第23話 再び巡る
・・
クリスフォード家に帰ってきた
来た時に馬車で通ったあのメーリス山地を突っ切るルートは
あの日はゴブリンの群れが出たり
複数個所で大きな地滑りがあって大規模な調査がされたけど
それからは山岳ゴブリンなどの奥地の危険な魔物は
以前と同じように周辺地域からはほとんど見つからず
地盤が崩れた所以外は嘘のように普段の穏やかな森林地帯に戻っていたみたい
ただ
実は私たちが本来進んでいたはずだった旧道を迂回しない真っ直ぐの街道は
そのルートの真ん中辺りで地滑りに巻き込まれていたらしく
道が途中で丸ごと無くなっていたらしいことを使用人さんから聞いた
(え、それってもしかして
私たちがあの山賊たちに襲われてなかったら・・)
もしかしたら昔の人は
あの場所がそういう崩れやすい危ない場所だって分かっていたから
大きくそこを迂回するような石畳の道をつくったのかもしれない
そんな山賊たちなんだけど
そしてなんでもあの道中の山賊たちはもう処刑場で吊られてしまったらしい
なんてスピーディなのだろう
民や商隊の荷馬車に襲うのはどの国でも例外なく重罪だけど
それだけではなく国家を繁栄させるために捧げられるべき魔法師の力を
力無き民に振りかざしたのならば極刑は普通にあり得ることなのだ
別にわりとどうでもいいし絶対生きていてほしかったわけでもないけど
でもあんな状況になっても一緒にいた馬車の人たちもみんな生還してて
悪運の塊みたいだった山賊たちでも
あの山を越えたらまるでそれまであった何かの加護に見放されたみたいに
最後はみんなあっさり吊り男になって終わってしまうっていうのは
それがなんだか意外だった
でもそれが当然なんだ
シビアな世界だ
山賊だけじゃなくて
魔物にも運が悪いと普通にばったり出会ってしまえるようなこの世界では
「死」っていうのはわりと身近なところにある
魔法使いであっても貴族であっても
外の世界に出るならばそれは変わらない
(まあそれは私の元の世界でもそうだったから・・)
・・・
「もうあんなところには絶対に通しませんよ
元々あの一帯は通るつもりはなかったのです」
口をすっぱくした使用人さん達にがんじがらめにされて
山地の辺りはさらに大きく迂回して帰ってきたので
帰宅まで時間がかかってしまった
まあでもそれが行くときでも本来かかる日数だったみたい
・・・
いろいろ今回の旅は不手際はあったけど
別に私は悪くないから
全部 山賊が悪いから
私が途中の町で路地に勝手につかつか入り込んでいって
勝手にてきとうな馬車に乗っていったせいとかじゃないから
さっそく呼び出されはしたけど
なにもそんな言われるような問題はないはずなんだけど
まあ寂しかったのでしょうね 相手くらいはしてあげますよ お父様
・・・・
書斎のバーゼスお父様の部屋
「リズ・・お前というやつは無事だったからよかったものを・・!」
「お前は近頃活発になったとはいえ~・・・」
(あれ・・これは・・お父様?)
