瞳を見るとBURST HEAT! VS世紀末格闘少女リズと不思議の格ゲー魔法世界
綾町うずら
序章 導入:追われた日常 行き止まりの向こう側
第1話 圧倒的に終わらせる
(無音)
運命の輪 記憶は今、蘇る
・・・・
何かが始まる 予感がしてる
・・・・・
その世界の地上は力の渦によって覆われていた
そこは人間には支配することができなかった世界
そこにあるものは皆 途方もなく大きく
世界には物理の法則にもそぐわない
常に噴き出るような未知のエネルギーたちが満ち溢れ過ぎていて
こんな混沌な世界では普通の人間では生存することはできない
そう 普通の人間では
( )
何かがつき進んでいく
その視界の中は濃いエネルギーとまとわりつく磁場の嵐に覆われて
どこを突き進んでいるのか今が昼なのか夜なのか
今の自分がどういう姿をしているのか
まるで分からない
夢の中にいるみたいだった
突然視界はひらける
「「ゴゴゴ・・」」
真っ黒で暗く包まれたトンネルのようだった力の渦を突き抜けて
突然開けた空の上から
大きな月が落ちてくるように現れて
つき破られた闇はパッとその月の光で覆われたようだった
その世界はどうやら夜だった
異質な夜の空にヌッと顔を出した、
巨大で欠けたような不格好な月の姿は本当に欠けていて
荒れた地上にはぐれた月のかけらが降り注ぐ
月の星を呼んだ上空にいた私の眼下の地上世界には
幾千もの紙でできた箱を押しつぶしたようにして倒壊した、
火を噴く巨大な都市の無数の建物群
その全てが滅んだ地上からの強い風で
高く舞いのぼった火の粉と幾千の星の光が入り乱れる場所
私は機械の黒い光沢を持つ鋭利な翼で
真っ暗で嵐の渦中のような夜空を
星が流れる様に猛スピードで飛びながら
その時の私の姿はなじみのある女悪魔の姿をしていた
そしてまた一瞬、
やってきた
私は戦っていた
あれは最初の影の闇の世界から現れた怪人だった、
人間の形をしているが人間ではない
影に覆われたような漆黒の戦闘コートの姿をした異様な生命体
戦いでは一対一での激しい技の応酬が繰り広げられていて
ぶつかった瞬間にお互いの装甲から
叩きつけた金属の輝くオレンジの火花の閃光が飛び散っていた
異様なオーラを放つ
その漆黒の影の怪人の力はすさまじく強く、私は極端な劣勢だった
「ガシイ・・!」
でもようやく悪魔のように変わっていた私のその肥大化した右腕で
戦っていた漆黒の怪人の顔面を捕まえ、わしづかみにする
「 」
わしづかんだ力に軋む私の悪魔の指の節の隙間
その戦いは佳境を迎えていた
怪人の闇に影が落ちたような顔の仮面の切れ間からは
大人の目とも子供の目ともとれるような不思議な怪しい光の怪人の目が
こちらを射抜いてきて その
「ズオオオオオ!」
その瞬間 私の悪魔の右腕から
解き放たれるようにとんでもない邪悪な力と光が溢れ出てきて
それまで夜の世界を染めていた崩れかけた巨大な月の光を
覆い隠すように辺りを照らしだす
「( ふきとべ・・!!)」
そして
漆黒の影の怪人の掴み上げた仮面の顔面に
その高まったエネルギーを至近距離で躊躇なく炸裂させる
「 」
・・・
・・
炸裂するはずだった
だけど そこで世界の
というより時間は「
私は敗北し
それは最初の子供たちに渡された、
試験用のプロトタイプのゲームの画面だった
そうあれはゲームでの戦いだったんだ
「( 勝てなかった・・ でも少し惜しかったかも)」
「むう・・」
・・・
「じゃあ今日はこれでおしまいね」
そういって
後からやってきた私の仲間だった女の子一人が
試験用のゲーム画面の電源を切った
あれはいつの日だっただろうか
初めて自分用のアカウントを組織から支給されて手渡された幼い日の私は
そのアカウントを使ってゲームの最初の起動の試運転していた
一刻も早く試してみたくて
支給された自分のアカウントカードを手に持って
走ってまっ先に試運転用のテストルームに入った私が
その機材の画面を一番初めに起動すると
一番最初に現れて最初のゲームの操作説明で戦う
人影の形をしたような謎の最初の敵、
そう あの時の怪人が私に対して何故か異様なまでに強く、
私はその影の怪人を戦って倒すことができなかった
でもその後で
