巡りつつ日々:還らずの地の主 編

第21話 いい寮とは

 山賊たちに襲われてリズ達は無事ではあった

無事ではあったものの・・


「いい入寮先なくなっちゃってたね・・」

「そうだね・・」


・・・・・

そうなのだ

襲撃で旅の足止めをくらったうえに

その後 最初の目的地とは違うところに流れていって取り調べというか


状況確認のために少し方角のずれたメリカドアドの市内の街に行くことになり

なんか補填とかのためだって

それが美味しいカレーが出てきた煙突宿に泊まった日の一日で


それで事後処理がだいたい済んで

馬車の皆さんとは徐々に解散の流れになったんだけど


そこからにさらに

リズの実家であるクリスフォード家からの連絡が

馬車の連盟に割って入っていたようで

迎えをだすからそこで待機しなさいという命令をうけてしまい

さらに追加で半日ほどがかかり


主に私の非行について問題がまず山積みなので

「馬車が来たらすぐクリスフォード家に帰ります」と

手配した馬車よりも早めにやってきた使用人さんにいわれてしまい 

帰りたくない私はそこでまたひと悶着を起こしたのだけど


「そ、それはいけませんわ・・!」

「お嬢様・・」

まだ目的地には着けていないということで

聖セントラル中央魔法学園にだけは顔向けはして

伝達はしておかなければならないと


そう クリスフォード家の誇りある あなたたちの役目を見届けたいって

わたしからお父様には言っておきますから安心してくださいって 

はずみますからって


まあちょろいもんですね

(実際は使用人さんたちに冗談は一切通じない

かなりお願いしてなんとかしてもらったのだった)


・・・・

第二の都市メリカドアドに入ってから

だいぶ都会で大きくて西洋風の建物や施設が目立ってきたけど

さらに目立つものがある


それはセントラル地区というとても大きな台地の一帯で

そこだけ別の岩石っていうか物質でできているみたいに周りの土地と色が違う


そしてそのそびえる台地一帯が

まるまる聖セントラル中央魔法学園の所有敷地っていう

とんでもない規模の学園都市に近づいていくと


「「  」」


「わあ・・!」

(近くに見えてきたらすごいわね・・!)


首都でもまったく引けを取らないといわれるほど立派な学園の建物群の一部が

城壁のような台地周りの上の辺りに見えてきた


セントラルの台地の前の学園の入り口付近は大きな公園のような 

区画されたとても広いスペースと

整備された幅の広い道があって開放されていて

たくさんの人々が往来していた


学園都市の広大な台地の敷地はまるで天然の大要塞のようで

メリカドに多く流れる入り組んだ河川を利用した大きな堀で囲まれていて


周囲に遮るものもなく

その景色を一望することができていた 


(あれは画家の人かしら・・)

その川の水面がキラキラ光る風景を

水辺の近くで腰をおろして休みながら

絵の具でキャンバスに水彩画にして描いている文化人


奇麗な色彩にサラサラと魔法のように筆が流れていく横を通り過ぎる


・・


(わあ・・)

台地の上に立派に構えた学園都市内に入る手段は

真っすぐに何本もはりがせり立った橋から堀を渡って

そこから商隊ごと乗れるような大きな魔導エレベーターで上がっていくか


堀にかかる橋を渡る前の別地点から開通していて

馬車ごと運べてしまうような備え付け駅の大型のロープウェイなんかもある


さっきは台地の上の学園都市の建物の一部も見えていたけど

本当にその場所に近くなってくると

角度が付いてもうそびえる台地の果てしなく高い岩壁しか見えなくなる


そこから真上を通って流れていくようなロープウェイのゴンドラや

大地の崖が丸ごと盛り上がるように上昇していく魔導エレベーターは

本当に訳の分からない光景で


今もたくさん人を乗せて稼働しているロープに吊り下げられた各乗り物を

下から見上げると何かの大工場の作業工程みたいでとんでもない迫力だ



( ・・・ )

