第2話 過去との遭遇
・・・
「
戦う相手を指名して勝負を申しこむ形式のプレイヤー間のやり取りだ
今私がいるこの場所はフリーのプレイヤーがたむろしている待合室で
確かにフリーで戦うことはできるにはできるけど
リーグで戦う人たちの規模と比べると利用する人間は本当にまばらだ
だってどうせ戦うなら賞金の出るリーグに入って
アカウントを動かしたほうが断然 金銭面で合理的なんだもの
フリーならほぼ無料でできるっていうけど
オリジンの底辺である追放リーグなんかで浸っている人は
もう脳が焼かれてしまっているどうしようもない人たちなので
勝負で何かを賭けないともう脳が興奮できないんだ
まあこの掃きだめみたいな所でもゲーム人口だけはすごいから
それなりにフリー試合も発生しているけどね
やるとして休憩中に余興でつまむためにするかどうかっていうレベル
さしづめ物好きの暇人プレイヤーの休憩のつまみに
ちょうどよく私は選ばれたってところだろうか
・・
(まあ・・ 今わたしも暇人になったから別にいいけどね)
そう思って ゲームを仕掛けてきた相手のアカウントをちらりと確かめる
画面は少しぶれた後に切り替わった
「「ヴイン」」
「( 、、人形・・?)」
その対戦アカウントで正面に表示された人物像アバターは一見、
人間ではない突っ立った案山子のような姿をしていて
プログラムの不具合エラーでできたような
顔の情報が一切設定されていない不気味な雰囲気のアバターであった
そしてその変な人形と一緒に気になったのが
その画面の人形の端の方に小さく映った
なにこれ ミニデビル・・?
その姿は頭に小さい角と肩のあたりにそういうデビルっぽい羽のある、
黒っぽい悪魔の小さい子供のような珍しいキャラモデルの姿だった
「 」
その小さな姿はまるで
この場所をひっそりとつぶらな子供の目で覗き見でもしているような
そっと何かを囁いてこようとしているように見えないこともない
まあ言ってはこないけど
そんな一見は風変わりな姿をした相手プレイヤーだったけれど
だけどここではそんな外見は全然あてにならない
可憐な女の子の見た目のモニター表示で
その中身は屈強なオジサンゲーマーでしたという例は山ほどもある
見た目のことは少し気になったけど
そんなことよりも
「ん・・?」
ピピピ・・
(30連勝・・)
このプレイヤー・・オリジンで今30連勝中のプレイヤー・・?
(普通じゃない・・、)
ここで30連勝中のゲーマーがわざわざフリー部屋で連勝0になった私に?
だけど私が興味を持ったのは そこよりもっと違うところだった
「プレイヤー名・・
・・・
「ハスラーキッド」は
この対戦ゲーム「オリジン」の界隈の最上位に位置する
最強のプレイヤーだといわれていた
私が今いるような、ろくでもない界隈のリーグではなく
「ワールドプレミアムリーグ」という
このオリジンの世界の由緒ある最高のトップリーグで
隠された秘密コードの怪人を意のままに動かし
名だたる強プレイヤーを破滅させ続けたのち
その頂点に君臨し続けているオリジンの孤高の存在
それゆえにハスラーキッドを
また山のように多く存在する
だけど私にはそれとは別に
その画面に浮かんでいた名前に少しだけ因縁があったのだ
・・・・
・・
記憶が
いつかのあの日の少年の姿
光が差しのぼっていく
木漏れ日の路肩に止まっている、
車高の高い黒塗りの車の扉
そこに乗り込こんでいく前の後ろ姿の背中
確か私が8歳くらいの時だ そんなに昔の頃の記憶なのに覚えている
憶えてはいたけど
かっこよかった気がするけど
その時の私の記憶のその少年の姿は
なぜかもう影がかかってしまったように曖昧だ
・・
少年とは言ったけど
当時の私も幼かったというだけで普通に彼は年上だった
当時の小さかった私からすると年上の彼らはもう十分大人に見えたけど
今思うと彼は謎の多い少年だった
「 よお リズ 」
「・・!」
今までいなかったのに
気がついたらたまに目の前にパッと現れてるみたいな、不思議な少年だった
その時は彼は私とは違って先行の組織の年長組だったから
今頃は成長して
