第45話 腕輪と申し込み
・・
あの後、空に浮かんだメテオライト・ファイヤーの大規模魔法を見て
大慌てでネロたちが飛んでやってきて
リズは弁明に苦労したのであった
あの竜たちはやろうと思えば自由になれるらしいけど
なんでもまだ高尚な使命が残っている?とかで ここに残っているらしい
なんて義理堅い善良な竜なんだろうか
あのメテオライト・ファイヤーの光をみてもアスラは怖がらずに
ずっと黙ってその太陽みたいな光を見ていたから
この前の時みたいな怖い思いを払拭できているのだろうと思う
とりあえずはよかったかな
私も饅頭マンから主目的の竜の魔力を得られたし
事故ぽいけど アスラも魔力を得られて
やっぱりあのダンジョンはいいところだなあ
またいつかそのうち行って あの善良な竜たちにあいさつでもしていくか
・・・・
「はあ・・壊れちゃったなあ・・腕輪」
あの善良な竜がまさか
反逆してきそうな気配がしたから
腕にぐっと力をいれたらイヴの腕になって その時に腕輪が弾けとんでしまった
せっかくダンジョン道中では加減して気をつけていたのに
(まだろくに使ってないのになあ・・)
学校の自分の席で壊れた腕輪を知恵の輪のようにして動かしていた
ろくに使えていなかったけど
着けてるとかっこいいからちょっと気に入っていたんだけどな
・・
すると教室の私の席に人がやってきた
(げ・・)
勇者ミトラである
が、特に何にも言ってこない
「・・・・」
「・・・」
な、なんだろうこの沈黙の間は いぶかしげなミトラの目を感じる
「な、なにか私、悪いことしたかしら?」
「あなた・・本当に この前のダンジョンを制覇したの?」
(なあんだ そんなことか)
「ええ したわよ」
「そう・・・」
(疑ってるのかしら・・)
「なんなら前の証まだ持ってるから ミトラにあげようか?
たしか制服のポケットに・・」
「え・・」
「それじゃあ意味ねえだろ!」
いつのまにか勇者ミトラの後ろにいた、剣士の側近ジャスパーが声を張り上げる
(う・・今日は勇者ミトラだけだと思って ちょっと優しくしようと思ったのに・・
まあ確かに自分で取らないと意味はないか)
すると
「リズさんに
僕の防衛術でさえ防げるか分からないレベルだったのですから」
(うわあ・・こっちの側近まで )
賢者リードの方も勇者の後ろに控えていたのだった
(はあ・・だめだなあ 勇者ミトラには悪いけど いじわるモードでいこう)
勇者ミトラは伏し目がちに言う
「・・あそこね 私たちが行ったら邪悪な竜がいたの
それがすごく強くって・・私たち逃げだしてきちゃった」
「邪悪なんてもんじゃねえ 初心者ダンジョンのあんなとこにいるんだから
悪意しかねえよ それにクソ堅いしよ」
(え・・あそこには邪悪な竜はいないんだけどなあ
善良な竜ならいたけど)
「え・・私がそこにいったときは
(善良な竜はいたけどね)
「え・・どういうこと」
えっ、という顔をするミトラ
それに納得したような顔をみせる賢者リード
「なるほど・・合点がいきましたよ
リズさんはあの竜に会っていなかったんですよ 最初から
あのダンジョンには竜のいない場所に最終的なクリアスポットがあって
そこで本当の証を手に入れるんです
探索ルートの危機管理は勇者の基本です
あの邪悪な竜の危険な罠を回避して本当の証をとる、
それがあの隠しダンジョンのクリア方法だったんです」
「おお! なるほどな
スライムなんて連れてるやつがクリアできるなんて
普通に考えておかしいもんな
そういや今日はいないな 腕輪も壊れてるな
使えなかったから捨てたのか? ハハハ」
「もうテイマーもあきらめたんですか 感心しないですねえ リズさん」
(ああ・・もう・・だめ、だめね
