第14話 外の世界へ
クリスフォード家 屋敷でのバーゼスお父様とのやり取り
メイドのローラに呼ばれて お父様の書斎まで連れられて
そこでバーゼスお父様の話を聞いている
・・・
「リズよ、そろそろ学園の新学期が始まるが
今度からは郊外の別荘からではなく
新しくセントラル地区内の学園寮の指定があるから
これから下見をしておきなさい
下見をした部屋が気に入れば その場で決めてもかまわない
その場合は最低限の荷物の発送の連絡を学園側に入れておくようにしなさい
学園まで行く馬車は隣の町にある
乗り継ぎまではうちの馬車で向かう
すぐ支度をしなさい」
「はい お父様」
やや・・、外に行きてえなあ・・って思っていたけど
案外すぐに機会がやってきたぞ やったわよリズ
お父様が言っている学園とは
リズが今まで通っていた「聖セントラル中央魔法学園」といわれる
第二の都市メリカドアドの学園都市にある由緒正しい魔法の名門学園である
(うーん でも学園そのものに通うんじゃなくて学生寮の下見かあ・・
まあ贅沢は言ってられないよなあ)
・・
あっさり外に出れることになったリズは
すぐに支度に準備を整えて
クリスフォード家の屋敷の門の前に待機していた馬車の前に立つ
(うわあ ほんとに馬車だ・・ 車とかじゃないんだね)
クリスフォード家で何頭か所有している
やたらと毛並みが
私ひとりの旅なのかなと思って ちょっと期待したけど
「ええ当然です 主人の
付き添いの使用人さんが複数人同乗して一緒だった
あと馬車の御者の人も
(まあ そりゃそうか)
・・
リズの旅のために用意された、そこそこきれいで大きな馬車
屋根の方にクリスフォード家の立派な家紋がついている
「 」
背に二対の蝶みたいな翼が生えていて
斜めに構えた力強い姿勢をとっている獅子のような動物と
それとは別に天に浮かぶ伏した眼のように裏返った三日月
そしてそんな月に弧を描く様に放たれようとしている流れ星のような弓矢が
合わさって交差しているような特徴的な文様印
(うちの家紋ってかっこいいよなあ・・)
なんだか星占いとかのタロットカードの絵柄のエンブレムのようだ
この世界では昔から獅子というのは
何者にも左右されない強い意思を持ちし者の象徴となっていたり
天に向かう弓矢にもそれに近い意味があったりする
そういう家と縁やゆかりのある
象徴的な動物や武器などの道具類を模ったものは
近代の貴族の間では主流のモチーフとしてよく家紋に使われていたりする
なんでそんなうちのライオンには蝶の羽が生えてるのかはよくわかんないけど
・・・・
そんなかっこいい家紋のついた馬車に乗り込んで
途中で少し使用人さんと話しながら隣町へ
乗り継いでからは余裕をもたせるので学園都市のあるセントラル地区に着くまでに
だいたい2日半程度の道のりで時間がかかるらしい
「(カッポカッポ・・)」
クリスフォード家の門から出て
家の前から地平に伸びた田舎道をずっと進んでいく
・・
家は立派だけど 家の周りは外からクリスフォード家に勤める人たちや
最低限の行政の施設がポツポツあるだけで町の中に建っているわけではない
郊外の片田舎の領地なので
他には空と遠くの山々しか見えるものがない殺風景な只広い草原地帯が広がっている
朝方には一帯によく霧が出ていたけど
私が家を離れる時には霧はもう晴れていた
(・・・)
霧が晴れて見渡せるクリスフォード家の周りの自然の中には
魔物どころか小動物や小鳥の姿すらない
(ヒラヒラ・・)
クリスフォード領の果てしない草原には
小さい蝶々たちがヒラヒラと自由に飛んでいて
小さな白い花が集まって咲いているくらい
それは前にお兄様も言っていた、
昔カルミナお母様がかけた強力な結界魔法の影響があるせいらしい
見た目には魔法がかかっていることは全然わからない
( )
その風景を見ていると少し思い返す
私の中にあるお母様の記憶はかなり昔のものだ
この世界の私が小さい頃の記憶
珍しくリズの体調がよかった日に少しだけ家の外を見せることはあっても
傍につかせて自由にはさせず
けして外の野原ではリズを遊ばせなかったカルミナお母様
(( ・・いいことリズ
この地の花の白い蝶たちにはけして手で触れてはなりませんよ
あの蝶は人に夢を見せるのです ))
(「え・・!夢を・・?