あの時とは姿もだいぶ変わっているはずだ
・・
私たちが囲われて所属していた組織「ロストオリジ」
いくつも分岐した拠点を持ち、多くの独自研究分野をかかえていたが
そこは人間が持つ潜在的な力
特に人間の子供の幼少期の脳が秘める力に最大の重点をおいて研究していた施設
私たちはいわゆるそういう子供たちだったが
当時から私とは違ってその少年はその子供たちの中で
歴代でも最上といっていい才能に目覚めた存在だった
彼は当時からオリジンの操作に関する能力の観測可能な限界値が未知数であり
明らかになった能力だけでも
オリジンの怪人たちの技に対して
瞬間的にその全てに完全な対応ができるという
オリジンのプレイヤーとしてとんでもない才覚を持ち
おそらく人間の肉体に持てる脳の性能の最終到達点である、と評価されていた
まだ組織によるランク付けが確定していなかった頃に
一緒に訓練を受けていて
本当にたまにだけだったけどオリジンで遊んでもらったこともある
彼のオリジンでの脳神経の反応速度は超越した異常数値域を記録して
その数値は組織の試験体の子供たちの中でもかけ離れていて
突出して異端な存在だった
しかもその彼は年下で幼かった私にも
その対戦のプレイ内容には手心とかはなく一切容赦がなかった
・・
「うははは!リズ~また俺の勝ちだな」
「きい~」
才能を持つ彼に理不尽に対戦で負けて悔しかった私は
負けず嫌いの気質もあって よくあたり散らしたものだった
でも本当は対抗心とか
誰より優れていたからとかじゃない
私はどうしても気に入らなかったんだ
その嘘みたいに完璧な戦いぶりが
私がどんなにしつこい手、時には卑怯な手を使っても一切通用しない
結局私は彼に一度も勝てなかったのであった
彼の名前はクルード
そうみんなから呼ばれていた
実は・・
私は今でも何かの手違いだと思っているけど
そのクルードと私は兄弟だって言われていた
ロストオリジでの研究中に偶発的に発見され
「最終的な人間」と名付けられていた特殊な遺伝子コード識別情報
その完全な遺伝子コードの識別を持つクルードと
限定的だけどとてもよく似たパターンレスを持っているらしい
私は齢が離れた妹、ということみたい
そんなことだけど
肝心の才能の部分は全く反映されておらず全然似ても似ついていない
私にはそんなすごい能力なんてなかったし
多分血だって繋がってもいないんだけど
・・
「あらまた!」
彼は組織の研究員からはよく監視が付けられて異端児扱いされていたけど
私たちの前では普通の年相応の少年でもあった
そのクルードの大人げない様子に 他の年長組の奇麗だったお姉さんも
「教育によくないでしょ」
とかいって
少年クルードの頭をポカリと軽く叩いたりしていた
私たちの間では最高性能の脳みそが入っていても
クルードはいつもその頭が上がらないので
その年上のお姉さんが一番強いことになっていた
・・
当時クルードの他にも年長組の試験体の子供は何人もいて
組織で年長組といわれるグループは
まだ幼い私やリコやエレネなどの 後発の年少組である私たちに
まるで家族のようにお兄さんやお姉さんとして面倒を見てくれて
施設の箱庭で遊んでくれたり良く接してくれていた
私たちはみんな施設の試験体の子供なので親とかはいない
だからみんなそういう疑似的なつながりの中にあって
直接血のつながりがあるような
本当の兄弟ってわけじゃなかったんだ
それでも私は満足してたから気にしてはなかったけどね
その時は・・
そんな世界がずっと続いていくと思っていた
・・・
そんなある日
とある臨床実験の合間
厳重な施設の薄暗い廊下の先にポツンと奥まった場所にある部屋
施設の特殊な電子機材から放たれる妖しい光が浮かぶ画面の前
「 」
(画面の怪人の放つ技の光が集中してから途切れる)
勝手に消灯した暗い部屋に入り込んでオリジンで個人特訓をしていたリズ
(カチ・・、カチャ・・)
実験でもオリジンを長時間うんざりするほど操作するので
消灯中までのめり込むような子はなかなかいない
でもここにいると一人なんだけど
不思議と誰かと遊んでいるような妙な感覚があったんだ
私は強くなれるようにイヴを使って
