第24話 勇者と悶着

 ネロもやってきて場がちょっとややこしくなった気がする

いや私たちはどう考えても部外者なんだけどね


そこに

剣を持った勇者の側近が乱暴な口調でネロに声をかけた


「おい! お前そんなぼろい荷物押して搬入なんて

この寮の生徒だろ 


どうなんだ お前の部屋の感じは」


それに「?」という感じで反応してネロは


「え・・?僕の部屋・・? 僕の部屋のかんじ・・


僕の部屋のかんじは とてもきれいだよ


ちょっと古いけど家具も全部備え付けだし 

台所やお風呂もトイレもしっかりしてて

空気も澄んでるんだ 


それに広いよ」


「なに・・ほんとうか! この見た目だけで判断していたが


案外中身は快適ということか さすがは聖セントラル中央魔法学園だぜ


じゃあここに決めてしまっていいんじゃないか?ミトラ」


それを聞いて勇者の女の子は目を輝かせる


「あらそうなの・・! そうね

 見た目ばかり気にして 肝心の中身を気にしていなかったわね 


外見ばかり立派になっても立派な勇者にはれないもの

重要なのは私自身がどうあるかよ 中身なのよ


それを忘れるところだったわ・・これは感謝してもしきれないわね」


「え・・?なんかよくわからないけど照れる・・」

なぜか照れているネロ


「案内人さん ここに決めたわ 荷物の搬入をすぐにお願いするわ


広間まで荷物をもってきてくれるようにいってくれたら


あとは私たちが空き部屋を選んで運んでおくから

そのようにしてちょうだい」


「え・・ほんとうによいのですか・・?」


「ええ・・重要なのは内面よ」


「そうですか・・わかりました では手続きいたします」


「はあ~よかったわ 勇者なのにセントラル地区内じゃなくて

郊外に部屋を借りて通学なんてしたら


時間もかかるしロープウェイの定期も買わないといけないし

周りから好奇の目で見られながら学園に通い続けることになってたし

やっぱ近場がいいわよね~」


若干ひきつった顔の案内人さん

「そ、そうですね・・! ではよい学園生活を」


「ありがとう じゃあ寮舎選びも すごくうまくいったから

今から学園のイベントに参加するわよ!」


うまくいったらしい勇者ミトラのおでこの金色の輪っかが

キラーンってしていた


「おうよ!」

「ミトラ・・僕もついていきます!」


嬉々として去っていく勇者とその側近たち


(なんか盛り上がってるなあ・・)

案内人さんは真面目な仕事人らしく 手続きのため去っていき

私と大きな荷車と一緒のネロがその場に残る


「リズ・・あの人たちは?」


「いいえ知らない人たちよ 勇者みたいだけど」


「ええそうなんだ


あの人たち ここの寮舎に決めたの?

信じられないなあ・・どうしたんだろう修行でもしてるのかな」


「まあ勇者には試練が必要だって聞いたことがあるわね」


「大変なんだね勇者って」


「そうね」


「じゃあ僕は搬入の続きがあるからいくね」


「まってネロ 私も手伝うから荷車、一緒に押そう?」


「え、いいの ありがとう けっこう重かったんだこれ」


・・・

ネロの荷車に私は近づいていって一緒の手すりをもつ

近づくとネロはけっこう大変だったようで玉のような汗をダラダラかいていた


「ネロは小さいからあんまり無理しちゃだめよ

あとどれくらい残ってるの?」


「これくらい平気さ 荷物は今の荷台の分と

後は細かいのが残ってるだけだから あと少しだよ」


「あと少しなら私も手伝うね」


「ありがとうリズ 全部終わったら 紅茶とかあるから飲もうよ


お菓子もこの前の襲撃でおじさんたちにお礼にもらったやつがあるんだ」


「あー それ私もちょっとある

あとで私も持ってくるね」


「うん わかった」


こうして学園の新居の搬入が進んでいくのであった



・・・・

風車のネロの新居の吹き抜けのソファーの上


ぐいーんと体を伸ばしながら座っているリズ


「ふう~ ここ結構快適ねー 日が差すし風もよく通るし庭付きだし・・

まだ結構散らかってるけど 搬入も終わったし


この分なら全部収納もできそうだし 広くていいわあ

私もこっちに住もうかなあ」


ここからは少しだけ今日はにぎやかな聖セントラル中央魔法学園からの

歓声や魔法の花火の音が聞こえてくる


「リズはあそこのきれいな寮舎のところなんじゃないの?」


「うーんそうなんだけどね なんか殺風景なのよね

搬入もしたし 確かにきれいなんだけどね」


「ふーん」


・・

ひと段落したところでお菓子をひとかじり

(サク・・)

「!このお菓子おいしいね ネロが持ってたやつ」


「ああこれは買ったやつなんだよね 

今日作りたてのやつだから おいしいのかもしれない 

「月のほほえみクッキー」っていうんだ 中央街の出し物で売ってたよ」


「ふーん そうなんだね」


「それでさ・・リズ・・これ どうしよう・・」


(え、なに?)

「これ・・?」


「この棚のところなんだけど 僕これ怖いんだよね・・」


ネロの視線の先をみると そこには古びているけど

高級感はあって頑丈そうな木の棚があったんだけど


「ああ・・これね」


・・

そこにはおびたただしい数の粘土で作られた趣味の悪い

不気味な動物や人間をかたどった模型?がずらりと並べて置かれていた


陰湿な雰囲気の鼻が異様に長い黒い象とか

槍を持った手足の生えた半魚人形とかいる 


(あんまりかわいくないわね)


「ほんとこれなんなんだろうね 明らかに浮いてるよね

この家の空間に」


「こわいよ・・こんなのあったら僕 夜眠れないよ」


「たしかこれオジキが燃やしていいって言ってたやつだよね

 燃やしちゃえば?」


「ええ・・でもオジキの弟子のひとの趣味なんでしょ?

それを燃やすのは・・ちょっと・・」


「でも弟子は帰ってこないからいいんだよ

ここの家も権利はしっかりもらったし これを燃やしても自由だよ」


「でもさあ・・」


「ふーん じゃあ・・」


・・・

ガラガラガラ・・・・

リズが思いついて用意した大きな木の箱に

棚から降ろされて てきとうに突っ込まれていく謎の人形たち


「全部これにまとめてしまって 屋根裏か床下の地下にでも封印しよう」


「わあ リズは機転が利くんだね」


「どのみち邪魔だからね 

ちょうどあの棚のスペース使いたいなって思ってたのよ」


リズ自身も実家では趣味の悪い魔除けの器具に囲まれて過ごしてきたから

かわいくなくて趣味の悪い人形たちにも多少の理解がないこともない


まあ燃やすのは勘弁してあげよう


・・・

適当なので

手に取りやすい場所から取ってどんどん片づけていく


「さあネロ この端からこの端までここに投げ入れていって

わたしも投げ入れるわ」


ガッチャガッチャガッチャガッチャ・・・・


「なんかちょっと癖になるねリズ(ポーーン!)」


「あっ腕がとれちゃった 何の腕かわからないけど

まあ気にしないでいいわね (ポーーーン!ポーーーン!)」


・・・・

・・

こうして新しい風車の家の搬入と整理は終わったのであった


「ふう・・格別ね」


気味の悪い謎の物体の全てを封印した後は すごく達成感があって

作業後のお菓子と紅茶がとてもおいしかった

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