早く来た私の後から次々とアカウントの試運転をしに
部屋にやってきた子たちが画面を起動しても
その最初に現れる影の怪人はあまり大きな目立った動作はせず
スムーズに淡々とメッセンジャーの操作説明が始まりだして
その時のプレイヤーだった子ははじめの影の怪人には何の問題なく勝っていた
私がそのことを言うと
「え、あれって説明だけのただの最初のステージの道案内なのに
リズって最初のあの怪人にも勝てなかったの・・?」
って信じてもらえず馬鹿にされたものだった
それから各自の割り当てアカウントの試運転が済むと施設のベルの音が鳴って
「「ジリリリリリ」」
「あっいけない 呼び出しよ」
統一された薄い灰色で被験者用の
みんな同じような衣服を身にまとった座敷童のような私たちは
すぐに自分の持ち場に散り散りになって小股で駆けていった
そんな昔の日の幼い記憶
・・
私達には事情があった
なぜならば私たちは組織の施設で実験的に育てられた人間
持っている能力に応じて組織によって「ランク」がつけられ
その身を出向先に預けられるまでは
施設内で検体番号をつけられて私たちは厳しく管理され育てられる
なにかの優れた才能、反射神経や演算能力、空間認識など
その特に突出して優れた上位ランクの人間は特別な恩恵をうけ、
施設での上位の地位を確立して特権を得る
・・だけど それに当てはまるのは ほんの一部の人間だけ
幼少時から数々の臨床実験を受けて
最終的に上位ランクにも見出されなかった大部分の中下位ランクの人間は
ある程度組織の教育機関で最低限度の教育を受けながら育てられると
時期を見て組織によって判断されて見切られ
ただの世間の一般人として出稼ぎ要員として世間に派遣される
頃合いは 早い人はもう少し早いけれど
だいたいみんな14歳くらいの頃だ
その中でも私のような下位ランクの人間のいくところは
治安など保証もされない、大抵はろくでもない場所に派遣される
能力を下位ランクに判定された私は
特に特別でもなかった生まれながらの少し偏った才能というべきか
それにすがって
組織によって派遣された薄汚れて荒れた街でなんとか生きていく
それが今の16歳になった私だった
・・・・
そして今現在の私の前
「 リズ player 現在13連勝中 対戦求ム 」
椅子に座っている私の目の前には
中型のテレビほどのスクリーンのデジタル画面に表示された電子文字
それが薄暗い部屋の中で一定の間隔で画面は点滅を繰り返す
その光る電子画面の中には
私が今している対戦ゲームの女悪魔のキャラクターが立っていて
その目の前にいたキャラは「イヴ」と呼ばれている女悪魔で
その姿は背中の上の方から腕がスッと伸びるように
でもそれは腕ではなくて
光沢のあるエキゾチックで悪魔のような翼が生えていて
そして本当の腕のその特徴的な右腕は
何かのムカデやヤスデのような多足類の昆虫の甲殻のように
一部がいびつな形の装甲で覆われていて さらに固く金属化している
妖しくたなびく血のよう赤く長い髪と同じ色をした瞳をした顔つきで
すらりとした美しい体躯のその女悪魔は
ゆらゆらとその場で一定ごとに同じパターンの動作を繰り返している
・・
私が以前の組織の施設にいたころ
組織のプロジェクトの一環で脳波反応のデータ採取の実験に
このゲームのキャラクターたちはそのまま起用されていた
私のように施設で育てられた子供たちは皆、
オリジンの様々な怪人の動きの操作を幼少のころから
強制的に脳みそに叩き込まれるのだ
世界で類をみないほど爆発的に普及していたそのゲームの名前は
「
・・
「 シンギュラリティ 」
それは技術的特異点のことであり
人工頭脳の性能が人類の考えうる知能を越え完全に上回る
その転換点のことを指している
人間を超える人工頭脳
この時代の人類の革新したコンピューター技術は
いつしかその特異点にもう到達していた
そして「オリジン」は
人間が開発したコンピューターの性能を
そのシンギュラリティに到達させることを目指す過程で
ある種の偶然の重なりによって形成された、
幾多の解読不能、意味不明のコード言語を持ち
実用的な起動が不可能であった多くの失敗プログラムたちの中で