今日はアスラを連れてこなくてよかったわ
ついてきたがったけど 風車の家のところで お留守番でよかったわ)
「方法がわかってよかったわね
私はちょっと用があるから失礼するわ」
私は壊れた腕輪をもって席を離れる
「あっ・・リズ・・」
勇者ミトラは何か言いたげだったけど 私からはごめんなさいね
まあそれも勇者の試練・・なのかしらね 大変ね
・・・・
教室を出て
私はいつかのテイマーのサークルのブースに来ていた
けしてサークルに加入するためではない
テイマーサークルのブースは例のセントラルド武闘大会が先に迫っているので
あの時のやり手の先輩の呼び込みも熱を帯びているようだ
「あっ この間の子だね たしかスライムの・・」
前に声をかけてきたのと同じ先輩は
私のことを覚えていたらしくて また声をかけてくれた
「珍しいから覚えてたよ 今日は連れてきてないのかい? 寮かな?」
「はい 今日は家でお留守番です」
「そうなんだ僕のフウロ(たぶん先輩の使い魔の名前)も 今日は留守番さ」
「どうだった? 少しは腕輪も役に立ったかな」
「あの・・それが・・」
・・
(・・・)
壊れた腕輪を見せるリズ
「壊しちゃったので サークルで修理をお願いしようかと思って・・
もちろんお金はだしますから」
「ああ 腕輪は壊しちゃっても気にしなくてもいいよ これはお試しだから
でもこれ・・派手に壊したね 大丈夫だった?
この分だと腕とか怪我してるんじゃないの?」
そういって私の腕の方に気にさわらないレベルで
さにげなく怪我をチェックするように優しく手をとって添えてくる
やはりやり手のこの先輩
「ああ 怪我は大丈夫です 外してる時に
物が倒れちゃって・・」
(まあ 腕からはちきれて はじけ飛んだんですけどね)
「そっか 怪我じゃなくてよかったね
でもこの具合だと・・修理は難しいかもなあ
買った方が安くつくよこれは」
「え・・そうなんですか」
(そっかあ・・かっこよかったんだけどなあ)
残念な感じでうつむくリズ
「うーん・・・」
先輩は少しの間、考えているようだった
(・・・)
「・・あの時 君と会った時
あのスライムの子は君にとてもよくなついて見えた・・ 」
「え・・はい」
(・・・・)
すると意を決したように
サークルの先輩は足元の近くに置いてあった、
かなりよさそうな金属のケースを開けて中を漁ると
「そこで・・なんだけどさあ
これ・・どう思う?」
「 」チャキ・・
その中から真新しい腕輪を取り出して見せてくれた
(前の腕輪とは違う・・? なんだかデザインがイヴの装甲に少し似てるわね
これはかっこいいわあ・・)
「すごく・・かっこいいです」
「でしょ? これを君にあげる」
「え・・それは悪いです さすがに」
「だから・・その代わり このサークルに籍だけでも
置いておいてくれないかな たまにくるだけでもいいんだ
後で嫌だったら やめてもらっても何も言わないからさ」
「・・・・」
・・・・・
・・・
リズの腕にきらきらと輝く新しい腕輪
(かっこいい・・)
サークルに籍を置いてしまった上に
いつのまにか また腕輪を先輩に直接腕につけてもらった私
(うーん やっぱこの先輩やり手だわ)
しみじみと思いながら
その後で先輩に渡されたテイマーサークルの帳簿に名前などを書いていく
「とても奇麗な文字だね
君はリズ・クリスフォードっていうんだね よろしくね
クリスフォード家の子だったのかあ
だったらテイマーのサークルに誘われても ちょっと困ってたかもしれないね
でもスライムもいるもんね
僕はアーノルド・インボルブ、
テイマーも兼任してるけど専攻は魔法科だよ
ここにいれば腕輪のメンテナンスとかできるし 費用も安くなるから