NPCコンピューターAI相手に練習していた
だけど他のみんなと比べて 私は能力にムラが大きくて
気分がのっている時しかあまり能力が好調ではないし
他の子たちよりも能力自体も劣っていて なかなかうまくなれなかった
イヴは操作をミスするとすぐに火力が下がったり
暴走を引き起こしてしまったりして扱いがとても難しい
そんなキャラを
・・
「はあ・・」
(AIにもうまく勝てないなんて・・)
うまくいかず暗い部屋で一人で座ってため息をついていたリズ
・・
そこに別棟からの実験帰りなのか
珍しくその部屋の近くにクルードの影がパッと現れて
廊下から通りがかりに顔を見せてきて部屋の中にいた私に声をかけた
(カラン・・)
「リズ、か・・?」
起動画面以外の明かりをつけていなかったため
どうやら向こうからははっきりと私の姿は見えにくかったらしい
クルードの眼の光が
リズの方から見た部屋の入り口の暗闇に浮いていて
その時開いた部屋の入り口の扉から一本の道のように廊下の照明の光が
リズのところにまで差し込んでくる
これは思わぬ練習台だ
リベンジの機会にもなる そう思って リズも少し元気になって声をかけるけど
「リズ この部屋にはあまり長い間、いない方がいい」
「え・・?うん」
少しだけ冷や水を浴びせられたようになる
クルードはリズのいる部屋の中に入ってきて今度はパッと部屋の明かりをつける
暗かった部屋は全体が一気に明るくなった
(ああ・・、集中して電気つけてなかったなあ
暗い中ずっとゲームしてると目が悪くなるといけないし)
そう思ってちょっと反省する
・・
クルードはそのまま近づいてきて
リズが起動していた画面を覗いてくる
そこには私がさっきAIの怪人に負けたばかりのオリジンの電子画面が映っていた
「・・なかなか勝てないの」
「それでここで練習してたのか・・?
ああ、こいつか・・、お前これ間違えてるだろ 最高レベル設定じゃねえか
ちょっと貸してみろ」
クルードは私から勝手にコントローラーを移すと
(カチャカチャ・・)
「・・こいつはただのAIじゃない
だが完璧に見えてまだまだ不完全なんだ
AIは機械だが こいつには癖みたいなものがある・・ 」
クルードはそういうと
「よく見ておけ リズ こいつらとの勝負が分かれるのは一瞬だ 」ス・・
(コオオオ・・)
その瞬間だけ目の前の世界が変化する
何もない暗闇の端からまるで相手と自分のお互いが
遠くからやってきてすれ違う白黒の別々の電車の中にいるように
すごいスピードで一瞬だけお互いの姿が見えるところまで近づく
「「ズギャアアン!」」
「え・・!」
そのあっという間に流れるような交錯が終わると
リズが苦戦していたAIの怪人はもうやられてしまっていた
「危なかったが、こんな感じだな」
「ええ」
こんな感じって言われても
あんまりにも早すぎて参考にもならないという
目が全然追いつかない
危なかったっていうけど、
私の目にはお互いが重なって見えただけでそれもよく分からなかった
そしてもうコントローラーを返してくる
「っ!」
それを必死でリズは止める
「まだそっち側は持ってて、今からわたしと対戦・・」
「だめだ 次の実験が控えてる すぐ移動だ」
「あっ、そう・・」
クルードから採取できる神経系統の脳波の最新データは
人間の脳の持つ可能性を探っている組織の研究員にとってとても貴重で
消灯中であるはずの今もクルードはずっと重要な研究のひっぱりだこだった
そのため最近は私にも姿を見せることはあまりなかった
「相手はしてやれないが そうだ リズ
俺たちのクランに入ってみないか」
そんな忙しいクルードはまた近づいてきて
横からスッと腕を出して
今度は私のオリジンのメニュー画面をいじってきた
・・
言われるがままにされている私
(・・・)
顔が近くまでやってくると横顔からのクルードの目が覗ける
クルードの瞳の色は夜空の星を集めて映したような奇麗な黄金色だった
実験施設出身の子供は特定の色素パターンの変化や脱色などの影響が
目の色や体の一部に出ることがあって特徴的な発色していることが多い