ならあの蝶の夢を見てみたいです お母さま・・!」)
当時から寝ていることが多かった私は
そんな夢が見れるならもしかしたら面白いかもなあ
くらいで思っていた気がする
私はお母さまの傍から離れて
蝶のいる野原の方に近づこうとする
(( 止めなさい ))
「・・・っ」
その時だけ有無を言わせないように無感情だったお母様の声が
やけに記憶の中の印象に残っている
言葉の力だけで足が止まる
それと同時にあの蝶に触りたいという気持ちもサッと引いていった
(( なりません
なりませんよ リズ
蝶が見るのは人の夢ではない
あの虫たちが見ている夢など どうせろくなものではないのですから ))
(・・・)
(「はい わかりました・・ お母さま・・」)
その後は
やっぱりお母さまは私には一切外のものには触れさせずに
また家の中に戻る
その時のことだけ思い返すとかなり冷たいようなお母様の印象だけど
普段のカルミナお母様は大らかで
家でもとても人当たりのよいひとだった
そういう普段との差もあって
私はそのときの迫力によくわからず母の声に頷くだけだった
その時は一緒に外にいた、
ツンツンはしていたけど
まだあんまり傲慢さはこじらせてなかった頃のお兄様が
外の生き物には悪い菌がついていて触るとよくない事が起こって
体の弱いお前がまた病気になるから
お母さまは気を配っているんだと
少しシュンとしていた私に駆け寄ってきて
そう教えるように耳打ちをした
・・・
・・
それからすぐお母さまはまた外国へ行ってしまったけど
でもそういう魔法の力でネズミや鳥などの
病気の病原菌を持つ小動物は寄り付かなくしてあっても
なぜか術の対象外のさっきの蝶たちや
少しの種類の小さな虫たちはこの広い草原を自由に闊歩している
(お母さま的には
虫はよかったのだろうか・・?)
・・
進んでいくクリスフォード領の道の途中にあったのは今通りがかった、
土地の境目を横切るように地平にずっと長く伸びて入り組んだ水路
この辺りには畑がないので農業用でもない、
よくわからない用途の枝分かれした水の道筋と
そのせいで見た目が少し不自然な地形
メリカド魔法共和国は力場の入り組んだ不思議な土地で荒野が多いけど
その昔に竜が這いずってできたという伝説が残る大きな河川が通って
川も多い土地柄の国なので
そのどこかから引かれてきた普通の水路は
小さい町であってもどこかしらに整備されて道沿いに通っていることが多い
「 」
ふと外の風景を見ていたリズが目に付けたそこは
入り組んだ迷路のような文様の水路とまっすぐ交差した砂利道の端
その一角には細い草が生い茂っているのだが
離れの馬車から見て人間の大人の背丈ほどの丸みを帯びたどっしりとした石と
そのほとりにこれもよくわからない欠けたような頭がない小さな石像が一つと
その打ち捨てられた小さな像の根元に影のかかった古い杖のようなものが
いくつか地面に刺さって道の片隅で野ざらしで放置されていて
草原のどこかからきた、ただゆるやかな風に吹かれている
(変な像・・)
「あの丸石ははるか昔よりその地の境目に置かれているのですよ
水路とこの道が十字になった場所が境目で ここより先がメイシンの町です」
メイシンっていうのは隣町のこと
つまりうちの門から出発してここまで馬車で進んできた場所は
全部クリスフォード家の敷地だったっていう事だよ
さっきこの国は力場が入り組んだ土地っていったけど
そのせいで道筋の方位を知るための磁針が全くきかない場所が多くて
場所によってはよく霧が出ていることが多い
今はよく晴れているけど この辺りもそんな地域の一つ
「迷える針」を意味する古い言葉がその地の由来になっている
といわれている
そのメイシン町は今は行政の管轄地域内ではあるんだけど
元々昔はそこも直轄地でクリスフォード家に帰属する領地だったという
なんというかやたらと広い
メイシンは元々はこの地域の一帯を指す昔の地名だったらしい
・・
すると私の隣にいた使用人さんの一人が
「ゴキュ・・」
何かの薬のようなものをサッと水と一緒に口に含んで飲んでいた
「馬車酔い?」
「お恥ずかしい・・私どもが外界の近くに出る時は耐性のない者は
土地との力場の変化の差で酔ってしまうことがあるのですよ
これは馬車酔いではなく魔力酔いを抑える薬です」
「ふーん・・」
(私は特に酔いも何も感じないけど・・
魔力の才がないせいで普段との変化の差もわかんないという)
魔力のある世界では車酔いだけじゃなくて
そういう酔いの種類もあるみたい
・・
そこから土地の境目だというところを出て 道の先に進んでいくと
徐々に人の手の入った小さい規模の畑などが広がりだして風景が変わってくる
「 」
そのもっと先に目立つ背の高い大きな灰色の石で組まれた門の影と
同じ石質の石でできた石壁が並ぶメイシン町の町並みが見えてきた
「・・・」
(そういえばうちの家の周りには草原だけで一切畑とかはないんだよなあ・・
広いんだから有効活用とかすればいいのに)
でも道中は晴れていたので のどかな領地の景色も見れたし
なかなか悪くない旅だったと思う
それからしばらく馬車を歩かせると
遠くの方からも見えていた石の門のある例の町の入り口に到着した
・・・
・・
この町はそこまで大きくはないけどこの辺りで唯一ある交通の要所で
西の方に大きな商道が開けていて今私たちがやってきている町の入り口は
その反対側の奥裏手にあたる場所だ
近づいて見るとこのメイシン町の規模にしては少々規格が大きすぎるような
石造りの大門だ
(わあ・・すごく大きな門
どうやって切り出したんだろうなあ 人力じゃ絶対無理だよこれ)
石壁と門自体は切り出しの巨岩というか古い遺構跡みたいで
それはかつてはこの町だけではなくて
本来もっと大きなものを守って囲んでいたような大きさ
