない これが最良と踏んでいるのか?

だが これは・・)


「パシ!」

リズのパンチはゲンゴに届く前にあっさりと

逆にゲンゴに掴まれると

風のようにグルリとそのまま体を食い込まされて


「うあ!」

(スットーン!!)

あっという間にリズは地面に お尻から投げられてしまった


(いてて・・アナログの普通の私のパンチじゃ

スピードも威力もなくて対応できなかったなあ)


ゲンゴはあまり痛くないように投げてくれていたようで

手は持ったまま、すぐに体を起こせるようにしてくれていた


「・・・」

奇麗に投げられて床でペタンと座ったままで黙っている私


「・・お前に言いたいことはいろいろあるが」



「投げ技で受けを拒否してきたら教えられないだろ」

(まあ・・そうだよね)


「いやあ・・つい反射的に」


「知ってたのか? オジジに教わったのか?」

「まあそんなところかも・・」

(ゲームでだけど・・)


「なら お前が教えてやるんだな あのおチビに

これはなかなか役に立つぞ」


「そうするわ・・」


「ほら立て」

ゲンゴが掴んでいた私の手を引くと一気に風が送られて

つられて私が立とうと腰に力をいれると


それを後押しするように風が流れていって ふわりとすぐに立ち上がれた


「これはなかなか腰にくるわね」

(実際に技を受けると こうなっちゃうのね・・)


「魔法使いはこれをやられるとだいたい気の集中ができなくなる

意識できてないやつがもろにくらうと

息もできなくなって魔法の詠唱すらできなくなるぞ


気を付けておけ そろそろよくなるはずだ」


私が地面に投げられた体の部分を中心に 風がずっと回っていたようで

投げられて少し痛みはあったけど

体の血行がよくなって今は気にならないレベルだ

むしろ調子がよくなってくる


「もういいわ ありがとう

風の術ってけっこう万能なのね」


ゲンゴが指をパチンと鳴らして私を回っていた風が四散する

「まあな」


・・

そのあと ちゃんと技の順序とか対策を軽く確認してから

ゲンゴとの特訓は終わった


「じゃあアスラに教えておくわね 今日はありがとう」


「しっかり仕込んでおけよ まああれだな 書類が通るといいな

お前もお前が思ってるほど悪くないと思うぜ」


それからリズはゲンゴに手を振って去っていって

その後ろ姿は校舎の方に消えた


・・・・

・・

その場に残ったゲンゴ

「・・・」


「・・はじめは冗談かと思っていたが

オジジはリズと縁があったと言っていたが まさか技まで教えていたとはな

オジジが言っていた「いい機会になるだろう」ってやつかな」


(あいつと投げで組んだときも感じていたが

一番はじめにオーラ同士で向かい合った あいつの刺すようなあの淡い瞳・・)


「・・・」


(オジジには止められているし

オジジがそうだったように人に使う技でないから

自分から技を見せることはなかったし 自分で技も抑えていた


でもあの時 自分の中でなぜか使ってみたくて

しょうがなかった・・


オジジが半分忘れさせられて俺に託した力・・

まあ だが使うことはないだろう それが約束だからな )


「「ピシ・・!」」

ゲンゴの腕に少しだけ鋭い電流のようなものが走っていた


空間を歪めたようなその異様な力


だが周りの学生たちはそれに気が付くことはない

その力の波動は他の学生たちの目には一切見えていなかった

・・


「少し 楽しみになってきたな 」


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