↓第48話 てじなの、からくり。

 ゆららは自室に連れていかれ、しばらく休むことになった。

 迷子は中央フロアに戻り、乗客たちと時を過ごすことになる。


 ――――。


 それからどれほど時間が経過しただろうか。

 いつ襲われてもおかしくない緊張感もあり、一同から不安と疲労の色が窺える。

 一方で迷子は、シスタークリムゾンの内部を駆けまわっていた。

 例の『エイリアン捕獲作戦』を実行に移したのだ。


 しかも、「確認したいことがある」と言い残し、単独での捜査を開始する。

 周りからは「危ないからせめて付き添いを」と提案したのだが、どうしても単独でなければ都合が悪いという。

 ときおり中央フロアからイスを持ち出し何かしていたようだが、乗客たちは特に言及することもなく、それから1時間以上が経過した。


 ――――。


 静かになった。

 迷子は戻ってこない。


 …………。


 どこに行ったのだろう?

 部屋で寝ているのだろうか?


 いや。


 エイリアンを捕獲すると息巻いていた本人が、そんなことをするハズがない。

 徐々に不安になってきたボブが、たまらず声をあげる。


「ねぇ、なにかあったんじゃないかな!?」


「そうね、さすがに遅すぎるわ……」


 立薗も頷く。


「様子を見にいこうよ! みんな一緒に!」


 提案するボブだが、しかしパクが手で制した。


「それなら僕が行くよ。下手に動くと危険だから、みんなはここにいて」


 大勢で動くと、万が一のときに犠牲者が増えると思ったのだろうか。

 パクはみんなを気遣うようにそう告げた。

 そして自分が戻らなかった場合は、倉庫のみんなと協力して生き延びるようにとつけ加える。

 そして中央フロアをあとにした。

 タビーはその様子を、テーブルの下でじーっと見つめていた――



       ☆       ☆       ☆



 パクは北側通路にやってきた。

 コントロールルームをスルーして、キッチンをスルーして、倉庫もスルーして。

 彼はモジュールの扉の前に立つ。


「…………」


 あたりを警戒したあと、静かに扉を開けて中に入った。


「…………」


 モジュール内は相変わらずの空洞だった。

 なにもない、ただの空間。

 パクは辺りを観察しながら、腕時計をいじる。


「そこでなにをしているんです?」


 と、背後から声がした。

 思わずパクは肩を震わせる。

 振り返った先にいたのは、行方不明になっていた迷子だった。


「め、メイコさん! 無事だったんだ」


「わたしは平気です。それよりここでなにを?」


「あ、えと、メイコさんがいないかなぁ……と」


 パクは腕時計をつけているほうの手を下げて続ける。


「そんなことよりメイコさんは今までなにを?」


「言いませんでしたか? エイリアンの捕獲です」


「エイリアンって……ちなみに見つかったの?」


「いいえ、まったくです」


「…………」


「それよりパクさん」


「なんだい?」


「ひとつお尋ねしたいことが――」


 迷子はカタルシス帳を開き、そこに文字を記す。


「以前、空木うつろぎ博士のことを調べたときに、お墓の名前も調べたそうですね」


「ああ、アカ……なんとかっていう名前だったと思うけど」


「それはこんな字ではありませんでしたか?」


 迷子はカタルシス帳のページを見せる。

 そこには『紅松』と書かれていた。

 パクはネットの繋がっていない端末を取り出して、メモのページを開く。


「え~と……そうだ、これだよ! ほら、過去の取材記録にデータが残ってる」


「……なるほど。やっぱりこの方でしたか」


「メイコさん、この『アカマツ』というのは?」


「パクさんの言っていたとおり、財閥の一家です。名前は『くれまつ』って読むんですよ」


「……そうなんだ」


「これではっきりしました。4年前、あのとき帰国した空木博士は、この紅松さんのお墓を訪れていたんです」


「え? でも、どうして他人のお墓で手を合わせる必要が?」


「その答えはすぐにわかります」


 すると迷子はポーチに手を入れて、中からトランシーバーを取り出した。

 パクは目を丸くする。


「特定の端末や機材は、スター・レイのコンテナにあるはずじゃあ……」


「細かい説明はあとです。すみませんがみなさんを中央フロアに集めてください」


 迷子がカタルシス帳をパタンと閉じると、瞳の奥でまばゆい閃光がひらめいた。


「エイリアンの正体がわかりました」

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