第12話 祝福の魔法
「貴族の持てる力の上位の魔法だ、今の俺なら
そう言って自信を顔ににじませる饅頭マン・バゼロお兄様
少しリズ・クリスフォードとしての記憶で
この世界で上位の術に位置付けられている魔法には覚え自体はあった
その魔法は
「ブレス・マジック」とも「
世間一般の方式の魔法とは違い
一握りの限られた上位の魔法貴族の才ある者だけが力を使いこなすという
特殊な術式の強力な魔法で
リズのイメージである呪文などの詠唱して
すぐ発動するような魔法とは違って風変わりなルールがあった
「祝福の魔法・・、ですか」
「そうだ 教育機関でも才能ある者は多くの魔法を習得する
が
それは祝福の恩恵を受けた魔法と比較すれば本当にお遊び程度のものだ
限られた一部の才を持つ人間が魔法を極めようとすれば
いずれは上位の祝福魔法を習得しなければならない」
「そうなのですね」
「ああ 祝福の魔法は古くから有力な貴族たちに継承されている魔法だが
この世界の加護、
通常の魔法とは違い、魔力の引き出し方が大きく異なる
ある意味この世界の
「(本当の、魔法・・)」
「 術式の形式が効率化された今よりも古くて特殊でな
非常に扱いの難しい魔法だが
魔法に恩恵を付与できれば
通常の魔法使用時よりも遥かに強力な魔法を行使できる
だから魔法使いの本当の強者と認められる条件には
必ず祝福魔法に精通していることが挙げられる
精錬された祝福魔法を行使できる貴族の魔法使いの数が
その国の威光と豊かさを示す指標になるのだ
かつての父上や母上のように
俺が将来このクリスフォード家を背負って
優秀な魔法使いとして世に認められるためには必ず通らなくてはならない道だ」
・・
そう 私たちは魔法貴族の身であって
一般の人たちとは少し事情が違う
高貴な身分の貴族もただでは裕福な暮らしはできない
そういうすごい力の魔法を扱うことできる魔法使いであって且つ
特別な貴族の一族であるからこそ
有事の際の国の力として一目置かれて権威を持つことができて
領主となって広い領地を治めて暮らすことができるのだ
この家にはすでに跡取りで優秀なバゼロお兄様がもういるから
私は割とのんびりとしているけど
上位にいる魔法貴族の子息にとってその魔法を使えるかどうかっていうのは
けっこう死活問題だ
あんまり魔法使いとして権威が持てないと貴族の爵位を落とされたり
場合によっては歴史のある名家であっても
廃嫡されて貴族でなくなってしまうこともある実はわりと厳しい世界だ
・・・
少し口数の減ったお兄様はしきりに屈伸運動などをしたりしている
「(グッグッ・・」
準備運動といったところだろうか
「・・・」
(だけど屈強な饅頭マンが張り付いていると なんか儀式ってかんじがするなあ)
お兄様はどうやら本当にその祝福の魔法っていうすごい魔法を
ここで発動させる意気込みのようだ
魔法に祝福の恩恵をのせて
通常時程度の魔力の消費で
通常時とは比べ物にならないほどの威力を引き出す
強力なのでうまく使いこなせないと危険な魔法でもある
お兄様がいうようにそれは上位の魔法なんだけど
この世界の魔法を扱う者にとっては
特別な別枠の魔法っていう意味合いが大きい
(しっかしそこまで調子がいいなんてなあ・・あんな張り切っちゃって
お兄様なら3日くらいなら寝込んでもいいかと思って
饅頭マンをつけたのに失敗だったかなあ
寝込んでくれてたら今頃わたしも順調に外に・・
いや そう都合よくはいかないか)
・・・・
お兄様の新たな魔法見学に付き合う
どうやら儀式は完了してお兄様の魔法の準備は整ったようだ
「さて・・今までは失敗していたが知識はある、シュミレートもしてきた
リズ 少し離れていろ」
「はい お兄様」
(しっかし まだ普通の魔法がいくつか見れただけだったのに
いきなり上位の魔法だなんて
まあでも見れるものは見るけども)
私はこれくらいでいいかな、と
離れて大きく10歩分くらい後ろに距離をとる
(それにしても
お兄様が最初に見せてくれた魔法の力だけで十分すごいのに
祝福?とかいう力で強くした魔法じゃないと
貴族の魔法使いとしてはあんまり評価されないなんてよくわかんないなあ)
・・
私がぼんやりと眺めていると
お兄様はその魔法の術式を起動させた
「いくぞ・・!まずはモード結界を構築する
モード発動
その瞬間
さっきとは違う魔法の文字の羅列の陣のようなものが一瞬現れて消えて
詠唱をしたお兄様のいた場所から空気が張り詰めて
周囲に何か波動が広がっていくような感じがした
(へえ これがこの世界の本当の・・ )
その時
何かがやってくる
それがお兄様から宣言された途端に
私はなんともいえない
(( ズキン ))
「・・!」
右腕が・・痛い・・?
