↓第47話 いえ、身長のはなしなんですが……

 中央フロアに乗客を残したまま、迷子とうららは倉庫へやってきた。


「あら、メイちゃん。それに姉さんまで」


「よっ、ゆらら。見張り交代だ!」


 軽いノリでうららはハイタッチを交わす。

 その力が少し強かったのか、ゆららはムッとしながら手のひらをさすった。


「…………」


「ゆららんありがとうございました。少し休んでください」と迷子。


「……そうするわぁ」


 ゆららは腕を押さえたまま、迷子からカードキーを預かる。


「ではうららん、あとを頼みます。わたしはゆららんを部屋につれていきますので」


「えーわたしたちはどうなるんですかー? ほうちですかー?」


 不満気に身体を揺らすプリンセス。

 カティポは不機嫌そうに睨んで、焚川は「ここから出してェー!」と言わんばかりの視線で訴えた。


「申し訳ありませんがみなさんにはまだここに居座っていただきます。――ああ、そのまえに一つ頼みが」


 迷子は焚川、プリンセス、カティポの三人に語りかける。


「三人でここに立っていただけませんか?」


「「「?」」」


「お願いします。重要なことなんです」


「あァン? んな面倒なことできっかよ」


「お願いです毒グモさん。地球に還れるかもしれないんです」


「…………」


 よくわからないが、カティポも倉庫でずっと過ごすのはごめんだった。

 自分にとってなにが利益かを考えれば、協力するに越したことはない。


「……チッ」


 舌打ちしたカティポは縄で縛られたまま、身体を『くの字』にする。

 寝転がった状態から身体を戻す勢いで空中に跳ね、そのまま両足で着地した。

 プリンセスは「おー!」と感心した声を上げ、「わたしもー! わたしもー!」と言って同じくエビのように跳ねた。


「セイッ!」


 ――が、それがとんでもなく高いジャンプだった。

 プリンセスは顔面から天井にブチ当たり、「へぶぅっ!」と言って頭をクラクラさせながら床に着地する。


「うぅ……星です~、星が見えます~」


「い、今のどうやったんですか……?」


「高すぎだろ……こいつ、ニンジャの才能あるぜ」


 迷子とうららが珍獣を見るような視線を向ける。

 変装といい身体能力といい……プリンセスは怪しさの塊だ。

 しかしそこを言及している暇もないので、迷子は一旦放置する。

 そして焚川に関しては、ゆららに補助されながらなんとか立ち上がることができた。


「それでは、横一列にならんでください」


 一同は迷子の指示に従う。

 並んだ三人を見て、迷探偵は質問した。


「なるほど、一番身長が高いのは焚川さんですね。失礼ですが何センチですか?」


「あらァ、気になるゥ? フフ、98・59・95よォ」


「いえ、身長の話ですが……」


「ウフフ、173センチねェ」


 焚川はそういってウインクする。

 その両端でプリンセスとカティポがジロジロと彼女の身体を視線でなぞった。


「…………」


「…………」


「……ふたりともなによォ?」


「おっきいですねー、おっきいですねー」


「なに喰ったらこうなるんだ?」


 プリンセスはピエロみたいにおどけて、カティポは眉をしかめる。

 スリーサイズはさておき、迷子は再び思考を切り替えた。

 モデルのように整った焚川の体型を目でなぞり、質問する。


「焚川さん、そのヒールはいつも履いていますか?」


「え?」


「正確なサイズを把握したいので、脱いでもらってもいいですか?」


「や、ヤダッ! ここでっ……!?」


「いえ、服ではなく靴のほうなんですが……」


 焚川は胸元を隠して顔を赤らめる。

 勘違いを指摘され、素直にヒールを脱いだ。


「なるほど、やはりおっきいですね」


「そ、そんなジロジロ見ないでえぇ!」


「いえ、身長の話なんですが……」


 胸元を押さえる焚川を無視して、迷子は見上げる。

 やはり焚川の背は、高い。

 そんなとき、ふとうららが関係ない話題を挟んだ。


「そういえば迷子って小さくないか?」


「え?」


「ああ身長な。べつにディスってるわけじゃないぜ。同年の平均より低いなって、ふと思ったからさ」


「えっへん! なんかオンリーワンが感じがいいですよね! なぜかものすごくゆっくり伸びてるんです!」


「マジで? ちなみに今何センチだ?」


「115センチです! 『いい子(115)はメイコ』と覚えてください!」


「お、おお……。いい子じゃないけどおぼえとく」


 覚え方だけさらりと流すうらら。

 事件とは関係ないので、いい子の話はここで終わる。

 ドヤ顔の迷子は、捜査の話に戻した。


「それではみなさんありがとうございます。わたしからは以上です」


「ちょっとォ、なんの質問だったのよォ?」


 焚川の言葉を放置して、迷子はすぐさま次の行動に移る。

 なにやら倉庫の中をキョロキョロと見渡す。

 すると端っこのほうに、ロッカーがあった。


「これは……」


 中を開ける。

 すると宇宙服が入っており、二つだけ空になっていた。


「ゆららん、誰かここの宇宙服を持っていきましたか?」


「いいえ、私が来たときにはもうなかったわぁ。備品チェックは倉庫に入ったときに確認済みよぉ」


 ゆららはここに隔離される際に、倉庫の中を調べたという。

 どこになにが置いてあるのか、あるいは怪しい爆発物など仕掛けられていないか。

 そういった下調べをしたらしい。


「う~ん……」


 迷子は少し考えたあとで、うららに視線を移す。


「そういえばうららん。宇宙船のターミナルでシスタークリムゾンの模型を見たって言ってましたよね? どんな展示物がありましたか?」


「なんだよ急に? とりあえずカッケえヤツがいっぱいあったぜ! シスタークリムゾンができるまでの過程がわかりやすく説明されてんだ。何度も調整と改良を重ねて今のステーションがあるんだってよ」


「調整と改良、ですか……たしかにモノづくりには必要な工程ですね」


「しかも150分の1スケールのプラモデルまで売ってんだぜ! なぁ、迷子~お土産に買ってくれよ~?」


「……わかりました。地球に還れたら買いましょう」


「やたー!」


「メイちゃんなんの質問だったのぉ?」とゆらら。


「いえ、少し気になったので」


 と迷子は一言添えて、


「それでは失礼します。みなさん、エイリアンに気をつけてください」


 一礼してこの場を去ろうとした。


「おい、まてよチビ」


 そこでカティポが引き留める。


「ほんとうに還れンだろうなァ?」


 還れなかった場合は殺すぞとでも言いたげな表情。

 しかし迷子はその問いに、


「はい。しばらくお待ちいただければと」


 淡々と答えてみせた。

 本当にエイリアンなどいるのだろうか?

 みんな無事に還ることはできるのだろうか?

 その答えはわからない。

 ただ迷子は既に敵を捕らえたかのような眼差しをしている。

 迷探偵はみんなを倉庫に残したまま、次の場所へと向かった――

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