第38話 勇者と立ち話

 リズが教室の前の扉から入ると


そこには近くに勇者ミトラの席があって勇者ミトラは座っていて

なにやら話をしているようだった


その前を私が横切る


勇者ミトラがそれに気が付いてまたいぶかしげにリズに目を向けてくる

なんだかイラついていた様子だ

(な、なによ・・)


今日は周りにこのクラスではない側近の男子まで近くにいてうるさい


(今度から後ろからこっそり入ろうかな・・)

そんなふうに思っていた


すると勇者ミトラに声をかけられる

でもリズが通りがかったのを見て 

さっきのイラつきの感情はさっと隠しておさえているようだった


「おはよう ねえ あなた・・それってあなたのモンスター?

あなたがもってる優れた力って、テイマーのことだったの?」


リズの肩にのっているスライムと

その制服の腕にさっきつけてもらった腕輪が鈍く光ると

あきらかにそれはテイマー志望の学生の風貌だった

(まあ そう見えちゃうか)


「おはよう いいえ だけどこのスライムの子は私の使い魔で・・」


するとそれを聞いた勇者ミトラの剣士の側近は

調子よく声を上げて話を遮ぎってくる

勇者ミトラが私によく話しかけるので私の名前も知っていて

便乗して馴れ馴れしく接してくる


「お前 スライムなんか使ってるのか?! スライムなんか弱すぎて使えないし

頭もよくねえから

かなりしつけてないとその辺のものを勝手に何でも食っちまうしで

テイマーでも使わないんだぞ」


(え・・)


そこにさらにもう一人、

別の側近の優秀な賢者の才能持ちらしい彼が


「ふふ・・一応最低限はしつけてはあるようですが

学園に持ち込んでまで そのテイマー用の腕輪をみると

リズさんはテイマー志望でやっていくみたいですね


はあ、魔法がろくに使えないからと

テイマーならなんとかなると思って学科志望する

うつつを抜かすような学生が最近ふえてるんですよね


世の中に求められているのは純粋な技量を磨いた魔法使いだというのに・・

嘆かわしいことです


聞いてますか? 始業前の休み期間中に延期にあった

全参加型の学園主催の「セントラルド武闘大会」が


なんでも運営の都合がついて1か月先の日程で開催が決まって

大会が始業をまたいだから、もう中止で1年後になるかと思っていた連中が

今頃になって慌てているんですよ


自分も参加できると不勉強なテイマーの連中が 

今さら焦ってあちこちで息をまいていて僕は不愉快だったんですよ


リズさんはそうじゃないですよね?」



「ジャスパー・・リード・・あんまりそういうこといわないで」

勇者ミトラが目をつむって静かに口をつぐむ


(うわ・・なんか情報がたくさんあって整理しきれない・・

けどこの男達、あんまり仲良くしたくないなあ・・

知らなかったけど剣士の側近はジャスパー 賢者の側近はリードって名前みたい)


(でもテイマーサークルの先輩がいってたのって・・

 その武闘大会のことだよね

あれ、たしかお祭りだって言ってたような・・)


仲良くしたくはないけど

気になった情報があったので適当に探りながら返していく


リズは気になったことを聞く

「延期になっていた「セントラルド武闘大会」? 全参加型ってなんなの?」


すると剣士の側近の方が

「知らなかったのかよ! これかなりこの学園だと有名だぜ

1年の締めの大会だったからな 

休暇のはじめの方の時期にある大会だから

さっさと休みに入るやつは関わりがないのかもな


「星誕祭」って知ってるか?

まあこの国の星を祝うお祭りだ


その「星誕祭」は毎年休暇の時期にやる祭りなんだが

その祭りでメインになってた武闘大会は中断になってたんだよな


中等部で学生が集まってやる武闘の大会だ

この学園の学生は魔法専攻が多いけど そうじゃないやつらもいる


そういうやつらにも広く門戸が開かれてる大会だから人気があるんだ 


まあ大会といっても行事色が強いから

他の魔法メインの大会と比べると賞金も控えめだな


だけど成績にも加点されるし

試合でお偉いさんの目に止まればいいこともあるかもしれないぞ 

とにかく目立つからな 

魔法に自信のあるやつや腕の立つやつはこぞって参加するぞ

もちろん俺も参加するぞ!」


「・・・」

(へえ・・その星誕祭っていうお祭りの大会だったんだ

やや意味ありげなイベント・・

それでテイマーの人が参加したがるのね

他の専攻の人もいるんだと思うけど)


「僕も参加しますよ 

試合が1か月先になって焦って技を固めたような不勉強なテイマーたちが

こぞって押し寄せているのですから


僕にとってはボーナスゲームでしょう

楽に上位に入れそうですから」


(この男たちも参加かあ・・)

そういえば


「かの勇者ミトラ・ネスライトさんも参加するの?」

聞いてみる


「あなたその言い方・・まあいいわ

私も参加はするわ 勇者としての評価をあげないといけないもの


リズ・クリスフォード・・あなたは参加するの?」


「私は今朝きいただけで出るつもりもないわ」

「そう」


「リズがか? まあそりゃそうだよな

テイマーもつかわない弱いスライムなんかで大会で勝てるわけないもんな


ていうかお前クリスフォードのくせに魔法もろくに使えないのに

テイム術とか使えるのか? どうやって使うんだ?


