第20話 そうだったの

 ・・・

麓の町の応援の部隊がやってきて馬車が救出された後

足元の視界の確保できる夜の明け方になって

私たちはメーリス山地を越えた向こうの町に向かって移動をしていた


残りの道を慎重にゆっくり移動していたのと

疲れている馬車馬の負担を避けるために

乗客の半数ほどは歩いて馬車の傍に列を作っていた


「おお~い、こっちも全部倒れとるぞお」

「ややいそがしい 忙しい」

途中で山賊に無理やり馬車で進まされた旧道ルートを抜けて

メーリス山地の出口近くの一般街道に合流すると

「  」

道で倒れた封石たちを急ピッチで撤去作業をしている人たちとすれ違って

横倒しになって道の端に避けてある、

縄のかかった大きな黒い封石を見かける


(これが道を塞いでた石かあ・・

また崩れたりしないよね 大丈夫かしら)


それからメーリス山地の森は抜けて後ろを振り返ると

少し日の出の光に照らされだしたメーリスの山々が見えていたけど

(  )

珍しく奥地のメーリスの青い山の色が奇麗に見えていた


( 奇麗だなあ・・)

メーリスの高き青の山が一番青く見えるのは

晴れ間の光の間に消えていく薄い霧のベールがまだ帯びて見える時だ


そして昨日の夜の地滑りの影響なのか 

周辺の山には森を削った様な真新しい岩肌が所々に山を裂く傷跡のように見えていて


(ひえー 明らかになにか起こってた感じじゃない

雨も降ってなかったのになあ 


魔物も出たには出たけど

私やおじさん達で討伐できるゴブリンくらいだったし なんだったんだろうなあ

あのオジキはまあ・・例外として・・)


(まあ地滑りには巻き込まれなくてよかったわね)


やっぱり昨日のあの地鳴りの音はけっこう危なかったんだなあと思った


・・・・

・・・


 「もうすぐ麓の町ですよ

ここより先は第二の都市メリカドアドの都市圏です」

町に向かって移動していた馬車の一行に救援隊の人から声がかかる


山地の道から迷うように薄くかかっていた霧の向こう側に抜けて


(わあ・・!)

通りがかったそこはまだ標高はある小高い丘の上の道だったので

その街を一望することができた 

遠目で見てもかなり大きい都市の一角


その先にはこの国の第二の規模の都市メリカドアドの中心部が見えている

早朝だったので

まだ町の明かりがまばらに見えていて奇麗な景色


(!あれが・・)

さらにその町の背景に溶け込むように

朝の少し冷えた空の遠くの町の中心部からは外れた場所に

うっすらと巨大な台地にそびえた白っぽいなだらかな丘の影が見えて


消えかけていたけど 

まだ昨日から騒いでいた星の光の薄っすら残る空から

まるで次の旅先を示すように

その台地の白い丘の方向に星が流れていくのが見えた


その星が流れていった麓に小さくキラキラうつる光の粒たちは

リズの目的地、セントラル地区の学園都市からの光だ


救助の応援の人たちも加わって

来た時よりも馬車はだいぶにぎやかになっていた


襲撃から開放されて安堵あんどしたのか、

馬車の中からは喜びや恨み節などさまざまな声がしていた


街に到着してみたのはよかったのだけど


・・・


(あれ、ここは・・)


リズは無事町に到着して

停車中の馬車の前の方に歩いて移動する


「御者さん あの・・

聖セントラル中央魔法学園のあるところの近くではないんですか?

そこまでは寄るって・・」


そう、丘から見えてはいたけど 

ここはまだ距離的にはかなり遠い場所だった

むしろ方向はれている

てっきりあの星が流れた方に向かうんだと思っていたのに


「ああ・・すまんのお


交通事故くらいならすぐ済むんじゃが 

今回あれじゃろ? 犯罪者が関わっておるから事情がちと違ってのう 

馬車やお客さんの被害補填や保証の話とか

馬車の連盟に連絡もいくし 本格的な調査や見分もしないといけないんじゃ


だから管理機関のある都市の建物にまず行かないといけないんじゃよ

組合の決まりじゃからの まあでも遠いところじゃない


それに終われば すぐ自由に戻れるから」


(ああ・・そうなっちゃうんだ・・)

