↓第41話 にもつの中身は……
迷子は秘密兵器を出すために、自室に向かう。
ちなみにゆららは見張りのため倉庫に残り、うららは付き添いとして迷子に同行した。
「じゃーん!」
キャリーケースを開けると、中からMEIKO―V・MAX(以下MVM)が現れる。
それはピンク色をした、折り畳み式の自転車だった。
「おい、持ってきたのかよ……」
うららは半ば呆れている。
自宅の庭で乗っていたのが、このMVMだ。
迷子は愛車を組み立てながら言う。
「宇宙で練習できるよう持ってきたんです。フフンこの発想。天才ですかね!」
「お、おう……」
迷子はドヤ顔をさらし、うららはなんともいえない反応を見せた。
「っていうか人工重力があるからって、わざわざここで練習しなくてもよくね?」
「気持ちの問題ですよ気持ち。今ならアンドロメダまで爆走できそうです!」
「…………」
迷子がやる気なので、うららはこれ以上口出ししなかった。
組み立てたMVMを西側通路に出して、迷子はサドルにまたがる。
うららはぼーっとしながら主人が練習するところを眺めていた。
「うっ……ううっ…………」
ヨロヨロとハンドルを切りながら、不安定にMVMは前進する。
しかしすぐに乗れるはずもなく、迷子は派手に転倒した。
「おわーーーっ!!」
「ちょ、大丈夫かよ!?」
「うう……ありがとうございます」
瞬時に主人を受け止めるうらら。
迷子は立ち上がり、またMVMに乗る。
それから何度も転倒を繰り返し、そのたびにうららは小さな身体を受け止めた。
「なぁ迷子、そろそろ休憩しようぜ?」
「はぁ……はぁ……いいえ、まだまだこれからです!」
諦めずに迷子はまたがる。
ヨロヨロした車体は、ゆっくりと通路を前進した。
「…………」
ハンドルに集中していると、ふと事件のことが頭をよぎる。
「そういえば、犯人の動機はいったい……」
気づけば独り言をつぶやいていた。
仮に
しかし復讐がブラフだとするならどうだろう?
もしも無差別殺人が真の目的だとするなら?
その場合は今後も犯行が続くに違いない。
「そもそも目的が達成されたとして、犯人はどうやって地球に還るんでしょう? スター・レイは緊急停止のプログラムが作動してビクともしません」
沈黙したスター・レイを動かすには、社長室にある起動用の端末が必要だ。
犯人がそれを持っているとは考えにくいが、実はなにかしらの方法で手に入れているのかもしれない。
しかしそうだとしても、宇宙船を操縦できなければ意味がないだろう。
犯人はそのあたりの問題も解決済みなのだろうか?
「あるいは別の手段で地球に還る方法を見つけているのかも……」
迷子は独り言と黙考を繰り返しながらペダルを漕ぐ。
おぼつかない動きではあるが、MVMは確実に前進していた。
「おっ……おおっ!!」
その様子を見たうららは思わず拳を握る。
乗っている。
動いている。
今まで何度もコケていた迷子が、ついに運転している。
下手に邪魔しないほうがいいと判断し、うららはそーっとあとをつけた。
「いいぞぉ、その調子だ!」
迷子が思考に浸っているうちに、うららは先回りして中央フロアのドアを開ける。
MVMを安全に通すためだ。
それに気づかないまま、迷子はぼんやりと前進した。
「「「!!??」」」
フロアに入るなり、そこにいたみんなが迷子に注目する。
立薗、ハリー、ボブの視線がMVMに集中した。
壊れた空調機をどうするか話し合っていたようなのだが、一瞬、会話の内容を忘れそうになる。
「り……り……」
一方、テーブルでピザを頬張っていたタビーが、口の周りをソースだらけにしたまま過ぎ去る迷子を目で追っていた。
ただじーっと、無言で凝視している。
「ははっ! いいぜ!」
そして先回りしたうららが、東側通路のドアを開ける。
なおも迷子は気づかないまま、中央フロアを出ていった。
「う~ん……やっぱりエイリアンの仕業なのでしょうか? それならあらゆる現象に説明がつくんですが――」
ブツブツ言いながら進んでいると、MVMはモジュールの入り口までやってくる。
ドアの先は段差があるので、このあたりで止まったほうがいい。
「め……迷子ぉ?」
迷子はうららの声に気づいていない。
「わっ、と、止まれって!」
「――……? って、おわわっ!?」
その声に気づいたときにはもう遅い。
ガッシャンと。
迷子は床に転倒してしまった。
「だ、大丈夫か!? 悪い、どこまで乗れるか気になって……」
「うぅ…………え? わたし乗ってたんですか?」
「すげぇぜ! 新記録だ!」
「ぜんぜん実感ないんですけど……」
「ハッハー! でもまぁ結果オーライだぜ! この調子ならすぐ乗れそうだな!」
迷子の背中をバシバシ叩くうらら。
推理に集中しすぎてなにも覚えていない迷子は、少し不服そうに頬を膨らます。
「? なんです、これ?」
迷子はゆっくり立ち上がると、自分のスカートを見てなにかに気づいた。
キラキラした砂糖のようなものが付着していた。
しかし粘っこくなく、指の温度で溶ける様子はない。
よく観ると赤褐色の色味を帯びていた。
「なんでしょう、ここにこんなものはなかったと思いますけど……」
言いながら記憶を辿る。
少し前にタビーはこの場所で寝そべっていた。
そこで彼を起こした際に、床はツルツルでホコリひとつ落ちていなかった。
「あれ以降に誰かが落としたんでしょうか?」
「どうだろう……っていうかコレ、食べ物か?」
うららの疑問に答えるように、迷子は注意深くニオイを嗅ぐ。
そして警戒しながら、そぉ~っと舌の先に物体をつけてみた。
「……――!!」
「どした?」
「まじいですっ!!」
「マズイのか!?」
「まじいです! ペッペッ!!」
迷子は顔をしかめて、モノを吐き出してしまった。
「オイ大丈夫か? 毒じゃないだろうな?」
「う~、刺激はないですが……とりあえず味がないことはわかりました」
「そっか、とりあえず死ぬようなモノじゃあないってことだな?」
迷子はとりあえず、謎の物体をサンプルとしてハンカチに収めた。
「さてと。きりがいいので一旦休憩にしましょう。わたしノドが渇きました!」
「そうだな。なんか飲もうぜ!」
二人はMVMを持って中央フロアに行く。
その間に迷子は、口の中でコロコロと舌を転がしていた。
(う~ん、あのツブツブどこかで……)
その舌ざわりには覚えがあった。
でもどうしても思い出せなくてもどかしい。
モヤモヤした感情を懐きつつ。
とりあえず、おいしいジュースのことでも考えることにしたのだが。
このあと中央フロアに到着した迷探偵は、まもなく『あるヒント』を得ることになる――
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