人の手が関わっていたことで偶然起動が可能であった副産物のひとつであり
その中でも非常に完成されたゲームプログラムだ、と言われている
とある男がいた
「「 」」
「なんだ、これは・・・」
四六時中、鋼でできた板金をひたすら打ち続ける
町外れの寂れた工場で働き終えたばかりの帰り際
男は普段よりひどく脳と体が疲れていて
いつもは意識に全く気が付かなかった道端の先の
不思議な古びた店舗のショーウィンドウの前で足を止めてしまう
今までぼんやりとおおよその噂を聞いていただけで
そのゲームの世界を伝え知らなかったその男は
ショーウィンドウに映る生まれて初めて見たその画面の前で
呆然とショックで目をくぎ付けにして固まってしまったという
それはプレイヤーが様々な怪人を操作し力の限りを尽くして戦い合える、
という触れ込みの
一見はどこにでもありそうな暴力的で野蛮なバーチャルゲームであった
その電子世界の画面の中にいる、
今までただ真面目に働き、普通に生きてきた人間であって
特には何も持ってこなかった己に対して
まるで妖しい魔法のかかっているように鏡合わせに対になってそこに立つ存在
そこにあるものがもし本当に何かの鏡であったのなら
その先に映っているのは
勤勉な自分自身の何かを写した普通の存在であっていいはずだ
だがその姿は歪んで変質している
顔の中央の窪みにくり抜かれた一つだけの血走った目があることだけが分かる、
その先にいる明らかに人ではないその醜い姿の怪物を見た時に
男が感じた直感は
「
こんなものを人間が操作していいはずがない
人間はけしてその場所にいてはならないのだ、と
禁忌の力
目をくぎ付けにされたその男が見たものは
それはもはや暴力などではなかった
正確には人間が連想できる暴力性としての実感がなくなるレベルで
その世界の力は乖離しており
その世界にいる怪人と呼ばれる存在たちは皆
ただ暴れる力というよりは何か目の前にある、
人間にはどうしようもないほど強大で巨大なものを
その意志ただひとつで塵ゴミか何かの
その凶悪で得体の知れないエネルギーは今にも爆発しそうで
己の内側に抑えて常にはち切れんばかりに満ち溢れていた
でもそれは当たり前だ
これはゲームなんだ
馬鹿馬鹿しい
そういうゲームなだけだ
こんなものを己の中に認めてはならない
絶対にだ
いつの間にか喉がひどく渇いており
その男は自身の肉体に汗ばみと熱を帯びた動悸を
自覚しながらそう自分に言い聞かせるが
もうその目は
その世界に囚われてしまっている
その直後に
その男が知らぬ間に食い入るように見ていた、
いびつな拘束具のようなものを全身に纏ったひどく醜い姿の怪人は
自らの前にそびえる巨大な壁のような塔の目の前に立ち、
そこでこの世のものとは思えないような声で喉元の奥から
魂の波動の絶叫をする
「「 」」
その巨大な塔はよく目を凝らして見ると
無数の鋼でできたようなへこんだ板金が山のように重なってできていて
その怪人の凄まじいエネルギーのこもった絶叫の前に
まるで幻想であったかのように乾いた金属の音を立てて脆くも倒壊し
その衝撃は全てを貫いて
輪のように世界の彼方へ何処までも広がっていく
またひとり
何かに目覚める
人と関わって生きていくうちに
今までの自分の中に覆い隠してしまい込み
あるいはそれは元から脳の中からは忘れ去られてしまっていて
とっくに無くしていたように錯覚していたもの
だがそれは今も確かに存在し
己の奥底で眠りながら蠢いていた何かの感覚
その感覚に呼ばれている
その耐性のなかった男は気が付くと画面の前で気絶していた
・・・
・・
そのゲームの常識外で狂気にも迫りくる過剰なまでの破壊的描写は
それまでのゲームの中には存在しなかったもので
その世界を実現する根幹システムを構築するために
そのゲームの特殊回路のサーバー関連施設だけで
まるごとひとつの都市を作りあげてしまうほどの普通ではない力の入れよう
仮想の終末世界を舞台にした
超シュミレーシュンバーチャル型対人格闘ゲームだ
今では世界中の人気を集め
今もなお世界の人口増加と同じペースでプレイヤーが増え続けている
( )
だけど 私にはそんなことはどうでもよかった
今の私にとってはその「オリジン」という対戦ゲームの中の