だけどそれらの石壁は端の方から風化していて
崩れて途切れてしまっているので
今のこの町を囲んで守る石壁として機能できているのかはよく分からなかった
「リズお嬢様 ではここからはこの町に待機させてある者に
引き継ぎますので
ここからすぐのあの見えている建物から
あの目印の像の場所に付き添いの案内人たちを呼びつけてありますので
案内人に申し付けて少し町で買い物などもしたければよいと思います
そこから駅の馬車の場所まで引き継いで一緒に学園に向かってください
我々は今日はここまでなのです
ではここから一緒に歩いて・・」
(あれ、ここで降りるんだ・・)
今の馬車の引継ぎの使用人さんたちの担当はここまでらしい
町の中には入って行かず
町の石門の外側で馬車を降りる
町の中には分担して貴族の遠出用の
車中でキャンピングカーのように寝泊まりもできるような
今よりもっといい換装の馬車を
駅のターミナルで抑えている担当者がいるっていうお話
今見えている少し先の町の門入り口から石タイルで舗装された道の広場の先に
聞いていた赤茶色のレンガの建物と
待ち合わせで使うような目印の石の彫刻でできた人物像が見える
昔の町長さんとかの偉人の像だろうか
(ふーん、あの像の前かあ・・)
「ありがとう でもあそこまでなら
いってきますね」
「あっ お嬢さ、ま・・ 」
私は冗談交じりにタッと早めに駆けて
私だけで先に大きな古い石でできた門をくぐる
でも私の自主性に任せてくれたのか使用人さんたちは
町の外側の石門の境界から先には入ってこないようだった
「 」
少し歩いてから振り向くと通ってきた石の大門の上部の方に
入ってくるときの門側には見えなかった、
何かの太い木の根が描かれたような削られた跡のある古い紋章が見えていて
だけどそこまで離れていない門の向こう側に
今までのってきた馬車と馬の姿は見えていたけど
使用人さんたちの姿は隠れているのか見えなかった
(え・・・)
(あれ・・、絶対付いてくると思ったのに
うちの使用人さんたちって変なとこで真面目なんだよなあ
なんだかんだ私の言うこと絶対聞いてくれるっていうか
まあいいか 引継ぎみたいだしね)
・・
馬車での道中で話していた時の話によると
この町の治安はとてもいいらしい
というか私たちが住んでいるクリスフォード家の貴族領一帯はとても治安がいい
バゼロお兄様も言ってたけど
この近辺でも魔物は出るかもしれないけど それはすごく弱いという話
まあ魔法がろくに使えない私や
身を守る力のない一般の人には危ないそうだけど
それはそれとして
「(買い物していいって言われたし ちょっと買い物したいなあ)」
リズは街についたがいいが 歩いていってすぐに
先の道の目印だと言われていた町の人物像と
その台座が立つ場所の付近に差し掛かる
それは見上げてよく見ると
空に掲げるような杖を持っていて立派な魔法使いの石像っぽい
・・
その立派な石像の台座の下のすぐ横の辺り
「 」
そこには地面に擦りそうなほどやたら長い白い髭のおじいさんが
ものすごく腰の曲がった姿勢で杖をついてひとりで立っていた
町の人っぽい
(あれこんなひといたかしら)
石の門から見えていたときには町の人はわりといたような気がしたけど
その像の周りだけは不思議と今は人がいなかった
「おや 今日は霧が晴れておる・・
門の向こう
・・ようこそ メイシンへ」
そのおじいさんは町にやってきた客人の気配に気が付いて
私に向かって声をかけてくれたので近づいていく
「こんにちは あなたがここに呼びつけられたっていう
うちの家の馬車の引き継ぎの人?」
「馬車・・?おやおや、いえいえ とんでもない
人違いですじゃ
わしは未だに目が覚めぬ主人様をもうかれこれずっとここで待ち続けておりますじゃ
今はこの場所で待ち続けることがわしらの務めです
ですがこの土地の町の中だけでなら人の役に立つことを許されております
行きたい場所があれば
わしでよければすぐに案内しましょう
お嬢さんが
(あら違ったんだ)
なんかちょっと独特の癖のある話し方をする、
近くで見ると不思議な雰囲気がした白髭おじいさん
うちの使用人さんと似たようなことをいうなあ
この人もどこかの貴族の家の使用人さんなのかしら 見た目は老中って感じだけど
でも目が覚めない主人ってあれだなあ・・
病気に伏せってる、とかかしら ちょっとお気の毒
ていうか物騒だなあ
こんな治安のいい町で悪魔?に目を付けられてってなんて大げさな
おじいさんの知識の古いことわざか何かの言葉の綾とかなのかも
気持ちはありがたいけど
このおじいさんはここで誰かを待ってるみたいだし、
「いえ結構です すぐそこまでなんです」
「・・ほうほう それはそれは」
・・
待ってるのがこのお爺さんじゃなかったっていうことは
「・・・」
(・・うちの家の案内の人はここにまだ来てないのかあ)
ここに来て隙の見えた使用人さんたちの連携
いつもは完璧なんだけどなあ
なんて珍しい チャンス到来か
( ならば・・、よーし・・)
リズは休憩を装って姿を隠すのにちょうどいい石像の
ちょっと影になる部分に身を移して
門の方から見ているかもしれない馬車の使用人さんの視界から切れて
死角になる位置に
そのまままっすぐ歩いていって、
(スッ・・)
言われたレンガの建物の手前で見つけた、脇の細い路地に侵入していく
(あれえ・・おかしいなあ 案内人さんがいるっていう話だったんだけど
なぜなんだ・・ この先にいるのかしら)
(・・・)
「嘆いても仕方がないから 買い物をしましょうね」
ちょっと今はいない案内人さんには悪いけど
蝶のように軽やかな私を繋ぎとめておけないのは仕方のないことね
・・・
・・
念願の一人歩き
道からは
といっても特にほしいものがあってきたわけではないので