私や他の子どもたちの瞳の色も通常ではない、それぞれで違う色をしていた
「・・クルード兄さんのクラン?」
「そうだぜ 作ったんだよ」
よく分からなかったので尋ねると
オリジンの機能の中にはクランっていう集まりというか
オリジンのアカウントの有志で集まって同盟が組めるようになっていた
「組織のそういうクランじゃないの?」
「いやちがう 俺たち この施設出身の子供たちだけのただの集まりだ」
「いいなあそれ・・ 私も入っていいの?」
「ああ」
電子メニューをいじると「ロストオリジ連合」っていう
最近設立したばかりの適当な名前に適当な造りの簡潔な初期クランがあって
だけどその中にはクルード兄さんをはじめ
よく遊んでくれた施設のお姉さんなどのアカウントもたくさんあった
そのみんなの集まりの輪の中に入れるのかと思うと
誘われた私はちょっとうれしくなっていたのだった
「なにこれ 「
クルードが操作していたアカウントの名前だった
「ああ まだ秘密だがそれは俺のアカウントだ
特に考えてつけたんじゃない
今はただの「薄汚ねえ勝負師気取りのガキ」だ」
(・・・)
「ふーん 変な名前」
・・
手続きはあっという間に済んで
「わあ・・!」
クルードは加入した私のアカウントに、
少しクランの上位権限などをちょいちょいと加えて
他の年少組の子たちをリズのアカウントからも加入申請できるようにしてくれた
その時、少し私のゲームの戦績画面を見てクルードは気が付いたように
「ん・・?お前・・このAIに勝ったのか?」
「え・・?うん
100回に1回くらい、その時にね、誰にも負けないっていう気分の時があるの」
「!そうか・・」
「リズ お前は一途だからな ・・いつか目覚めるかもしれない 」
「・・?」
ただ クルードは画面の横で作業の手を動かしながら
「 リズ・・ 俺たちのような「コード」を持つ人間に与えられた世界は
お前が思っているような世界ではない
そして俺達にはもうあまり残された時間はない」
「え・・?」
クルードの横顔はチカチカ光る画面の方を向いたまま
「・・もうすぐ俺たちの年長組は
組織による能力のランク付けが確定する
ランク付けが済めばここは卒業だ もうここにいることはできない
俺たち組織出身の人間はどうあっても はなれ離れだ
そして俺たちは仕事や任務でしか このオリジンには触れなくなるだろう
お前もいずれそうなる
だがそれでも このクランには かつてここにいたみんながいる
そういう証を残したかった
遠くに過ぎていった星もいつかはまた巡ってくる時が来る
それが俺たちにとって気休めだったとしても・・」
・・・
作業が済むとすぐ
今いる部屋に召集のベルが鳴って
「「 コードCL100D2、休憩は終わりだ 何をしている至急持ち場に戻れ 」」
「・・!」
リズを部屋に残して
クルードは組織の研究員にすぐ呼ばれて 離れて行ってしまった
また一人ポツンと残されたリズ
「クルード・・」
・・・
それから何日か経ってすぐ、
組織の年長組の子供たちの能力の正式なランク付けが決まったと聞いた
判定ランクによってさらに対応した育成機関に出向するように振り分けられて
クルードが私に言ったようにみんな はなれ離れになった
クルードはその卓越した能力から組織の最高機密のランクに振り分けられて
遠く離れた外国の研究機関に行くことになり
私たちの元から離れていった
「じゃあな リズ」
それがリズが見た
あの出向車の開いた厚いドアの横に立っていた最後の彼の姿だった
彼はあまりにもパッと簡単に去っていったので勘違いしそうだったけど
私たちに今まで優しくしてくれた年長組のお姉さんたちが
少し寂しそうに私たちの頭を撫でて去っていって
その日から私たちのいつもの箱庭に誰もこなくなったとき
私ははじめて
この施設で生きていく私たちの行く先のことを自覚したのだった
・・・
それから やがて時は流れて
リズたちも年長組になり 組織によるランク付けが決定した
あれからたくさん努力もした
だけど私はやっぱり「下級ランク」判定だった
周りの子はちらほら中級ランク判定だったり
あの上級ランクに選定された子もいてすごく喜んでいた
