第36話 合体!

 「リズ・・アスラが・・」

「(・・・・)」

ダンジョンからネロの風車の家に帰ったのだが

ネロはアスラの様子があまりよくないのだという


アスラが怪我をしたという足は小石が勢いよくぶつかったくらいの程度で

体液がでて軽傷だったらしいけど


家に帰ったときには

ミスラの回復魔法とネロの回復魔法を重ねてかけていて


(ネロも基礎回復は使える ただし もうすでに

適性のあるミスラのほうが上だという ネロは遠い顔をしていた)


軽傷だったので すっかり足の傷の方は完治していた


ただ問題はメンタルの方なのだという


(シュン・・)ズーン・・

アスラはすっかり気が弱ってしまっていて

リビングの部屋の隅のほうのソファーに

ちょこんと座って下をむいて丸まっており、 

隣にそのアスラをはげますために2体のスライムがくっついている


キスラがスライム形態でアスラの頭の上にのっていて

ミスラも同じ形態でアスラの胸元に抱きかかえられていた



「なんていうか運がなかったわね・・アスラは」


私の口からでた言葉に私ってあんまり気の利いたなぐさめる才能って

ないんだなあって思っていた


「ごめんなちゃい・・」

うつむいたままアスラがよわよわしく答える


「いいのよ 気にしないで アスラが無事ならそれでいいのよ」

「・・・・」


(しかしなあ アスラも結構歩いて行っちゃったみたいだけど

幼くして進化してちょっと迷って

出くわしたのがアレってほんとにかわいそうになってくるわね


冒険初心者があんなクソほどでかい竜に会ったってだけで失禁ものなのに


試練の設定で極力当たらないようにされていたとはいえ

あのメオテライテなんとかとかいってた明らかにただことじゃないすごい魔法を

真近でその竜ににらまれながら 

とんでもない爆音と一緒に嫌がらせのようにみせつけられるなんて


ほんとアスラにトラウマにならないといいんだけど・・)


(ちょっと心配だなあ・・明日から学園の授業だから

私は寮舎に一度帰らないといけないし・・)


「あ、そうだ ネロ、 ネロの服ちょっと貸してもらえる?」


「え、何に使うの まあいいけど・・シャツとズボンだけでいいの?」


「上着と帽子もいいかな」


「わかった ちょっとまってて」

・・・・・

・・・


「おねえちゃん・・」

半ば無理やり服に着せ替えられたアスラの姿


「うーん やっぱり着せれることは着せれるけど ブカブカね・・」


ネロの服はアスラに着せたのだった


「アスラに着せるつもりだったんだ なら最初からいってよ

もうちょっとかわいい色の服にしたのに」


「え、ネロ、かわいい服があるの?」

「・・いや 色っていったじゃん 暖色系の服とかあるしさあ・・適当に選んだから

色もバランスもまちまちだよ」


「でも結構似合ってるわね」

「まあ小さいからね」


「で、これでどうするの?」

「明日から授業だから 今日はアスラをわたしの寮に持って帰るわ」


「リズのとこってペット駄目なんじゃないの?」


「いや それは聞いてないだけだから わからないから

それに今までもアスラたちのこと隠してたわけじゃないから

普通に一般の使い魔として見られてたと思う


それに服を着て全身隠しているから親戚の小さい子がきた設定でもいけるわよ」


「そっか」

「え・・おねいちゃ・・」


・・・・

・・

リズの寮舎の部屋にやって来る前


アスラを連れて普通に寮舎まで歩いていく

というか意識して周りをみると ちらほらだけど使い魔を連れている人がいる


いざ寮舎までの距離を移動をするとき


「あ、あたちじぶんであるくの・・」

抱っこをしようと思ったけど アスラは自分で歩きたがったのだった


「そう・・?」


・・・

そうしてしばらく歩いていると


「あっ!」

(しまったわ)

ズザ・・(ベチャ!・・・・)


道を知らないアスラに先に歩かせるわけにもいかなくて

よそ見をしていたらアスラがズボンもブカブカなせいで

つまずいてしまい 

その時手をついてケガをしてしまっていた

「・・・(クスン)」

泣きそうにして でも我慢しているのか黙ったままアスラは倒れていた


(・・・)

(アスラは女の子だけど やっぱり男の子の気質だなあ、


頑張るのはいいけども・・)


服がブカブカなので歩かせるのはやっぱり危ないなあと思って

今度はひこずらないように

そこからはアスラは手で拾い上げて抱っこしていく

じんわりと暖かい 


寮舎の入り口前を通る時にも施設の管理をしてる人にも 

ちらりと見られて挨拶されるだけで特に注告もなにも言われなかった 

まあ服も着せてあるしね


・・・

そういうことでアスラは無事寮舎のリズの部屋まで運ばれてきたのだった

(怪我しちゃったけど)