とくには目当ては見つからない 一人でぶらぶらと町を歩いているという感じだ
「これをくださいな」
「はいよ お嬢さんこの町の子じゃないねえ」(チャリン)
「はい これからメリカドアドのセントラルまで馬車を乗り継ぐんです」
「そうなのかい?いやあ あそこは奇麗な町だよお」
でもせっかくだから
露店のパン屋さんの美味しそうなふっくらしたバターパンなどを買って
お店の紙袋に包んでもらう
ここはクリスフォード家の管轄地域内の町だけど
私は昔からひきこもりなので誰も私が領主の娘だとは気が付かない
それに付き人も付けずにこんなに奔放に一人で歩いている小娘を見ても
誰もそうだとは思わないだろう
・・
レンガと石造りの多い穏やかな町並みを
澄んだ水の流れる水路のある細い道伝いにも自由に歩いていく
緩やかな流れの町の水路には
元気のいい小魚の群れたちが泳いでいく影が見える
(うふふ・・こうやって一度町を一人で見てみたかったのよね
こういうのも悪くはないわね・・)
そうやってリズなりにこの町の散策を楽しんでいると
・・
「カランカラン・・」
「あれっ・・」
偶然 町の西の商道沿いに行き交う荷馬車などが集まる、
大規模なターミナルに抜けだして人で賑わう駅の鐘の音がしていた
そこはもうリズが元々行く予定の
馬車の乗り継ぎのための目的の駅の場所だった
案内なしで知らない道だったはずなのに
何故か迷わずにいつの間にわりと早くに辿り着けてしまった
(・・結構時間をかけて回り道しようと思っていたのに
もう着いちゃった あの道は近道だったのかしら
やっぱり場所を知らないってよくないことね)
もうちょっとだけ、回り道、しようかなあ・・
( )
だけど その時少しだけ
背後に嫌な風の気配を感じた気がしたのだった
「・・!」
この通ってきた細い路地は建物の影になっていて狭くて風が淀んでいた
後ろを振り向いたら、もしかしてあのとき見た顔のない人間がいるんじゃないか
そんな不安がふとリズによぎる
(そんなばかなことよ 楽しい気分に水をささないで)
不安を振り払うように 後ろを振り返る
「・・・・」
・・
そこには雲の全くない青い空に白い鳥が飛んでいて
なんでもないリズが歩いてきた細い路地と
その横に日の当たる小さな白い教会の建物が見えて
教会の門の近くで町の通行人がだれかと陽気に世話話をしているだけだった
だけどやっぱり家の壁に挟まれた部分が多い細い路地は
風の通りは良くないのか空気は淀んでいる気がした
(( ))
空を飛ぶ白い鳥と教会の白い壁がよく太陽の光を反射してぼやけていて
一瞬だけ異世界に迷い込んだような感覚に陥る
「・・今は関係のないことよ 予定通り馬車を見つけたからいくだけよ」
そう思ってリズはさっと振り返るのをやめて
様々な馬車が集まるターミナル駅の方に向かっていった
・・・・
「学園行きは・・と」
リズの通う学園は
「聖セントラル中央魔法学園」という魔法学の由緒正しき学園だ(2回目)
初等部 中等部 高等部と一貫しており
とにかく規模が大きい
そこで教鞭をふるう魔法講師のレベルも
そこで学ぶ生徒のレベルも高くて国内屈指の教育機関だと評判だ
(ただ・・私は高貴な力で下駄をはいて通った気がするんだけど・・)
学園の位置はクリスフォード家の貴族領からは距離はあるけど
それほど遠いというわけではない
この国の第二の都市メリカドアドのセントラル地区という場所にある
前にもちらっと地名は出したけど
首都は第二の都市からは北北西に離れていくつか大きな河川を越えた場所にある、
メリカドハートという大都市で
この国の名前はメリカド魔法共和国である
この駅の馬車の無数の集まりにもいくつか首都行きの馬車もあるんだろう
メリカドっていうのは前から習っていた知識では
昔のすごい偉人でメリクアドラっていう
建国の英雄の大魔法使いの名前が元になった地名らしい
・・・
馬車のなかには普通の馬ではなく
使い魔という、人が手懐けた魔物を使って動かしている馬車もあって
「ブモモ・・」
(なんかちょっとキリっとかっこいい目つきで体毛が異様に多い馬)
物珍しさにちょっと見物する
(わっ・・)ばきい
休憩中にもらったニンジンを縦に割って食べているすごい迫力のお馬さんだ
・・
この国の大半の移動手段は馬車なので
馬車しかないのかと思ったけど
普通に自動車に近いっていうか
馬力や性能は自動車よりイマイチだけど
魔導式の動力を積んで歯車と車輪で動く独立した乗り物も存在はしている
だけどこの世界では大昔から
馬や使い魔の騎獣を物資の運搬に頼ってきて
その騎獣を操る高い技術や魔法を生業にしている人がとても多く
コストパフォーマンスもまだまだ馬車の方が優れている場合が多くて
また上位貴族などの間では
昔は所有するその騎獣の美しさや珍しさ、
大きさなどが貴族間の社交マウントステータスになっていた時の名残もあって
未だに馬車が交通の主流になっているのだった
また特定の魔力の濃い環境下の道では
使い魔の騎獣は凶暴化する場合があるので
貴族の馬車の引き手には安全のため純粋な馬が選ばれやすく
クリスフォード家で飼っているのがお馬さんで
毛並みもやたら奇麗に整えられていたのはそういう事情も少しあるのだった
そのため
せっかくお金持ちの人が魔導式の動力を積んだ車を採用していても
その車を美しい馬に引かせるというあんまり意味のない光景も多く見られる
・・
そんなちょっと変わったこの世界の交通事情
そこそこ悪くないな、と思った見た目の
大きな普通の馬車のところで休憩をしていた御者の人に尋ねてみることにする
長年馬車の操作に
草原の小屋でヤギでも放し飼っていそうな人柄のおじいさん
・・
「あの・・この馬車は 聖セントラル中央魔法学園までいきますか?」
「セントラル地区かい? ああ・・あそこの学生さんかな?