能力のランクが分かれると育成機関は別なので当然別れることになる
ランクが分かれてリズが見知った施設の子の仲間たちは
みんな離ればなれになった
判定ランクが変われば
その子たちのその先の将来の仕事も大きく別のものになる
そして能力の成長期を過ぎて一度決まったランク判定が覆ることは滅多にない
離れていったその子たちが
私と同じ場所で関わることは おそらくもうないんだろう
・・
リズと同じ下級ランクで一緒の子もいたけど
だいたいは離ればなれとなり
下級ランク相応の育成機関に振り分けられたけど
その待遇は研究施設にいた頃よりめっきり落ちて
リズにとって厳しい下級ランク待遇の過酷な生活が始まった
・・
それを何とか乗り越えても
下級ランク判定の私のその先は
ろくでもない派遣先でただ賞金ノルマを稼ぎ続けるために
昼夜最底辺のリーグで戦わされて、
ただただ生活のために食いつないでいくためのオリジン
私と同じランク出身の子には
そんな生活に耐えられずに精神や体を壊してしまった子もいた
・・・
元々オリジンは
発達した近代電子機械戦争で利用されることを想定した、
私たちのような試験体の脳神経系統の研究実験や
高度電子戦に対応できる専用の人材の育成計画などに利用するために
組織の秘密本拠もある新興国から
特別な教材として導入されてきた極めてハイスペックな性能を持つプログラムだ
だけどそれらは適性があって異様に性能がいいとはいえ
やはり元がゲームプログラムでもあったため娯楽用のゲームとして
その新興国や親交のある他国の一部では廉価版が一般にも普及されていた
その当時・・
夜になって眠る時にずっと真っ黒い夢を見るようになり
目や耳などの感覚器にも異常を及ぼし、症状がひどくなると
人間性の喪失にもつながってしまう人間だけがかかる謎のストレス性の奇病が
貧富を問わず世界中の国で流行して重大な問題になっていた
だけど
新興国の人間や私たちのような
施設に守られて日常的にオリジンに触れる試験体の人間たちが
その奇病に偶然全く発病しなかったことや
そのゲームをした後は
人間の脳に抱えるストレスの大半が中和されて消えて凶暴性が低くなり
精神が安定するという触れ込みが世界中で広がって
それが確かな治験データとして公表されてからは
奇病の治療予防機器としても一般の電子教育機材としても需要が爆発し
同時期から群発し始めたハイコストな建造費の大通信都市が栄えだし
人々がゲームに触れる設備環境が整うにつれて
対戦ゲームオリジンは人々の心を虜にしていき
その人気の規模は異常なまでに世界中を巻き込んでいっていた
オリジンは電子通信業界の覇権となり
大きなお金が動く世界の一大産業となり
それからはなぜか世界から戦争などの大規模な争いが滅多になくなっていき
そしてある日突然終結を宣言した大国間の戦争を境に
とうとう小規模な小競り合いを除いて世界から戦争が消えた
人は常に争いを起こしていたが
現実世界で戦うことにはもう疲れてしまっていたのだ
代わりに国同士の紛争や
人々の抑圧された闘争本能や激情は
仮想の世界となったゲームの中へと移り込んでいった
戦争では大国間の科学技術が進んで長期化した戦いで
都市は破壊されて文明は困窮し、落としどころを失い
それでなお
痛みの果てに国同士の問題に決着がつくことは滅多になかったが
オリジンの電子の世界でならば
少なくとも勝負には必ず決着がついた
その急激な移り変わりの影響力は
頭の固い私たちの組織ロストオリジでも
世界から争いごとが急激に減って採算が全く取れなくなった軍事部門から
積み上げた電子戦研究技術のノウハウで
完全に対オリジンに特化する方針に舵を切ったほどだった
・・
そうして程なくして
人類の研究の長年の悲願であったシンギュラリティへの到達
それはありとあらゆる危機管理条項の批准、平和的利用、
悪用や反乱の徹底的な防止策などが施された人による完全制御下の元で
光子学リマスターコンピュータによる到達が観測された
「ウィザード・シンギュラリティ新技術革命宣言」による