日にちが経ってリズが感謝につけてあげたセミの抜け殻たちが
効果の期限が切れて
お父様の顔から全て落ちて地面に潜っていってしまったのだろう
まるでお父様が人間みたいな姿にみえる
おちつかない・・ああ 新しい抜け殻をつけてあげたい・・
スッと手が出かかる
(・・・)
でも寄生魔法で目標の新しい饅頭マンを作るためには
大量のセミの抜け殻のストックが必要になるから
今は保留しておこう
お父様のありがたい説教は続く
・・・
・・・・・
お説教は終わったので 私はリフレッシュのため家の食卓へ
(ふう・・やっぱこの家の食事は最高だなあ・・)
「・・・」
食卓で見かけたのはバゼロお兄様
私が使用人さんにねだって作ってもらった軽食をとっていると
何かを言いたげにこちらの方を見ていた
目が合う
すると
「お前はただ言われたようにしていればよかったのだ
それすらできんとはな
おかげで隣町には当分でれん」
確かにその通りなんだけど
私がへまをした影響で
馬車で隣町に遊びに行くことができなくなったらしいお兄様が
チクチク小言を言ってくる
「父上はな 最近お前が自分で動きたいと言い出したから
もうお前の寮の部屋は最低限の用意はあったから無理に行く必要はなかったが
後になって手配をして
お前に自分で物事をこなす経験を積ませるために
まずお前にもできるような簡単な役目を命じたのだ それを・・」
「・・・」
(そういうことだったのね
だから寮の指定期間の後ろの方になっちゃったのね
いやまあなんだかんだ経験は積めたんだし・・)
(・・そんなこと お父様はお説教の時は言ってこなかったのに・・
いや お父様はわざと言わなかったんだわ
さすがにちょっと軽はずみ過ぎたわね
反省しないと・・
付き添いの使用人さんも振り回しちゃって悪いことをしちゃったし・・)
少しシュン・・となって反省するリズ
それはそれとして
小言を言ってくるお兄様の姿は
相変わらず半分寄生饅頭マン化してしまっている
(どおおおん)
お父様につけた小さい抜け殻たちと違って
お兄様にくっついている饅頭マンは
力作の抜け殻たちのスペシャル大結晶体ということもあって
しばらくの期間はなにもしなくてもずっとそのままで長持ちする
なのでお兄様の姿の方はお父様と違ってずっとその屈強な姿のままだ
よかったですね
(・・小言は小言でもお父様に言われるのと
お兄様にチクチク言われるのはまた別よね)
屈強な饅頭マンが完成した
まじめに2体目だとどうなるか気になるけど
まだ検証用の次期饅頭マンは作成できていないのだった
「まあだが 」
「そのような元気があるのなら
お前も
お兄様はいろいろ小言を投げつけてきた後に
最後に私に向かってそう言って食事の席を立って
自分の部屋に去っていったのであった
・・・・
・・・
それからしばらく日にちをおいて
私の非行の問題はじっくり反省もして片付いたし
休みも明けるのでそろそろ待望?の学園の新学期が始まるようだ
・・
「ではローラ 留守の間よろしく頼みますね」
「はい リズお嬢様いってらっしゃいませ」
部屋でいつもお世話をしてくれていたメイドのローラに挨拶をしておく
これからはしばらく学園の寮通いになるのでローラとはお別れだ
これから朝起きれるか心配になってくるけど
最近はだいたいは自分で起きてたし
向こうでも専任じゃないけど
寮付きで一応そういうお世話をしてくれる人はいたから大丈夫だろう
・・・
「いってまいります お父様」
「リズ がんばってきなさい」
珍しくクリスフォード家の屋敷の門の前で
馬車の前まで見送りにきてくれたバーゼスお父様
非行のせい・・いや山賊のせいではあったけど
私が道中で襲われたと聞いて
普段は寡黙で関心のないように見えたお父様だけど
なんだかんだ心配してくれていたようだ
・・
クリスフォード家の人たちに総出で見送られて馬車に乗り込む
が
「・・・」
前回馬車でやらかしたため 今回はかなり念入りに馬車は人員に固められていた
なんか馬車自体も大きくなって前より魔改造されている気がする
なんて大げさなんだ
