第18話 脳を走る軌跡
リズはそのとき特に怖いとか思ったことはなかった
あの大天狗が殺傷力のすごい術を人間に向かってぶち当てたことでも
その次だと狙いを定めて馬車の人たちにその目が向かっていったことでも
それは別にわたしにとって関心の薄いことだった
というのも感覚的なものだ もっと別のことを強く・・
(ザッ・・)
足場を整える
みんな距離をとっていたけど私は残っていた
「リズ・・」
「いいから・・思ったことがあるの 試してみるからネロも離れていて」
ネロは私が肩を押すと
心配そうに馬車の方へ離れて行った
・・・
(あの大天狗・・それを
やっていることに対して それに目はともなっていない
まるで別のことをしているような・・
それがあの化け物ような見た目をそのまま反映しているように
天災といえるならばそれはそうなのかもしれない
天災ならば ただあるがままに人間に災いを与えていけばいいのだから
それは今見えているように何も考えなくてもいいし
別のことを考えていてもいいのだろう
だけど・・それは違う気がする
それに私はたぶんそうなんだ
ただ相手がそこにいなければイヴと一緒にはなれないんだ
見てもらわなければ 相手に私が相手だと認識してもらえなければ
私はイヴの力と本当に一緒にはなれない
そう だから私はきっと不意討ちができない人間なの
だから見てもらわないとね
(力が膨張していく)
・・・・
鬼の面の大天狗はその存在を感じていた
( 妙な反応の人間がいる )
祝福の「探知」にかかった人間
もう目的の人間は一人処理できたが
残りも もう場所は把握できた あの馬車の中だ
探知はもう必要ない
そう思ったが・・
( なんだこれは 「敵性」・・ではないが
明らかに力がゆがめられているような邪悪なものを感じる
魔物か・・? )
目を向ける
だが、そこにいたのは
「少女」 成人もしていない人間の娘 魔物ではなかった
その娘にうつる淡い不思議な色合いをした瞳だけが
ゆらゆらと闇の中に不気味に輝いていた
どういうことだ・・?
「・・・何?」
「 」
目が合った少女は微かに笑っていた気がした
その瞬間 その人間の娘の腕はこちらに真っ直ぐ向けられていた
少女の姿は流星が真っすぐに割った半月の夜空の真下にあって
その少女の腕は人間とは思えないほど醜悪で邪悪な力をまとっていた
「
そう聞こえてきた
直後の次の瞬間
はじけるような禍々しい閃光が上空の大天狗に向かってまっすぐ襲ってきた
「「ギュオオオオ!!」」
( これは・・人間の魔法か・・? しかもなかなかやっかいな威力だ)
だが大天狗は何もしない
ただ腕を組みじっとみているだけ
「ズシュア・・!」
用心棒の人間たちの術を今まで全て阻んでいた大天狗を守る風の力が
その強い閃光によって一瞬で散らされていた
そこにリズの
「ズギャアアアア!!」
「パキイイイイイン!」「キィン・・」
何かが派手に割れたような高い音が空間に響き渡る
・・
少しの間 大天狗の周りは衝撃の煙で覆われて
リズの邪悪な力の残塊が立ち込めていたが
「!!」
そこからすごい勢いで新たな風が周りをまわって
まるで無傷の大天狗が空中の煙の中から現れる
「(グオン・・!)」
ボアッとその大天狗の巨体が
その空中からリズの前にまで躍り出てきて
大きな衝撃がくるような気がしていたけど
その天狗は地上に音もなく静かに着地した
「 ふむ・・風の加護はまるで効かんか、
そしてワシの結界を1枚と少し・・ 面白い
おい 娘よ このワシに撃ったのだな その技を 」
(ズン・・!)