新たな時代の幕開けの宣言によってその知らせが世界中に駆け巡った
時代に取り残されたような厳しいリズの生活の横で
その超越した性能に「真の魔法使い」を意味するウィザードの名がつけられた、
最新シンギュラリティの技術によって人類により一層の技術革新がもたらされ
次々と近未来的な新しい新興通信都市が開発されていき
その富によって成り上がった時の権力者たちが生まれては
オリジンで財産とあらゆるものを賭けて戦って
その勝負で負けて身を滅ぼして嘲笑われながら消えていく
かと思えば
勝負に勝利してさらなる巨万の富と権力を手に入れる者も現れていた
そうして成り上がった権力者たちは
オリジンの世界が滅びる前にあったとされる、
設定上の古い文明の言葉から引用して
「強欲な一族」という意味の言葉で「グリゴルン」と呼ばれた
オリジンにある最高の世界では
賭けられない物、勝負で手に入れられないものは存在しないと言われていた
それが
時の
賭けに勝利した、より強い者が時代の勝利者として全てを得る混沌とした時代
そのさなかくらいであっただろうか
自分を生みだした組織からも能力を必要とされず
ただ一人 何からも取り残されて
ただ生きていくためにリズが光る画面に向かっていた時だった
・・
「あれ このアカウント・・」
組織の最新技術の粋を集めた育成プログラムを完遂し
本格的に始動しはじめたのであろう、
今まで世に出ることのなかった超越した異端の才を持つクルードの
秘密だった変な名前のアカウント
「
欲望と闘争の渦巻くオリジンの
時の権力者たちが支援する名だたる強アカウントたちをなぎ倒し
その全てを奪い取りながら
誰もよせつけない容赦ない圧倒的な力を
その新たな時代に頭角を現し始めたのは・・
(いつかは・・)
「もう少し・・頑張ろう」
・・・・
・・・
・・
(直接対戦要求・・)
その名を持つアカウントプレイヤーからのリズへの対戦要求
「ねえ・・リコ 変なのがきたんだけど
これどう思う?」
「・・?見せて」
リコは隣から椅子ごと寄せてくる
「・・・あのハスラーキッド? 普通に考えて偽物よね
だって彼はここずっと表に姿を見せてなかったじゃない
それにまずこんな底辺リーグにいるはずがないもの」
「やっぱそう思うよね」
そう そのプレイヤーハスラーキッドは
圧倒的な一位になってからはどういうわけか
オリジンでの活動はほとんどと言っていいほど途絶えてしまっていて
最近では彼はまだ存在しているのか、その消息すらもが分かっていない
・・
「でも30連勝・・ここの持ち場とはいえ実力はあるのかしら
ていうか30連勝もしてたら賞金ボーナスつくから
ますますフリー部屋でやる理由がないわね
リズ ちょっとこっちのアカウント情報のボタンおして」
「了解」
リズが指でカチリとボタンを押して画面が切り替わり
(シュイン)
アカウントから伝って相手の情報詳細が少しだけ見れるようになって
その文字を視線で追っていく
「んー なんか文字がかすれてて読みにくいけど・・
やっぱ偽物ね 本物のハスラーキッドは
あの影帽子のシルエットの秘密コードキャラの使用率がほぼ100%だけど
こっちは全然ふつうよ
それによく見たらこれ違うじゃない
オリジンのアカウントのHustler kidのつづりの最初の文字が
hで小文字じゃないの ぜんぜん別人よ」
(・・・)
( 「 hustler kid 」・・ )
確かによくみるとそうであった
「あーそっかあ そうだね偽物だわ」
すると
「(bbbbb・・!)」
だいぶ始めの直接対戦要求から時間がかかっているせいか
オリジンには簡素なチャットの機能もあるんだけど
そこから適当な記号が流されてきて
画面の案山子みたいな顔なしの対戦相手からまるで催促されているようにみえた
「・・なんか小物臭まででてきたなあ
うん・・偽物か」
「リズったら・・、相手が本物だったら
負けたら全財産どころか
偽物くらいがちょうどいいのよ」
オリジン最上位の世界で「ハスラーキッド」に挑んだり戦って
全てを奪われて破滅したという上位プレイヤーの人間は
噂では数多くいたのだった
「とはいえ まあいいんじゃないの?