そこまでは通っていくよ もうすぐじゃよ どうするかい?」
(あら・・これはもしかして一発ヒット? 第二の都市だからここにある馬車は
大抵そこには向かいそうなものだし そういうものなのかも)
・・
私が家でお父様に言われたことは
最終的には聖セントラル中央魔法学園まで辿り着いて寮の手続きをすること
「・・・」
うん 問題ない
リズはせっかくなので
自分で見つけたこの一発ヒットした馬車に乗り込んで
聖セントラル中央魔法学園を目指すことにしたのだった
・・・・
・・・
乗車の手続きをして
手持ちのお財布から前払いの運賃を払って乗り込んでみると
リズが乗ってきたクリスフォード家の馬車よりは
だいぶ乗り心地はよくなかったけど 中は広くはあった
(席と乗客の人がめちゃくちゃ多いから体感はものすごく狭くなったけどね)
一緒にメリカドアドの都市圏やセントラル地区を目指す人もけっこういて
商人のおじさんや聖ソウル法典の教会の牧師さんとか
観光巡り目的でかなりラフな格好をしている老夫婦など
みんな馬車を利用してどこかの街に向かう人々
とても活気があってにぎやかだ 2台の馬車編成で目的地に向かうらしい
これだけ見慣れない人が多いとちょっとだけわくわくする
・・
「カランカラン」
(ここでいっか)
お金を払った後の馬車の席は自由だったので
ちょうど帽子をかぶった小さい子が奥の席で寝ていて
片方の席が空いている場所があったので
そこに座った
「 」
その小さな子はいろいろ大事な物が入ってそうなカバンを放り出して
スヤスヤ眠っていたし
(ひとり・・?)
近くに保護者の人の姿も見えないようだったので
ちょっと不用心で心配だなあって思ったのもある
席に着いた後は
やがて出発時刻になり
馬車は動き出し、カッポカッポと
旅気分のリズを乗せて この隣町を後にしたのだった
・・・
「おい 引継ぎのリズお嬢様はこっちの方へきてないか・・?」
「はて・・?」「さあねえ」
っていう慌てたような
去っていく馬車のターミナルの後ろの方から聞こえた気がした
・・・・
・・・
人がごった返してにぎやかな移動中の馬車の中
さっきのあの隣に同席していた小さいかわいい子が私にしゃべりかけてくる
今まで寝ていたみたいだったけど
馬車が動き出すと床から振動が伝わったのか
その子もパチリ、と起き出して目が覚めたようであった
「へえ リズっていうの・・?