「ここが私の寮の部屋よ

手はもう来た時に洗ったから絆創膏もってくるからね 

それからちょっと明日の支度とかするから 1回ベッドに降ろすわね

アスラもこの部屋で自由に動いていいからね」

「・・うん」


アスラは抱っこしていたので適当にベッドにおろしておく

手のひらがやはりちょっと擦りむいている 


もってきた絆創膏は人間用だし応急でしかないけど

アスラの手のひらにペタリと貼り付けておく

そのあと私は少し溜まっていた雑用などをする


・・・

リズが雑用を終えてベッドのところにもどってくると

アスラはしょんぼりとしていて丸まって座っていて

ずっとその場で動いていなかったようだ


「アスラ 一緒にお風呂入るからおいで」

「え・・おねえちゃ・・」

「アスラは水とか お風呂はだめだった?」


「ううん・・だめじゃないよ」

「じゃあ決まりね」

そういってリズは手を出す 


(・・・)

「うん リズといっしょにいく・・」


アスラは小さい手で

差し出されたリズの手の指をつかむとベッドから降りて

リズと一緒にリズの部屋のお風呂場についていった


・・・

お風呂場の前の洗面室


「アスラ ネロの服は一着しかもってこなかったから

その辺においておいてね 

あとで施設の人にウォッシュの魔法かけてもらえるから」


(・・・)

アスラが小さく慣れない服を脱いでいっている時

先に脱いであったリズの服の上に リズの今胸から外した下着がパサリと積もる


それを見て

そのリズの衣服の隣にこんもりと脱いだ小さめの服をアスラが積んでいく

それがすむとリズに促されて洗面室から浴室に入り体を洗う


・・・

(ジャジャー・・)


浴室で体を洗っている


「アスラは魔物で火属性だけど 

お水つかうシャワーでもこういうのは大丈夫なんだね 

なんでろうなあ やっぱり魔力があると違うのかしらね」


「流すから目をつむって しみるなら手はよけておいていいから」


リズはアスラを台に座らせて 後ろから石鹸で泡を立てて体を洗って流していく

リズがのん気そうに独り言をいって体を流している間、

(・・・)

アスラはじっとだまって

いわれた通りしっかり目をつむっていた


アスラには頭にアホ毛みたいな不思議なクルクルがあるんだけど

そこはシャンプーをしてもクルン!と元に戻る



・・・

湯気が立ち上る湯舟


体を洗い終わってリズが先に湯船に入る

「ザブウ・・」「(あっ・・・)」

ちょっとお湯を張りすぎたのかリズが浴槽にゆっくり体をつけると

お湯がけっこう外に流れていってしまった 湯気がひときわ多く立つ


(あら・・)

アスラはまだ湯舟に入らずにしっかり目をつむって

全身を濡らして突っ立っているのだった


「アスラ、まだ目をつむってたのね もういいのよ洗い終わったから

おいでアスラ あったかいわ」


少し慌てたようにしたけど アスラは黙ったまま

浴槽側にテチテチ寄ってきて段差がちょっと大きくて

体が小さくて足をあげても入りにくそうだったので両脇を抱っこして

湯船のリズのところまでアスラを持ってきてのせる


「ザブウ・・」

抱っこしていれたアスラの体積のぶんだけ お湯がまたお風呂からあふれ出す


「ふう・・あったかーい・・ 今日は疲れたからいいわあ・・」

(・・・・)

胸元にぴったりアスラがくっついているが このあったかいお風呂の中でも

アスラの体は若干あたたかいらしく


アスラのじんわりとした温かさはリズの肌に直接伝わってきた

でもアスラは下にうつむき気味で ずっと黙っていた


・・・

お風呂の水の音と

リズのゆったりした呼吸音とアスラの細かい呼吸の音だけが

湯船の空間に反響して少しだけ響く


(・・・)


「アスラ・・黙ってばかりではだめよ 元気になって・・」


リズはそういうとアスラに添えていた腕でそっとアスラの

体を包んでゆっくり抱きしめる


「おねい、ちゃ・・」


「くわしくおしえて 今日アスラが思ったこと 

私 アスラの事 もっとききたいわ・・」


「うん・・」


・・

アスラはつらつらと話し始める


はじめはみんなの役に立ちたかったんだけど 立ててなかったこと


はいべんシーンをみてしまったこと

でも勝ったこと

あたしはつよいなとおもったこと もうこわくなくなったこと


だからふぁいやーぼーるをうてばつよくなれるんだっておもったこと

でもたべられてしまうとおもってすごく怖かったこと


すごい音がして こわかったこと 足が動かなくなってこわかったこと

でもみんなきてくれたこと でもこわかったこと


「・・・」

アスラが話し始めるとずっと泣いていたので

リズはそっと頭をなでて聞いている

(排便・・?)