お兄様は高等部で先に用事があるから
もう別の馬車で先にいっているということだ
「隣町には寄らないの?」
「ええ 最後まで お嬢様にお付き合いいたしますよ・・!」
なんとなく使用人さんの笑顔が怖い
「・・・・」
今回は隙も与えないという感じで隣町引継ぎじゃなくて
もう直接 前とは違うこの魔改造ハイコストな遠出用の馬車でいくみたい
まるで私が信用されていないみたいだ いったいなぜ
反省したっていったはずなんだけどなあ
「(カッポカッポ・・)」
そこそこ長い旅路をしっかり監視されながら
私は馬車で移送されていったのだった
・・・・
メリカドを一望する壮麗で巨大な台地
第二の都市メリカドアド セントラル地区学園都市前
(何度みても立派ね・・)
「「 」」
今日は学園都市が外向けに大々的に開かれている日なので
行き交う人の流れが非常に多い
今回の学園都市内に入るルートは若干違う
正面のお堀にかかる橋から真っすぐ見えて
崖の一部が丸ごと魔法の力で動いてるみたいな
前回乗った巨大な魔導エレベーターの方ではなく、
学園の入り口前と内側にいくつか経由する駅がある、
併設の大型のロープウェイを利用して
馬車ごと巨大ゴンドラに乗り込んで大きな台地を下から昇っていっている
「ゴウンゴウン・・」
以前つかった橋を渡っているたくさんの人の流れが
ロープウェイの上から見えていた
(こっちのロープウェイもこれはこれでいい眺めね・・)
・・
こうしてリズは
再び聖セントラル中央魔法学園、学園都市にやってきたのだった
道中で何も事件がないと
当たり前だけどあっさりとここまでやってこれた
「ありがとう ここまでですわね」
私を直接学園に放り込むことに無事成功した馬車の使用人さんたちとも
ロープウェイの奇麗な学園駅前でお礼をいって別れを告げる
が、
「いえ まだ式典会場まで遠いですから引き続き馬車でお送りしますし
お嬢様の新しい寮の部屋の追加搬入の続きの役目があるので残ります」
だってさ
大変だね
到着した駅前から警備の行き届いた大きな正面入り口を通過して
中央都市部まで続くきちんと緑の芝生と区画された広い大通りを
たくさんの学園の生徒たちの流れに乗って
新学期および入学の式典会場へ向かう
・・・
(わあ・・)
今回見れる中央の都市部の風景は前回とは全然違う
式典会場の前で馬車からは降りて
そこは学園の全ての道が集まる中央部付近にある、
たくさんそびえる立派な施設エリアの代表的な建物のひとつ
目の前にそびえ立つそれは魔導式建築の粋を集めた立派な建物で
まるで古代の石造りの柱が並ぶ巨大神殿みたいだ
「聖セントラル中央魔法学園」という名前に聖が付いているくらいだから
そういう神聖なものが学園の母体にあるらしい
その巨大な建物の大きな柱は建物の基礎とは関係のない位置にまで
余分に多くそびえていて
でもそれらは無駄っていうわけではなくて
外回りの柱の色はそれぞれの柱で異なって石の材質が違っていて
魔力を通す性質が異なっているらしく
個人で扱えない大規模な魔法術式を扱うための
触媒として利用されるのだという
学園の中央部はこの建物を中心に半端なく広い学園都市の真ん中にあるので
普通に都市の高層ビルほどではないけど
それなりに大きくておしゃれな建築様式の施設が道沿いに集中していて
またフラフラ入って行きたくなるレベルには景観がいい
この辺りは前は学園寮舎エリア直行を強いられて見ることができてなかったため
私の脳みそにはなかなか新鮮な通りの景色だ
・・
会場の前には私たちの他にも
送迎の豪華な馬車がたくさん到着してきて
会場までそういう馬車でやって来れるのはだいたい貴族出身の学生の子で
そこからバッチリ髪を整えて着飾った貴族の子とかが
続々といざ出陣!って感じで気合を入れて降りていっていた
・・・
「新入生や在学生の方はこちらへ~!」
すごい数の案内員さんに
会場内はそこら中に式典用の赤い絨毯が敷かれていて
真新しい新入生の生徒たちが卸したピカピカの制服を着てはしゃいでいる
(ドオオオン・・・!)