「イヴ」という女悪魔を操作することで
わずかながらの生活のための収入が得られる、ただそれだけのことだった
その手を取った人々は始めこそ戸惑い、忌避感をおぼえるものの、
ゲーム対戦での激しい戦闘によって
なぎ倒されていく大迫力の巨大な建造物や
戦いによってプレイヤーが操作する「オリジン」の怪人達が勝負の末に
次々に爆散していくのを見て
(( ウオオオオ!! ))
熱狂するように歓声を上げて
しだいに引きずり込まれるように、
そしてますますオリジンの世界にのめり込んでいく
そんな世界中のアカウントの人々を見ても
私は特に何とも思わなかった
たまにどこかの国のゲーマーが博打のようなレートに煽られて
身の丈に合わない人生をかけた大金を賭けて
派手に勝負で爆散していっているのを見て
その人生の破滅を外から眺めて観戦する人々は
享楽的に、はたまたどこか狂えるように喜びに湧いていたりすることもある
でもそれもおかしいとも思わなかった
だってその世界が初めから私が生きてきた
わたしにとってのただ一つの普通の世界だったから
どこか人の気を吸い寄せて本能を惹き立てるような
不思議な魔力のあるゲームであることは感じていた
イヴを操作するのは楽しい
けれど
世界中でどれだけたくさんの人が熱狂していても
賭け試合の勝負にお金をかき集めて
身が滅びるほど欲望にいれあげる人間たちがいても
それは私にとってはどこか関心の薄いどうでもいいことだった
・・・・
薄暗く窓のない閉ざされた部屋の中で
その無機質なモニター画面の明るさだけが私たちを照らしている
「(ブイン・・)」
画面の光が空間を照らす中で 画面が一瞬暗くなる時があり
その時 私の顔の輪郭と淡い桜色の瞳が
その画面に闇の中に浮かぶようにゆらゆらと反射して映っている
システムから電子ネットワーク上に通信接続されたモニター機械は
あまり広くはない今の仕事部屋に3台ほどが設置されていて
それぞれに組織から派遣された私たちが担当について
そこで「オリジン」での対人対戦をリーグに分けられたオンライン上で行う
そして電子オンライン上に設けられた
合法的に賭けられた「賞金」を
世界中の人間たちとリーグ対戦の勝敗で奪い合う
それが今の私たちに割り当てられた仕事、のようなもの
施設の下級ランク人間である私の
唯一の生活のための日銭を得る
・・・
「リズは今日も調子がいいね」
私の席の隣に座っていてポソリと声をかけてきた、
これもまた電子画面を黙々と向き合っているリコという女の子
私と同じ年齢の16歳で 私の隣の席の画面で
私と同じように仕事でオリジンでの通信対戦で戦っている
この子もわたしと同じく組織から能力を下位ランクに判定されて
施設に割り当てられてこの仕事場にやってきた
ほんとはもうひとりエレネという女の子もいた、
が今日は体調を崩して休んでいた
その子の担当だった3台ある機械の右端のモニターは電源が落ちたままだ
「そうかも」
リズはたった一言 声をかけてきたリコに応じると
少し画面の外に注意を外していたところから
元の画面に視線を戻して意識を集中し直す
淡々と手元の独立したオリジン専用のコントローラーの
擦りむけた凹凸のあるボタンをいじっていく
・・・
私はこの賞金リーグで今日も賭け試合を続けていた
「(カチャカチャ・・)」
ただ私たちが今いるこの界隈で相手をしているプレイヤーたちは
正直言ってあまり強くない
( 13連勝か・・)
わたし程度の能力の人間にこんなに連勝されてしまうのだから
私も腐っても技能を叩き込まれた組織の人間ということだろうか
ここはオリジンの下級リーグ
一番下の掃き溜めみたいなひどい賞金リーグだ
昼夜を問わず対戦画面に執念深く張り付いて、それでなお上にも行けない、
ゾンビみたいな底辺の色んな人間をやめている人たちが集まっているので
別名蔑称を込めて「追放リーグ」とも呼ばれている
それでも妖怪みたいな人たちがお金を賭けて集まっているので
ここでゲームが得意っていう程度のレベルの
一般人は食い物にされて勝ちを拾うのは難しい
私もそんな界隈の住民
「これでいこうかな」
退屈だったから私は最近は少し
「ピコン!」