腕が・・・ウズウズ・・するような・・電気が走っているような
とっさに自分の右手を抑える
(キィイイン)
魔法式の構築に意識を集中していて リズの様子には全く気が付かないお兄様は
そのまま説明しながら集中して魔法を継続している
「祝福の強い魔法を使うためには・・、複雑な魔法式を構築して
祝福による恩恵を受け入れるための結界の体勢、
すなわちモードに入る必要がある
これ自体が通常とは違う高度な魔法術式だし
さらに常時集中して魔力を使うから発動してからも維持するのがかなり大変だが
上手く構築を維持できれば
この世界の恩恵を己の術に付与することができる
この状態で祝福に適応した詠唱をすると通常魔法の遥か上位の出力を持つ、
祝福の魔法が行使可能になる
この手ごたえ・・!
やはり・・今の俺は調子がいい」
杖をしっかりと握りこみ
やや緊張した面持ちで力を集中させるバゼロお兄様
(コオオオ)
「ではいくぞ・・ウインドだ
杖の先が
「バジュウウ!」と鳴って光り
先ほどの最初にウインドを唱えた時よりも
数段は強い緑色の魔法のオーラがでて術が発動する
「パシュアア!!」
杖から強い風が走り 先ほど術をぶつけていた同じ木に複数傷跡が刻まれ
魔法によって切り刻まれた木の枝がたくさん落ちてきた
「パラパラ・・」
最初見せてくれたのと同じ基礎の魔法なのに
後で他に放っていたどの魔法よりも威力が高い
同じ呪文なのに威力が段違いだというのはこういうことだったのかと
実際にその行使された高威力の魔法を見てみると実感がわく
やっぱりお兄様には私と違って
魔法の名門クリスフォード家の正統な後継者らしく
血を引き継いで遺伝した優れた魔法の才能があるのだろう
(だ、だけ、ど・・・)
目の前でみたこの世界の上位の魔法といわれる「祝福の魔法」
お兄様はその魔法の発動を成功させて
杖を振り上げてすごく喜んでいる
「どうだ・・!本来ならばこの出力レベルの魔法を発動するのには
通常の5倍は魔力をつぎ込まねばならないが
これが恩恵を付与した魔法の威力か・・!
まだ十分には恩恵を付与できていないが・・
うん、やはり俺は天才だな これでさらに学園での評価も上がるだろう
休み明けが楽しみだ」
・・
だけど一方のわたしはそのとき自分の感覚に苦しんでいた
お兄様が祝福魔法を発動させたところからではない
その前に
上位の魔法である祝福魔法を使うには
そのモード結界を構築することが必要なのだと
祝福のモードが発動された瞬間
普通の魔法の時とは違って
リズはお兄様の周りから波長を帯びた結界のようなものが
空間に広がっていくのを感じていた
その直後だったのだ
同時にやってきたのだ
(え・・)
私の中にあるリズの中の奥底から 「衝動」といってもいい
とにかくそういったものだ
湧き上がってくる
消し去ってしまいたい 壊してしまいたいような・・
そんな「危険な」衝動を強くかんじていた
まるでお兄様が古い形式の術式だといっていた、
「
自分の中の世界が開放されたような感覚を感じていた
私は鋭い痛みをかんじていた自分の右手をみた時
「!!!」
そこには
「(これは・・・「オリジン」の「イヴ」の・・・?!)」
「「 」」
(ドクン・・)
自分の右腕にところどころだけど
何かの異様な装甲のようなものが浮き出しており
腕の血流が盛んに激しくなって
少し腕自体も膨張して大きくなっているように見える
邪悪な黒い色をした力の波動も少し腕から湧き出ていた
「(ど、どうしよう こんな変化聞いてない・・そもそも
見せていいものなの?これは
私、お兄様のことは元々そんなに良くは思ってなかったけど
消してやりたいとかそこまで思ってたわけじゃないのに・・!)」
これは以前のリズの記憶にもない全く新しいものだった
故に戸惑いも大きい
この腕を見せていいか分からない私は
急激な変調がみられる右腕が
バゼロお兄様の方から見られないように体の向きを変える
「一発だけだが・・成功したのなら今日は十分だろう
感覚はつかんだ 俺ならこれからは使える
