第11話 庭先にて

 「ふう・・! いい目覚めだわ・・!」


昨日思った通り今日の朝は 実にすがすがしい目覚めだった

メイドのローラに着替えを手伝ってもらい

健やかな朝食のまつ食卓へリズは向かう


食卓の扉は今日はローラが開いてくれる

ここまでお膳を立ててくれたのだから冥利みょうりに尽きるというものだ

部屋に入って私も高貴な貴族の娘らしく朝食をたしなんで・・



(やや、これは・・・?いったい・・?)


朝のお父様の顔はやっぱり抜け殻に埋もれて見えないままだ

だけど今回はお兄様の様子が違っていた


「ドオオオオン!」


お兄様の背中には なんとあの巨大な饅頭マンが張り付いていたのだ

い、いったいなぜ・・?


ここからお兄様のいるテーブルの方を見ると饅頭マンが椅子に座って

その上にお兄様が乗っているように見える


まるで饅頭マンのたくましい腕や足がお兄様をやさしく補助しているみたいだ


半饅頭マンお兄様は顔面セミだらけのお父様にいう


「父上 今朝はすこぶる調子がいいのですよ

魔力の方も体を流れる魔力がものすごく円滑というか

扱いやすくなっている気がします

まるでざっくり4分の1ほどがサラサラとした水に入れ替わったようで」


「ハハハ それはよかったな 

自身の新しい魔力の感覚に気づくことは

魔法師としては非常によいことだ これからも魔法に励みなさい」


「は、はい!父上!」

お父様に奨励されてちょっと嬉しそうなお兄様


「・・・」

どうやら寄生饅頭マンに憑りつかれてお兄様は調子がいいらしい 

へえ不思議だなあ


(あれえ・・魔力を取ったはずなのに調子が良くなるのかあ)


「ホホホ よかったですね お兄様」


「・・お前には言っていない」


そんなクリスフォード家の朝食であった



・・・・


「ふう・・」

リズは自分の広い部屋の机の前に向かう

・・

少し思い悩んでいた


魔法としてはわりと異端な力ではあったけど

私がこの家で発現させていた魔法スキルを解明して役立つ?ようにもできた


だけど・・ほんとうにこのままでいいのだろうか


私が毎日欠かさずしていたオリジンはここで目覚めてからずっとしていない

というよりオリジンのゲーム機材がないからできないんだけど


(・・、

欠かさずにしていたってなんだ ほぼさせられてたんだろう?)


私の能力が下級ランク判定されて

組織にあのひどい町に派遣されてからは

仕事で日々食いつなぐために不自由にゲームをしているだけだった


(いいじゃないか ここでさ そういうものから解放されて

普通に魔法とか自由に勉強したりとかさ お腹いっぱい食べたりとかさ)



(オリジンで脳をすり減らしてギリギリで戦ってる感覚なんてなくても

別に生きていけるんだよ・・)


でも時々、頭に浮かんでくる・・


(リコ・・)

リコもこの世界のどこかにいるんだろうか・・

「一緒にゲームしたいなあ・・」


お腹がすいていてひもじい思いをしても

理不尽な目にあっても

寝る時にベッドが堅くても 使えるお金が全然なくても


あの瞬間 コントローラーを持って画面を夢中で覗いていた

あのときだけはどんな苦境にあっても輝いていたような気がするのだ


だけどここではそういうゲーム機のようなものはないんだなあ・・

いや、もしかしたらあるのかもしれないけど


少なくとも私の周りにはまず見つかる気がしない


・・・

「はあ・・」

というかまず私の世界が狭い

この世界自体は限りなく広いよ だけど


今までのリズが体が全然強くなかったせいで

リズ・クリスフォードである私が貴族としての教育のために

今まで自分が通っていたにもあまり行けておらず

その行動範囲は極端に狭かった


始めは「学園」って聞いて

向こうの世界でロストオリジの組織の簡易な教育機関はあったけど

碌な教育というか学校生活は送れなかった以前の私には

それはなかなか楽しみっていうか期待できる響きだったんだけど


この家の私も学園の学生ではあるんだけど

体が弱いせいでかなり休みがちで

学園生活をきちんと謳歌できてるっていうわけじゃなかったんだ


「・・・」

(でも以前のように体の調子が悪いわけじゃないのよね・・)


