第33話 ファイヤーボール?

 「ちょっと危ないから こっち側にいてね

  いけ! ファイヤーボール!」


ネロの杖が光り 形成されたファイヤーボールが前方に飛び出す

 少し先の木に当たって プス・・と消えて


・・(シュウウ・・)

火があたった木に少しだけ焦げ跡を残した

スライムたちはネロの魔法を見て大喜びで跳ねている

「ネロすごおい!」


「へへ・・まあこんなもんさ」


ネロはちょっと照れていた

ネロと出会ってから

ネロがファイヤーボールを撃ってろくなことになった記憶がリズにはなかったので

素直に(よかったねネロ・・)って思った


するとしかし・・


「・・ふぁいやーぼーる!」


水色のミスラがネロの真似をして発声する

その瞬間 なんとミスラの手から水の弾がでてきたのだ


明らかにファイヤーボールじゃないけど魔法は発動している

ミスラも自分でちょっとびっくりしたのか水の小さな塊はすぐ手前に落ちた


(ばちゃり)


「え・・!」

ネロがちょっと驚く

立て続けに声が起こる


「ふぁいやー・・ぼうる・・!」

今度は黄色のキスラが真似をする 少しおっとりとしている

するとこれは・・ (パリパリ・・!) 雷の魔法だろうか


これも明らかにファイヤーボールではない

だけど魔法が発動するとしっかり前に飛んでいた


魔法はふつうに進んでいって でも地面に落ちてパリ・・と消える


(えええ~)

聖セントラル中央魔法学園の授業で

雷の基礎魔法を前に飛ばすことができなかった私はちょっとショックをうけていた


いやでも この子は明らかに電気属性の魔物の子だから・・

でもファイヤーボールって・・


詠唱は起動する魔法を強く意識するためのものだから

ちゃんと発動するものが頭の中で分かってたら

実際は何しゃべってても関係はないのかもしれない


関係ないのかもしれないけどさあ・・



「(スッ・・)」

赤色のアスラも両手を前に突き出す

(赤い色・・この子はもしかして・・)


「ファイヤーぼうる!」

スライムたちの中で詠唱の発音が一番近かった

けど別に他の子たちが適当にいって他の魔法が出てくるあたり

詠唱とかやっぱ適当でいいんじゃないかと思い始める


だけど目をみはるのはその威力だ


魔法が発動した途端に両手より大きな火球がでて

それがまっすぐ飛んでいく ネロが少し焦がした木のところまでいくと


「バジュウ・・!」

と小規模な爆発を起こして しばらくその場で燃えたあと

けっこう広い範囲を焦げ跡にして炎は消えた


一瞬で上書きされてしまったネロの焦げ跡


「・・・・」


(キャッキャ!)

