第28話 リズの感覚トレーニング
「うーん・・困ったなあ・・」
とりあえずしくしく泣いていたネロは抱き起して膝枕をして
森ゴブリンに直接いいパンチを入れられてしまったお腹を撫でてあげている
ネロが飛び掛かっていった時に
置いていったでっかいリュックは持ってきたけど
その中身を見ると
(うわあ・・!お菓子ばっかり入ってるわあ・・
一応ダンジョン用のものも入ってるけど お菓子の量がとにかく多いわあ
やっぱり君は食いしん坊なんだよ)
「(ガッチャガッチャ・・」
お菓子類が邪魔で中身を見づらい
医療品を探しているけど包帯くらいしか今の所見つからない
もしかしてお菓子を食べて体力を回復しようとかそういう感じじゃ
「まあでもちょっと痛がってるくらいで済んでるから
今はこうやって撫でて休ませてあげるくらいで大丈夫かしらね・・」
「うう・・」
すると さっき身を寄せ合っていた魔物のスライムの
これが3匹 それぞれ別々の色で 赤色 水色 黄色 をしていたんだけど
そのうちの水色のスライムが
今までそこから離れなかった大きな石の前の白い器の中から外に出てきて
ネロの方にぬるぬるとやってきた
(あれ・・このスライムやっぱり危ないのかしら
まあ弱っちそうだから なにかやらかしそうだったらやってしまえばいいか)
(ぴと・・)
水色のスライムはそのままネロの方にくると
その場でよりそうというか ピッタリと身をよせていた
リズは若干警戒していたが
(くっつくだけ・・? 魔物のくせに襲ってこない
一応ネロが最初にかかっていったことはわかっているのかしらね・・)
なにも危害を加えないのであれば放っておいてもいいかと
リズはそのまま放っておく
・・
するとリズが何もしないということがわかったのか
震えていた残りの赤色と黄色のスライムが
(きゅ・・)
これもぬるぬると 白い器の中から外に出てこちらにやってくる
黄色のスライムは先にくっついていた水色のスライムの近くに
ぬるぬるやってきてくっつく
「ぴと」
赤色のスライムは なぜかリズのほうにやってきて
座っていたリズのお尻の方にくっつく
(私・・?なんかへんなのになつかれたなあ・・
いやこのスライムたちはいじめられてたみたいだから
安全なところがほしいだけなのかもね)
・・
そうやってしばらくしていると水色のスライムが
ジャンプというか飛び跳ねてネロのお腹の上にのる
(わっ・・)
今までぬるぬる動いていたので びっくりしてリズは手はネロから離したけど
危害を加えるかんじではない
「あっ・・ちょっと、ひんやりする・・」
ネロがつぶやく お腹がひんやりするらしい ちょっと余裕になってきたか
か弱いけど意外と丈夫なネロ
獣人の血が入っているから人間の体よりは丈夫なのかも
悪くはなさそうなので またほうっておく
「・・・」
(お尻についてる赤色のも近いからせっかくだし触ってみるか)
ちょっと思いつく
「(さわり)」
ふーん ぬるぬるとはしていない 逆にスベスベ
ちょっと肌触りが気持ちいい
手にはつかない プルンとした感触
こっちは水色のと違ってジワっと あったかいかんじ 赤色のせいだろうか
(プルルン・・)
触るとちょっとだけプルプルと反応する
(そういえば飛散させたやつ以外で
野生の魔物にまともに触ったのはじめてだなあ・・)
まともに触る前に肉塊になってしまったからね 今までのは
とはいえ私が膝枕したままでは ほんとうに丸腰になってしまうので
いつまでもこのままでもいられない
ただネロも見た目けっこうがっつりいいパンチを貰っていたので
もう少し休憩に寝かせておいてあげたい
ずっと荷物も背負ったままだったしね
「ガシ・・」
「ぴっ・・」「きゅ」
私は近くにいた赤色スライムと黄色いスライムを適当につかみあげると
私の膝横にもってきて
そこにネロの頭を少し持ち上げて
私の膝からずらしてその2つのスライムの上にネロの頭をのせる
(それっ・・)
ちょっとスライムは抵抗していたけど おとなしくネロの枕になる
お腹に上にのってた水色のやつは放置しておいた
膝上があいたのでリズは すくっと立ち上がる
若干不安そうなネロ
「リズ・・どこかいくの?」
「いいえ いかないわ けどここは魔物が出るから座ったままでもいられなかったの
もう少し休んでいていいわ ネロは祠のところでもあまり休めてなかったから」
