↓第46話 ん? エイリアン?

「は……ははは、冗談だよねミズ・メイコ?」


 ボブは口元を引きつらせる。

 いくらなんでもそれはないと思いたかった。


「そ、そうですよ才城様」と、立薗もボブに続く。

 パクも腕時計をいじりながら、苦笑いをこぼしていた。


「みなさんのお気持ちはわかります。ですが考えてもみてください。今までの経緯を。ブラックさんや屑岡さんの奇怪な死に方を。監視カメラに映らない犯人。消える乗客。この密室と化した深紅の墓標で、わたしたちに手品みたいな殺人ができるでしょうか?」


 迷子の言葉に、一同は黙る。

 万全でないとはいえ、それなりの監視体制を敷いてきた。

 怪しい人物は倉庫で隔離され、それ以外は個室を使ったり行動を共にすることで犯行の抑止に繋げてきた。

 その行いがあったからこそ、乗客たちは不安になる。

 ここまでやったのに犯行がおきた。

 人が消えた。

 だとすれば、内部に犯人はいないのか?

 ほんとうに第三者の介入があったのか?

 そんな疑念がよぎる。


「で、でも……これは現実だよ! SF映画じゃないんだし!?」


 ボブは立ち上がる。

 それは空想を否定するかのようだった。

 ほかのみんなも賛同するように迷子に視線を向ける。


「ボブさんの気持ちはわかります。でも、確率はゼロではありません。少し思い出してみてください。わたしたちがスター・レイに乗っている際、外で強い光が発生しましたよね? 緊急時を告げるランプが点灯し、その直後に全員が気を失いました。あれはなんです? 明らかな未確認飛行物体ではないですか?」


 この問いに解答する者はいなかった。

 不可解な現象を、科学的に説明することができないからだ。


「それにエイリアンなら生身でも平気です。宇宙空間でいとも簡単に活動できますから」


「いや、でも、そんなのって……」


 パクは憔悴しょうすいした様子でイスに座る。

 恐怖と疲労、現実と空想の間で頭が混乱してきた。

 立薗は目頭を押さえて沈黙し、ボブは頭を抱えたまま下を向く。

 タビーはさらに怯えたように身体を縮こませて、迷子から目を逸らしてしまった。


「とにかくこうなった以上、単独での行動は危険です。個室が襲われるくらいですから。みなさん一つに固まりましょう」


 迷子は提案する。

 乗客たちは顔を見合わせながらも、未だ現状が呑み込めないでいるらしい。

 そこに口を挟んだのはボブだった。


「ねぇミズ・メイコ、ボクたちはこのまま死ぬのかな? 救助もこないし、もうできることはないのかな?」


 消え入りそうな声だった。

 かなり時間が経つが、救助がくる気配はない。

 通信手段はなく、このまま待つしかないとなると、いずれ全滅することも考えられる。


「そうですね、ただ一つ言えることは――」


 が、迷子はスッっと人差し指を立てて、


「この状況を打開する手段が、一つだけあります」


 乗客に向けてそう言った。


「な、なんだって!?」


 ボブは目を見開く。


「か、還れるの!? ボクたちは助かるの!?」


「はい。もっとも、成功すればの話ですが」


 そこにいた全員が迷子を見る。

 地球に還るための僅かな希望があるのなら、実行しない手はない。


「教えてよミズ・メイコ! ボクたちは……ボクたちはなにをすればいいの!?」


 ボブは必死だった。

 この状況を変えれるなら、なんだってするつもりだろう。

 一同の視線を浴びる中。

 迷子は真面目な表情で、こんな作戦を口にした。


「エイリアンを捕獲します!」

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