ここで少し思ったことがある


そう 記憶の私は以前に区内じゃないけど

近郊の別荘からこの学園に通っていたから

この場所の景色のこともある程度知っていたはずだった


だけど以前の世界の私が混じっているせいか

記憶の認識がいまいち繋がってなくてうっすら影がかかっていたというか

それを見た途端に確かな鮮明な記憶がやってきて


さらに元の以前のこっちにきた私には初めてのものすごい迫力の景色なので

その新鮮さも同時にやってくるという


どうやらこれからもこの世界の事は見たことがあっても

初めての時のように感受性があって感じられるという


非常に視覚情報が脳みそにエキサイティングなことになっていて

ゲーマーな私の脳はすごく喜んでいたのだった



・・・

ちなみにこの立派な台地の学園都市、

魔導エレベーターやロープウェイ経由でなくてものぼる方法はある


台地の岩に彫り込まれた側道の急斜面をうねうね曲がりながら

徒歩で階段から上がるルートでも一応上に登れるんだよ


(以前に学園に通っていた時期に

リズは記念に一度徒歩ルートを使ったことがあったけど

めちゃくちゃ疲れて倒れてまた学園を休むことになって 

二度と使わないと誓った記憶が蘇ったのだった)



「お嬢様 今日はこちらからです」

「はい」


このセントラル地区といわれる台地はめちゃくちゃ広いので

各方向に大型ロープウェイ駅は設置されているんだけど

ここが一番大きい正面門入り口だ


でも今回はロープウェイの方じゃなくて

堀の水辺を見ながら大きな梁のある橋をまっすぐわたった場所にある、

あの巨大な魔導エレベーターで行くようだ


(ゴウン・・ゴウン・・)


巨大なエレベーターの重厚な床で 

魔法陣が出力を上げて様々な色に点滅して光っていて

馬車の私たちや人々を乗せてハイパワーでグングン反り立つ岩壁を登っていって

「「  」」

すごいスピードで目の前の景色は変わっていく

目まぐるしく変化していく景色は

まるで景色自体に息吹が宿って波立つ生き物のようでずっと見ていられた



・・・・


「(いろいろあったけど ようやくやってこれたみたいね・・)」


そういうわけで 

ようやくリズは迎えのクリスフォード家の馬車で

目的地の聖セントラル中央魔法学園の門をくぐることができたのだった


せっかくやって来たことだし 

私としては いろいろ向こうの中央にある、

明らかにそっちを見たいわあ、見たいわあっていう 

キラキラで立派な建物の学園都市街の世界があって 

そこを見て回りたいんだけども


「・・お嬢様」

「はい もちろんですわ(棒)」

目的用件の学生寮舎の下見が第一だと使用人さんに念を押されてしまったため

きらびやかな都市からは外れた場所にある、

その区画に直行することになる



「(まあ・・、あっちの方の景色は学園が始まった時のお楽しみね)」

そう今は納得する


それでも

(はあ 帰りたくねえなあ なんとかならないかなあ)


与えられた使命をこなすキリリとしたお嬢様の顔をして

そんなことを思いながら

ここでできるだけ時間をひきのばすだけひきのばしていこうと

私はひそかに決意していたんだけど



・・・・


学生寮前の受付の女の人

「はい・・もう期間がかなり経っておりましてですね


今年は区外からの入居者も多くてですね


期間の半分を過ぎた地点で

人気の上層と通常の学生寮の目ぼしい部屋は

もう全部埋まってしまっていたんですよ」


(・・・)

「そうなのですか・・」


「一応あることにはあるんですが ・・、


いや・・やめておきましょう 

貴族の方にお勧めできるものではありませんから」


(・・、なんかいやな感じがするなあ・・本当にオススメできないかんじが)

(でも見て回れる時間はプライスレスだから・・)


「あの・・大丈夫です 案内だけでもお願いします」


「・・・」

「・・ええ・・よろしいのですか・・・」


(こわいなあ・・おいおい・・)


「はい よろしくお願いします」


「わかりました ご案内します 

案内の担当の者は私ではありませんので広間の方で少しお待ちください」


「はい」


リズ達は受付を離れて広間のホールに出る


「ピロンパロン・・」ガチャ

リズが出て行ってから受付の元に折り返しの連絡が入る


「(・・あっ リズ・クリスフォード様は・・予備の部屋がすでにある?

