↓第49話 きえた、えいりあん。

 迷子が誰かと通信している間、パクは倉庫にいたメンバーもふくめ、乗客を中央フロアに集める。


 謎の電波障害により、あらゆる周波数帯は使えないはずだが、それでもトランシーバーに語り掛ける迷子を横目に、パクは自分の成すべきことを優先した。


 焚川、プリンセス、カティポの三人に関しては、足の縄だけ外されて、且つうららの監視のもと移動となる。


 みんなが集まる中、ゆららだけは部屋から出てこなかった。


 応答すらない状態にパクは心配するが、迷子いわく「そのままにしておいてください」とのことだ。


 理由はわからないが、とりあえずうららを除く乗客たちが中央フロアに集まる。


「みなさん揃いましたね? さっそくですが事件の真相について話そうと思います」


「才城様、犯人がわかったということですか?」


「そういうことです。ちなみに立薗さん、ここにあったMVMがどこにいったか知りませんか?」


「あのピンクの自転車ですか? すみません、もう使われないのかと思ってスター・レイのコンテナに戻しておいたのですが……」


「ああ大丈夫です。そのままにしておいてください。単に場所の確認をしたかっただけなので」


「おいチビ。そんなことよりアタシたちは還れンだろうなァ?」


「安心してください毒グモさん。みんなで地球に還りましょう」


「チッ、おまえらのことはどうでもいいんだよ」


「とにかく真相を話し終えるまではおとなしくしてくださいね。でないと毒グモさんだけ宇宙に置いていきますので」


 そんなことを言いつつ、迷子は乗客たちに向き直る。


「真相を話すまえに、みなさんには謝っておく必要があります。すみません、エイリアンを捕獲するというのはウソです」


「ウソ? でもメイコさん、なんでそんなことを?」とパク。


「真相解明のため、少し時間を稼ぐ必要がありました。改めてお詫び申し上げます」


 迷子はペコリと頭を下げる。

 顔を上げると、気持ちを切り替えて言葉を紡いだ。


「では本題です。まず、事件の経緯を整理します。わたしたちはスター・レイに乗り、その道中で激しい光を目撃しました。その直後に意識を失い、目を覚ましたときにはシスタークリムゾンの中にいたのです」


 それは不可解なできごとだった。

 誰一人その現象を説明できない。


「ここで事件が発生します。南側通路でブラックさんの死体が発見されました。心臓を槍で突き刺され、即死の状態です」


 ボブが顔を青くして口を押さえる。

 無理もない。思い出したくもないのだろう。


「死体のそばには彼岸花が添えてあり、レコーダーからはメッセージが流れました。内容は『4年前の罪』に関することで、おそらく空木うつろぎ博士の事故死が絡んでいるものと思われます」


 タビーは迷子の推理を、ただじっと聞いている。


「仮に4年前の事故死が偽装なら? それを屑岡さんやブラックさんが隠蔽したとするなら? 犯人は復讐のために二人を殺したかもしれません。とはいえ、それも確証がありません。あえてブラフを立てて、快楽殺人を愉しんでいるのかもしれません」


 迷子の解説に、立薗は口を挟む。


「それだと……犯人の特定は難しいですよね?」


「そのとおりです。ですがわたしは気づきました。夢の中でとある手品を見たのですが、そのタネはいたってシンプルなものでした。案外人間はシンプルなものほどその構造に気づかないものです。その法則を当てはめれば、今回の事件も難しく考える必要はないのではないか? そう思い当たったときに光が見えたんです。犯人の目的はわからずとも、ブラックさんを殺した犯人は特定できるんですよ」


「「「!?」」」


 辺りに動揺が広がる。

 乗客の間で、殺人鬼を疑うような視線が飛び交った。


「結論から言いましょう。犯人を特定するには消去法を用いればいいのです。現場で集めた手掛かりをもとに、犯行状況と照らし合わせます。そうすればおのずと答えは出るのです」


「じ、じゃあ、いったい誰が今回の事件を!?」


 たまらずボブが前に出る。

 震える彼を見据えた迷子は、


「ブラックさんを殺した犯人は――」


 みんなの前でこう告げた。


「消えたハリーさんです」

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