実力はありそうだからリズの練習相手にはなるんじゃない?」
「それもそうね」
納得したリズはやってきた
(カチリ)
指がボタンを押した瞬間 ビビっと電気が走ったような感覚がした
その時
「「 」」
「・・・・?」
「(ザワ・・)」
(部屋の中なのに 少し風が吹いてる・・?)
閉め切っているはずの部屋の中の環境に
リズはわずかな違和感を感じる
「リコ・・?」「 」
隣のリコはなにか虚空を見つめているようにそこで止まっていた
(え・・?)
なにかがおかしい
ロード中と表示されているオリジンの起動画面の文字は いつもと違い
白いランプがチラチラと不規則に点滅していた
(これは・・・故障?)
「まあ・・いいけどね」
今はその異様さよりも私は優先することを決めていた
今の私はもし私の後ろで火事が起こってチラチラと炎が迫っていたとしても
そうしていただろうと思う
長らく仕事でこのゲームの箱部屋に閉じ込められて
煮え切らない感情を持て余していた私の戦闘気質も猛っていたのかもしれない
追放リーグ
ここでの仕事では質の悪い相手に対して
お金のためにとにかく数をこなすことが求められる
安定して稼ぐためには明らかに強い相手は絶対に避けてなるべく戦わないように
ずっとリズは上の人間に厳しく言われ続けてきた
見放された人間であるお前たちがここで食いつないでいくには
そうすることが当然なんだって
(・・・)
だけどこうしてやってきたこのリーグでは滅多にお目にかかれない強敵
それに今はお金は関係ない勝負
画面には少しやる気の私の淡い目の光がゆらゆらと映っていて
わたしは感覚に従って
その画面に今は集中することにする
・・・・
・・・
「ズズズズ・・!」
対戦相手はオリジンキャラクター「魔人化ドラゴンロードマン」を選択しており
荒廃したオリジンの地上世界の向こう側に
強い魔力エネルギーで画面を侵食するようにじわりと現れた
「「
この怪人が現れる時かかる言葉
オリジンのキャラたちはおぞましい見た目も相まって
普通に怖いことを言ってくる
それはいつもの仕様のはず・・
なんだけどなんだか普段よりいやに耳ざわりで低く響いてくるような
現れたそのオリジンの怪人は髑髏のような頭蓋と
ドラゴンと人間が混じった様な邪悪で屈強な造形で牙をむいていた
殺戮と破壊を好み
常に血に飢えているように残忍にして残虐な性質で
その異常な強い魔力エネルギーで地上世界を荒らしている戦闘狂
「(違うわね・・)」
やはり・・というべきか
ハスラーキッドが使うと言われている
秘密コードの影のかかった帽子の隠しキャラではない
そのプレイヤーは使用率も99.9%
ほぼ純粋に魔人化ドラゴンロードマンしか使っておらず
隠しコードの怪人を使うような形跡はなかった
ただそのデータを見た時
妙に羅列が込み入っていた上に文字の形の一部が
ぐにゃりと変形しているものがあって
その情報には妙な違和感を覚えて本当に正確なものだったのかは分からない
ほんの少しだけ
私は相手がクルード兄さんなんじゃないかと期待していたんだけど・・
しかし魔人化ドラゴンロードマンは
熟練者が使うとされている怪人で けっこう操作に癖がある
とはいえ 私が使うイヴもそうなんだけど・・
イヴは本当は「イヴ・バスタードツイン・デストロス」っていう
かなりいかつい名前をしている
「破滅の右腕」という悪魔じみたパワーの装甲の右腕を持っていて
癖があって攻撃能力と破壊力に偏った性能をしている
「でも君なら・・いいのかしらね?」
私は大味にいくことにしていた
けして舐めたプレイってわけじゃない
ただ、このなにくわない顔で
この下級の追放リーグにやってきた自称、
世界最高峰プレイヤー「ハスラーキッド」に
まるで交通事故のようにドカンとぶつけてやろうと思っただけだ
・・・・
・・
「「 」」
集中していた目の前の光る画面が僅かに白黒に切り替わって
その戦闘は開始された気がした
(
「(カカカッ・・カカ)」
私は最速でイヴのコマンドを開始する
私の入力は一見めちゃくちゃにやっているけど操作は全てつながっている
「ズズ・・オ・・!」
機械仕立てと瞬間強化で一気に肥大化したイヴの右腕に
ありったけの闇の邪悪なエネルギーを即集中させた
「 」
そして相手の反応を見る
まだ動かない
(対策は・・してこない?)