はい では案内を ならお連れの方だけでいいですね)」


・・・・


ということで冒頭最初のところに戻ってくるのであった

いい入寮先は全部とられてましたっていうところね


「ところで・・」


「なあにリズ?」


「なんで・・ネロがくっついてきてるの?」


「え・・なんで リズそんな 僕たちずっと一緒にいたじゃん」


そう 私とネロは一緒にいたのだった


「いやだっていくらでも別行動する機会あったよね

町についたときとか・・


だって私とネロって偶然どうでもいい外れ馬車の席で会っただけなんだよ」


「リズ・・・!! なんでそんなこというの

僕たちの出会いが偶然でどうでもいいなんて・・


それにリズは僕をリズの家の馬車にのせてくれたじゃん

なんか野垂れ死にそうだから、とかいわれたけど


いやまあ偶然ではあったんだろうね


リズはあそこの集まりの馬車に間違えてのっちゃったんだね・・

リズは貴族令嬢だもんね・・」


「え・・でもネロも育ちはいいかんじしない? 小さいけど」


「うう・・そうだね お金はあるほうだと思うよ

爵位は低いけど一応は貴族の家だし・・


だけど僕は四男だから全然そういう優遇っていうか

そういうものはないんだ ぜんぶ自分で手続きもなんとかするよ」


(へえ・・しっかりしてるんだね でもこんなに か弱くて

やっていけるのかしらねネロは)


「そっかあ じゃあ一緒に寮、見ようか」


「うん」


・・

やがてやってきた別の案内担当の人 

「こちらになりますので ついてきてください」


「はい」


・・・

到着した

あれ普通にきれいだよ この寮

何が問題だっていうの


「こちらはですね 

実はクリフォード家の方の予備という扱いになっておりまして

それが先ほど連絡でわかりましたので案内をするようにと」


「はあ・・そうなんですか」

(へえ・・私が自分で選ばなくても手回ししてあったんだなあ

しっかりしてるなあ お父様だろうか)


「はいどうぞ 自由に見ていらしてください」


「ありがとうございます」


・・・・

はあー 普通にきれいだった なんということもない感無量


「お気に召されましたか」


「はい」


「では次にお連れの方 ネロ様ですね こちらにご案内いたします」


(え・・・)


・・・・

次に案内された場所に到着した


「  」


ここは・・なんだろう

そこは学生寮の数棟あるエリアのうちの1つの一角にあるんだけど

そこだけ建築が木材で構成されているから


石造りの他の宿舎と比べると古さは同じくらいなのかもしれないけど

材質の違いで木の家のほうが だいぶ劣化が目立ってしまったってかんじ

石造りの方もそこそこ古いけどね


新しいのは最初に前の方で見た数棟の建物ですごく広くて奇麗だった

あそこの辺りが最初の方の期間で全部埋まったという人気の寮だったのだろう



がしかし・・ここは・・


「ネロ様 こちらになります」


「(どおおん)」

(そ、外で見たより内装がボロい・・まずドアの立てつけが悪い)


案内の人が

「ではドアを開けるので気合をいれますよ よっと ガタッ ぎぃ~~」

ってなんだよおかしいでしょ


あのネロの笑顔が固まってるよ こんな小さい子に無理をさせて


ていうか初等部でしょ この子 いいの? お家から通おうぜ

でも家が遠いんだろうなあ


しかし百聞は一見にしか過ぎないので 部屋の中身もしっかり見ることにする


・・

仕事人の案内人さん

「中がこうなっております 自由にみてくださいギギギィィ~」

すでに床から音がして変な語尾みたいになっている


「・・!」ボロオオオン

(げ、げええ~ た、畳の部屋だああ・・)


いや畳が悪いわけじゃないんだけど・・ボロすぎるのよね

どうしてここまで

畳の妖怪だ


案内人さんに聞くと その昔学長さんが

学園にきた生徒に合わせて世界の多文化を取り入れるべく

地方の文化にそった寮舎を建設したらしい


この世界では国や地方で文化の様式がまとまっていることもあるのだが

なぜか飛び地のように散らばって

同一の起源を持つ文化と思われるようなものが根付いているものも多くあり

それらは民族の移動や交易の影響だけではまだ説明がついていないものもある


そういうこともあって色々な様式の寮舎を用意することになったのだが

しかし頑張って寮舎を建ててみたのはよかったものの

新築当初よりこの木造寮舎では虫が出たりすることがまあまああったらしく

貴族の学生さんなどには思ったよりあまり人気が得られず

寂れて劣化も進んでしまい

今ではその地方から来た学生も寄り付かないのだという 本末転倒な


・・・

こうして寮の案内は終わった


寮舎の前にいるリズとちょっとうなだれているネロ


「どうする?あれ」

「リズ・・僕もうやっていける自信ないよ・・」


そうだろうなあ・・困ったなあ・・

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