会場になっている神殿の中を案内されて
式典会場の広い空間に入ってまず目につくのは
その異彩を放つ空間そのものっていうか
建物だけでも神聖な魔法の神殿って感じですごいのに
めちゃくちゃ高い天井まで立ってる太い石柱の間に
さらにでっかい魔法使いの神官を模ったような彫刻の石像が
等間隔に空間の奥まで並んでいて
まあなんというか圧倒される
(ポウ・・)キラキラ
ぶら下がってる謎の豪勢な魔法のオブジェとかがあって
天井から飾り付けられて大小様々な光を放っている
そんな特別仕様の神殿のような場所に
たくさん学園の生徒用の席が用意してあって
生徒たちはそこに聖セントラル中央魔法学園で学ぶ生徒らしく
優雅にゆったりと余裕をもって整列していく・・
と思ったけど
会場の案内員の人たちはクソほど忙しそうで
せっせと迷える新入生たちを
ひよこでも分ける様に会場の席へとポンポン押し込んでいた
・・
リズはその中の生徒の指定の席に移動して
やがて厳かな雰囲気の中 始業の式典は始まる
・・
普通に式典をこなそうと思ってはいた
だけど式典会場にやってくる前から実は少しづつ感じていたんだけど
(うずず・・)
私の右腕がうずいている・・
ちょっと困る・・もう慣れたから大丈夫だけど
式典で祝福の結界モードや魔法を使用しているんだろうか
ここほどの規模の学園で
今までそういう目にあわなかったのが逆に不思議だったかもしれない
魔法を使っている効果範囲とかも関係ありそう
「(大丈夫・・)」
でも全然今は 腕の衝動は自分でしっかり抑えていられる
(・・・)
前にゴブリンが山で襲撃してきた時に思ったけど
私の中のイヴのあの力は向けられた敵意というか戦う意思というか
距離の近さや向かい合った状況とかでも力の幅が変わっていて
自分じゃないお兄様みたいな他の人が祝福の力を使って何かと戦っていても
近くならたぶん発動自体はできるけど
その力はゴブリンに対して撃てた力より 今思うと全然弱くて
フルスペックというか出し切ってる感じがしないように感じる
逆に向かい合ったすごい迫力の天狗のオジキを相手にして戦ったときは
すごく力を発揮できてスムーズだった
(きちんと力を使いこなせるようになれば また感じも変わるんだろうか・・)
「・・・」
リズは今は衝動は抑えられて普段通りの自分の右手を見る
・・・・
・・
新しい新入生たちの入学式典からはじまるけれど
リズは普通に学年が1つ上がるだけなので
新入生達みたいにはしゃいでキャピキャピはせず式典の様子を見ている
新入生並みにもう一人分の私の脳みそはキャピキャピしているけどね
探せばこの会場のどこかにお兄様もいるのかな
優秀みたいだから・・
(でも探さないけどね・・
ていうか饅頭マン見えたらわかるか みえたらできるだけ離れよう・・)
記憶でうっすらは知っていたけど
明らかに人間じゃない生徒がいたり爬虫類のような見た目の先生や
魔物?を連れていたり 個性がかなり豊かだ 個性っていうより種族かな
名前ひとつとっても横文字が電車みたいにつらつら繋がっているような
長ったらしい名前もあれば
オジキみたいな漢字体に近い系統の名前とか
一部の魔法貴族には古い言葉を引き継いでいるような家系とかもあるし
この世界はいろんな文化や種族が混じり合ってなかなか混沌としている
そんな混沌とした文化では使われている魔法の力もまた
一筋縄で統一されているわけではなく
人が出力する魔力を基軸にしたスタンダートな魔法はあるものの
魔法の詠唱や派生形の技にも
いろいろな古い時代の独自の文明の言葉が使われていることがあるみたい
そういう古い言葉を使って魔法を発動した方が
術に違いが出るというか力が宿るというか
種族によっては言霊の魔力を利用するっていう派生形の特殊な技術の魔法もある
(それは私にはまだ詳しくはよく分からない)