僕はネロっていうんだ
今の時期だと・・リズも学園の学生寮の下見にきたの?」
この子はネロといって
私と同じく聖セントラル中央魔法学園に通う生徒なんだって
少し血筋に獣人の血が入っているんだって
(あら ほんとだ・・ちっちゃいけど・・)
かぶっていた大きな帽子をとって
少し細かい髪をかき分けてちょっと見せてもらうと
人の耳のところに人とは違う、少し垂れ気味の犬のような耳が生えていた
(この世界にはいろんな種族がいるのね・・)
ただこの子は年下で小さくて初等部の子みたいだから、
私は中等部だから別で分かれているけどね
初等部で魔法学の基礎を勉強中らしい
どうやらこの子も寮の下見に来た様子
「うん そうよ だったらネロも寮の下見なんだね」
「うん でも今はもう寮の指定期間はだいぶ後の方のはずだよ
いい部屋が残ってるといいんだけどなあ」
(・・え、後の方なんだ なんでだろう
準備とかで私には後でしか教えてくれなかったのかしら)
今は高貴なクリスフォード家内にいないということもあって
リズはだいぶ砕けた言葉遣いをしている
本来はこっちのほうが自然なのだ
ネロっていう子は人懐っこいかんじで髪の1本1本が金色に細くてサラサラしている
肌のきめもとても細かくて白くてかわいらしい子だ
ただ寝起きでよくしゃべってハイになっているのか、
ちょっとわんぱくで小うるさい感じもしたけど
それはこれくらいの年齢のお子様なら普通のことなので
馬車にいる間くらいならば全然苦にならない
・・・・
・・・
馬車は街道沿いにいくつかの小さい集落などに寄りながらルートを通過して
その集落でも何人かの乗客が入れ替わる
そして第二の都市メリカドアドに向かうためにいくつかあるルートの
今日の難所のメーリス山地の山越えへ
そんなルートは聞いたことがなかったけど
山を突っ切って抜けるルートは普段は濃い霧が出て 傾斜もあって大変だけど
ここを通って山を越えるとすぐメリカドアドの端の方の都市圏に入れて
大幅な時短ができるため
今日みたいな霧が完全に晴れているような日は
商隊がたまにこの道をルート変更で利用するのだという
・・
今見えているメーリス山地はメリカドでも有数の山地帯で
私が暮らしていたクリスフォードの屋敷の窓の景色からも
その山の形の一部は見えていた
メーリスの山々は気が遠くなるほど太古に
メリカドの地の中心に降り立ったという
原初の災厄の天体衝突の影響により
形成されたクレーターの外周部が年月によって風化した跡だといわれていて
かなり特徴的な形の山体をしている
その一際大きい岩肌がうっすら青みがかって見える本山の奥地の方は
神聖であったり土地の力場が安定していないことがあり危険であるという理由で
一般人の立ち入りは禁止されている
「メリカドの高き青の山」として周辺国にも知られて
巷の絵物語や売られている切手なんかでも
モチーフに使われることのあるメーリスの山地で主に青く見えるのは
その奥地にある古い大きな山だけだ
(・・・)
ただ今その山景を見てみても「薄っすらの青」で言うほど青くは見えない
普段は出ている霧や気象条件とかに左右されて
奇麗に山が青く見えるのは年中でも少しの間だけ
標高も高くて森林限界の岩肌が見えていたりもしたけど
私たちのルートは高所が多いこの山地中央帯ではなくだいぶ逸れていて
比較的人が通り抜けやすい、
安全で緩やかな傾斜の山道を経由するっていう話だった
「ふーん そうなんだね」「そうそう」
麓の端の方は緩やかな扇状の重なった地形に緑が広がる豊かな森林地帯で
建材用の大きな木材も取れていた隠れた産出地だ
ただ今の時代は人の手はあまり入っておらず
その森たちは放置気味みたいだった
・・・
「・・あれは何かしら・・?」
「 」ズラリ・・
馬車の窓から近づいて見えた広大な森林地帯にさしかかる前辺りの道の横には
縦に長くて突き刺さったような形の
今乗っている馬車よりも大きな「黒い石」がたくさん並んでいた
(・・・)
石自体は自然のものっぽいけど
その並び方自体は規則のようなものがあって人為的なものを感じた
言い方は悪いけど 大きな石のお墓が並んでるみたいな
少しだけ異質な感じ
(あれ・・この世界にはこういう石でできたものが多いのかしら
そういえばここに来る前の最初の町でも大きな石の門を見たし・・)
すると
「あれは・・昔の大開拓時代の名残だよ」
隣の小さい子のネロが教えてくれる
「昔の時代の名残?」
「今と違って すごく大昔はだいたいの地域では魔物とかの活動が活発で
力場も違う悪魔や魔物の支配地だったんだよ
でも昔に現れた力を持った大英雄たちが人間の国を作るために
魔の土地をどんどん切り開いていって この地域一帯も切り開いたんだ
メリカドはさ 今はいないけど怖い悪魔がいっぱいいた土地だったんだよ
この土地にいた古い悪魔や争いを起こす凶暴な魔物を追い払った後
魔の力を生む太古の土壌を英雄の封印の力で押さえつけて
この辺りも人が住める穏やかな森になったんだって
あの並んだ石たちはその昔の大英雄たちが
力を使った時の名残だっていわれてるよ
だからそういう場所がこの世界各地にあって結構多いんだ」
(悪魔に魔物、ね・・ 悪魔ってあの町にいた髭長のお爺さんも言っていたわね
そういうゆかりの地なのかしら
あれが昔の英雄たちの封印の力の名残・・)
前にクリスフォード家の使用人さんに
そういう風習のことでもちょっと聞いていたけど
悪魔っていうのはその土地の魔力を自由に吸い上げて