納得はした

(大変そうだね・・)


「わかりました ありがとうございます」


「いやいやこちらこそ 助かったよお嬢さん ほんとに

お嬢さんが皆の縄を解いてくれなかったら どうなっておったか・・


馬車におった大抵のひとはそうだと思うんじゃが 

今日はもう皆ここの町で泊まりじゃから 

そのときなにか必要なものがあればお嬢さんのところに持っていくぞ

しっかりと礼をしたいからのう」


「いえおかまいなく ありがとうございます

オジキさんとか見当たらないですけど どうしたんですか?」


・・・・

(町に入る前の大天狗オジキとの会話)


「今は地響きは収まっておるし

探知をしても魔物の気配はもう消えておったが・・

あの森にはいずれまた詳しく別の調査が入るだろう」


(ふーん そうなのね)


「それからリズ、おぬしのその腕の力のことは

馬車の人間たちには変化が見えん 見た目はただの強化体術に見えておる

だから調べでの詳細はワシからも伏せておこう 

その方がおぬしにとって都合がいいだろう」


「え、そんな困るものなの?わたしのあれって・・

いや確かにエネルギーはすごかったけど

この世界にはそういう種類の魔法もあるんじゃないの? 世界って広いんでしょ」


「確かに世界は広いとは言ったが・・そうだな

目に見えぬ力を持つという者はわずかだが確かに存在する


だがおぬしのそれは・・どうじゃろうな 

その力を使って体に異常はないのだな?」


(やっぱりいることはいるのね 世界って広いわね

ちょっと反応が怪しいけど・・)


「異常・・?異常っていえるような不調とかはないわ

夜通しでちょっと疲れてるけど・・」

(まあ この腕の力自体が異常っていえないこともないけど・・)


「そうか ならよいのだ

目に見えぬ力というのは人には理解されんのだ・・

体術に偽装はできる、だがその力をあまり人里で振り回すのではないぞ」


(見えないんなら理解というか分かんないんじゃ・・)


「元々襲われて緊急で仕方なく使ってただけなの

そんなに振り回さないわ こんなの」


「ふむ ならばよい」

その後も少しリズと話してオジキは襲撃の報告で忙しいようで去っていった


・・・・

回想もどり

 御者のおじさんとリズ


「ああ・・責任者とか偉い人は調書で缶詰だよ なかなか終わらないじゃろうのう」


「あら・・やっぱりそうなんですね」


(あらら・・私の力についてじゃなくて

もうちょっとオジキの方が使ってたオリジンぽい体術についても

知りたかったんだけどなあ しょうがないか)



・・・・

・・・

襲撃にあった馬車の補填のために立ち寄った夕方の町の中


午前中の朝に町には到着したんだけど

施設で取り調べの調書とか損害の確認とか

襲われた当時の話とか合わせるためにいろいろやっていたら

もう夕方前になってしまっていた


だから今日は夜はこの町で泊まって 

でも馬車のあれこれはようやく済んだから明日にはすぐ出発できそう


・・・・

そして今は宿泊の場所選びのために町の中をうろついている


少し観光客用?のような傾斜のある坂の立地に

温泉街のような雰囲気の建物が並んでいる場所があって

そこにやって来ていた


取り調べ見分などを受けていた施設に併設されていたところにも

簡単な休憩所はあって

そこで泊まれるには泊まれたんだけど 


このリズにとって初めての街にせっかくだから繰り出してみたかったし

お財布も無事取り戻せたからどこでも泊まれる


少しお礼にもらったお土産とかもある

あの時の布商人のおじさんからきれいな布ももらったよ 


何に使うんだろうね?

使い道がないこともないけど

でもなあ 今は荷物がかさばるから質屋行きかな


・・・・

・・・

坂道の町の中


「ねえ リズ 外で泊まるんだよね 今日はどこで泊まるの?」


そう ネロと一緒にここに来ていたんだった

・・


「あれ・・ネロなんでここにいるの?」


「え・・そんな一緒に街にいこうってリズが・・」


「あれ・・そうだったっけ・・」


「うう・・そろそろ泣くよ・・リズ」



「あっ・・あそこなんてよさそうじゃない?