そんな不思議な聖セントラル中央魔法学園の中でも
私は高貴なパワーで進級も問題ない
進級はできてしまったので
これからは習う魔法学の内容が高度になって難しくなっていくらしいから
そこは若干不安要素だけど・・
・・・・
・・・
「聖セントラル中央魔法学園に加わる新たな同志たちに・・歓迎と祝福を・・!」
「パバアアアアン!!」
神殿の正面に一際大きくそびえる壇があって
その壇上のとある人物が威厳ある声を張り上げるとお祝いの花火が打ちあがり
魔法の竜を
魔法の竜から弾けた細かい光が
生徒たちが立っている席のすぐ近くまでやってきてけっこう迫力がある
そしてこのまるで魔法が生きているようなすごく高度な術を披露した人物は
大きな天狗のオジキが前に話をしていたという、
この聖セントラル中央魔法学園の学園長 ゼキスバード学長だ
「ホッホッホ・・!」
学長先生は見た目はとても高齢だけどまだまだしっかりとしていて
壇上から魔法に驚いたあどけない新入生たちの姿を見て
上機嫌そうな陽気なおじいちゃんムーブに威厳のある白いひげをモサモサさせていた
・・
この世界で魔力を扱う素養を持つ
「魔法使い」「魔法師」と呼ばれている人たちには
色々な等級や位があるけど
魔法師として一人前として認められる「下位魔法師」、
先生と呼ばれ、人に魔法指導ができるレベルの資格を持つ「中位魔法師」
そこからは先は魔法使いとして隔絶した位の差があって
その中位のレベルの最低10倍の実力の差があって初めて
「上位魔法師」の格を得る権利が認められる
話に聞くと単純に上位魔法師が一人いたら
中位の魔法師10人分以上の戦力に相当っていう極端さなんだけど
魔法の詠唱速度が僅かでも違うだけで勝敗が全く異なる魔法の世界で
上位の魔法を難なく使用できるほど才覚を持つ魔法師には
全く常人とは異なる計りが必要らしい
そしてゼキスバード学長はその上位魔法師をさらに超えた位である、
「超位」と呼ばれる
ただの一人で軍の魔法師団やそれ以上に相当するような
特別に優れた手腕の隔絶した魔法使いで
世界でも数の少ない歴代最高峰の魔法師の一人だといわれていた
( ポワ・・! )
そのゼキスバード学長が魔法を放った直後には
続けて光のオーラの軌跡の様なものが浮きでていた
その魔法を使っているのは
ゼキスバード学長の隣にいる先生で
氷魔法の権威を持つという上位魔法師のグフタフ・アーマード魔法教授
白髪混じりで貫禄のある物静かな老執事のような雰囲気で
少しの微笑を浮かべて 手に持った指揮棒のような杖をそっと動かして
雪や乱反射する氷の結晶を降らせて魔法による会場の裏方の演出を手伝っていた
こちらもかなり荘厳な先生
他にもこの世界の上位に立つ現役の魔法使いたちが
目の先の壇の前に揃って立っていて
どの先生もかなり強烈な個性の持ち主だ
羊のペットのような奇獣にいっぱい囲まれて
顔が埋もれてほとんど見えないような先生とか
座って座禅を組んで謎の力で宙にふわふわ浮いている先生とかもいる
新入生たちがそんな壇上の先生たちを
目指すべき憧れの魔法使いとして輝いた目で見ている
先生方の独特の迫力の雰囲気にあてられて
演出の魔法だけであっけにとられていた私の気もちょっと引き締まった気がする
・・・・
ここで少し通年にはない新しいことがあった
私のいる中等部の編入生に「勇者」っていう英雄に近い
この世界の平和を担っているらしいすごい力を持った生徒が
やってきていたらしく壇上であいさつしていた
そう
世界に魔法使いがいて悪魔がいれば
魔物がいてその親玉の魔王がいるのだから
それを倒す勇者がいたって当然何もおかしくはない
ただ伝説の悪魔も魔王もこの世界にいたにはいたけど
危ないのでとっくの過去の昔の戦いで滅ぼされてもういなくなっているという
あれ勇者ってなんでいるんだろう