その地域で人間に悪さをしていて大昔に滅んだ、
この世界で度々よく話される魔物とも違う悪霊のような伝承の存在だ
「へえ~ そうなのね、 ありがとう ネロは物知りなんだね」
この説明を聞くだけで
この子がなかなか賢い子だということが分かった
聖セントラルに通えるくらいだし勉強もしっかりしてきたんだろう
「えへへ そうでもないよ 昔のこの国の建国伝を読んだことがあったんだ
石があるのは入り口のここだけじゃないはずだよ
ほら見てリズ 向こうの山の中腹にも見えるでしょ」
「!あらほんとね」
「そういう石は封石っていって
この辺りの石は黒いから
(へえ・・うわあ でっかいなあ・・)
「 」ドオン
馬車の窓から指をさしたネロのその先の山の中腹には
ここからでもよく見えるほど
その大きな封石が山地の森の木々を分けるようにそびえ立っていた
その黒い封石の周りに生えている森の大木たちがまるで苗木のように見えた
「大きいわねえ・・あんなの人の力でどうこうできたの?」
「昔の大英雄って呼ばれていた古代人たちは
逸話では天をも動かしたって伝えられていたからね
今の英雄レベルっていわれてる魔法使いよりも遥かに力を持っていたらしいよ」
(へえ 昔の人たちってすごかったんだなあ・・)
・・・
馬車が森の入り口のそびえた黒封石の並びの近くまでくると
そのひっそりと鎮座した大昔の封石たちの大きさに静かな迫力を感じた
(この国を創ったかつての英雄たちが残した石か・・
なんだか見守られてるみたいね)
「カッポカッポ・・」
私たちの馬車はその古い黒封石の並びを横目に山道を進んで
メーリスの森の中へと招かれるように入っていく
・・
・・・
そんな昔の時代からある森の中を進む馬車の中で
隣のネロと少し習っている魔法の豆知識の話などを交換しながら
楽しく時間をつぶしていた
そのうち道の傾斜がぐっと高くなり
馬車の窓に差し込んだ光にちらちら葉っぱの影が入ってくるようになって
景色も背の高い木が多く見れるようになって
その森の山道を登っているんだなあと思っていた
「(うちの馬車もいいけど こういう賑やかで人がたくさんいる馬車も
楽しくていいものね・・)」
とのんびり旅心地でリズは思っていると
ガヤガヤ・・
(あれ・・?なんだか賑やかすぎるような気がする
野生の猿とかがいるのかしら
動物とかいる山の中だしそういうものなのかしら まあ楽しく・・)
「ヒヒーン!!」(ガターン!)
すると先に前を進んでいた馬車から
けたたましく馬の鳴き声がして暴れた音がして
すぐ後続のこちらの馬車も一度大きく揺れて止まる
(ポフ・・!)
「あら・・」
馬車が大きく揺れてリズの胸に柔らかい感触がして
今まで話していたネロの顔と小さい体が勢いでぶつかってしまっていた
(え・・なにかしら・・)
そこからやっぱり外が騒がしくなってきて 乱暴な声が聞こえてくる
・・・
「おとなしくしろ!!金目のものをよこせ!!」
「ひぃ!やめてくだせえ」
「ええい わしらは商隊ではない 襲っても儲からんぞ
それにこの山の土地で
「うるせえジジイ!そんなもんただの昔の迷信だ!」
(やや・・)
そんな荒れた激しい言い争いの声が馬車の木製の壁1枚先から聞こえてくる
「こりゃ強盗だぞ・・!」「ひい・・」「おお神よ なんと・・」
周りの今まで楽しくやっていた馬車の相乗りの乗客の人たちは
怯えたりパニックを起こしていた
「ざわざわ・・!」
(どうしよう・・)
治安はいいって聞いていた だけど山賊?に襲われるなんて
さっき馬車が揺れたときの衝撃で
私がちょっとさっきの小さい子のネロに寄りかかって
胸元にくっついてしまっていたけど
「・・・」
でもこのネロっていう子は
震えていなければパニックになったわけでもなさそうだった
ネロはくっついていた私の体から離れると
こちらにパッと振り返って
自分の上着のポケットからしまっていた小さい杖のようなものを
サッと取りだす
(この子・・!)
それは魔法使いが魔法を使うときによく使われる
特殊な加工木の枝でできた棒状の魔道具だった
「リズ・・!だいじょうぶ、心配しないで! 僕は魔法が使えるんだよ・・!」
「え・・? いや・・でも危ないから ネロ」
「見てて!」
そういうとネロはすくっと立ち上がり
軽快に馬車の後ろの方の扉を開くと
「タッ!」
さっそうと山賊達の方に立ち向かっていった
(え・・ちょっと・・!)
魔法が使えるっていってたけども
まだ学生だって言ってたしあんなに小さい子なのに
ちょっと心配になって私もその子を追って扉から馬車の外に出てみる
・・・
「ドオオン」
外に出ると
屈強な体つきの見た目は若い成人の男の山賊が3人ほどいて
こん棒などのイガイガで当たると痛そうな武器をもっている山賊もいた
(うあわあ・・!野生の猿・・、じゃなくて山賊よ)
先に馬車の外に駆け出たネロが相対しているのは
中央で少し恰好が目立っていてリーダー格といったかんじの山賊の男で
素手のみで武器を持っていなかった
・・
「なんだあ このガキはあ!」
「お前たち!降参しろお! でなければ痛い目をみるぞ!
くらえ! ・・・「ファイヤーボール」!!」
山賊リーダーに対し開幕いきなり魔法を唱えるネロ
(おお! これははじめてみるかも
お兄様も火系統の魔法は使っていなかったからなあ
この子は自信もあるようだし一体どんなすごい威力の・・)
「バオオ!」
ネロが取り出していた杖から赤い色の閃光が出て魔法が発動する
そして生成された魔法の炎が勢いよく山賊リーダーに向かう・・!