向こうから接近してきて
初めて風の影のないはっきりとした姿の大天狗の姿が見えた
「「 」」
急にリズの目の前に現れた大天狗は
呪物を纏ったような荒々しい羽織を着ていて
その肉体やはり重厚で大きく
その場で立っているだけで大型の猛獣のような威圧感があった
(
いや・・結界っていっていたわ 防がれたのね)
「・・・そうだっていったらどうするの?」
「 試してやろう 」
試す・・? 私を? あなたって変わってるのね
その時
「キイイイン・・ピキピキ、パキ・・!」
「パキン!」「パキン!」「パキン!」
リズと大天狗の立つ辺り一帯の外側が
大天狗に放たれた魔獣が作り出した結界によって完全に取り囲まれる
「 ゴゴゴゴ・・ 」
この鬼の面の大天狗は
どうやら今完全に私一人にターゲットを絞ったようだった
「・・・!」
(ここからは絶対逃がさないっていうわけ・・?こんな小娘を・・?)
(ふーん?じゃあ・・)
どうしてあなたたちは今日はわざわざ私の間合いに立つのかしらね
迂闊なの?
でもあなたはなんとなく違う気がしている・・
(あなたが魔物のボス? それとも目覚めたっていう悪魔さん?)
でもそんなことは・・どうでもいい
どうやら私はこの世界の
戦うことはできないみたい
「では遠慮なく」
戦闘Pコマンドは一気に入力する
力は増幅する
「
・・
向かい合った大天狗はその少女の攻撃の気配を瞬時に察する
「・・!」
( なんだこれは 敵意ではない、 なにか別の・・、
だがこの技そのものに込められているのは膨大な邪悪・殺意
人間の魔法戦士としてみては簡易な魔法防護すらしていない
まるで素人に見えるが・・
敵意を持たぬ人間がこんなものを無邪気に振り回しているのか
危険な娘だな )
( だがこのワシに単身挑むとは面白い 迎撃をしてやろう
しかし・・誤解をしているようだな )
「
化け物のような大天狗の強靭な肉体に
さらに付近の風の力が巻き付いていき
「ゴウ・・!」
身体能力を飛躍的に向上させた力で その剛腕を瞬時に構え
リズの攻撃の迎撃態勢に入る大天狗
「「 カッ 」」(・・!)
だが大天狗がそこから前進する、その直前に少女の邪悪な右腕に
殺気とさらに力がもう一段階盛り上がったのを感じた
「ゴゴゴ・・!」
(ん いかんなこれは これは手加減ができんぞ それどころか・・
ならばこうだな)
一瞬体勢を低くして大天狗は地面に開いた大きな手のひらをトン!と置くと
「 フッフッフ・・特製だ!」
(ギュイン・・!)
大天狗はくるりと体を宙に反転して
代わりにそこに握りこぶしほどの丸い球のような物体が
「パッ・・!」
大天狗の手からふわりとリズの攻撃の軌道上のラインに置き去りにされた
それは
その重厚な体から繰り出されているとは思えないぐらい身軽な動きだった
凶悪な右腕を突き出すリズに一瞬、
その空中に置き去りにされた丸い物体だけが視界に入る
「!!」
(かわされる・・!)
(これは・・まさかモーションキャンセル?!)
「(だけど見える場所なら・・!)」
そうしてリズが咄嗟に拳を繰り出す軌道を変えようとすると
「ズガアアアアン!!」
急に足場の地面の広範囲が割れて一気に持ち上がったかと思うと
「!」
その割れた地面の下には
「風でできたコマ」のような渦を巻く物体の魔法の光がこぼれて見えていて
リズごと宙に持ち上がって
そっちに一瞬気を取られて大天狗の姿を見失ってしまう
「これは・・!地面が浮いて・・!」
(さっき手を置いた地面に魔法も仕込んだの・・?!)
(それに・・!滅拳を警戒して避けるこの対応・・この天狗・・、
私の腕の力のこと・・やっぱり見えてるわ!
この天狗と目が合った時に直感でそう感じてた・・!)
「ズギャアアアアア!!」
直後にとんでもない威力の
「・・・!」
(
自分から放たれた技の威力に驚く
宙に浮いた安定しない足場から手探りの一撃であったが
やはりそこに大天狗の姿はすでになく かわされていてリズの攻撃は外される
代わりに大天狗がよこしていた丸い玉に
リズの強力な攻撃が直撃して丸い玉は一瞬で消し飛び
「バウン!!」
破裂し その周りに視界を覆い隠す白い煙幕が張られる
(さらに煙幕・・!)
