第22話 なかなかここは

 寮舎の前で途方にくれているリズ達


「・・・・」

いや正確には 私は寮きれいだったから全然平気だったんだけど

ネロの方のひどい寮候補を知ってしまうとなんだかね

でももう他はないっていうし実質・・


見る前にあそこで帰っちゃえばよかったね


でも私にも問題はあった

このまま手続きをしてしまえば学園にきた目的は完済されてしまうので

強制的に実家に帰らされてしまう それは・・いけないわあ


なんとかして学園で時間をつぶす方法はないか・・そう考えていた時


・・

(あれは・・)


上空の方からバッサバッサと音がしていた

見れば最近お世話になった見覚えのある大きな天狗の翼のシルエットが見える

今回はさらにもう2つ分ほど追加で翼の影がある


「お前たち ここにいたか」

その翼の影たちは風と一緒にゆっくり私たちの前に空からやってきて着地する


「オジキだ!」

ネロが駆け寄る 

空からやってきたのは

以前にメーリスの山地で会った大天狗のオジキであった


・・


「かすかに邪悪な娘の気配がしたでな 近くまできたらすぐ場所はわかった」

(なにい~ 私のことを邪悪だってえ・・)


「前と違ってけっこうのどかにこれるんですね」

前はずいぶん激しかったような気がしたのでリズは聞いてみる


「ん? あのときは呼ばれて緊急だったからな 当たり前じゃ

ワシが本気をだせば あれくらいは風は荒れる」


(そうだったんですね・・)

「オジキはどうしてここに?」


するとオジキの横に控えていた人が


「玄天斎様・・これさっきからオジキなどとこの方は・・、せめて様をつけぬか」

一緒にいた羽織の天狗の人がリズに注意する


(おや、これは見た目人間に近くて オジキよりだいぶ小さいけど・・

オジキは一族の長だっていってたから

部下のひと・・?だよね 同じ一族のひとかな)


「いいのだ 人の町では下がっておれ」

「はい・・」

下がらされる天狗の部下の人


「ワシはな 本当の名は玄天斎げんてんさい風魔大楽ふうまたいらくという、

だがここではオジキだ」


(ええ・・なにそれ全然ちがうじゃん・・)


「・・そのままでいいの?」

「いいのだ」



「それはそれとして ああ・・これじゃ」


天狗のオジキからリズに小袋が渡される

小袋はもう一つあってネロにも手渡される

オジキの手から出てきたときは袋は小さく見えたけど

渡されると普通に大きかった


(オジキが大きいから縮尺の感覚が狂うのよね)


「なんですかこれ」


「先日の魔物の討伐の査定が少しかかってな

捕まえた山賊の手配報酬分もある 

あとは乗り合わせた馬車の人間からお前たちへの微々たる感謝金だな


少し少ないが ゴブリンに特殊な個体が混じっておってな

それの査定が未だにでておらぬからこんなものだ」


「わあ ありがとうオジキ」

お礼の袋を貰って無邪気に喜ぶネロ


「お前たちが聖セントラルに向かっているのは話で知っていたからな

ワシの仕事のついでだ」


「お仕事?」


「指名されてこの学園で臨時で講師をやっとるぞ 

高等部ではあるがな

部下をだして年に1度もワシがこないときもあるから知らんだろうが


生徒にワシの孫もひとり通っておるぞ」


「え・・」


「たまには姿だけは見せぬとゼキスバードの顔が立たなくなるからな

それに近頃はこの辺りの様子が騒がしいゆえ少し話も交えてな」


(ええ・・そうなのお・・ていうか お孫さんもこの学園にいるのかあ

会ったらどうしようか 

オジキの孫ならやっぱ いかつい天狗みたいな見た目をしているのかしら


それに「ゼキスバード」って記憶ではこの学園の学長先生だったような

オジキは呼び捨てにできる仲なんだ・・ふーん・・)


・・

「え! じゃあ僕もみてくれるの? 魔法がつよくなりたいんだ・・!」

オジキが学園の講師だと知り ネロが身を乗り出す


「ワシは高等部担当だといったが・・まあいい なら撃ってみろ」

「うん」

やる気をだしてオジキに対して杖を出して構えるネロ


「いやちがう こっちだ」



「この・・ベダジュウに撃ってみろ」


いつの間にか大天狗のオジキの横にぬるっと犬型の使い魔のベダジュウがいた

今日は隠れる必要がないのか最初から白い毛並みだ

あと連れてきていたらしく前にいた使い魔のカラスもいる

あと若干変なにおいもする


「あ・・アオン・・」

ブウン・・っと じわっ・・と

フルフルしているべダジュウから結界?のようなものがにじりでてくる 

なんかきもい・・


「え・・!」

あっけにとられるネロ


「どうしたんじゃ? 強くなりたいんだろう?」

「う、うん・・!・・じゃあいくよ ファイヤーボール!」

(シュバアア!)


(あ・・)

そういえばネロは

あの腹パン山賊に折られた杖をちゃんと町で補填してもらえたんだね 

よかったね


(そういえばこのベダジュウという犬みたいな使い魔・・、

結界を張るのが専門だっていっていたなあ)


「ア・・アオウイオアッッ(なんだこの粗末なファイヤーボールは)!!」

「ガキイイイイン!!」(ネロの魔法が結界にはじかれる音)

「ボシュ」(ファイヤーボールが即座に消える音)


「なあ・・!」



顎に手を当てるオジキ

「ふーむ・・弱いな・・」

(ああ・・やっぱ弱いんだね・・)


・・・

その後 

「いやワシの専門は格闘術や投げ技でな 

魔法については風魔の一族の独立したものがあるから参考にならん 

体質もちがう」


といわれてネロは泣き崩れていた

(ひどい話だ けどちょっと面白かった)


「ところでなんで お前たちはここにきているんだ?