まあ魔物ならその辺にまだいっぱい生き残っているからね
・・
きれいで気丈な女の子だった
壇上に立つ勇者と呼ばれている女の子の見た目は
黒髪で頭には細い金色の輪っかのアイテムが
「私は!勇者として! この学園で恥じぬよう励むように・・」
(ふーん・・)
髪の色こそ黒だけど全体的に白っぽい
奇麗でかわいいけど なんかちょっと偉そうな声のトーンだなあ この勇者
緊張してるのかな まだ英雄にはちょっと見えないかな
でもああ見えて世界の治安を守るために
悪い魔物とかをガンガン狩っているのだろうか
でもその勇者っていう職業の特別感のわりには
ここは学園の施設こそ最高にいいけど
国の中では第二の都市の学園であって首都じゃないんだけど
首都にも他にもまだ勇者に選ばれた人間が他に何人かいるっていう
さらにここだけじゃなくて勇者というのは他の外国にもいるみたい
まあここは規模が大きいし
魔法学につよい学園だからやってきたんだろうけど
なんていうか希少価値はいうほどはあんまり
勇者といってもそれはこの世界では「ちょっと特別な魔法使い」という位置づけ
世界で選ばれし、ただ一人の勇者・・!すごおい!ってわけじゃない
勇者に選ばれたからといって それで過剰にちやほやされるわけではなく
また実力も勇者になったから始めから上位の魔法師より強い・・!
ってわけでもなくて
才能による個人差はあるけど齢相応の実力で
普通に魔力を使って戦うし魔法も使う
あくまで能力的に見込みと素質のある発展途上の勇者であって
そんな勇者たちが世界にわりとたくさんいる
そこからさらに一握りの優秀な勇者を目指して
勇者の評価ランクを上げる身内同士の名声バトルが繰り広げられるらしい
だから上位のきらびやかな勇者もいれば 生活も苦しいレベルの底辺勇者もいる
なかなか世知辛い
・・・
そんな勇者もやってくるような学園の中で
中位から上位の格を持つ優秀な魔法講師の先生方をはじめ
学園の生徒は学生なので まだ正式な魔法使いの等級は持てないものの
すでに中位魔法師相当の実力を持っているような才能ある魔法学生や
さらに世界には勇者がいるように
普通の魔法使いだけじゃなくて聖者や賢者や大剣士や治癒師とか魔法剣士とか
いかにも特別!って才能の職業の資質を持つ生徒たちもいるわけだ
一般的にそういう才能の力は
これはその人の能力の適性に近いんだ
職業には先天的なものと後天的なものがあって
それはイメージで分かる種族の血に刻まれた技能感覚のようなもの
先天的に素質のある人は成長すると徐々に感覚で分かりだすようになって
その職業の特別な技能や魔法を理解できたり
その理解が容易になったりする
後天的な人は元々は適性がなかったりするけど
努力してその分野の技能を獲得したりして
十分な力をつけることができるとその職業の力を獲得したりできる
一部の貴族の血筋などを除いて
大抵の一般人は何も職業適性を持っていないので
職業を得たいなら
後天的に頑張って修行したり学んで職業の力を得るしかないんだけど
そこで世界の国の各地にある、魔法学や冒険学や剣術技能などの
さまざまな系統の知識が結集した学園などの教育機関で
才能が伸びる若いうちに鍛えて学んでいくことが重要になる
この聖セントラル中央魔法学園の生徒は
後天的に学ぶ内容が魔法学に偏っているので
だいたいの人が魔法師としての技能を開花して職業が「魔法師」になる
それだけでも子息をこの学園に通わせたがる魔法貴族の人は大勢いる
立派な魔法使いになって成り上がるために
ガシガシ勉強してやってくる平民出身の学生も多い
それで普通の魔法師とか
学ぶ内容によっては剣士とか弓士とか魔物使いテイマーの力とかも開花する、
そんな努力と才能あふれる一般の職業の生徒たちもたくさんいる中で
「(・・・)」
あれ、私は・・?