ではモードは一旦解除しよう」
(シュウウ・・)
お兄様が杖を持った手を振ってモードを解除すると
また文字の魔法陣が一瞬現れて消えて
何かが飛散するように辺りに広がっていたモード結界は消えて元に戻っていく
今まで加減された風で撫でるだけだった庭の木は
威力があがって凶暴になったような風の魔法で刻まれて
ボロボロになってしまっていた
「・・しまったな
軽く庭木の剪定程度にしようと思ったのだが
庭師の者に怒られてしまうな 」
それはバゼロお兄様にはなんでもないことだし
何も起こっていない、一応は制御のできた予定通りのことなのだろう
だけど お兄様から魔法の解除が宣言されて
辺りを包んでいた結界のようなものが飛散したとき
私の中にある、リズの中にあった危険な「衝動」がようやく収まったのを感じた
(シュウウ・・)
お兄様から隠していた痛んでいた右腕をみると
邪悪な黒いオーラが出ていたイヴの腕から急速に元の私の腕に戻っていっていた
「・・・・」
腕の状態が戻っていくのに痛みはほぼない
この世界の魔法貴族たちが競って追い求めるという特別な魔法「祝福の魔法」
普通の魔力の出力だけでその何倍もの高威力を引き出せるのだから
それはこの世界で重要な意味を持つ魔法なのだろう
だけどその発動の成功の裏で起きた、
このあまりにも超常的な変化にリズは戸惑っていた
・・・
「ハハハ、リズ いいものが見れてよかったな
お前も頑張れば ここまでこれるかもしれないぞ
まあそうそうは無理だろうがな」
珍しく私の前で上機嫌のお兄様
だけど暴れる衝動の腕の状態を元に戻した直後の私には
あまり余裕がなかった
「はい ありがとうございます・・ お兄様・・」
結局リズの外出は
饅頭マンお兄様に遭遇して屋敷の庭先に出て
バゼロお兄様の魔法を見学しただけで終わったのだった
・・・・・
そして戻ったリズの部屋
「・・・・・」
じっと、さっき変化の起こった腕を見ている
あの時の右腕に変化が起こったとき意外と状況は確認できるくらいには
冷静さは残っていた
それは私がいつもイヴを使って戦っていたときには
いろいろな画面上のタスク管理というか
状況を見極めて戦うようにしていた癖のようなものだった
だから腕が衝動で変化した時
私の脳の中のイメージに浮かぶ感覚を探すように意識していた
今までは元から持っている私の魔法の力の
「寄生」の感覚だけ意識に浮かんでいた
変化がなにかしらの魔法の力であったならば
同じように「それ」が頭に浮かぶはずだという考えの元 それを確認していた
だけど・・
その時 イメージに新しく出たものは特に何もなかったのだ
(あれは魔法じゃなかったっていうこと・・?)
なにかしらの魔法スキルによってあの腕の変化が起こったわけではなかったのだ
だけどまだその時の感覚は残っている
あの感じ・・
腕に力をこめるとわずかに力の膨らみが強くなる・・気がする
でもお兄様が「祝福モード」を起動したあのときと比べたら
全然それはちがうものだった
お兄様はあれを祝福を受け入れるための体勢だといっていた
じゃああれはお兄様の魔法に寄せられて
なぜか私のところにもやってきた何かの祝福・・?
「 」
だけど私は確かにみた
「祝福」なんていう言葉からは程遠い
あのイヴのような力が宿った禍々しい私の右腕・・
((オリジン・・))
(やっぱり・・、ただこの世界にやってきただけってわけじゃないんだ
つながってるの? イヴを操作していたあの世界の私と・・)
(そうだとしたら これから私はどうしたらいいんだろう・・?)
(そもそも私はなんでここにきたのかもわかっていない
リコといたあの町に急に現れた黒いモンスター・・
夢の中の幻みたいだったあの日の現象・・
そしてやってきたあの漆黒のオリジンの怪人・・
なにかが「オリジン」を通じて
今もこの世界で私と関係しているっていうの・・?)
ぐるぐると頭の中をめぐってリズはいつの間にか眠っていた
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