ああ すまんな でないんだったな まあがんばれよ」


(結局 勇者ミトラたち一行は全員例の武闘大会にでるのかあ

まあ私には関係ないわね

ていうか私出ないって言ってるのに散々な言われようね)


「(・・!)」プル・・

(アスラ・・ちょっと怒ってる・・? アスラのいる肩がすごく熱い)

熱をおびていたアスラを少し撫でる


(受け身でいると まだ大会の事で話しかけられそうだなあ・・

少し話をそらすか)

賢者の側近の男がまた私にネチネチなにかいってきそうな雰囲気だったから

早めに切り出しておく


「そういえば今日はなんで3人一緒でいるの?」


「ああ・・それは・・これよ」

勇者ミトラは机の上に「赤い印がかかれた紙」を何枚もずらりと並べてだす


(パサ・・)


「これって・・全部ダンジョンの制覇の証?」

「そうよ」


(うわあ・・けっこう数がある そういえば休日にダンジョンをまわって

パーティで集めてるとかっていってたわね


側近の男たちはあれだけど やっぱり勇者パーティって優秀なのね・・)


「勇者ってやっぱりすごいのね これだけあの休日で集めるなんて

でもそれがどう関係あるの?」


「ダメっていわれたの」

(ダメ・・?)

「この辺でいわれた場所の証はちゃんと取ってきたわ

実力的にも問題ないダンジョンだったもの 大変だったけど集めきったわ


だけど足りないっていわれたの これはこれで評価できるけど

正当に評価はできないっていわれて 

メリカドアドに聖ソウル法典所属の勇者のこの地域の支部があるんだけど

突っぱねられたの


それで反省というかパーティメンバーで見直しをね

けどどうにもなってないわ だって証は足りてるんだもの」


「・・・」

(そのせいで最初見た時イラついてたのかな・・

なんかへんなところをつついてしまったなあ)


「  」

勇者ミトラに見せてもらった証をまんべんなく見ているリズ

制覇の証に書いてある謎の記号のような文様は

制覇の証ごとにそれぞれ違う文様が刻まれていた


(なんだろう 全然読めはしないけど文字のように見えないこともないし

並び変えたら何か意味のある言葉とかになるのかしら・・?)


(!おや これは・・)

そこで少し気が付く


困っているようだから親切心をだすか

「1つ足りてないのがあるわ」


「なんですって・・」

「おい リズ適当なこと言うなよ」


「これよ」

リズは勇者の数ある証の中で

セントラル学園南のダンジョンにあった証をピッと手にとる

「? 足りてるじゃないの」


リズはしわくちゃにして まだ上着にはいっていた、

学園南のダンジョンの

広げて机の上に出して見せてあげる


「!」


「これは・・たしかに別の印がかいてあるわ

だけどあなたが行ったのは南のダンジョンでしょう 他にも行ったのかしら?

確かに会ったわよね 私たち」


「そうなんだけど あそこには偶然見つけたけど

勇者だけに教えてもらえる隠しダンジョンがあったのよ 

その勇者の支部からなにか聞いてなかったの?」


「まじかよ」

「え・・いや・・何か言ってた気がするけど

 私が急いでたからよく聞いてなかったわ・・


 で・・ あなたはそこを制覇したのね?」


「したわよ」


それを聞いてしめたとばかりに勇者の剣士の側近が


「なんだあ!こいつでも制覇できたんなら

そこまでいけば楽勝だな お前とちんちくりんがいた あそこのダンジョンだろ?


魔物もいなかったところだよな 

こいつが見つけたんだから道もすぐ見つかるだろ

ああ なんだ心配して損したぜ やったなミトラ」


「え、ええ・・ありがとう・・リズ」


「休みまで待たずとも 授業の帰りでも行けそうですね」


どうやら問題は解決した様子だ

「よかったわね 見つかって」


勇者ミトラがなにかいいたそうだったけど

ちょっとアスラの様子がおかしいから もうここにこれ以上

立ち話はやめておくことにした


「ガタン!」

さっきの話の要点はもう済んだだろう


私はその場から自分の机ではなく

教室の外へ出ていった

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