・・
辺りを見渡す 近くには飛散した元ゴブリンがあるくらいで特に変わりはない
でも遠くから魔物らしき声は聞こえてくる
(さて・・)
リズは考えていた
今までは出会った魔物を適当にイヴパンチで飛散させてしまったわけだけど
せっかく今 私は念願の自由にイヴの力を使える状態にある
そして今 魔物がいる環境にいる
いままでの感じからいうと魔物がいるところにやってきたから
イヴの力が呼応して使えるようになったのかもしれないけど
「(試したいな・・Pコマンド以外の戦闘コマンド)」
そもそもオリジンに他のコマンドはけっこうあるんだけどね
それが連打とかPコマンドだけで今までけっこうなんとかなってたって
Pコマンドの有用性がわかる
格闘ゲーム初心者がとにかく強い単品技連打で
序盤の敵を倒していくみたいな
でも私は組織ロストオリジの実験施設で下級ランク判定だったとはいえ
世間一般的には強い方のプレイヤーだった
組織によって選別された実験体の人間は
オリジンのキャラ操作に極めて向いているような
神経系統の才覚を持った人間に偏っているんだ
ゆえにPコマンドだけではなくて
もし他のコマンドも使用可能ならばしっかり充実させておきたい・・
これは私というゲームの戦闘人間としての
まずは基本的な・・
方向キー? これが使えなくて「対空強ナユラ砲昇破・滅」が撃てなくて
あの大天狗オジキに惨敗してしまって非常に悔しい思いをした
でも方向キーってなんだろうなあ
そもそも→↓↑←ってどういう体の感覚で使えばいいんだろう
技として使えないっていうことはそれ以前に何かがあるはずだ
(普通に考えれば・・移動?方向?、、ちょっと意識してみるか・・)
「前に移動しながら普通に・・パンチ」
(シュッ・・)
空気に空ぶるリズの腕
「うーん、なんか違うなあ しっくりこない・・」
「前に移動しながら普通に上に・・パンチ」
(シュッ・・)
ひらけたダンジョンの青い空にうつるリズの腕
「うーん・・なんかなあ・・ これもなあ」
「・・!」
すると上空から小柄なハゲワシのような茶褐色の鳥の魔物の姿が見えた
そのままこちらに近づいてくるようにみえる
(あれ・・あの魔物 こっちにきてる?
ハゲワシっぽいからさっきのゴブリンの死体が近くに飛散したままだから
かぎつけてきたのかも)
「ギキイイイイ!」
と思ったらやっぱ私の方に来てる
その嘴と鋭い爪をリズに向けて空から急降下してやってきていた
(ちょっと目が合った気がする・・)
それでも私に撫でられたくて空からやってきた説を考えてみたけど
よだれが垂れてるのが見えたから まあ違うのだった
なんでだろう 私ってやっぱおいしそうなのかしら
(でもなら試す いい機会!)
ハゲワシが襲ってくるタイミングに向かってリズは拳を合わせる
「ハゲワシに向かって前に出ながら普通に上にパンチ!」
うわあ こんなダサい名前の技存在しないよ・・
だけど今度は相手がしっかりいるせいか手ごたえがある
「ギフィッ!」
「(ズシャアアア)」
前に勢いをつけて上にパンチしたせいで
ハゲワシの魔物は飛散しながら後方の空へ飛んでいく
飛散したハゲワシが私の先の方にバラバラに落ちていく
ハゲワシの魔力の光が散っていく
(ほっ・・、真上じゃなくてよかった・・)
「ズ・・」
それより今は感じた手ごたえの感覚の方だ
手ごたえが襲ってくる なにかがほんの少しスムーズになったような
Pボタンを解放した時も思ったけど
ゲームのコマンドの感覚を体で体現するって不思議な感覚だ
だけどまだコマンドでつかえるようなスムーズさではない
Pコマンドのあの脳でなぞったようなしっくり感
昔ロストオリジの実験施設で繰り返し繰り返しなぞった様な
脳に焼け付くような強力な神経系の反復試行
それに近づく 意識を近づかせていく
「ギエエエ!!」
ハゲワシの飛散した肉塊を察知してまた何かの魔物がこっちにやってくる
(はっ・・これはまさか永久機関が)
のらない手はない
魔物たちは最初こそ飛散物におびき寄せられてやってくるものの
(あ・・また目が合った気がする)
途中でリズをみると やはり美味しそうなのか
ターゲットを切り替えて全部こっちにやってくる
「ウオオオ!」
上空だけではなく 森からも草の中からも魔物は
え、こんなにいたの?っていうくらいワラワラ出てきて襲いかかってきた
(げ・・!)