今は汚い街で生き抜いてきたあの世界の私が反映されて

体は丈夫になっている気がする

全然以前と違って意識が眠くならずに倒れたりせず動き回れる


これなら休みばっかりじゃなくて

私もこれからはちゃんと学園生活を送れるんじゃないだろうか・・


でもどのみち今は学園は長期休暇中だから行けないわけなんだけど

外の知識が新しくやってこない


魔法の見識に優れたカルミナお母様が諸外国から帰ってくれば

いろいろ外の知識や

魔法のことなども教えてもらえるかもしれないけど 

お母様はいつも仕事でとんでもなく多忙だ


だからリズはこの屋敷の中をぐるぐる回って思いついたことを

試しているに過ぎなかった


そうね 一度・・



「外に出るか・・」


だけど私に外出許可なんてでるのだろうか

ただでさえ体調が悪いということで いろいろ普段さぼっているというのに


けど最近は比較的にマシになってきたから 

そのあたりを説得すればもしかしたらいけるかもしれない

体を強くしたいとかリハビリしたいとか


(それに別にこの屋敷の庭先ならそのまま出ても文句は言われないだろう

そこからちょっとずつ・・)


思うが早いが リズはすぐに外にでるために準備をする

服を着替えたりもする 

玄関で見つけたうごきやすいタイプの革の靴を用意して

指で丁寧に靴紐を通してみたり


「フフ・・」

いろんな準備をしているとこれから私も

この世界の外に出るんだっていう気持ちが感じられて 

少しわくわくしてくる


この世界で歩き出そうって決意していたくせに

今まではなんだかんだ家の中でごろごろしていた私


ようやく外へ向けての一歩


(私一人だけの力で・・)

今までは何をするにも助けの付き人のいた過去の私



「(さあ いざ外へ・・)」

準備はできて 

一歩外に踏み出そうと屋敷の大きな玄関の扉にリズが手を立てかけた



その時


「おい リズ 何をしている」

「!」

後ろから私を呼び止める声


その姿はこちらも外に出かけようとしていたのだろうか

なんとばったりとバゼロお兄様と鉢合わせしてしまった


私が声に振り返ると

バゼロお兄様の背後にはあの巨大な饅頭マンが張り付いており


(うわあ・・)

饅頭マンのたくましい腕と太い脚となによりその背丈の威圧感で

お兄様がたくましく強くなったような錯覚をうけてしまう

だけど鼻には抜け殻が1個くっついている


(饅頭マンがくっついた愉快な見た目はなんとかならないものだろうか)


(うーん)

だけど饅頭マンを解除してしまうと

たぶんせっかく寄生して分けてもらったお兄様の魔力が解除されてしまうし


せっかくつくった饅頭マンが再利用できるかはまだわからない

合体前のセミの抜け殻たちと同じ感じなら

饅頭マンもおそらく地面に向かってモリモリ潜っていって消えてしまう


いやでも 

この饅頭マンが地面に潜る姿が想像できないから

それはちょっと見てみたい気もするけど・・


それに次を試そうにも最初の饅頭マンに労力コストをきすぎて

次の饅頭をつくるまでにすごく時間がかかってしまっているのだ

・・・



「おい、聞いているのかリズ」


(ハッ・・!)