(上位のナメプってやつ・・?)
「まあ・・かまわないけどね」
また一気にリズは入力を済ませる
画面のイヴは一度どんよりとした灰色の異次元の上空にジャンプで跳躍してから
そこから最短距離ではじきだすように
「ゴオオオ!」
エネルギーを放出して 対戦相手に飛び掛かって襲い掛かる
その時 イヴと相対する魔人化ドラゴンロードマンの構えた腕に
一気にエネルギーが送り込まれ
力が膨張して超強化が行われたのがわかった
(動いた・・!)
「バシュウウウ・・!」
異形の魔人化ドラゴンロードマンの背中の各部から突き出た、
特徴的ないびつな噴出口から大量のエネルギーが噴出され
そのまま正面に突進してイヴを向かえうつ体勢をとっている
(対応スピードがはやい・・!
でも先にここまで準備した
イヴの偏向攻撃を抜けるキャラクターはいないはず・・!)
「ゴゴゴ・・!」
この強化状態になったイヴの攻撃を受けることは
基本的に「オリジン」において愚策だとされている
だけど距離をとるか 受け流すか
強力ではあるけど
イヴの強化状態は繊細でもあるため動作を強制キャンセルさせるか、
などいろいろ対策がある
(だけど正面からなんて・・!)
「いいわ・・全部 吹き飛んでしまえ」
(ギュオオオオ・・!)
ためきった無遠慮のイヴの破壊のエネルギーを
そのまま対戦相手に上から一気に叩きつける
(( ))
すると対になった相手の強化されたドラゴンの腕の中に
渦を巻く危険な魔力エネルギーとは別に
なにか小さい白い光が微かに混じっているのが一瞬見えたのだった
その白い光が近づいたイヴの体の前にパッと分かれて広がって
イヴのところにやってくるのが見える
「(ポウ・・」
(え・・何これ?こんな技知らな・・)
でもその何かの光がイヴの体に触れる前
「ズアアアアア!」
それよりも先に
一気にこちら側のイヴのエネルギーが解き放たれて放出される
その瞬間 エネルギー同士はぶつかり爆発する
「「ズドオオオオオン!」」
それはものすごい衝撃波で
イヴは強化状態が崩壊しながら後ろにはじき出されて
少なくないダメージをくらっていたが
「ズシュウウウ・・・プスプス・・」
対戦相手のドラゴンロードマンの方は攻撃が直撃して画面端まで吹き飛んでいて
強化状態も崩れ去ってもっと大ダメージをくらっていた
・・・
・・
(ふう ちょっとすっきりしたかも・・)
そんな無秩序に荒れて
そこらじゅうが見事に滅茶苦茶になった対戦画面を見ていたリズ
「だけどジャンプをいれただけのイヴの攻撃をまともに食らうなんて
ちょっとありえないわね ・・やっぱりこれは偽物ね」
その時
「ジジ・・」
ほんの少しのノイズのような間を置いてから
オリジンの相手側の簡素なチャットから
リズに対して点滅しながら光の文字が流れてきた
「メチャクチャダ 時間ガナイ 後モウ 少シダケ 」
「 モウ 動キ出シテイル 」
「・・え?」
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