そんな環境で特に言うほどなに持っていない私の立場ときたら・・
もうなんというか扱いにくいこと この上ないという
しかも一応身分だけは名門魔法貴族ときたもんだ
魔法貴族の血っていうのは本来すごく有利なはずなのだ
先天性の職業の才を元から持っていることが多い貴族の血統は
普通の人が苦労して獲得したりする技能でも
その職業に向いている技能ならポンポン覚えていくし
習得難易度も大きく下がるし
最初から向いている適性が分かっているから修行に無駄がなくて効率がいい
だから相乗効果で魔法貴族の家の出身からは
優れた魔法使いの人材が多く輩出される
それなのに私ときたら・・
いや一応少しだけなら魔法のようなものもつかえるし
寄生魔法も使えるわけだから
見習い魔法使いか「一般寄生師」くらいは私も名乗ってもいい気はする
でも寄生師って・・なんだろうね?
よく考えたらあんま名乗りたくないわ
あとイヴの力もつかえたか
でもあれは体術系?だし 全然見えないし・・
・・・
リズには学友はいたが
基本的にはそういう身分上扱いにくいので避けて通られ
またよく寝込んで学園を休む生徒でもあったので
交流自体も少ないという
(・・あれなんで私ってここに通ってるんだ)
そういう状態になっていた
(今のところ学園に通えてはいるし勉強もしていくつもりだけど
私はちゃんと魔法使いになれるんだろうか・・)
・・・・
・・・
入学式典は滞りなく終わり
学園都市内ではなかなか名門魔法学園らしいというか
今日のためのそういう大規模な魔法によるショーや道化師?とか
魔獣使いとかサーカスみたいな
いろいろな大道芸系の魔法技能を持った派手な仮装した人たちが歩いていたり
「ドン!パアン!」「パフパフ」
「ワイワイガヤガヤ・・」ワーワー
(わあ・・)
とにかく人だかりでいっぱいでその賑わいが
今まで寝てばかりで
碌に行事に参加できなかったリズにとって新鮮で心地がよかった
今日は入学式典が終わった後は
新しいクラス名簿の振り分け確認や魔法学の教材の配布だけで終わるので
早めに自分の入居する新しい寮に切り上げてきていた
・・・
「カランカラン・・」
その賑わいの寮舎のほとりで
今朝に学園まで来た馬車から荷物を整理して
クリスフォード家の使用人さんたちが
新しい寮のリズの部屋へ追加の荷物の搬入作業などをしていた
もう式典用の制服からは着替えていた私はその作業を横から見て
荷物の振り分けの指示とかをしている
だいたいは前連絡をしたときに済んでいたので今回は本当に追加搬入だけだ
・・
「ここからここまでと・・
今日配布された教材とこれは中の机の上まで運んでおいてもらえる?
後、これはいらないから家に持ってかえっておいて」
クリスフォード家からわざわざ持ってきたのであろう、
私の部屋の趣味の悪いジャラジャラとした
貴金属の魔除けの魔法グッズが山のように荷台に積み込まれていた
「え、いやしかし これはカルミナ奥様が・・」
「だからほら 体ならもう治ったのよ 魔除けはもう要らないわ
それにこんなにたくさん部屋にあったら邪魔でしょ
部屋の雰囲気変わっちゃうし」
「わかりました では そのように進めます」
「ありがとうね あとおねがいしますね」
「はい リズお嬢様」
ふー じゃあ使用人さんに全部押し付けて 私はてきとうに歩いてくるかあ
ネロのところは搬入終わったかな 搬入を見学しておくか 暇だから
手の空いた私は学園内を散歩しに歩き出すのだった
・・・
「ん? あれは・・」
それはネロの風車の家の新居に行こうとおもっていた矢先のことだった
リズがトコトコ歩いていると
その途中の道には前回に寮の下見の時に
時間稼ぎに興味本位で案内されてしまったという、あの
「いわくつきのすごくボロい木造の寮舎」を見かけたのだった
だけどその寮舎の入り口の前の辺りに人だかりがあって
少し騒がしい様子だった
・・・・
「な、なんでよ!