ちょっと考察していた私

「はい、聞いております お兄様」


「ならば答えろ」


「少し庭先に出るつもりでした」



「付きの者はどうした?」


「いえ今は私ひとりです ひとりで外に出るつもりでした」


私のその言葉を聞くと少しの間をあけて



「リズ、あのお前が一人で・・?」


普段寝過ごして暮らしているような私のことを

気に入っていなかったようなお兄様にとっては

それは意外な言葉だったようで少し驚いたようにしていた


その後でお兄様は疑いの目で


「お前 まさか隣町にでも繰り出して遊ぶつもりでいるのではないだろうな

あそこまではかなり距離があるのだぞ 」


(うっ・・鋭い さすがに優秀といったところですねお兄様

自分がそうだからといって私に反映させるなんて・・)


お兄様は完全に外出の格好なのであった


「いえそんなことは」


すると

「・・・」


「・・お前 少し変わったか?」



そんなことを言われたけど

冷静に考えて変わっているのはどう見てもお兄様の方だ(見た目が)


「・・何ですか?」

意外と鋭いお兄様

少しドキッとしたけど顔には出さない


「いや 俺から目をそらさなくなった それだけだ 」


(・・・。)


・・


「外に出る、か・・ ふむ・・


だがな最近は外には魔物が出る

今日はメーリスの山の嶺の霧が深い、遠くには行かない方がいい」


(!魔物・・)


「この間の「大滅の日」から少しこの辺りの魔物たちも活性したのだ

町への道中ではまずでることはないが・・

用心に越したことはない


馬車の手配もできないお前が一人でフラフラと外へ繰り出して

お前のような非力な者では魔物の力に抵抗できないのだ


出くわした弱い魔物ごときに命を奪われるようでは

我が家の末代までの恥になる 一人ではやめておくんだな」


(あれ・・口は悪いけど お兄様一応心配してくれてるの?)


「いえ 本当に庭先に出ようと思っていただけですから・・」



「・・そうか ならいい

クリスフォードの屋敷の周りは 母上の強力な魔法で守られているからな


屋敷の中は退屈で敵わんからな

庭先にでるなんてお前はどうせ暇なのだろう


今日は俺は調子がすごくいいんだ 俺の魔法を庭先で見ていくがいい

お前の将来の目標の目安になるだろう」


(うわあ・・なんて自信なのだろう)

(でもぶっちゃけ魔法は見てみたいかも・・)


以前の知識としての魔法はあるけど

実際に見て私の脳で感じさせてあげないと

ぴったりと意識がまだできないでいる


(ていうかこの辺でも魔物って出るんだよなあ

ここが安全すぎて遠い場所の話なような気がしていたけど・・)



「はい ありがとうございます お兄様」


てっきり隣町に行くつもりなのかと思っていたけど

今は調子のいいお兄様にのっておく



・・・・

・・・

クリスフォード家 屋敷の庭先にて


(やっぱこの家って大きいわね・・)


外に出るとクリスフォード家の屋敷のその大きさがよくわかる

屋敷なので西洋の堅固なお城・・とはいえないまでも

外観は立派であり、その迫力はそれに近いものを醸し出していた


うちの家格はバーゼスお父様が伯爵の地位を持っているので

貴族家の中でもかなり高い方で

広い管轄領地を国から一任されていて その分かまえる建物も立派だ


向こうのゲームをしていた時に住んでいた荒れた旧市街の建物の規模とは大違いだ

あの町にこんな建物が無防備に建ってたら無法者たちが殺到して

邪悪なニコニコ笑顔で売れそうな貴金属とかを剥いで持っていってしまうかも


・・・

リズは外に出るつもりではあったものの

屋敷の建物を出ても

クリスフォード家の屋外というか敷地内は広大で

まったくクリスフォード家の敷地から出ることはできていない


どれくらい広大かっていうと

屋敷の敷地内はゴツゴツとした頑丈な石の塀で囲まれているんだけど

その中に普通にしばらく歩いて散策できるくらいの林や池があるレベルだ


領地持ちの貴族の力ってすごいって思った


・・・・

・・

「このあたりでいいか」

バゼロお兄様は庭先の木々がまばらにあって

少し開けたところの地面を足で平らにならしている

私は見学をするためにその後ろについていくという感じだ


「さてと まずは慣らしの簡単な魔法だな・・

風の魔法「ウインド」だな この魔法は「風切かざきり」ともいう基礎の魔法だ」


お兄様はそういうと胸の内ポケットから

携帯式の高級そうな木でできた指揮棒のような杖を取り出し

簡単に「魔法」なるものを唱え始めた


(シュウ・・)