次の対戦が成立したという音が聞こえたので
リズは予約コマンドで その技を一気に一見めちゃくちゃに、
だけど正確に手先の指の動きでなぞってコマンド入力していく
・・・・
・・
「ゴゴゴゴ・・」
目の前の画面には「オリジン」の終末世界の
どんよりとした崩壊した暗いビル群の廃墟に
おぞましい異色の変異昆虫たちがいっぱいに徘徊するステージ
この世界は文明世界が滅んでしまうほどエネルギーで溢れていて
そのエネルギーに寄生して生きている微生物などの昆虫類も異常に大きく
ノミやダニのような本来は小さいタイプの生物も大型犬くらいの大きさがあったり
個体によっては人の背丈を遥かに越えて象ほどの大きさのものもいるが
今ここに集まってきているのは比較的それでも小さい部類の虫たちだ
動きも活発で絶えずエネルギーを吸収するために
気味の悪い触覚やいくつも謎の突起のある長い脚をワキワキさせている
そんなおぞましい虫たちはオリジンの凄まじいクオリティのマシンパワーで
ゾワゾワと身の毛もよだつような最高に気持ち悪いフォルムをばっちりと
画面の外のプレイヤーの視線にまで擦り付けてくる
そんな異様ともいえる環境下で
比較にならないほど一際強い力を持つ特異な存在
オリジンの異形の怪人たち
「 」
そこにはいびつな斧を持った奇怪な装甲を被った殺意の怪人が
崩れかけた鉄筋がはみ出たコンクリートのような足場の上に立ちあがっていて
低い唸り声のようなものをあげる
「イギア・・!」
その怪人は私のなけなしの賞金を根こそぎ全て奪い取るべく
そのいびつな形の血の塊の付いた兵器斧をすさんだ大地に振り下ろし
4つの剥き出した眼球でただこちらの方を見ている
辺りには強い力を持った怪人たちに潰されない様に
さっきの大きな虫たちが自らの硬い殻を丸めて変形させて
怪人の存在の影響力で常時周囲に湧き出ている、
そのより強いエネルギーの恩恵にあやかろうと周り一帯を遠巻きに囲い
寄せては引く波のように集まってきたり離れていったりしている
(・・・)
あまり理解はできない
開発にお金をかけまくってどうしてこうなってしまったのか、
どうしてこんなに趣味が悪くて暗くて退廃的な雰囲気のゲームが
そこまで世界で流行しているのかはよくわからない
でてくる怪人たちだって大半は
人気が出そうなかっこよさや可愛さなどのセンスとはかけ離れた
おどろおかしい見た目の奇抜な怪人ばかりで
一部のキャラを除いて美形であることは珍しかった
(でもどうしてなのか しいて言うなら・・)
「スッ・・」
私は戦闘の直前でコマンドの続きを
手持ちのコントローラーに指から少しだけ撫でるように動かす
・・
「 」
猛るような対戦相手に対して私が選択していたのは
さっきまで画面でこっちを向いてユラユラとしていた、
いつもの女悪魔「イヴ」だ
今は向こう側を向いている
「カチ・・、カチカチ、ピピ、ピピピピ・・」
そのイヴに始めに一気に連打や特殊コマンドなどのリスク付きの力を
これでもかと「破滅の右腕」を持つイヴの片腕に集積させて
最初の強力なエネルギーをつぎ込んだ邪悪な力で開幕スタートに襲い掛かる
それが今のこの戦法
この大味な戦法は上位の人間にはまず通じないだろう
だけどここにいる程度の大半のゲーマー相手なら
私の技量でいくらでも当てられる
「圧倒的に終わらせる・・」
黙々と緻密な操作をしながら
リズは画面をなぞるように青白い電子の光の先を見つめる
・・・
・・
「 」カッ
一度世界の時がピタリと止まって画面が白黒になる演出の後
そのオリジンの対戦が始まる
「「
今の私の攻めは単純だ
対戦が始まると即、
画面で構えたイヴの右腕に集積されていく莫大なエネルギーが
全部の空間を光で白黒させて 大きな音を立てる
「ギュアアアアアア!!」
「!!」
その危険な光を見て自分が攻め立てる気満々だったところから一転して
慌てて回避行動をしようとしたり
大急ぎでその場から逃げ出そうとする敵の怪人を
まるで獲物を追うように追いかけまわして
このイヴの開幕で凝縮した力をぶち当てるのだ
相手の斧をもった怪人は多少の抵抗の技術は持っていたようで
抵抗のために逃げながらも斧をブンブンと広範囲に向かって振り回していた
(ブン!ブンブン!)