勇者であるこの私がこんなボロを掴まされないといけないのよ
ちょっと先にきれいなとこあるじゃない!
そこでどうにかしなさいよ!」
勇者だ 勇者がいる
勇ましい感じで
まっすぐなんだけどふわりとしたかんじもある黒色の髪が肩口にかかっている
金色の細い輪っかの装飾も
入学式の壇上で見た中等部にやってきた勇者の女の子だ
その横には男の子がいて勇者の取り巻き?の側近の剣を持っている子と
短めの杖を持っている子がいる
例のボロ寮舎の前で 施設の案内人さん?とちょっと揉めていた
「勇者ミトラ様・・そんなことをいわれましても
希望の近場ですと他は全て埋まっておりまして ここしか残りは・・
それに当日申されても 空きがないわけでごさいます
他の方は二週間も前から寮舎の部屋を決めておりますゆえ・・」
それに勇者の側近が声を荒げる
「な、なんだと勇者の側近である俺たちにも部屋がないっていうのか・・!」
「い、いえ ですからあることはあります
それがこの寮舎になるわけでありまして・・
それにここではなくとも区外にならまだ・・」
「区外はいやよ・・!」
活きのいい勇者一行に言い寄せられてタジタジの案内人さん
その様子を偶然通りがかったから傍から見学している私
(うわあ・・なんか楽しそうなことしてるなあ
入学早々このクソみたいな寮舎に放り込まれそうになってるなんて
意外だなあ
勇者って学園から手厚い保護とかされないんだろうか
こんなのをあてがわれて
心が闇に染まって世界が滅んでも私は知らないよ お気の毒にね)
リズがそんなことを思っていると
「ちょっと!そこのあなた!見世物じゃないのよ!
その恰好どうせいいとこから来たんでしょ 貴族の子?
私をわらってるのね!」
あ・・
どうやら私は勇者にいちゃもんを付けられてしまった様子だ
(おっといけない 表情にでていたのかしら・・
かみつかれてしまった しっかしこの子・・かわいいのにね くふふふ)
「あなた!!また私を!くうう」
くやしそう
(あらいけない でもそろそろ 側近の男たちが目をぎらつかせてきたから
あの剣で切られちゃいけないからね 当たり障りなく)
「ああ・・すみません 私ったら・・先ほどの入学式典で
立派にあいさつをされていた勇者さまを見かけることができたと思うと
つい嬉しくなってしまって・・誤解をされたなら申し訳ありませんわ・・」
「あ、あら・・そうだったのね ごめんなさい 気がたっていたわ
ちょっと悪いことが立て込んでいたものだから
でもなんか
あなたちょっと邪悪な顔つきをしていたような気がしていたから・・
気のせいだったわ」
(おや・・おかしいなあ・・私が邪悪なわけないんだけど
わずかにイヴの力が漏れ出ていたんだろうか・・
それを感知するなんて やっぱり勇者ってすごいわね・・
計り知れない力だわ)
(まずいなあ このままでは見破られてしまうかも 何とか対策を・・)
・・・
その時
「あれリズだ! どうしたの こんなところで」
リズが策を模索しているとリズの後ろからネロの声が聞こえてきた
ちょうど近くを通りがかったのだろうか
(あら・・ネロ?ナイスだわ)
「あれ?ネロ? ああ ネロそろそろ そっちの様子見に行こうと思ってたのよ」
「そうなの? でもまだ僕は部屋の搬入終わってないから
他のところの魔法ショーイベントとか見に行ったほうがいいよ
今日しかやってないのが多いんだって」
そういうネロは今日は帽子じゃなくて
ねじり鉢巻きって感じで おでこに白いタオルを巻いて小さな耳が出ていて
大きなおんボロの荷車を一人で押していた
荷車に山のように積まれているのはその部屋の搬入の荷物なのだろう
いやほんとどうしたんだろうね こんなひどいところで
物珍しさについ立ち止まってしまった
いけないいけない
はやく私もここから離れて移動しなければ
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