すると

「!」

お兄様の杖の先にお兄様の持つ「魔力」の流れが集まっていく


(これが魔力・・)

本当に当たり前のように

お兄様の体の内側から魔力のエネルギーが湧き出してきて

コントロールされて手先に流れ出す不思議な力


そうやって加工した魔力の流れを自身が操作する杖の一点に集めるのが

この世界の「一般的な」魔法の発動方式


簡単な魔法発動の一歩手前の状態だ



(へえ・・ちょっと本格的かも)

「がんばってください お兄様」


「いわれなくてもこんなものは初歩中の初歩だ

頑張らないとできないのなど、お前くらいなものだ


発動 ウインド!」


一言多いお兄様が魔法を発動させて

杖の先がわずかに緑色の透明な光を帯びる

杖から手向けた先に一陣の鋭い風が走り 


「シパアッ!」

という音が出て 風の直線上にあった庭に落ちていた枯れ葉が舞い上がり

その先にあった木の茂みが少し揺れた


「!」

(へえ・・これはすごいかも やっぱり私の変な魔法じゃなくて

こういうのが魔法だったのよ・・!)


ようやくイメージ通りの魔法を見ることができて

ちょっと興奮する


(わあ・・ちょっと面白い・・

使えるようになりたいなあ・・)



「見事な魔法です さすがです お兄様」


体の周りにもまだ少し流れている魔力の光があって

すごく魔法の操作に手慣れている感じ

饅頭マンが背中に張りついていなければ もしかしたらかっこよかったかも


庭先でただ一人の血のつながった妹のリズにおだてられて

満更でもない様子のバゼロお兄様


「フフフ・・当たり前だ」



お兄様はその後

「これが「水球」だな ウォーター・ボール これも初歩の魔法だ」


(わあ これが魔法使いの魔法なんだなあ)

始めこそ私に分かるように今度は杖からではなくて

手のひらの上で手品みたいな小さい魔法を見せてくれていたんだけど



「さあ ここからが応用だ

もっと先の魔法を見せてやるぞ・・!」


(え・・)


追加でお兄様が少しの呪文を唱えると目の前で同時に

さっきの水の玉が(ポポポ)

一気に手のひらの上で曲芸のように分裂して浮き上がり

それからグッと力を入れたように


「・・ウォーター・キャノンだ!」(手から水の玉がやたらいっぱい出る)

「ドドドドド・・!」

(なあ・・)

それはもうやりたい放題といった感じで

次第にお兄様はエスカレートしていき


「(フワーっ!)」グルングルン


いつの間に足元に謎の魔法の風の渦が回って

お兄様はそこで腰を落として 

がに股姿で少しだけ宙に浮かんでグルグル回っている


(うわあ・・)

全然よくわからないけど楽しそう



「うおお! すごいぞお! 楽しいぞおお!」


(お兄様ってそういうキャラだったかしら・・?)


リズに見せつけるように詠唱から放たれる、

この世界の不思議な力、魔法の力たち


(やっぱり不思議な力だなあ 

魔力っていう力の源があるにしても一体どういう原理なんだろう・・


ちきしょー 羨ましい・・

やっぱ饅頭マンは一回解除しちゃおうかしら・・)とリズは思っていると



「おっといけない、俺としたことが・・

調子が良くてつい熱中してしまったな


まあ魔法が上達すればこういうこともできるようになる、ということだ」


ハッと我に返ったように

普段の冷静な自信家のお兄様に戻った様子


「だが今日はこれでは終わらない

なぜなら今日は調子がいいからな さっき魔法をうって確信した

今の俺は特に調子がいい」


お兄様はどうやら饅頭マンのせい?で調子が良すぎて

テンションが上がってしまっていたらしい



これならば・・貴族の高みにある魔法、

祝福の魔法ブレス・マジック」がつかえてもおかしくないだろう」


(え・・・?)


今まではイメージ通りの魔法を実際に見れていたけど


そう この世界の魔法には

私の空想世界知識のイメージ通りのような魔法とは

少し違うところがあるのだった


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