学期はまだ始まっていないとさっきゼキスバードから聞いたぞ」


「それが・・」


・・・・

・・・

リズは寮がうまく取れなかったことを話す


「ふむ・・それは災難じゃったな 

あの山地での襲撃がなければ問題なく部屋はとれていたということか」


「はい・・」

(いや 元から期間の後の方だったからそれでもダメだったっぽかったけど

そういっておく)


「そうか・・」

「だが心配するな 部屋ならば・・ある」


「え・・!」


「気に入るかは分からんが・・

ワシの弟子が以前ここにいたから学園内に宿があるのだ


もうずっとそいつが帰ってこんから

使って構わんだろう ついてこい」


・・・・

・・・

少しオジキと部下の人と歩いて

寮舎の区画とは近いけど また違った離れの郊外にそれはあった


「「  」」

それは郊外に建つ 大きな目立つ一軒家で


(ええ 普通に学園内に庭付き一軒家がある・・)


(けど学園都市ってでっかいからそれくらいあっても不思議じゃないか

こんな近郊にあるとは思わなかったけど)


風車のような見た目の少し古いけど 十分おしゃれな家であった


「古いし管理がなっておらんから少しボロだがな・・

まあ頑丈な造りだから使えんこともないだろう


簡単にだが風は通しておこう」


大天狗のオジキはそういうと何かを唱えてサッと指をさす

すると風車のような一軒家の一見飾りかと思っていた風車が動いて音が出る


「ゴウン・・ゴウン・・」

その風車が回り始め 魔法の風の力で

ほこりの様なものが窓からポッポッ・・とでていっていた


「ビビ」

「うわあ!」

魔法で長年の住処の風車の家の窓から追い出された、

けっこう足が長い羽虫とかが

飛んでリズに向かってきてくっつく


(なんでよお~)

隣のネロも空いてるのに私の方だけやってくる

手で即はたきおとす


「リズは変なのに好かれる体質なんだね」って

ネロは他人事みたいにケラケラ笑っていた


(そうみたいね ネロもくっついてきたし・・)


・・

作業は続いていき

オジキの部下の人たちも手伝ってくれて部屋の整理などをしてくれた


・・・・

そうしてしばらくして

「もうはいってよいぞ」


「わあ・・」

家の中はイメージよりちょっと古い洋室といったかんじだった

広さも十分過ぎるほどあって

キッチンやお風呂など一通り生活できるものは揃っていた 


元は弟子のひとが暮らしていたというだけあって家具も普通にあり

残りを細かく掃除をして食料などもあればすぐに入居できそうなほどだった

(虫がいっぱい出てきたときはどうしようかと思ったけど)


でっかい風車が付いているだけあって

普通の家にはない機関室のような場所もあって

そこでは風車と直結した大小いろいろな歯車たちがグルグルと

回っている面白い部屋もあった


風車は昔は辺り一帯に畑があって穀物の脱穀とかができたらしいけど

今は広い畑はつぶれて使わなくなったのでそういう設備は取り外していて

風通しの試運転で回したけど普段はもう止まっているらしい


ただ・・

一番使うであろうリビングの片隅に


「オジキ・・これは・・なに?」

ネロが少しおびえながら尋ねる


「ああこれは・・あれの・・ ワシの弟子の趣味だ

気にするな あとで燃やしていい」


「  」

そこには奇怪なオブジェというか

粘土質なものでできた動物や人形のようなものが棚にズラッと並べられていた


(あんまり趣味はよくない・・)

妙にそれだけは気になったものの

あとはおおむね良しといったところの この風車のお家


「どうする?ネロ?」

「ほんとにここ使っていいの?オジキ」


「いいぞ」

「じゃあここにする」


・・・・

・・・

こうして聖セントラル中央魔法学園の寮選びは無事終わったのであった


・・

「ワシは家を譲っただけだから 手続きは全部お前たちがしろ

これは証明だからもっておくとよい

あと他の機能もつけてある 読んでおけ ではワシらは去る」


といって大きな懐から取り出した木版に 

オジキは爪の辺りが光る指からジリジリと魔力で何かを刻み付けて

それをリズに手渡したあとオジキたちは去っていった


木版にはしばらくこの家の権利を譲るという筆のような文に

オジキの魔力でサインがしてあった

(ちなみにすんごい達筆だった)


裏面を見ると確かに他の機能?らしい

折りたためる機構の特殊な画面のようなものがついていた


・・

「(ネロよかったね・・だけど寮選びは・・ これで終わってしまったなあ)」


「・・・」

「(うーん さすがにもう無理かあ)」


・・

リズは自分が後回しにしてきた山積みの問題がもう近いことを、


学園の寮の通りの前で私を捕まえるために

今か今かと待機しているクリスフォード家使用人さんたちの様子をみて悟る


(私は前科があるからなあ・・ 隙がないわあ・・

投網とか持ってるけど・・

まさかあれで私を魚みたいに捕まえたりしないわよね) 


ネロはまだもう少しこの学園都市に残るみたい

家も違うので

今まで一緒に旅をしてきたネロとはここで別れることになった


「じゃあね ネロ」

「じゃあねリズ」


こうしてリズはいろいろあった外の旅を一旦終えて

実家のクリスフォード家に戻ることになったのだった



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