シチューがでてきそうな雰囲気がいいわ」


気ままなリズのペースで指さした方向には煙突が大きくて 

少しゆったりとした雰囲気のある宿があった


「ええ・・そんなので決めていいの?」


「それだけじゃないけど・・ まあ あそこがいいわ今日は」


「そっか じゃあ決まりだね、アジサイ亭っていうんだね」



**アジサイ亭にて**


「あっ、みてリズ ここから見える厨房あんなに大きなお鍋が・・!

あれは間違いなくシチューをつくるかんじだよ」


「期待できそうね」


のれんのようなものを分けて

奥の部屋からすぐに宿の亭主のおじさんが出てくる


「いらっしゃい」

「2人部屋で1泊だけおねがいします」

「はいよ この鍵だよ 1泊なら出るとき払いでいいからね 食事はつけるかい?」

「はい おねがいします」


「ははは うちはね、こだわってるんだ 期待していいよ」

「はい 楽しみです」





・・・・

「カレーだったね・・リズ」


「うん・・そうだね いや普通においしいけどね

ていうか来た時にすでに予感はあったけどね 匂いっていうか」


「おかわりしていい?」

「いいわよ いっぱいたべて」


・・・・・

宿泊中の宿の部屋にて


小綺麗にまとまって見える景色も若干いいお部屋

そんな部屋で同室になったネロは



「うう・・リズ・・お腹いっぱいで お腹いたい・・」


(ネロ・・君はなんとしてもお腹が痛いんだね・・)


「大丈夫?ベッドに寝転がって休んでいてね」

「うん・・」


リズは泊まることになった部屋で

今日買い物したものや貰った荷物などを軽く整頓していく

そして


「じゃあほんとは今日ネロと一緒に入ろうと思ってたけど

お風呂先に入ってくるね」


「え・・前の建物で職員の人にみんなウォッシュの生活魔法かけてもらってたよね」


そう 街で保護してもらったときに

「ウォッシュ」とか「クリーン」っていう

立ったまま体を奇麗にできるすごく便利な魔法があったんだけど

それをサービスでかけてもらえたんだ


「あー、あれね すごいとは思うんだけど

やっぱお風呂じゃないと洗った感じが私はしないっていうか

ほら私は家があれだから


だからほんとは お風呂ついてそうな宿屋みてたのよ

煙突がおおきい宿屋にしたの」


「ふーん・・そうだったんだ じゃあ僕はこのまま寝るね

 寝れたらだけど・・」


「苦しかったらお水とか飲むのよ 置いてあるから」

「うんわかった」


・・・・・

ちょっとだけ

リズのお風呂の中の様子


(カポーン・・)

「はあ・・あったかいなあ・・安心する・・」


「・・煙突みて大きいお風呂あるかなと思ったけど

普通に部屋に備え付けのお風呂だけだったね・・(ジャバア・・)」


「ここの私 普通に育ちいいよね・・

体も育ってて大きいし

施設のしょぼいシャワー室か集団用の殺風景なタイルの浴室しかなくて

それに慣れ切ってたはずなのに


ここにきたらあっという間に上書きされて

毎日あったかいお湯に全身までかって入れてる・・

それはすごく私にとって幸せなこと


なんだけど・・でも・・

やっぱり一人は寂しいね・・」



・・・・・

お風呂あがり後の部屋


お風呂からは上がって静かに部屋に戻る

(ネロは・・もう寝てるね いろいろあったから疲れたのかな さすがに

物音はもう立てないようにしないとね)


「(でも私はもうちょっとだけ・・)」


「(寄生パラサイト・・)」


(結局この魔法スキルは全然役に立ってなかったなあ・・

ていうか使いどころが思いつかないよね)


いやでも作ってること自体はゲームの指先の器用さに効いてる気がするんだよね

指の動きが精細になっていくっていうか

でももうオリジンできる機会があるかは分からないけど・・


どのみち私の風変わりな魔法は有効活用はしにくい  けど・・少しづつね

今は趣味の手芸レベルだけどいつかはきっと・・


・・

リズはいつもとは違う宿のベッドの上だが

いつものようにセミの抜け殻を生産しはじめる


(ちょっとさぼってたから15匹くらいはいきたいなあ

そのうち饅頭マンをもう1体増やせるようにしないと)