俗に言うハイパー入れ食い状態
外からやってきたリズの若くて美味しいお肉を求めて次々に殺到する魔物たち
私もそんなにいっぱい相手をするつもりじゃなかったけど
(うわあ ちょ、ちょっと・・!)
パニック映画ばりに相手がすんごい涎を垂らしながら
私の脛に吸い付こうとしていたのでそんなこともいってられない
反射神経も鍛えられそう
「パアン」
いつの間に近くに盆栽みたいな小さい木があったと思ったら
それもよく見たら私の養分?を吸おうとチュウチュウしながら襲ってきた魔物で
びっくりして咄嗟に爆散させてしまう
(動物系だけじゃないんだなあ 気を付けないと)
普通の動植物と魔物との違いは生命を維持する機能の根幹が
魔力に依存しているかどうからしい
だから植物とかでも魔物扱いの種類もいる
(木みたいな魔物はその時は名前は分からなかったけど 後日ネロに聞いたら
それは歩き樹ゲルベミジュラリオっていう
よくわからない植物のお化けのような魔物だった)
・・
「バシャアア!」
そうして
しばらくはリズを襲いにやってきた魔物を
コマンド感覚の訓練しながら爆散させ続けたのだった
(どくん)
体が動く
私の体は今までは眠ってばかりで
あまり運動の機会は途切れてしまってなかったけれど
ずっと起きていられるようになった今
その解き放たれたリズの肉体は
実は悪くない運動神経を持っていることに気が付く
コマンドで複雑な動きをイメージで捕足できるのもあるのかも
それとも今までよく寝て
体が将来に備えてしっかり育っていた分もあるのかもしれない
・・・・
・・
「ふう・・」
なんとか最後まで集中して脛をかじられずに済んだ
そろそろネロも動けるようになったかなと
切り替えをしようと最後の魔物を飛散させる
(ふむ・・)
けっこう慣れてスムーズになった感触 これはいいかんじ
次の魔物がやってくる前にそろそろ退散しよう
「ネロ そろそろ動ける?」
「動けるよ・・もう大丈夫だから荷物も持てるよ
リズはすごいね
途中から魔物が漏れないように一応 僕も杖もってたけど
全部倒しちゃったね」
「あらそうなの? じゃあもどろっか」
「うん」
それまでネロの枕になっていた魔物のお饅頭スライムたちは
時間がきて用済みになったので 掴んで適当に近くの茂みに軽く投げて放っておく
(ポイ ポイ)
「きゅ~」
(~~~プヨンプヨン)
「バイバイ」
(今度はいじめられないようにね)
・・・
そこまでダンジョンの奥には来ていなかったので道に迷うこともない
道はないけどなんとなく覚えのある場所を戻っていく
・・・・
そして問題なく元きた異次元の洞窟の穴の前にやってきた
今日は感覚的にかなりいい収穫を得ることができた
これから寮に帰って何をしようかなと考えつつ
ダンジョンの森のエリアから引き上げて
帰りの洞窟の穴の先に歩き出したとき
・・
その時 リズは魔物との連戦を終えて
少し気を抜いて油断していたのであった
「 」
それは背後からやってきたこのダンジョンの魔物からのラストアタック
(ピト・・)
プヨっとリズの足にじんわりとあったかい感触があったのだった
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