(これは・・・!)
リズはその瞬間 上からフッと大きな影に覆われる
「 グハハ・・!
「(ブワアアア!)」
大天狗はリズに対して煙幕を使用してから
すでに一瞬で移動していて上空からの攻撃に切り替えていた
「(上・・!)」
(え・・、・・その技・・!
似ている、わ・・!
オリジンの「ダイビングボディプレス」の挙動に・・!)
・・・
少女への「飛身・圧潰し」の挙動に入る少し前
大天狗はこの戦いの周りの状況を察知していた
((馬車の前に集まった人々が突如始まったこの戦闘に騒いでいる))
「うわあ なんだありゃあ 何も見えないのに突然周りが消し飛んだぞ
あの化け物、滅茶苦茶だ!」
「とんでもない威力だ・・、やつの魔法か・・?」
「危ないぞ! みんなとにかくさがれ!」
「(ブシュウウウ・・)」
少女が攻撃を外した場所は 取り囲んでいた結界がいとも簡単に消し飛び、
さらに直撃した広範囲の草木や巻き込まれた山岳ゴブリンが消滅して
大地には切り裂いた爪のような痕を残し、邪悪な気の残り火が漂っていた
「( む・・、
普通の人間には やはりあの少女の力が見えておらぬ・・? )」
そして大天狗はその攻撃を撃ち放った少女の方を見る
その戦う少女の表情
(ふむ・・あの渾身であろう一撃を躱されて なんでもない顔をしておるか・・
通常は予期せぬ複数の横やりが入れば
動揺や注意に時間を割かれるのだがな
足場を飛ばされようとも反応は最低限で抑え
そして常に経過をみるような眼をしている・・
なにやら視点の違うところから見られているような嫌な感覚がする
なにかを・・思い出すような・・)
( だが今は続きだ )
大天狗は体技 飛身圧潰しを繰り出してその肉体を大きく広げ
はるか上空から少女に強襲する
・・・・
・・・
リズはその相手の挙動を察知すると
即座に対抗して次の行動に切り替える
(あれは・・、
やっぱりダイビングボディプレスに近い特殊投げ動作だわ・・!)
(・・・)
このよく分からない魔法の国にやってきてやっと外の世界に出て
何でかは知らないけど
確かに巡り会ったあのオリジンに近い波動
「ふふ・・」
最初の私の一撃をあの大きな天狗に見られていて弾かれた時
何故か少し気分は高揚していた
あの強そうにしていた癖にすぐ潰れてしまったゴブリンと違って
その一撃で終わらなかったその時から
知らないうちに無意識で密かにリズの心は期待していたのだった
( 私はただ何かを潰して そこで満足なんかしたりしない )
そして今 目に映ったのが「その技」だって、
私の感覚が反応した途端に
リズの中にこれは負けられないという強い対抗意識が芽生えて
「(ドクン・・)」
リズの高鳴っていたゲーマー心に火がともる
( この軌道は上空から・・ならば、 )
「「 即、撃ち抜く・・ !」」
「
対空強ナユラ砲昇破・滅
これは・・力をためた後Pコマンドと→↑↑↑を
完璧なタイミングであわせたオリジンのイヴの闇の殲滅対空技
その昔 実験施設でリズの頭にコマンドを叩き込まれたように
リズはその頭の中に流れるオリジンのコマンドの軌跡を即座に再現する
・・・・
オリジンで使い慣れたその感覚は戦いによって引き出されて
さらに高まっていた
「ポウ・・」
するとリズの脳のイメージ中に
「「 」」
具体的にもっとクリアなその世界が再現される
それは今までのリズにはなかった感覚
気が付くとリズの意識は
時が止まった様な砂丘と
まるで星の見える広大な宇宙が透けて見える空間の中にいた
でも目の前の視界に
「(え・・これは何・・?!