あれ でもなんだか勢いが
「なんだああ! このくっそ弱いふざけたファイヤーボールはあ!!
効くわけねえだろおおお!!
であああ!!」
「ボシュ!」
山賊リーダーが振りかぶった腕の拳にぶつかって
即座に消えたネロの魔法の炎
「え・・・!?」
呆然とするネロ すでに山賊リーダーは素早い動きで
魔法を撃った直後のネロに接近している
「俺はなあ!! キュウテイでてんだぞおおお!!!」
謎のすごみを放って接近した山賊リーダーから
隙だらけのネロに即座に放たれる腹パン
「オラァッ!!!」
「こっ・・・コッポォ・・あおお・・!!」
ネロは気合パンチをくらい、その場でお腹をおさえて倒れこみ
涙目で嘔吐物を吐いている
(オロオロ・・)
「けふう・・」
(よ、弱い・・・! ネロ・・どうしよう ちょっと期待してたんだけど
あ・・ネロ 人参を食べていたんだね・・)
それをみていた馬車の御者のおじいさんは震えながら
「キュ・・キュウテイじゃと
それはあの高名なキュウテイ魔術義塾院のことか!
なぜそこをでて山賊になど・・!」
「うるせええ!!
世間が悪いんだよおお!!!
いいからおとなしくしろ
このガキみたいになりたくなかったらなあ!」
「貴様・・!そんな小さな子供を・・!」
「ああ?よく見りゃ血統も獣人まじりのガキだろが
そんな奴はそこらの野犬と変わらねえんだよ・・!」
「うう・・」
山賊になじられるネロ
「ちょうど物分かりの悪い犬みてえにガキが飛び出してきやがったから
分からせてやったが・・、
俺たちの装備はその辺の用心棒レベルのやつが使う、
程度の低い魔法なんざ効かねえんだ
俺たちにお前らの抵抗はまるで意味がねえ わかったか?」
「ぐう・・」
するとリーダー格の山賊の男は
「俺はジェミー・
てめえらにはこれから俺の言うことを聞いてもらうぜ」
「さ、山賊ごときが名を名乗りおったぞ・・!」
「うるせえ!山賊でも野盗でもねえよ
俺たちは義賊だ・・!
この俺がこの荒れた世直しついでに
「ここいらの治安は荒れてはおらんわ・・!
道に迷ってもおらん、余計な世話じゃ
義賊ならこんな平和な場所でただの市民を襲ってどうするんじゃ
なんじゃわしらに富でも恵んでくれるのか」
「う、うるせえ・・!そんなわけねえだろ!ジジイが口答えすんじゃねえ!
とったものを何に与えるかはこの俺が決めるんだ!
てめえらはとっとと縄で縛られてろ・・!」
(ボシュウウ・・!)
するとリーダー格の男は得意げに息を巻いて
体の全身から「魔力」を放出して脅すような動作をする
・・
「!」
「ま、魔法使いだ・・」
「ぐぬぬ・・」
リーダー格の男が武器を何も持っていなかったのは
自分の魔法の力に絶対の自信があるからなのだろうか
この世界である程度以上の実力を持って修練を積んだ魔法使いには
一般の少しかじった魔法が使える程度の人間では
武器を持って束になっても全く太刀打ちできないといわれている
ネロの惨状を見た後だと 誰も逆らう気が起こらないらしく
馬車の乗客たちはしぶしぶ
変な名前を名乗った山賊たちに縄のようなもので縛られていった
・・・
「・・・・」
この魔物がでるかもしれないという山道に入って
さらに途中からあの待ち伏せていた山賊たちが現れてから
( )
リズは自分の右腕の感覚にひそかに少しずつ違和感を感じていたのだった
そして目の前で魔力を解放した山賊の男の姿
あの時の力が抑えきれなくなる少し前のような
うずうずとした感覚
リズは縄で縛られる直前で右手のPコマンドの感覚で力を入れてみる
「(ズ・・)」
前に腕が変化したときよりだいぶ弱いけど
いつもより強くイヴの邪悪な波動を感じていた
「・・・」
(お兄様ほどではないけど
あのジェミー純なんちゃらとかいってた変な山賊も魔法使いだって・・
もしかして・・、祝福魔法も使えるレベルなのかしら・・?)
「(ギュウ・・)」
僅かに力の入るリズの右腕
(でもこの腕なら少しは・・抵抗できる?)
力としては前に一度二度暴発しただけで
まだ全然扱えるかどうかも分からない謎のイヴの腕の力
そんなアングラな力の片鱗でもまああると安心というか
魔法に関しても
前に曲芸みたいなお兄様の使う魔法を見ていたため
あの山賊のリーダーが扱う魔法はそこまですごいものには見えなかったので
意外とこんな状況でも私は落ち着いていた
今のところ・・
普通の令嬢の演技ができているため
抵抗する前に油断も誘えるかもしれない
「・・・」
(普通の令嬢ならキャッ・・!とか言った方がいいかしら・・)
・・
だけどネロが地面でお腹をおさえて しくしく泣いているのをみると
(ネロ・・今はおとなしくしておくね)
そういう気は起こらなくなった
他の人たちと同じようにリズはおとなしく山賊に縛られる
外に世界へ出て早々、
リズはろくでもない輩に捕まってしまったのだった
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