でもこの子は話し始めると魔物とは思えないほど感情が豊かな子で

悲しい時は本当に悲しげにものを言う


「こんな、こーんなね・・、」パチャンパチャン・・

言葉こそはまだまだ拙いけれど

小さいからだでも手を広げたり全身をいっぱいに使って感情を伝えてきて

その素直な心が不思議とすんなりと伝わってくる


「うんうん そう、そうなのね・・」

(・・・)

「・・・」


「・・・?」



「でも・・リズ・・あたしよわかったの・・つよくなかったの・・

よわいからぜんぜんだめになっちゃったの・・


リズみたいに、なりたかったのに・・

あたし・・つよくなりたいの・・」


(ふーん・・、やっぱりちょっと変な子ねえ・・

でもなんだか・・)


「なれるわ・・なれるわよ いつも頑張り屋さんのアスラなら

きっとなれるわ」


「ほんとう・・リズ?」


「ほんとうよアスラ」


リズはアスラをまた優しく抱きしめる




・・・・

「だけど・・先にやってしまったのはいけなかったわね

あの竜がいってたけど けっこう強い魔法でないと気が付かないみたいなのよ


だからアスラの魔法はけっこう強いのよ」


「えっ!そうなの」


「そうよ でもあの竜は聞いたところ性格悪いけど

 けして悪いことはしてなかったみたいなのよ

初心者ダンジョンにあんなの仕掛ける地点で性格悪いに決まってるけど・・



だから・・


今度いくときは あやまりにいこうね 一緒にあやまるから」


「え、こわい・・でもわかった」


「だいじょうぶ 私がいるから怖くないわ」


「うん リズといるからへい・・き」

(あ・・・)

「アスラちょっと目がとろんとしてるわね

のぼせそうだから そろそろあがりましょ」


「うん」


こうしてリズとアスラは湯煙のお風呂からでたのであった


・・・・

・・

リズの部屋のベッドの上


「リズは・・またムシをつくって、いるの?」


湯上り後のアスラはベッドの上に一緒にいて

端からセミたちをまん丸い目で見ている

(あっ見えてるんだった)


「ええ・・そうよ これをしないと落ち着かないのよ」


中毒者みたいな言葉だったけどそういうわけではない


リズは普段ゲームをしていないと

指先の感覚を失っていくような気がするのが嫌だった

だけどこの作業に集中していると

それ以上の感覚が研ぎ澄まされているような気がする


わきわきとベッドの上を徘徊している抜け殻たち

今日は関節部を意識して仕上げたから精密さもあがったのか

よりリアルさに磨きがかかり動き方もよりリアルだ


よりリアルになったそれを目の前で 

「ぐわしゃっ!」っとアスラが掴みあげて無邪気に遊んでいる

ぐわしゃっ!の瞬間 

動いているセミがぐえ~!ってちょっとのけぞえるため楽しいらしい


「あんまりいじめないのよ」

「ちゃお~」フンフン


お風呂で心の中を洗ったので

もうだいぶアスラは元の調子に戻っているようだった


アスラがケガをした方の手でつかんで そこでセミが暴れているので

お風呂に入る時に絆創膏はもう流れて外れてしまっていて

でももう痛くはないみたいだけど

ちょっとまたアスラの血というか体液が出てこないか心配になるけど


(あ、そうだ)

「アスラほら役に立って 手伝って」


「うん やくにたつ」


合体の意思を察したのか その場から逃げるために暴れ始めるセミの抜け殻

アスラに捕まっている方も逃げようと暴れているけど


前に手伝ったことがあるから逃走癖に慣れていて 

アスラはしっかりセミをつかんでいる

ちょっとセミが達観して諦めかけているように見える


アスラの手と私の手が合う


「がったい!」


(コロン・・!)

合体は成功し

逃げようと暴れるセミの抜け殻は今日も見事なパーツになったのだった


「やくにたったよ!」



・・・

「スピー」

・・でもしばらくするとアスラは

作業の途中で疲れて寝てしまったのだった


(あーらら 寝ちゃった・・)


寝るときにお腹がよく膨らんで上下するので分かりやすい


ちょっとアスラの投げ出した小さい足の裏を指でつつくと

無意識でも反射で器用に

足の指で「キュッ」とつついた指を握ってきてちょっと面白い 


「キュ・・」(ピト・・)


(フフフ・・)

でもあんまりやると起きちゃうといけないからちょっとだけ



アスラは離脱してしまったけど

それまでアスラが手伝ってくれたおかげで

饅頭マンのパーツづくりがはかどった


・・

ベッドに散乱した今日作成した分のパーツたち


(あれ・・・)

ところどころ全体がやや赤いパーツがある

でもほんの少し他より赤いだけだ 


(アスラの血がついちゃった?

でもそれならパーツ全体が染まるはずはないし・・)


(まあいっか)

・・

「さてと・・」

そのときはさほどは気にせず 

できあがったパーツたちをリズの手の中にしまい込んで

部屋の明かりを消し

リズも先に寝たアスラと一緒にベッドで寝るのだった

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