スライムたちは無邪気にその発動をピョンピョン跳ねて喜んでいた


けどネロと魔法がろくに使えない私は

その場でちょっとショッキングな感じになっていたのだった



・・・

・・・・

魔物が一向に現れないので 

もうちょっとダンジョンの奥に進むことにした

移動して歩きながらネロと少しさっきのことについて話している


「あれは・・どういうことなんだろうね

モンスターが魔法を使うっていうのは普通にあることだけど


あのスライムたちは最初なにかできたのかもしれないけど

よくいわれている普通のスライムの酸攻撃もできなかったのに」


「やっぱり見た目が変化したことが関わってるのかしらね

饅頭マンの力で強化されたのかも」


「そうだと思うけど ちょっと僕はショックだったなあ・・

他の属性の攻撃もそうだけど


火属性適性なんだろうね アスラは

ファイヤーボールに適性がすごく高かったんだと思う  はあ・・」


ファイヤーボールを披露して思わぬ精神的カウンターを受けてしまった様子のネロ

めげずに頑張ってほしいものだ


いや私もそんな言えたことではないけどね 

未だに魔法ろくに使えないからね


・・・・・

・・・

ダンジョンの森の離れたところまで来ると魔物がまたちらほら出始めたので

今日は方向キーの感覚を慣らしつつ他のキーも見出していきたい


なぜかやる気のあるアスラたちには悪いんだけど

近くに予期せず魔法が飛んで来たらちょっと危ないから今はやめてもらって

応援係に徹してもらう 


だけどそのとき 

「ふゆ・・」

アスラは少ししょぼくれて不満げにしていたように見えたけど

言われた通りに応援してくれていた


ネロは

「せっかくダンジョンにきたけど 

リズは全部モンスターを飛散させてしまうから素材がまったくとれない」

って嘆いていた


でもたまに薬草やキノコは生えていて そういうものは採取していけるらしい

ここには全くないけど他のダンジョンにいけば 

たまに箱や宝箱のようなものが落ちていて


アイテムや貴金属、貴重な宝が手に入ることがあるらしい

ダンジョンってそういうものらしい


ダンジョンを冒険をしている人は

そういう採取とモンスター討伐や依頼で生計を立てているんだって


(冒険者自体は大変そうだから私はいいやって思っているけど

お宝ハンターの人とかがたまに素材の査定とかしてるのを見ると 

そういうのはちょっと憧れている私)


・・・・

・・・

そんなこんなで今日もダンジョン探索は終わり

ネロの風車の家のリビングで休んでから


風車の家であてがわれたリズの部屋に移動して

ライフワークのセミの抜け殻作りをする


・・

ただここで気が付いたことがある


抜け殻たちの大結晶体である饅頭マンを作成したけど

アスラたちに事故で即消費してしまったので


また精巧なセミの抜け殻から どんどん生産していくんだけど

限界を感じるラインがほんの少し上がっていると感じた


(あれ・・これは まだいける・・?)


心当たりは寄生饅頭マンの力でアスラたちから吸い上げている、

相性のいい魔物由来の魔力だった 


それは私の寄生魔法自体として直接作用しているわけじゃないんだけど

私の中でぐるぐると回っていて

イメージした抜け殻の作成を助けている


私はぐるぐると回っている魔力を少し意識して手の方に持ってくる


(ん・・なんか邪悪・・といってはなんだけど

扱いやすい感じ でも体の中を回っているときから邪悪だったわけではない


なんというか

その魔力を使って私の体から力に変えて出力されるとき

それが私の魔力として邪悪になってるみたいな

え、なにそれ いやな感じ・・

まるで私自体が邪悪みたいな いやそんなはずは)


「ズズ・・」

リズの手の周りに漂う 少し闇のかかったような魔力のオーラ

意識を止めるとそれはすぐ止まって出なくなった


(・・・・)

この感覚・・待てよ・・


今まで魔法を使おうとするのに人間の魔力というか

普通の私の魔力を消費していたけど

そっちではなく この魔物由来の寄生魔力を使ったらどうだろうか


相性がいいと感じているのだから 扱いは人間の魔力よりは簡単になるはずだ

そう思った私は


また その意識を手に戻す

使う魔法は聖セントラル中央魔法学園の授業で失敗した 基本雷魔法「エレキ」


「・・・エレキ」

すると

「ピシリ・・ピシ・・ズズ・・」


(!お・・)

発動・・した

部屋の中なので手加減はした でも扱いは前よりすごくスムーズだった

これを前に突き出して出力をあげたら 

もしかしてもしかしたら前に飛びそうだ


だけど・・

「黒い・・・」

そう なんか授業でやった普通のかんじの雷魔法の明るさではなかった

これはエレキ・・なのか?でも ピシっていってるし

エレキ・・かも 


やたら黒いけど・・ ズズ・・って変な音もするけど


少しあのスライムたちのファイヤーボールのことを思い出す

あのスライムたちは超適当な詠唱でファイヤーボールではないものを出していた


まさか これもその一種・・なのだろうか

色々混じったまがいものって感じもするけど


いやでも私はエレキをつかえた これは使えたカウントに入るはず

「ようし・・」

今度はもう少し魔法にも力を入れてみようか

今日分かったことも非常に満足な内容だったけど・・


(う・・、)

「だめだ・・この魔物由来の魔力をつかうと

今の限界値よりもう少しいけてた分の魔力がもうなくなってたわ・・


・・、眠い・・」


リズは久しぶりに また変な体勢で変死体のように

抜け殻だらけでベッドで眠りについたのだった


・・・

次の日

朝なかなか起きないので私の部屋に起こしにきたネロから

悲鳴が聞こえてきたのだという

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