・・・・

・・・

結構、作れたなあ・・ もうちょっといけるかも


「よし次・・ あっ・・」


(あっ・・私も もしかしたら疲れ抜けきってなかったのかもね・・

だってあんなことがあって

そりゃそうか・・)


「  」

少し変な角度でそのままベッドで意識が薄くなって眠りにつくリズ



・・・・・


(あら・・)

パチリとリズの目があく

変な角度で寝ていたため早く起きてしまったみたいだ


「ゴソゴソ・・」

(まだ朝じゃないわ 暗いわね・・)

まだ全然周りは暗い


リズの周りは作成したセミの抜け殻だらけだったけど

体に毛布はかかっていた

(あれ・・?ネロ? ネロがかけてくれたの?

起きたのかしら・・)


向かいのベッドのほうをみると

そこで寝ていたはずのネロはいなくなっていた


「え・・? 早めに寝たから起きちゃったのかしらね

でもそれならどこに・・」


その時 部屋の廊下の奥の方から「ステン!」って大きな音がした

そのあと(ヒテテ・・)ってネロの弱々しい声が聞こえてくる


「ネロ・・?」

リズは立ち上がって その音がした方に急いで向かう

廊下ではなくてその奥の浴室の、お風呂の中からのようだった


「(バアン!)」

リズは迷わずその浴室のドアを開ける


「ネロ!すごい音したよ 大丈夫?」



「え・・・!! リズ・・!? うぅ・・いてて


やめて 見ないで 僕、恥ずかしい・・・」


ネロの足元には石鹸が泡立っていて転がっていた

これでネロは転んだのだろう


「大丈夫・・転んだの?頭とか打ってない? 血とかでてない?

ちょっとみせて・・」

ネロはちょっと涙目になっていた


「・・うん 大丈夫 ちょっといたいけど

転んだだけだから・・」


「ネロは・・お風呂はいらないんじゃなかったの?」


「それは・・いつもより早く起きちゃったし


・・リズがお風呂のほうが洗われる気がするっていってたから 気になって

朝になる前に入ってみようかなって・・」


「けど・・まだ お風呂入ってなさそうね」


「うん・・お湯だしてみたんだけど

思ったより音が大きいから やっぱりやめて

ちょっとづつシャワーにして体だけ洗って出ようって・・」


「私はもう起きたから、ネロは音は気にしなくていいよ」


そういってリズは蛇口を豪快に捻って お風呂にお湯を張り始める

(ジャボボボ・・!)



「ていうか・・ネロって・・男の子、だったんだね」


そう ネロには・・ついていたんですね 


「え・・・! リズ知らなかったの・・いや言ってはなかったけど、、

けどそれに「僕」っていってたじゃん・・」


「それはそうなんだけど 

私 ネロのことはじめ女の子だと思ってたから拾ったのに・・

まあなんとなく男の子だってわかってたけどね」


「ええ・・そう・・ って、 拾うってなに・・」


「どうする? 一緒に体洗ってあげようか?ネロ」


「や、やめてよ 恥ずかしい、、からリズはあっちいって」


「でもネロってまだ家族の人と入る齢なんじゃないの?

気にしなくていいよ?」


「え・・いいの?」


「うん ネロは小さくてかわいいから」


「ち、小さくて か、かわ・・・!!」

「ダ、ダメやっぱりでていって・・!」


リズが小さくてかわいいって言っている辺りで

ネロのネロを見ながら言ってしまったため


「あっ ちょっと・・!」

ネロはなにか思い違いをしてリズをぐいぐい本気で押してきて

リズは浴室を追い出されてしまった


ていうかネロって血筋に獣人が混じってるって最初にいってたけど

耳以外要素が全然ないよねって思っていたけど


お尻の方にちゃんと短いかわいい尻尾がついていたのだった



・・・・

その後


「どう? けっこうさっぱりするでしょ お風呂も」


「うんそうだね さっぱりするかも」


いい景色の宿の部屋の外は

もううっすらと朝日で明るくなっていた

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