いる分にはいいと思うよ」
「ありがとうございます アーノルド先輩 よろしくお願いします」
記帳も済んだので
リズはペンを返して腕輪のお礼と挨拶をしてブースから去る
・・・
去り際にさしかかって離れたサークルのブースの方から
リズの背中ごしに
呼び込みの交代にきたらしい別の女学生の先輩の声が聞こえてくる
・・・
「(へえーあんた またひっかけたのね
あら クリスフォードの生徒? これはいい戦力になるわ
大会も近いし もっとテイマーの学生を集めるわよ・・!)」
またひっかけたって聞こえてきたよ・・
あのアーノルドって先輩やはり・・ まあいわないでおこう
・・・
・・
テイマーサークルには結局入ってしまったね
私はたぶん幽霊部員だけどね
そして
(ああ・・お母様や お父様のおかげで私は優良生徒扱いです
でも残念でしたね私は・・)
いやでも よく考えたら私も魔法使えるはずなのよね
あの善良な竜の魔物由来の魔力もゲットしたし・・
まあ、まだ試してはないけど・・
・・・
・・・・
そして今日はまだ行くところがある
アスラと約束した星誕祭のセントラルド武闘大会の参加書類の申し込みだ
ただね・・
「ワイワイがやがや・・」
(ああ、もう結構並んでるわ・・)
書類を渡されて必要な学生情報を書いて また受付の人に渡すだけだから
申し込み自体はすぐ終わるだろう
だけど
(やっぱ人気なのね・・)
周りで申し込み用紙に書き込んでいる中等部の学生たちを見るとそう思う
お祭り気分で参加している子も多いように見える
町では少しずつ星誕祭の準備なんかもしているらしい
書き終えて列には並んでいたので
前の人の処理が終わって行列が進んだので歩き出すと
・・
「おっ 気が変わったんだな!」
リズが並んでいた列の外から陽気な声が聞こえてくる
「ゲンゴ・・?」
私に声をかけてきたのは
いつかのオジキの孫、制服天狗のゲンゴであった
「俺もちょうど書類だそうと思ってたんだよ
リズはもう終わるのか ちょっと待っててくれよ」
ゲンゴは列の折り返しのたった今、行列に並び始めたみたいだ
「あんまりは待たないわよ」
「そういうなよ」
リズの申し込み用紙の提出が済んだ後
なんだかんだ話しているうちに結局待ってしまったリズ
そしてようやくセントラルド武闘大会用の受付に
記入した申し込み用紙を提出した様子のゲンゴ
「なんだ、出ないって言ってたけど やっぱ出る気だったんだな」
「出ない気だったわよ 出る気になったのは最近」
「だって その腕輪前の違っていいやつだもんな 新調したのか?
大会用に気合いれたんだろう」
「これは・・さっきもらったから」
「ふーん そうなのか アスラは今日はいないのか?
また適当にあのちびに稽古をつけてやろうかと思ってたんだが」
「今日は留守番してるわ 風車の家にいるの」
「風車? 風車ってもしかして この学園にあるやつか?」
「そうよ 今はクロージュさんもたまに一緒に住んでるの 天狗の
知らない?」
「知ってるぞ クロージュだろ オジジの弟子だ
なんだ帰ったんじゃなかったんだな」
「あんまり家にいないけどね」
「なら今度あいさつにでも行っていいか? 一応世話になったんだ」
「いいわよ いたらね でも私はいないかもね 寮は別だから
でもアスラは居ると思うから遊んであげて」
「そうなのか ならそのときだな」
・・・
そして少し好戦的な顔を見せるゲンゴ
「リズせっかく会ったんだ また特訓に付き合ってくれよ
前と同じところでいいだろ?」
(え・・・だってわたしは魔法は・・
できるんだったわね)
「いいわよ 少しだけね」
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