だけど情けない必死なその振り乱した姿は
最初の物言わぬ底知れなかった雰囲気と威勢からはだいぶかけ離れていた
(・・・)
あんな見た目の異形の化け物の姿をしていても所詮
その先の中身には電子の世界で繋がれた、ただの人間がいて
そのプレイヤーの意思で動いているのだから仕方がないといえば仕方がない
その落差に一瞬気がそがれるけど
それはここでただ勝ちを取りにいくにはまたとない機会
「スッ・・」
相手の怪人の動きは見切って楽々と回避する
その動きを見て半端な回避を続けてももう先がないと判断したのか
相手の怪人は反転して守りのオーラを解き放って抵抗しようとする
私は遠慮なく
その怪人の守りに入ったボディにイヴの「破滅の右腕」を盛大にぶちまける
「ズボボオオオオオン!!」
「ぐえあああああ」
その守りは一瞬で砕かれて
対戦相手の怪人はあわれに場外に飛んでいく
破壊の衝撃で周りの荒廃した建物ごとなぎ倒していき、一緒に派手に吹き飛んだ
「ボガアアアン・・!!」
(・・・)
「こんなもんね」
仕留めきれはしなかったので
そこから適当に追撃のコンボ攻撃も加えて対戦を即終了させる
・・
私が思うこのゲームに人々が惹きつけられる理由
それは
(・・こんな狭い小部屋の世界の中の私でも
この一瞬だけ・・気分がスッとして解放された気になれるのよね
すぐに そうじゃないことにも気が付くんだけど・・)
・・・
「「リズ player 現在14連勝中 対戦求ム」」
「ふーん・・」
無機質な数字がまた一つ追加されたのを
リズは画面の前の台に片肘をおいて
頬杖をついてぼんやりと眺めていた
こうして勝っても得られる掛け金はほんのわずかだ
この賞金リーグはしょうもないところだからね
「(はあ・・)」
私が対戦を終えて一息ついていると
「リズさあ・・だめだよ 勝てるからってそんな大味なことしてちゃ
うまくなれないよ 予約コマンドやリスク技なんてさ
これからさあ こんな追放リーグなんかじゃなくて
もっと待遇のいいところに派遣されるように私たちはするんだから
そこじゃそんなの通用しないからね」
隣の席にいるリコは自分の画面をいじくりながらも
私に向かってそう注意してくる
ちなみにこの子はスタンダードな人間型キャラを使っている
操作が他の変な怪人よりピーキーじゃないから使いやすいんだって
言われてみれば私も最近は少し
この大味なプレイが癖になってしまっていた気がする
「そこでも調子がよければなんとか攻撃当てられる気がするんだけどなあ
ごめんね ちょっとストレスたまっちゃってさ」
「まあ勝てるならいいけどね
それにしてもリズは他の下級ランクの子と比べても戦闘人気質だよね
せめて中級ランクくらいはあればよかったのにね」
「そうね・・」
・・・
リズは手を組みなおして少し思い出す
私がここに来る前いた組織 ロストオリジが所有する別錬の施設でのこと
リズを担当していた上層研究員の言葉・・
(「
君の成長時期はもう過ぎた
才には目覚めなかったようだ
ところどころ突出した神経脳波が検出されることはあるのだが
総合してこの採取データだとどうしても
君を「下級ランク」と判定せざるを得ない
・・君は「失敗作」、だ 」)
・・・・
・・
(・・・)
そうやって少しリコと話しながら休憩していると
仕事部屋のドアの外が騒がしくなる
「(バン!)」
私たちのいる部屋の後ろにあったボロボロのドアは乱暴に開けられる
乱暴に扱われたドアは
今まで何度もそう扱われてドアノブがもう取れそうになっていて
今にも壊れそうな軋んだ音を立てる
「よう お前ら稼いでるか?」
今まで生きてきて身の回りのドアノブが壊れそうなことなんて