オリジンの格闘コマンドを意識したら出た世界・・?)」
「(でもこの感覚・・今は・・使える!)」
慣れない状況にも即座に受け入れて対応するリズ
「 」
目の前の空間に光の線が走って
空間の奥の上空にいた大天狗との距離を光の線でつないでいく
イメージの中でゆっくりと動いている大天狗の胸元にまで
その光が届いて星座の川ように繋がる
止まったような、だけどゆっくりと進んでいく空間の中で
それが立体的な視点となって目の前に現れる
大天狗の胸元まで続くリズの宇宙の光の川に
オリジンの技のコマンド、
Pコマンドや↑コマンドや→コマンドが並んでいる、そんな不思議な世界
「(でもこれはコマンドと連動してる・・!
ならこれを成立させていけばいいはず・・!)」
世界の中でその流れを感覚のままなぞっていく
イメージの中でも激流の中に身を置いているようで集中の維持が難しい
「(!あれは・・)」
あの遠いコマンドよりもっと先、
軌跡が銀河に彗星の尾を引くように直下の元に下っていて
その向こう側に
幻想的な影のような女性の体付きの後ろ姿が見えた
(( ))
ハッとする
それは忘れもしない・・女悪魔「イヴ」の後ろ姿だった
銀河の星の砂丘の果てに映える影
イヴの装甲と奇麗な後ろ髪がたなびいていた
遠くにいるけどイヴはその砂丘に立っていて
その姿は銀河の果てを見つめているように見えた
(あの先に行けば・・ イヴに・・会えるの?)
リズは入力を開始する
「カカカッ・・!」
力をためる最初のめちゃくちゃな連打Pコマンド
そこで莫大な邪悪な力が増幅するのを感じる
宇宙の川の近くのPコマンドの部分が青く光りだし
リズの体が流れる川の次のコマンドの元へと進んでいく
そしてさらに大天狗の体の流れに視線を合わせ意識を標準に絞って
Pコマンド
「(ポウ・・)」
「ブアアアア・・!!」
何かが確定したように リズの体の周りから闇のエネルギーの波動が噴き出る
流れる光の川のPコマンドが青く点灯し また前進する
(次よ・・!)
(そして残りの方向キー →↑↑↑・・・!!)
「ゴゴゴゴゴ・・・!!」
「(これを一気に成立させて
イヴの殲滅パワーを今 解放する・・!!)」
そう意気込んで
・・
残りの箇所に差し掛かったところで
リズはある違和感に気が付く
「 」
(あれ・・・?)
よくみると軌道上にある方向キーの→↑↑↑は
光が影のように薄暗い感じになっていて
Pコマンドの感じとは違っていた
Pコマンドのようにイメージで押せないのだ
「カシュ・・、カシュ」
(え・・押せない 押せないよ)
「ああ・・タイミングが・・」
リズはそのボタンを押すのに最適なタイミングを逃してしまう
(え・・・まさか失敗しちゃうのこれ・・・)
「・・・」
そういえば今までわたしが使ってたのって
Pコマンドしかなかったんだよね・・
(( ))
リズの中のエネルギーが急速にしぼんでいくのを感じる
今までつなげることに成功して点灯していた戦闘コマンドPの
青い光もボシュッっと消える
意識が激流の中にいるようだったけど
その大天狗まで浮かんでいた光の星座の線の軌跡はフッとなくなり
私はその銀河に見捨てられて
押し流されるように元の世界へと戻っていく
(え・・)
その世界が戻っていく一瞬、
ドクンと深淵から魂の響く音が聞こえて
遠く離れていくイヴの姿がこちらの方に一瞬だけ、振り向いた気がする
「「 」」
それは私が思っていたイヴとは違う表情
気のせいだろうか
そのイヴの目元から頬に
星の光のような小さな光の粒が流れていたのが見えた気がした
・・・
やがて
そんなイヴの姿は見えなくなって リズの銀河の世界はかき消えて元の場所に戻る
浮かんでいた時を止めたコマンドの世界は終わり
感覚が元の今戦っているこの場所の 今の私に完全に戻る
「イヴ・・」
「・・・・(やらかした・・)」
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