↓第40話 みりょくてきな、アイテム。
倉庫についたうららは、焚川を床に降ろす。
イモ虫みたいにゴロゴロしていたプリンセスは、「新顔ですかー? なにやらかしたんですかー?」と、焚川を煽るように質問攻めにした。
うららはゆららの怪我を心配しながらも、簡潔に情報を交わして状況を整理する。
そして迷子は寝起きのカティポの前に立った。
「毒グモさん、聞きたいことがあります」
「あァン? なんだチビ」
不機嫌そうにあくびをするカティポ。
「テメェと話すことなんてねぇよ。そんなことよりバルチカよこせ」
「ダメです。また暴れたら大変ですからね」
「いいだろそんなの」
「それより犯人を捕まえてここを出るのが先です」
「ハン、誰が死のうが興味ないね」
「毒グモさん、お酒が飲めるかどうかはあなたにかかっています」
「あァン?」
カティポは睨みを利かせる。
「めんどくせぇ……おしゃべりなら他のヤツとやりな」
ゴロンと横になって迷子を無視しようとするカティポ。
と、そこへ――
「あらぁ、ここを出れたら私ともう一戦交えるというのはどう?」
ゆららが割って入る。
「こんな狭い場所じゃあ不十分でしょ? あなたも満足してないんじゃなぁい?」
誘い出すような口調のゆらら。
カティポは寝返りを打ってこちらを見る。
「テメェこそ不十分だろうが」
「? もしかして私の腕を心配してくれてるのぉ?」
ゆららは負傷した腕をさすりながら微笑む。
「ナメてんのか? 力不足だって言ってんだ」
舌打ちするカティポ。
今度はうららが割って入ってきた。
「不十分ならあたしが相手になろうか? ずっと寝てたから運動しないと調子でないんだよ」
「…………」
カティポは見定めるようにうららの身体を視線でなぞる。
「オマエ、攻めが得意だな」
「え、わかんの?」
「こっちの受けのオンナと違う。そういった身体つきだ。なんつーか、ガンガン突っ込んでイッちまうバカみたいなタイプだ」
「んもう、毒グモさん! こんなときに攻めとか受けとか言わないのぉ!」
違う角度からツッコむゆらら。
とりあえず攻めとか受けとかは置いておいて……。
迷子は「オホン!」と咳払いをして話を戻した。
「とーにーかーくっ! 毒グモさんは質問に答えるだけでいいんですっ! 4年前、ブラックさんの用心棒をしていた殺し屋がいたはずです。その人についてなにか知っていることはありませんか?」
「あァン? 殺し屋ァ?」
カティポは少し考えたあと、
「ハン、知らねェよ」
そう答える。
「思い出してください。ちょっとしたことでもいいんです」
「だから知らねぇよ。どうせそいつも死んでるだろ」
「死んでる? ひょっとして心当たりが?」
「知らねぇって。っていうかアタシが殺してるかもな」
「? どういうことです?」
「ハハッ! 弱っちいヤツのことなんて覚えてねェよ!」
カティポは笑う。
迷子は質問を続けた。
「そもそも毒グモさんは、なんでブラックさんのもとにいたんです? 今までの口振りからするに、嫌々用心棒をやっていたようにも思えるのですが?」
「フン。っていうか昔、強いヤツがいるっていうからブラックのおっさんを訪ねただけだ。そしたらスーツ姿のメガネ野郎がいたんだ。いきなり襲ってきやがったから、だから殺した」
「「「…………」」」
迷子、うらら、ゆららの三人は顔を見合わせる。
カティポは言葉を続けた。
「メガネ野郎が死んだら、ブラックのおっさんが責任取れとかワケわかんねぇこと言ってきやがった。うちのボスは「しばらくそこで働け」とか言うし……あ~、ワケわかんねェ! アタシがなにやらかしたよ!? 強いヤツにも会えなかったし、マジでガセネタつかまされたぜ!」
不機嫌そうなカティポを見て、迷子たちの目が点になる。
再び三人は顔を見合わせた。
「も……もしかして毒グモさんって天然ですか?」
「ええ、少なくとも『強いやつ』には会えてるわねぇ」
「っていうかオマエ、殴り込みの責任取らされてたのかよ……」
迷子たちは肩を落とす。
前任であるブラックの用心棒を殺したのは、カティポだった。
しかも無自覚で。
彼女はただ強いヤツとやりたかったのだろう。
しかし、戦力差がありすぎた。
カティポは強すぎたのだ。
おそらく自分がなんでブラックの用心棒をやらされているのかも、よくわかっていないとみえる。
「あァン? なんだオマエらァ!? そのムカつく視線はァ!?」
「安心してください。毒グモさんが天然記念物ということはわかりました」
「あァン?」
カティポは険のある視線を向ける。
一応、迷子は質問した。
「あの、4年前に
「知らねェって。だいたいブラックのおっさんやあの社長野郎とも基本話さねェ」
この言葉から、彼女がブラックや屑岡の情報を持っているとは思えなかった。
「……詰みましたね」
迷子は頭を抱える。
これ以上聞き出しても、あんまり有力な情報を得られないような気がした。
「捜査は振り出しです。どうしましょう、わたしたちは地球に還れないんでしょうか……」
「大丈夫よぉ。メイちゃんはやればできる子なんだからぁ」
「そうだぜ。帰ってまた自転車の練習するんだろ?」
ゆららは迷子の右頬をつつき、うららは左頬をつつきながら励ます。
二人の言葉を聞いた迷子は、ハッとなにかに気づいたように目を見開いた。
「それですっ!!」
「「?」」
「行き詰まったときこそ、違った角度にヒントがあるものです!」
自信に満ちた迷子を、うららとゆららは不思議そうに見つめる。
迷探偵は不遜な笑みを湛え、
「フフフ、その答えはキャリーケースに入れた『秘密兵器』にあります!」
ビッと指を突き出し、自室の方角を指す。
そういえば秘密兵器があると言っていたが、なにを持ってきたのだろう?
「『MEIKO―V・MAX』――発動、ですっ!」
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