まるで一度も気にしたことはなかったのだろうというような
ガサツな男がつかつかと入ってくる
筋肉質で汚い肌の
いかにもチンピラな見た目も不潔で嫌な男だ ボルンという男
だけどその男は
組織の派遣先のこの仕事部屋を管理する会社の組合の人間だから
私たちはその男にあまり強く物を言うことはできない
基本的に従うだけだ
「お前は少しは稼いでるな 回収だな」
チンピラ男ボルンはそういうと会社のマスター権限のカードを取り出し
リズの前の画面のコードに
持っていたそのカードをチラリとかざす
識別コードが読み込まれた黄緑色の光
・・
「ビピ」(シャリーン)
するとリズの連勝記録「14」の表示が消え
それまで稼いだリズの獲得賞金の全額が「0」の表示になる
「・・・・。」
(またお金、か・・)
私はだまっている
この男はたまにやってきてこういうことをする
会社の管理するマスターカードの権限で
カード内に所属するプレイヤーのゲームを清算することによって
そのカードにリズが獲得した賞金をすべてうつしたのだ
名目は会社に上納するためのノルマ資金の回収だが
ボルンはその中から手数料と称して
マスターカードの権限で勝手に大幅な金額をさし引いていく
オリジンの通貨はゲーム内の仮想の通貨だけど
普通に現実でも使えるし換金もできる
貧乏な国では下手するとオリジンの仮想通貨の方が実際のお金より信用がある
「ちょっと・・!あんたね・・・」
隣のリコはそういって訴えたそうにするが
ここではこの男に強く言えない
「ん? なんだ? 下級人間の分際で会社に納める金にケチつけんのか?
お前らに社会的信用がないから
わざわざ俺がきて回収してやってんだぞ?
割を食う俺の小遣いくらい増えてもいいだろが
いいからとっととまた稼げよ
ここでしがみついて稼いでいけねえとお前らの人権はねえんだもんなあ
へへへ・・さて この金で俺は遊んでくるかなあ・・!」
そういって用が済んだのか チンピラ男ボルンは
会社に納めるための資金を回収して浮かれながら部屋をでていく
・・・
・・
(・・・)
男が出て扉が閉まったのをみると
「ガアン!」
隣のリコは足でガツンと勢いよく机を蹴りだした
「あのバカ 根こそぎもっていったらもう賞金リーグに参加できないっつうの
なんかいえよお! ストレスたまってんだろリズ
はあ やってらんねえなあ」
リコは普段はおとなしめだけど
こうやって別人みたいに気性が荒くなる時がある
「今日はここまでか・・」
あきらめ気味の私はまたぼんやりと画面の方をみる
・・・・
ボルンによって私のゲームは勝手に清算されたので
画面のリズのアカウントは
仕事の賞金をかけたリーグではなく 待合室のフリーの部屋に移動していた
あの追放リーグからもさらに追放されてしまった
(・・・)
どうにももうすることがない
ここに来てからこんなことが続いて変わることのない日々
画面に映った淡い色の目
その目は電子の世界の先を毎日彷徨い続けていたが
私の日々は特に何も変わらなかった
少し座りなおして仮眠でも取ろうかなと
諦めてもう目を瞑りそうになった時だった
「ピコン」
そこに小さく音が鳴る
「 」
電子の世界の闇の奥底から波紋の音が伝っていって
静けさから私を呼んでいるような
「
脳にちりつくように気が付いた小さな閃光
リズのアカウントに対してそうアイコンが出て光っていた
羅列されてリズの目の前の画面にチラチラと点滅して光り出す電子文字
・・・
なにかが始まる予感がしていた
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